
YouTube上に発表を続けている夏の短編小説MVシリーズ「蝉時雨」「夏の幻」「雨音」が話題となっている彼らだが、その続編(完結編)となる「線香花火」を制作。これら夏の4曲を収録するとともに、青春短編映画『笠置ROCK!』に書き下ろした「景色の花束」、新曲「なみだ」、そしてライヴ音源のカバー曲「僕らのナツ。」と、まるでバンドの足跡を辿るようなミニアルバム『夏の夜の夢』が完成した。バンドの魅力を深めつつ、新たな面も伺えるこのアルバムについて、粟子真行(vocal, guitar)、大野裕司(bass)に語ってもらった。
取材・文 / 岡本明 撮影 / 冨田望
歌いたいことと夏という季節がぴったり合っている
今回は夏をテーマにしたコンセプトアルバムですね?
大野裕司 はい。前作『CINEMA』で初めて冬の曲を作ったんですけど、季節がくるたびに楽曲を聴いてもらえるじゃないですか。そういう、音楽と季節が組み合わさるとより聴き手の心に残るかなという手ごたえがあったので、今回は夏をコンセプトに全体をまとめようと思いました。
今回だけいきなり力を入れたというわけではなく、自然な流れで制作されたというか?
大野 もともとココロオークションは夏の曲が多いですし、MVもありますし、イメージとしてもですけど、僕ら的には無理なく自然に出てくる表現が夏というテーマに合っているんです。だから、そういうコンセプトを決めて制作をする点ではスムーズでした。

粟子真行(vocal, guitar)
なぜ夏の曲が多いんでしょうか?
粟子真行 たぶん、歌いたいことと夏という季節がぴったり合っているんじゃないかと最近気づきまして。
最近なんですね?
粟子 そうです。「蝉時雨」「夏の幻」「雨音」「線香花火」と4曲を通して聴いたときに、自分の言いたいことは一緒なんだって気づいて。“今を大切にしたい”というテーマがあるんです。終わりがあるからこそ今を大事にしたいって僕は考えていて。夏って、いつの間にか始まっていつの間にか終わって、なくなって初めて気づく。いつの間にか終わっている、その終わりの瞬間をあとで思い返して“あのときは輝いていたんだ”って思えるところと、今を大事にするというテーマがリンクしていると思うんです。だから夏をテーマに曲を描くのが自然というか、言いたいことを言えるし、言葉にちゃんと寄り添ってくれる季節なんだと思います。

ココロオークション
先ほどの話にもありましたけれど、過去のMVがどれも映画のような完成度で作られていて。
大野 このアルバムの始まりは、このタイミングで過去の3曲をまとめて出せたら、僕たちの世界観がより深く一枚で感じ取ってもらえるんじゃないかというところだったんです。だから、このアルバム自体、MVありきというか、「線香花火」ありきで始まったんです。
映像はメンバーのみなさんがアイデアを出されるんですか? それとも監督(馬杉雅喜)さんから出てくるんですか?
大野 最初の頃はみんなでいろいろ考えながらやっていたんですけど、監督さんもスタッフさんもずっと一緒に作っているので、3~4作目は完全にノータッチですね。曲が完パケてからシナリオとか映像を作り始めるので、監督さんたちが曲から受けたイメージで作っていただければ大丈夫、という関係になっています。
「蝉時雨」という作品がこんなにもいろんな人に届いたのは、偶然が合わさってできたこと
最初からシリーズ化の予定はあったんですか?
粟子 まったく考えてなかったです。最初の「蝉時雨」はいい曲だからたくさんの人に届けたいと思ったんですけど、当時はインディーズだったので、使える武器はSNSだな、YouTubeだなと思ったんです。そこで映画を作ってみたら面白いんじゃないかというアイデアがまずあって。短編映画を作って、それを短く編集して曲を乗せたものがMVの「蝉時雨」で、とても好評だったんですよ。それで、夏がくるたびに夏の曲を新たに作ってシリーズ化していったらいいんじゃないかというアイデアが、また次の夏ぐらいに出てきまして。
大野 いい出会いでしたね。今回のアルバムの「景色の花束」は、MVの監督さんが作った別の短編映画の主題歌なんですけど。劇伴とかもやらせていただいて、MV以外のところでやり取りして気づいたんですが……「蝉時雨」の世界観、ああいう原風景の世界観が得意な監督さんだと勝手に思っていたんですが、もともとロックンロールな土くさい映画が好きな監督さんだったという(笑)。でも「蝉時雨」という作品がこんなにもいろんな人に届いたのは、そういった偶然が合わさってできたことだと思うので、すごいなと思いました。
粟子 「景色の花束」はやりたいようにやらせていただきました。「もっとロックに」とも言われたんですけど、「あのエンディングならこれでいかせてください」と提案させていただいて。曲を聴いていただいたら「これで良かった」という返答をいただいたので嬉しかったですね。それに、劇伴を作ったりするなかで、僕らが気づけたこともいろいろあって。中には「もっとダサくしてください」という要望があったり(笑)、それは刺激的で面白い作業でした。

大野裕司(bass)
それまでの3作品の流れで「線香花火」が出来上がったわけですけど、ここでひとつまとめたという意識はありますか?
粟子 あまりまとめるという意識はなかったんですけど、「線香花火」のCメロで、“消えない花火ってないのかな”っていう言葉があって。「いつか終わりが来るから今が愛おしい」、この言葉は「蝉時雨」から始まる全部の曲に言えることだなって気づきました。「蝉時雨」のMVを発表したのは2014年ですけど、実は結成当初からずっと大事にしていた曲で。2011年ぐらいからずっとライヴでやっている曲なんですよ。それが2017年になって曲を聴いてもテーマが一緒だというところに、ココロオークションが言いたいことってきっとこういうことだったんだなって改めて気づけたのは大きな発見でした。
どの曲も緻密な音作りですけど、夏をイメージさせる音ですよね?
大野 そうですね。「線香花火」はMVの舞台になっている街にも実際に何度も行って、風景とか匂いを覚えているし。4作目として出すのならそういった要素もちゃんと音に閉じ込めたいなと思いました。
夏を感じさせる音って難しくないですか?
大野 でも、作っていて思ったのは、ボヤッとした感じですね。エッジーな感じではなく、ボヤケているといいうのがひとつのポイントだと思うんです。カゲロウみたいというか。
粟子 全部別れの曲で、思い出しているんですね、過去のこととか、2人一緒にいたときのこととか。主人公が過去のことを思い返しているイメージ、それがサウンドに出ているんだと思います。
大野 そういうところを出すのが好きなんです。冬の曲だと、これは雪の結晶のイメージで、とか。温度感を音に変換するというのは自然とやっているので僕らの得意分野だと思います。
粟子 アレンジ力が上がってきていて、やりたいこと、自分の頭の中に鳴っている音をちゃんとアウトプットできている成長も感じられて、面白かったです。