山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 19

Column

ロニー・レイン/音楽に愛された男

ロニー・レイン/音楽に愛された男

包み込むような優しさの中にある、一瞬にして空気を変える力。どんな時にもブレずにスピリットを貫いた人の音楽は、人と人を結びつけることを信じさせる力に満ちている。HEATWAVE山口洋が書き下ろす好評連載。


音楽には“タッチ”としか表現のしようのない領域がある。“耳ざわり”とは違って、そこには人格や生き方、ミュージシャンその人がすべて表れる。予期せぬ瞬間に、その曲が流れると、“タッチ”は空間の空気を一瞬にして変えてしまう。

ロニー・レインの音楽は、僕にとってはいつだってそんな力に満ちている。あらゆる意味において特別。彼の音楽が流れると、部屋がイギリスの田園風景に変わる。そしてロニーのこころの中にお邪魔しているような錯覚を覚える。何よりも、彼の音楽には人を信じる力がある。あなたが誰かに裏切られたのなら、ロニーの音楽を聴くといいよ。その“タッチ”がきっと君を包んでくれる。

ロニー・レイン。音楽と人に愛され、ベースを弾き、ギターを弾き、歌を歌った男。

人は彼のことを“不運な男”と称するけれど。ほんとうにそうかな? 僕はそう思わない。彼はきっと、栄光なんて最初から目指していなかったと思う。音楽が好きでたまらず、奏でることで、人と人とを結びつけたかっただけなんだと思う。きっとね。

スモール・フェイセズ、そしてフェイセズ。2つのバンドは彼が創始者。けれど、スモール・フェイセズは、さらなる栄光を夢見るスティーヴ・マリオットの脱退によって活動中止を余儀なくされ、友人ロン・ウッドと彼が連れてきたロッド・スチュワートによってフェイセズは世界的な成功をおさめたけれど、ロッドがソロとしてもてはやされ始めた頃、創始者ロニーはこう云ってバンドを脱退する。「もう裏切られるのはたくさんだ」。

成功して、メンバーたちはロック・スターの暮らしをおくったが、ロニーだけは相変わらず週7ポンドのアパートに住み、稼いだ金のすべてを機材につぎ込み、農場を買い取って仲間たちと住んだ。どこでもレコーディングができる移動式モービル・スタジオ(トラックの荷台がスタジオになっている)を作り、新しいバンド、スリム・チャンスを結成。サーカス団と一緒におんぼろのバスで寝泊まりしながら、バンドがやってこない田舎に出向いて、何の宣伝もなしにツアーをした。

彼は人々にギミックではない、本物の音楽を届けたかったのだろう。音楽が人と人を結びつけることを証明したかったのだろう。一般的にいって“成功”と呼ばれるものにはアーティストとしての実力はもちろんのこと、マネージメントの力も大きく左右する。彼はそんなことに一切の興味がなかったんだろう。

『ロニー(Ronnie-MODSとROCKが恋した男)』。ロニー・レインの生涯をエリック・クラプトンら友人の証言やライブ映像を通して辿るドキュメンタリー映画(2006年制作・2007年日本公開)

このあたりは映画『ロニー』に詳しい。彼の素晴らしさを伝えようと、BBCの元スタッフが放送局に捨ててあった機材で作った映画だ。ファーストシーンで、ロニーが実際に乗っていた古いバスがイギリスの田園風景を走ってくる。そこにロニーの音楽が重なって、僕はいつもそこで涙腺が決壊する。理由? よく分からない。彼の純粋さがいつもこころを揺さぶるんだと思う。

彼がスリム・チャンスでやろうとしたことは、グレイトフル・デッドの理念とほぼ同じだったのだと思う。違うことがあるとするなら、イギリスではヒッピー・ムーブメントがサンフランシスコほど盛り上がってはいなかった。そして、たぶん、ロニーは人を信じすぎた。

ロニーは母親も患った多発性硬化症を発症。1983年9月、彼は自身の高額な治療費とARMS (多発性硬化症の研究機関)の研究費のためにチャリティーコンサートを企画する。

ARMSコンサートにはたくさんのミュージシャンが集まった。エゴではなく、ロニーと難病の治療のために。エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スティーヴ・ウィンウッド、ビル・ワイマン、チャーリー・ワッツ、エトセトラ。

コンサートは大成功に終わったが、ロニーは収益金の殆どを信頼していた人物に横領され、1997年6月4日に51歳でこの世を去る。

不幸な人生だろうか? 僕はそう思わない。彼にはいつも夢があって、愛があって、不器用で、才能に恵まれ、何よりもたくさんの作品を遺し、多くの人に愛された。彼の音楽は今の時代にこそ必要なものだと僕は思う。そこには不変で普遍の“タッチ”があるから。いい曲はたくさんあるけれど、たとえば「Roll On Babe」(1974年)って曲を聞いてみてほしい。シングルモルトの大衆向けウイスキーを飲んだときのように、胸の奥にあたたかい世界が広がるから。この世は生きるに値する場所だよ。

ロニー、たくさんの素晴らしい音楽をありがとう。

感謝を込めて、今を生きる。

ついしん
広島のタカノバシってところに、その名も“スリムチャンス・スタジオ”って店がある。ロニーのスピリットは静かに受け継がれてる。君がドアを開ける勇気があるなら、あの“タッチ”を受け取ることができると思うよ。

ロニー・レイン(Ronald Frederick “Ronnie” Lane):1946年、ロンドン生まれ。10代の終わりにケニー・ジョーンズらと出会い、ベーシストを志し、スティーヴ・マリオットと出会った後スモール・フェイセズを結成、1965年にデビュー。スティーヴ・マリオットが脱退後、新たなメンバーにロッド・スチュアート、ロン・ウッドが加わり、1970年にフェイセズと名前を変え、モッズヒーローとしてイギリスのロックシーンを牽引する。バンドが絶頂期の1973年にフェイセズを脱退すると、旅芸人一座的コンセプトと米国ルーツミュージックを追求するために自身のバンド、スリム・チャンスを結成、1stアルバム『Anymore For Anymore』を発表する。「How Come」「The Poacher」などの名曲を発表しつつ、1977年にはピート・タウンゼントとのコラボレーションアルバム『Rough Mix』もリリース。このレコーディング時期に多発性脳脊髄硬化症を発症。次第にベースを弾くことが困難になっていく。1980年、症状が悪化するなか最後のソロアルバム『See Me』を発表。多発性硬化症の研究機関を支援するためのチャリティ・コンサート〈ARMSコンサート〉を提唱し、1983年9月に行ったステージには、エリック・クラプトン、ビル・ワイマン、チャーリー・ワッツ、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジらが参加。その後アメリカに移住し闘病生活を続けながら、ライブ活動を再開し、1990年に旧友であるイアン・マクレガーと共に最初で最後の来日公演も果たしている。1997年6月に51歳で逝去。

『Ronnie Lane’s Slim Chance』

1975年作品
Universal Music LLC

『One For The Road』

1976年発表
Universal Music LLC

『Rough Mix』

1977年発表
Universal Music LLC

著書プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)
、池畑潤二(drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。2017年5月には14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』をリリース。東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE 2017”は古市コータロー、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らとともに南青山MANDALAで5日間のライブを開催。熊本地震を受けてスタートした「MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO」(FMKエフエム熊本 毎月第4日曜日20時~)でDJも担当。10月からHEATWAVE楽曲へのリクエストで構成されるソロツアーを開催。
オフィシャルサイト

■ライブ情報

山口洋(HEATWAVE)solo tour 2017 autumn『YOUR SONG-2』
10月20日(金)札幌 円山夜想
10月22日(日)函館 喫茶・想苑
10月25日(水)弘前 Robbin’s Nest
11月5日(日)岩国 himaar
11月7日(火)福山 Boggie Man’s Cafe POLEPOLE
11月10日(金)高知 Sha.La.La
11月15日(水)横浜 Thumbs Up
11月11日(土)高松 Bar RUFFHOUSE *スペシャルライヴ!『OUR SONG』山口洋 × 藤井一彦 
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RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO
8月12日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ〈北海道小樽市銭函5丁目〉
*MLIMMとして仲井戸“CHABO”麗市、宮沢和史とともに出演
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イベント「ミリキタニの猫《特別編》」
8月15日(火)横浜シネマリン
*山口洋は上映後のトークで参加
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TOKYO 1351 LIVE & TALK vol.2
8月19日(土)風知空知
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50/50(山口洋と古市コータローのスペシャル・ユニット)
9月26日(火)吉祥寺STAR PINE’S CAFE
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