【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 32

Column

『REBECCA IV ~ Maybe Tomorrow ~』は、いま聴いてもぜんぜん古くない。NOKKOの声と楽曲の魅力を分析

『REBECCA IV ~ Maybe Tomorrow ~』は、いま聴いてもぜんぜん古くない。NOKKOの声と楽曲の魅力を分析

「フレンズ」のヒットもあり、また、ライブでの人気もフィードバックされ、彼らの4作目の『REBECCA IV ~ Maybe Tomorrow ~』は、ミリオン・セラーとなる。「日本のロック・バンドとして初のミリオン」と紹介したりするわけだが、60年代のグループ・サウンズも“ロック・バンド”と見做すなら、既に達成されたことでもあった。このあたり、人によって解釈は様々だろう。

でも80年代という「洋楽そのものが日本のチャートにも君臨していた時代」にあって、つい後塵を拝することにもなった邦楽バンドのなかで、洋楽指向をなくさずオリジナリティを育み、ここまでのセールスを達成したのはREBECCAが初めてだった。周囲も驚いた。

しかも、彼らを聴く人が増えただけじゃなく、“演る”人も増えたのだ。仲間を募ってコピー・バンドをやった経験を、懐かしく思い出す人は少なくないだろう。

ちなみに、同時期にブレイクしたもうひとつのバンドがBOØWYである。これは重要な事実だ。女の子が活躍できるREBECCAと、男の子たちがカッコつけられるBOØWYと、このふたつが揃ったことが、バンド(やろうぜ)ブームを、より強固に下支えしたからである。

久しぶりにこのアルバムを聴いた。リズムの感じやシンセの装飾音などに、もっと古さを感じるかなと思ったら、そうじゃなかった。1曲目の「HOT SPICE」のドラムとギターのカッティングなど、今でも充分、胸騒ぎがする演奏だ。ちなみにこの曲、ボーカルに関しては歌の物語性を追求したものじゃなく、NOKKOのシャウトのポテンシャルにスポットをあててる。そのかわり2曲目の「プライベイト・ヒロイン」は、一転してメロディアスであり、歌の主人公の心情も届く。同じNOKKOが歌っているわけだが、ボーカルのテイストは、かなり異なる。

しかし全体として言えるのは、抑制と拡散が、ギリギリのところで緊張感を生み出すのが彼女の歌の魅力だろう。「プライベイト・ヒロイン」を聴くとよくわかるのだが、特にビブラートが特徴的だ。

普通は語尾にビブラートをかけ、エネルギーを逃がすことで味わいとするものだが、当時の彼女の歌を聞いていると、逃がす感覚とは逆に、声の揺れがエネルギ−を呼び込んで、サビにおける大放出へと備えていることがわかる。特にこの曲では、よくわかる。

NOKKOについて、さらに書く。そもそも彼女の声質そのものが、バンド向きだ。ロック・サウンドの中からも、まるで水彩のなかのクレパスの筆跡のように、クッキリハッキリ届く。そもそもバンドで歌う人の存在感を支えるひとつの要素が、それなのだろう。忌野清志郎などは明らかにクッキリの天下人であった。ロック系の女性ボーカリストでは、その後のJ-ROCKの歴史を見ても、彼女の上をいく人は思い浮かばない。

『REBECCA IV ~ Maybe Tomorrow ~』は、彼らにとって初のフル・アルバムだ。それまでは6曲入りミニ・アルバムを3作リリースしてきた。これは当時、彼らが所属していたFITZBEAT(フィッツビート)というソニーのレーベルの方針だった。6曲入りの1,500円という低価格で、ティーンにも手に取り易い形にして、普及を図ったのだ。ところが目論見どおりにはいかず、いつしかFITZBEATからも、通常のフル・アルバムがリリースされることになるわけである(今から思えば確かに、6曲入り1,500円て、高いのか安いか微妙だ…)。

このアルバムは10曲入り。だからこそ、「光と影の誘惑」という、インストゥルメンタルの楽曲も収録することが叶ったのだろう。アナログのLPだったら片面が終了、という位置の5曲目に置かれている。そして何と言っても「フレンズ」と並ぶ名曲なのが「ガールズ・ブラボー!」なのだ。この作品のサビへと至る展開、サビの座りの良さは格別だ。あまり他で耳にしたことないようなシロフォンのような音色のシンセも実にいい。このあたりの音色こそが、時間が経っと色褪せてしまう要素になりかねないのだが、ちゃんと今も説得力ある音色なのが驚きなのだ。

前作は土橋安騎夫の設計図がうまく音源化された雰囲気もあったけど、このアルバムではよりREBECCAというバンドが有機的に機能している。冒頭で、“ライブでの成果もフィードバック”と書いたが、それが非常に大きかったかもしれない。

どんなバンドもそうだけど、REBECCAにおけるリズム・セクションの役割は実に大きい。以前、このバンドでドラムを担当している小田原豊に話を聞いたことがあるのだが、彼はリズムこそが「時代の顔」だと述べていた。もちろんそれは、作品により表情を変えるのだろうけど、この頃でいえば、プリミティブなパワーがあって、雄大な響きのドラム・サウンドこそが「顔」だったのかもしれない。

『REBECCA IV ~ Maybe Tomorrow ~』は、サブ・タイトルとなっている「Maybe Tomorrow」というバラードとともに終わる。アルバムの総仕上げがこの作品で、ここでコケたらすべてがコケる。また、バラードというのは歌い手にとって、“自分を大きく見せたい”という、そんな誘惑にも駈られるジャンルでもある。ところが彼女はビブラートも抑えめに、むしろアッサリしたテイストで歌っていて、それが実に、聴き手の心に“来る”のである。

文 / 小貫信昭

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