佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 6

Column

新しい才能との出会いには、いつだって心を震わせられる

新しい才能との出会いには、いつだって心を震わせられる

DYGL 『Say Goodbye to Memory Den』

2017年8月21日の午後、ふと思い立って若いプロデューサーのS・H君に電話すると、たった一回のコールで出た。中国の大都市をまわるツアーから、ちょうど前の日に帰国したところだった。

彼は10代で単身ロンドンに渡り、何のコネもなく音楽業界で働きはじめてこの世界に入り、2005年にはDJ BAKUと共に音楽シーンの異端児たちとの出会いを記録した音楽ドキュメンタリーFILM『KAIKOO/邂逅』を監督・制作した。
それをパッケージにして世に出すための相談を受けたので、手伝ってあげたことから付き合いが始まった。

日本に新たな音楽シーンを作ろうとしてきた彼の試みを、ぼくは陰ながらいつも応援していた。
そんなS・H君が携わっているアーティストが、中国ツアーをしてかなりの手応えだったという。

「アーティスト名は?」とたずねた。
「※※※※‥‥というバンドなんです」と、よく聞こえない。

彼は英語に堪能な分、やや早口なので電話では聞き取りにくいときがある。

「えっ、デイブ・グロール!?」
「いや、デイグローです」
「あ、デイブ・グローか?」
「いえ、DYGLって表記するんですが、デイグローと読むんです」

そんなやり取りがあって、DYGLという4文字をメモした。

ちょうどいいタイミングだったのだろうか、S・H君は夕方にぼくの事務所まで来てくれることになった。
話が早くて行動がスムーズなときは、良い予感がしてくるものだ。
そのメモに残った文字を見ていたら、なんとなく見覚えのある名前だと気づいた。
数日前、「CDショップ大賞」の選考結果をメールで受け取ったとき、その名前を一瞬だが目にしていたのである。

一次ノミネート作品を下記テキストにてお送りします。
第10回CDショップ大賞2018 一次ノミネート作品
(アーティスト名五十音順)

岡崎体育 『XXL』
コアラモード. 『COALAMODE.』
Cornelius 『Mellow Waves』
Suchmos 『THE KIDS』
さユリ 『ミカヅキの航海』
竹原ピストル 『PEACE OUT』
DYGL 『Say Goodbye to Memory Den』
乃木坂 46 『生まれてから初めて見た夢』
MONDO GROSSO 『何度でも新しく生まれる』
Yogee New Waves 『WAVES』
ONE OK ROCK 『Ambitions』

来年の春で10回目を数えるCDショップ大賞は、CDショップの現場で培われた目利き耳利きの店員さんが、メジャーやインディーズを問わず、受賞をきっかけに大きなブレイクが期待されるアルバムを「大賞」として顕彰してきた。
過去の結果はこうだった。

2009年第1回 相対性理論「シフォン主義」
2010年第2回 THE BAWDIES「THIS IS MY STORY」
2011年第3回 andymori「ファンファーレと熱狂」
2012年第4回 ももいろクローバーZ「バトル アンド ロマンス」
2013年第5回 MAN WITH A MISSION 「MASH UP THE WORLD」
2014年第6回 マキシマム ザ ホルモン「予襲復讐」
2015年第7回 BABYMETAL「BABYMETAL」
2016年第8回 星野源「YELLOW DANCER」
2017年第9回 宇多田ヒカル「Fantome」

宇多田ヒカル
Fantôme

2017.06.14
全11曲


夕方に事務所に現れたS・H君とは1時間ほど、青山の骨董通りにあるカフェで茶飲み話をして別れた。
ぼくは受け取ったばかりのCDを早く聴きたくて、急いで帰宅しようと表参道駅に向かった。
CDのパッケージを見ただけで、新しい出会いの予感がしてきたのだ。

駅までの道を急ぎ足で歩いている途中、初めから世界を視野に入れてアメリカのSXSWに出演したり、アジアの各地をツアーでまわっているのだから、iTunesでも聴けるのではないかと思った。
そこで駅についてiTunesを検索すると、すぐにアルバム 『Say Goodbye to Memory Den』が見つかった。
それを聴き始めてからものの数十秒もしないうちに、DYGLへの期待は大きく膨らんでいった。

1曲めの「Come Together」はタイトルがビートルズだが、フレーズのそこかしこにローリング・ストーンズが感じられた。
2曲めの「Crazy」からはフェイセズとブルース・スプリングスティーンを思った。

もちろん、その手前にはストロークスやリバティーンズがいるのだが、さまざまなルーツが複合的に折り重なって、新鮮な輝きを放っていた。

そして聴き進むうちに、思わずツイッターに投稿してしまった。

自宅のある駅で降りたが、まだ全曲が終わっていなかったので、蕎麦屋に入ってビールを注文し、手元にあるCDから英語の歌詞と日本語の訳詞を取り出して、それを見ながら最後まで聴き終えた。

こんな歌詞が目に入ってきた。

いつでも光は消えゆこうとする
いつでも自由はここにない
だから言うんだ おれはただ
この世界にちょっとしたノイズが生みたいだけ

ぼくは昂るの気持ちのまま、「CDショップ大賞」の事務局に連絡して、DYGLの 『Say Goodbye to Memory Den』を選んだ人のコメントを送ってもらった。

日本人とか外国人とか、邦楽とか洋楽とか、細かいジャンルなんてそんなのもどうでもいい。 とにかくすべてにおいてかっこいい。宇宙一好きなバンド。
(ディスクユニオン池袋店 長谷川雅子)
一聴しただけで明らかに他とは違う空気を伝えてくれる稀有なバンド、DYGLの圧倒的1stアルバム!(HMV 店舗営業部 松野翔太)
2017年上半期間違いなく音楽シーンに衝撃を与えた1枚。様々なロックをかき鳴らしロックンロールという音楽の凄さを改めて感じさせられた14曲。名盤確定です。
(TOWER RECORDS 東浦店 桜井圭祐)
かつてキースリチャーズは言った。「ロックはあるけどロールはどこに行ったんだ?」と。 今現在、邦ロックと呼ばれるバンドがどの位「ロックンロール」という言葉を引き継いできたのだろう。
その中で出てきたDYGL。ロックンロール精神を受け継いでいるバンドの1つであると私は思う。
そのグルーヴに体が自然に揺れ、心が解き放たれる音楽。そんな「心と体が感じる音楽」を奏でるDYGLのロックンロール精神。 日本のロック界に風穴を空けるバンドになってほしい。
(HMV イオンモール浜松市野  原田美惠子)

音楽シーンが活況を呈していくには、一度盛り上がったムーブメントや、そこで出来あがったシーンを受け継いで、その次やさらにその後の世代が継承していく必要がある。

国境や世代を超えて、良い音楽を受け継いだ若い世代によって、日本にもリアルタイムで世界とつながった音楽シーンをつくる動きは活発化している。

新しい才能との出会いには、いつだって心を震わせられる。
さて、次はライブでDYGLを体験してみたい。

DYGL
Say Goodbye to Memory Den

2017.04.19
全14曲


著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

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