舞台『四月は君の嘘』  vol. 4

Report

安西慎太郎や松永有紗らが奏でる切ない青春のメロディー。舞台『四月は君の嘘』ゲネプロレポート

安西慎太郎や松永有紗らが奏でる切ない青春のメロディー。舞台『四月は君の嘘』ゲネプロレポート

8月24日より舞台『四月は君の嘘』がAiiA 2.5 Theater Tokyoにて上演された。これまでにも、アニメ、映画化され、500万部以上の売り上げを誇る人気漫画の舞台版がついに幕を開ける。俳優陣は主演の安西慎太郎、和田雅成、横井翔二郎といった若手で勢いのある俳優。さらに、ヒロインに松永有紗、河内美里、舞台初出演の山下永夏とフレッシュな女優陣が脇を固める。今回は迫真の演技と生演奏が織りなす恋と再生の物語が、観客の心に勇気を与えてくれるであろう感動のゲネプロの様子をお届けする。

AiiA 2.5 Theater Tokyoがいつもと違ってコンサートホールのように静謐な趣を湛えている。舞台全体が白を基調としており、まるで舞台全体がピアノのようにも見える。階段上の舞台の中央にはグランドピアノ、そして時折ヴァイオリンが用意される。特別な仕掛けはほとんどない。役者の演技と音楽だけに目と耳が集中できるように。美術の松本わかこによるシンプルで静謐な舞台美術のおかげだろう。

白を基調とした舞台はスクリーンにもなり、桜の花びらが舞い散るシーンや、炎のごとく内面の怒りを表現するシーンを作り上げる。あるいは役者たちの影絵が動きとシンクロしてエモーショナルな表現に仕立てる。映像とシンプルな舞台、それらが相乗効果を上げていて息を飲むほど美しい。

生演奏以外は、石塚玲依が作曲した音楽が流れ、繊細にして流麗なリスニング体験をもたらしてくれる。ストリングスとピアノがマッチングしたクラシカルでいて現代的な曲。決してクラシックに耳が肥えた人だけが楽しめる舞台ではないと教えてくれる。音楽好きでもそうでない人でも心を踊らせる仕掛けだ。

天才の名をほしいままにしたピアニストの〈有馬公生〉(安西慎太郎)は、11歳の時に母を亡くしたことをきっかけに自分が弾くピアノの音が聞こえなくなり、ピアノから遠ざかっていた。しかし、ヴァイオリニストの〈宮園かをり〉(松永有紗)に出会うことで彼の見えるモノトーンの世界が色づき始める。同級生のソフトボール部の部長〈澤部椿〉(河内美里)や〈渡亮太〉(和田雅成)、さらにはライバルのソリストの〈相座武士〉(横井翔二郎)や〈井川絵見〉(山下永夏)らと共に戦い、挫折し、成長する姿を描く切ない青春ラブストーリーだ。

〈有馬公生〉は、とても優しい性格だが、いつも俯き加減。母に対して激しいコンプレックスを抱いているらしいことが扮する安西慎太郎の表情や仕草、セリフからうかがえる。子供の頃、病気でピアノ奏者の母の厳しいレッスンに耐えかねて「母さんなんか死んじゃえばいいんだ」と言い放ったことに対して罪の意識から逃れられずにいる。まさにベートーヴェンのように耳が聞こえなくなってしまった〈公生〉が、苦悶苦闘し、そして新しい道を見つけ出す再生まで、さなぎが蝶になるように成長する安西の演技が圧巻である。

ヒロインの〈宮園かをり〉の松永有紗は、天真爛漫でありつつ、誰にも教えられない秘密を抱えた、どこか影を抱えている。ちょっとしたことで泣いてしまう敏感な性格を表現する演技の振れ幅が、安西慎太郎が「嫉妬してしまう演技」(参照サイト:https://entertainmentstation.jp/107476)と言った通りの無垢でいて小悪魔にも見える。さらにヴァイオリニストの小林修子との生演奏とのシンクロの度合いが、統制の取れたダンスのようだった。

〈澤部椿〉の河内美里は、〈公生〉の同級生で幼馴染。闊達で、元気いっぱいな存在なのだが、〈公生〉のことを好きでいる自分を認められず、どうしても素直になれない。そんなもどかしさをひた隠しながらコメディエンヌを演じていて、苦い青春を経験した人なら誰でも感情移入できる切ない笑いを交えた演技に胸が締め付けられる。

〈渡亮太〉の和田雅成は、〈椿〉と同じくスポーツ万能の〈公生〉の良き理解者。音楽音痴だから彼の苦悩を理解できないこともあるけれど、彼を心から支えている。時々ボケをかましながら、温かく〈公生〉に接し、彼を〈かをり〉と同じく再びピアノへと導くメンター役を十二分にこなしていた。

〈相座武士〉の横井翔二郎は、〈公生〉がピアノをやめたことを許せない。憎悪の炎のようなものを心に抱えているのに、どこか彼の復活を望んでいる。コンクールで、〈相座〉がピアノを弾くシーンでは、白熱する演技と実際の生演奏が合体して、〈公生〉に対してやり場のない怒りをぶつける鬼気迫るシーンに目を見張った。

同じくソリストの〈井川絵見〉の山下永夏は、〈公生〉のことをライバルだと思いながらも、彼の演奏によって自分がピアノに目覚めた憧れの存在、という少し屈折した思いをピアノに託す。セリフよりも、その凜とした佇まいと、表情、仕草で語る、初舞台とは思えない存在感だった。

そして忘れてはならないのが、〈公生〉のトラウマの鍵となる母〈有馬早希〉の田中良子だ。彼女はすでにこの世のものではなく、彼の幻影のはずなのに、圧倒的な存在感を持っている。まるでメフィストのように彼をピアノの弾けない世界に誘い悩ませ続ける。
そんな俳優たちの迫真の演技を支えていたのはおそらく演出の伊勢直弘だろう。彼の俳優陣への的を得たアドバイスが彼らを奮い立たせ、さらに脚本の三浦香の意図を十分に伝えていたと感じる。

本舞台の演出面の核となるのは生演奏だ。ピアニストの松村湧太とヴァイオリニストの小林修子の演奏は、もちろんリアルで迫力があるけれど、それ以上にキャラクターの個性や心象風景に沿った演奏を聴かせてくれた。

どの曲も捨てがたいが、いくつか挙げれば、ベートーヴェン作曲『ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」』。これは、〈公生〉と〈かをり〉がとある公園で出会い、〈かをり〉が音楽コンクールで披露する課題曲。そして〈公生〉はピアノに触れ始めるきっかけとなる曲。〈公生〉のモノトーンだった世界がこの曲によってカラフルに色づいたのが目に見えるようだった。
続いて、サン=サーンス作曲『序奏とロンド・カプリチオーソ』。これは、スペイン出身のヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテのために書かれた情熱的で自由な曲だ。これは初めて、〈公生〉と〈かをり〉がコンクールで披露した曲でもある。

『バッハ平均律第1巻13番』。繊細なフレージングが要求されるピアノ曲だ。〈公生〉を終生のライバルと捉える横井翔二郎がコンクールの課題曲として弾く曲だが、ライバル心むき出しの〈相座〉の情熱を饒舌に表現していた。
『ショパンエチュードOP.25-11』。これはテクニシャンとしての〈井川〉のキャラクターに見事にマッチした選曲。とても難しいフレージングを何度もこなしていく松村が舞台の〈井川〉の内面の吐露とシンクロしていく絶妙にして可憐なナンバーだ。

そして『クライスラー「愛の悲しみ」』。これはとある事情で〈かをり〉と〈公生〉は、ガラコンサートに出るはずだったのだが、いつまでたっても〈かをり〉はやって来ず、〈公生〉がたった1人で披露する曲。また、彼の母がよく練習曲として使用していた曲だ。松村と安西はここでも見事なシンクロをみせ、母の重圧、コンプレックスを、あえて母の好きな曲を演奏することで、一番大きな壁を乗り越えさせるというドラマティックな曲に仕上げる。

生演奏も当然のようにストーリー性があり、キャラクターの成長とともに音楽はよりパッションになり、ある時はペーソスに満ち、最後に勇気をくれる。舞台上のすべての役者、あるいは観客の旅立ちを願う曲群だ。生演奏すべてが明日への応援歌となる。それでいて過去の自分を捨て去る鎮魂歌でもあるのだ。

この舞台を支える、骨太な演技、圧倒的な生演奏、それらが噛み合って、感じたことのない体験ができるだろう。こんな奇跡のようなゲネプロはなかなかお目にかかれない。本番で、どのようにスケールアップしていくのか楽しみだ。原作好きな人も、原作未読の人も、心がとらわれてしまう仕掛けが満載の舞台である。

なお、来場者特典として原作の新川直司が、舞台のために描き下ろしたスペシャルイラストの特性クリアファイルが配布されることになった。公演後は日替わりでキャストが出演する「放課後座談会」や、演奏者による「ミニコンサート」も開催される予定だ。詳細は公式サイトをチェックしてほしい。

取材・文 / 竹下力

舞台『四月は君の嘘』

【東京公演】2017年8月24日(木)~9月3日(日)AiiA 2.5 Theater Tokyo
【大阪公演】2017年9月7日(木)~10日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

『ヒューマンメトロノームとも揶揄された正確無比なピアノ演奏』、『幼少から数多くのコンクール優勝』。そんな異名を持つ天才ピアニスト有馬公生は、母親の死をきっかけにピアノの音が聞こえなくなり演奏から遠ざかっていた。公生を心配する幼馴染みの澤部椿や渡亮太と学生生活を送り新学期になった四月。公生は同い年のヴァイオリニスト宮園かをりと出会う。かをりとの日々はモノクロな公生の心をカラフルに変えていく。ある日、かをりはコンクールのピアノ伴奏に公生を指名。再び鍵盤に触れたことで公生の中に新たな感情が芽生える。友人、ライバル、恩師と過ごす春夏秋冬は美しくも切ない物語を紡ぎ出す。

【原作】新川直司『四月は君の嘘』(講談社「月刊少年マガジン」所載)
【脚本】三浦香
【演出】伊勢直弘

【出演】有馬公生 役/安西慎太郎 宮園かをり 役/松永有紗 澤部椿 役/河内美里 渡亮太 役/和田雅成 井川絵見 役/山下永夏 相座武士 役/横井翔二郎 ほか

オフィシャルサイトhttp://kimiuso-stage.com

©新川直司・講談社/エイベックス・ピクチャーズ株式会社

原作本『四月は君の嘘』

四月は君の嘘

著者:新川直司
月刊少年マガジン

舞台『四月は君の嘘』画像ギャラリー
vol.3
vol.4