Interview

土岐麻子 シティ・ポップの女王が発表したベストアルバム。彼女の音世界の過去と現在を繋ぐターニングポイントな1枚について訊く

土岐麻子 シティ・ポップの女王が発表したベストアルバム。彼女の音世界の過去と現在を繋ぐターニングポイントな1枚について訊く

今年1月にリリースしたアルバム『PINK』でエレクトロニックミュージックを昇華することで現代のシティ・ポップを鮮やかに提示した土岐麻子。シティ・ポップの女王とも形容される彼女の新たなトライアルが若いリスナーの支持を獲得しつつあるなか、早くもベストアルバム『HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako』がリリースされた。この作品では、グルーヴに映えるヴォーカルや光と影が共存する歌詞の世界に特徴付けられる彼女の個性にフォーカスしながら、「STRIPE」と「FANTASY」という2曲の新曲が今後の新たな展開を予感させる、そんな充実の内容になっている。過去と現在を繋ぐ2017年の土岐麻子は果たしてどんな未来を思い描いているのだろうか?

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 森崎純子

今までとは違った反応が得られたことはうれしかった

今回のベスト・アルバム『HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako -』は、今年1月の最新アルバム『PINK』から半年という短いインターバルでのリリースになりましたね。

そうですね。今回、間を置かずにベスト・アルバムをリリースすることになったのは、最新作『PINK』が“落ち着いた感じの大人な音楽だと思っていたけど、聴いてみたらしっくり来た”というような、若いリスナーを中心に今まで想定していなかった層からの反応を沢山いただいたんですね。そこで『PINK』しかり、これまでの作品でも常に作ってきたダンサブルな、フィジカルな曲たちを意識的に選曲しました。

『PINK』は、サウンド・プロデューサーにトオミヨウさんを迎え、エレクトロニックミュージック色を強めた作品でしたが、土岐さん自身、大きな変化を求めていたんでしょうか?

これまでの作風をがらっと変えようと思って作った作品ではなかったんですけど、私のなかで自然な流れでやりたくなったことが今までとは全然違うことだったりして。そこで躊躇せず、大きく変わったと思われてもいいやという気持ちで制作に臨んだので、今までとは違った反応が得られたことはうれしかったですし、だからこそ、以前の楽曲、『PINK』とは異なる生楽器主体の楽曲だったりするんですけど、私の中では同じ棚に並んでる曲たちもこの機会に聴いていただけたらうれしいなって。

メロディ派というよりリズム派というか、歌う時にメロディよりもリズムの躍動感に面白さを感じるタイプ

土岐さんの作品はメロディを活かした曲はもちろん、グルーヴを際立たせた曲も数多く発表していますもんね。

実は、私が歌のピッチを気にするようになったり、メロディのハーモニーが好きになったのは、意外に後からなんですよ。音楽活動を続けていくなかで、私の声はメロディアスな曲が合うのかもしれないという気づきもあって、今に至るんですけど、もともとはマイケル・ジャクソンのようにパーカッシヴに歌う人がずっと好きでしたし、メロディ派というよりリズム派というか、歌う時にメロディよりもリズムの躍動感に面白さを感じるタイプだったりして。だから、作品を作るとなったら、グルーヴが立った曲は自然とやりたくなるんですよ。

ということは、今回のベストは土岐さんの別の顔というより、本来の土岐さんを映し出した作品なんですね。そして、選曲に関して、土岐さんのアルバムは毎回テーマが設定されていますが、そのテーマを取り払った今回の選曲作業に関してはいかがでしたか?

私としても1枚1枚、テーマの異なる作品を出してきたつもりだったんですけど、こうやって曲単体で並べてみると、歌詞の世界や自分の声はそんなに変わらないんだなって思いましたね(笑)。例えば、歌詞の視点にしてもキラキラした世界を描いたものが多いんですけど、そのキラキラはすごく暗いところから見た輝きだったり、1曲のなかで光と影、明るさと闇がはっきり表れているものが多いことに気づかされましたね。

私自身、常に尖ったものに惹かれるし、自分でもやりたいと思っているのかもしれないですね

しかも、影や闇に足をすくわれず、さらっと聴けるところに土岐さんの個性があるように感じました。

それはよかった(笑)。例えば、“乱反射ガール”は、キラキラした女性を羨ましく見ている男性の視点で書いたものなんですけど、この曲は新宿二丁目で人気があって、みんな踊ってたという話を聞いたことがあって。影や闇を描きつつも、一聴して、踊りたくなるようなキラキラした雰囲気は残したつもりですし、どの曲もドライブとかで流して聴くぶんには爽やかな、軽やかな曲ばかりなんじゃないかなって思いますね。

山下達郎さんや大貫妙子さんといったオリジネーターの作品はエッジの鋭さとスムースさが共存しているのに対して、近年のシティ・ポップ・リヴァイヴァルは毒抜きされたスムースさが特徴だと思うんですけど、明暗が共存している土岐さんの音楽は、オリジネーターのスピリットを継承しているという意味でシティ・ポップ・リヴァイヴァルとは一線を画するものだと思います。

恐らく、歌謡曲やフォーク、演歌なんかがテレビのメインだった70年代、80年代に達郎さんたちが打ち出した“踊ろう!”っていう曲は時代のアンチテーゼというか、新しい提案だったんじゃないかなって思うんですよね。当時、子供だった私にとっても、すごい新鮮だったし、尖った姿勢が音楽全体から感じられたことで好きになったので、私自身、常に尖ったものに惹かれるし、自分でもやりたいと思っているのかもしれないですね。

自分のルーツに80年代のシティ・ポップがあることに気づいて

土岐さんはシティ・ポップの女王とも形容されていますが、当時の尖ったスピリットを継承しているからこそ、70年代、80年代のシティ・ポップの模倣では終わらない表現を模索し続けていて、今回のベストはその軌跡でもあるように思います。

そうですね。模倣にならないようにとずっと考えてますね。Cymbalsでデビューした20代の頃はオマージュだったり、パロディだったりを通じて、リスペクトを表明していましたけど、2004年にソロになって、自分のルーツに80年代のシティ・ポップがあることに気づいて、それを現代的な表現としてやれるようなミュージシャンになりたいと思ったんですね。でも、すぐに自分なりのポップスを見つけられなくて、今までやってきたことを活かしつつ、徐々に自分の理想に辿り着けたらいいなって。そして、2006年に80年代のシティ・ポップをカヴァーしたアルバム『WEEKEND SHUFFLE』を出したんですけど、当時はまだ早かったのか、あまり受け入れられなくて(笑)。それでも私は好きな音楽をやり続けてきたし、自分の体に染みついた音楽が作品に投影されるようになって、メロディや歌詞が何気なく似てしまうこともあって。それはそれで幸福感もあったりするんですけど、リスペクトの表し方として、それは今の私にとって違うなと思っているし、無意識に出てきたものもこれは自分の表現なのかどうかを吟味しますね。

照れもあってか、自分のなかで恋愛の歌をタブー視していたのかもしれない

歌詞に関して、最新作『PINK』は性別を問わない都会で暮らす男女のストーリーが曲単位で描かれていますが、それ以前は惑う女性の心境を投影した曲が多かったと思います。ご自身では歌詞の作風の変遷に関してはいかがですか?

学生時代は谷川俊太郎の詩が好きだったり、もともとは言葉遊びが好きで、言葉でそのものを言わずに匂わせるとか、言葉の並び替えで印象を変えてみたり、ソロの最初の時期は言葉の不思議を追求していたんですけど、ある時、女性の知り合いから“男女問わず、みんな恋愛の歌が聴きたいんじゃない? 特に女性は恋愛の歌しか聴きたくないかも”って言われて(笑)。振り返ってみたら、私のアルバムには恋愛の歌が1曲もなかったし、素直に考えてみたら、照れもあってか、自分のなかで恋愛の歌をタブー視していたのかもしれない、と。そこで、自分と距離感がある歌詞は人に何も伝わらないんじゃないかと思ったんですよ。

『Bittersweet』は私小説、『PINK』は街に住む色んな人のドキュメンタリーのようでもあるし

照れを挟んでる場合ではない、と。

そう。だから、その曲が呼んでいる言葉や世界を書いてみよう、と。そうしたら、その後の作詞では恋愛のテーマがどんどん大きくなっていったんですけど、その一方でシティ・ポップリヴァイヴァルの人たちが出した作品は評判がいいのに、それに対して、土岐麻子の作品は中途半端みたいに書かれているのを目にして、現代のシティ・ポップというテーマについて考えるのを一端脇に置いて、2015年の『Bittersweet』では女の生き方をひたすら語る、歌詞に寄ったアルバムを作ったんです。でも、その渾身のアルバムを作り終えたら、自分なりの現代版シティ・ポップと改めて向き合ってみたいと思って、『PINK』を作ったんですよ。だから、『Bittersweet』は私小説、『PINK』は街に住む色んな人のドキュメンタリーのようでもあるし、そういう意味で、楽器のなかでいい音として溶け込みたいというヴォーカリストの在り方が一貫している今回のベストアルバムでは歌詞の大きな変化を実感しますね。

そうしたサウンド、歌詞の変遷もありつつ、今回収録された2曲の新曲では『PINK』のサウンド・プロデューサー、トオミヨウさんと引き続き、今の気分を作品に反映させていますよね。

『PINK』は1年かけて制作したアルバムだったんですけど、作り終わった後もその時のモードが抜け切れないまま、私も歌詞を書き続けていたし、トオミさんもそのまま曲を作り続けていたので、“もう1枚、一緒にアルバムを作りたいですね”と話していたんです。そんななか、ベストアルバムをリリースすることになり、それだったら新曲を入れたいし、トオミさんと一緒にやりたい、と。私としては過去から現在、そして、その現在が未来をちょっと予知させる、そんなベストアルバムだといいなって思ったんです。

変化を厭わず、自分がやりたいことを正直にやっていこう

オープニング・ナンバーの新曲「STRIPE」は、4つ打ちの楽曲がダンサブルな作品であることを伝えつつ、明暗両方が共存する土岐さんの世界観を明確に表現していますよね。

そうですね。選曲作業を通じて、光と影が共存している曲が私らしいのかもしれないなと思ったので、そういう曲を作ろうと考えて、まずは歌詞から先に書きました。そして、もう1曲の新曲、ラスト曲の「FANTASY」はトオミさんが作った曲に歌詞を当てはめていって作ったんですけど、トオミさんと私がiTunesで共有している“いま聴いている曲たち”というフォルダがあって、そこにどんどん曲を追加しているんですけど、そこには昔の曲もあれば、新譜もあって、トオミさんのモードが時代の流れとはまた別のオリジナルな流れでどんどん更新されているんですよ。そんななか、作った「FANTASY」も最初はもっと派手な印象だったんですけど、ベストアルバムの曲が決まった段階でアレンジも変えてくれて。その変化に立ち会いながら、もしかすると、「FANTASY」は『PINK』から次の流れを予感させる曲なのかもしれないなって、そう思いましたね。私はソロシンガーで、歌詞は書くけど曲は作らないし、アレンジも出来ないんですけど、それゆえに身軽だなって。だから、ジャズのスタンダードを歌ってもいいし、エレクトロニカで歌ったり、バンドで歌ったりしてもいいし、今はその身軽さを楽しみつつ、変化を厭わず、自分がやりたいことを正直にやっていこう、と思っていますね。

その他の土岐麻子の作品はこちらへ

ライブ情報

TOKI ASAKO LIVE TOUR 2017 “PIT IN PINK!” 開催!!

12月18日(月)Live Juke (広島)
12月19日(火)高松DIME (香川)
12月24日(日)恵比寿The Garden Hall(東京)

最新オリジナルアルバム「PINK」、そしてベストアルバム「HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako -」をたずさえ、年内ラストのワンマンライブを開催! 10/14のチケット一般発売に先駆けて、先行予約も実施しますので是非ご利用ください!!

詳細http://www.tokiasako.com/live/

土岐麻子

東京生まれ。Cymbals のリードシンガーとして、1997年にインディーズ、1999年にメジャーデビューを果たす。2004年のバンド解散後、実父 土岐英史氏を共同プロデュースに迎えたジャズ・カヴァー・アルバム『STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~』をリリースし、ソロ始動。本人出演/歌唱が話題となったユニクロTV-CMソング『How Beautiful』を始め、NISSAN「新型TEANA」TV-CM ソング『Waltz for Debby』、資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソング、『Gift ~あなたはマドンナ~』など、自身のリーダー作品のみならずCM音楽の歌唱や、数多くのアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV、ラジオ番組のナビゲーターを務めるなど、“声のスペシャリスト”。最新アルバムは「PINK」(2017)。同年7月26日に、ベストアルバム「HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako -」をリリース。レギュラーラジオ/JFN系「TOKI CHIC RADIO」(2009.10~)、TOKYO FM「キュレーターズ」(2016.4~)。2017年12月にワンマンライブツアー開催決定。

オフィシャルサイトhttp://www.tokiasako.com/