モリコメンド 一本釣り  vol. 29

Column

TORIENA(トリエナ) 音楽を聴いてる間だけはファンタジックな世界へ。彼女の楽曲の軸になっている“チップチューン”って?

TORIENA(トリエナ) 音楽を聴いてる間だけはファンタジックな世界へ。彼女の楽曲の軸になっている“チップチューン”って?

SEKAI NO OWARI、RADWIMPSに代表される日本のトップアーティストに共通しているのは、“日常と地続きのファンタジー”を体現していることではないだろうか。空気のように蔓延する同調圧力、漠然としているけど確実に存在している不安から目を逸らすことなく、しかし、音楽を聴いてる間だけはファンタジックな世界へと意識を飛ばしてくれる、そんな音楽を(特に10代のリスナーは)求めているのだと思う。そしてデジタル配信EP「MELANCOZMO」でメジャーデビューを果たす“TORIENA”もまた“日常と地続きのファンタジー”を志向するアーティストである。

1993年生まれのTORIENAが創作を始めたのは、自分自身のなかに生まれた非日常的なイマジネーションを具現化することが目的だったという。「日常が今とまったく違う常識だったら」という妄想を頭のなかで描いていた彼女は、そのことをまったく理解しない周囲の人たちと距離を置き、「絵を描く」「物語を考える」「オリジナルのキャラクター」を作るといった行為を通してストレスを発散するようになる。それはまさに“ここではない、どこか”をクリエイトすることにつながったと言っていい。アーティスト活動をスタートさせてからもTORIENAは、作詞作曲はもちろん、アートワーク、ファッションを含め、ほぼすべてを自ら手掛けているのだが、それらの自己発信/セルフプロデュースに関する能力は、10代の頃の創造的な行為がもとになっているのだと思う。

その音楽性もきわめて個性的だ。彼女の楽曲の軸になっているのは“チップチューン”と呼ばれるスタイル。チップチューンとはつまり、ファミコンなどの“ピコピコ”したサウンド感を活かした音楽のこと。“同時に鳴らせる音が少ない”“音域が狭い”“音色が選べない”といった制約を逆手に取ったレトロフューチャー的な音像が特徴で、世界的な人気を得ている。TORIENAが主に使っているのはゲームボーイとLittle Sound DJ(ゲームボーイで操作する作曲ソフト)。ゲームボーンを操作しながら踊りまくるライブパフォーマンスも彼女の魅力のひとつだ。

ノスタルジックな旋律とEDM的トラックを軸にしたインストナンバー「PRESS START」から始まるメジャーデビュー作「MELANCOZMO」には、現時点におけるTORIENAのアーティスト性が過不足なく表現されている。タイトル曲「MELANCOZMO」はチップチューン、エレクトロ、J-POPが絶妙なバランスで混ざり合うポップナンバー。「不安定な宇宙で/恋というものに出会ってしまった」というリリックからは、この曲が単なるラブソングではなく、“つまらないことが渦巻く不安だらけの世界のなかで、心からトキメクことを求めたい”というメッセージを含んでいることが伝わってくる。“宇宙からやってきた謎の生命体を相手にTORIENAがラップバトルを繰り広げる”というブッ飛んだ設定のミュージックビデオは、アマナ異次元(「バンドじゃないもん!」「妄想キャリブレーション」のMVなどを手がけるクリエイターチーム)による制作。サブカル、アイドルなどとの親和性の高さも彼女の大きな武器だろう。

アイドルという存在に対するラブ&ヘイトを客観的な視点で描いたダンストラック「NOT IDOL」(この曲自体がアイドル・ポップとして成立しているという構造にも注目してほしい)、中国風のメロディを活かしたアッパーチューン「来来天心」、さらに彼女のルーツであるチップチューンをさらにアップデートさせた「プロサウンドの逆襲」も収録。音楽表現の幅広もしっかりと提示している。これまでにもアーケートゲーム、セレクトショップとのコラボ曲を手がけている彼女だが、おそらく今後は他のメディアの作品(アニメ、コミック、ゲームなど)ともつながりも増えていくはず。自己プロデュースに長けた彼女はそこでも大きな進化を遂げることになるだろう。

現在Youtubeで公開されているスペシャルムービー(7月にロンドンで開催されたイベント「HYPER JAPAN」出演時のドキュメンタリー映像)のなかで「日常と向き合うことも大事。だけど向き合いすぎて苦しくなるなら現実逃避してもいいと思う」とコメントしているTORIENA。リアルとファンタジーを自在に行き来しながら生み出される彼女の表現は、まさに現在の社会が求めている要素を兼ね備えている。メランコリックな未来感と呼ぶべき世界観を含め、2017年後半の音楽シーンにおけるトリックスターとなるべきニューカマーだと思う。

文 / 森朋之

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