佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 8

Column

遅ればせながら竹原ピストルのアルバム『PEACE OUT』を聴いて

遅ればせながら竹原ピストルのアルバム『PEACE OUT』を聴いて

アルバム『PEACE OUT』を聴いていたら、どうにもこうにも嬉しくなってしまった。竹原ピストルの歌声と歌詞、それぞれに年輪を重ねた味わいがある。好きなアルバムになりそうだと思いながら、途中で4曲目の「ママさんそう言った ~Hokkaido days~」を三回もリピートしてしまった。
そして全曲を聴き終えた後も、「俺たちはまた旅に出た」と「マスター、ポーグスかけてくれ」、最後の2曲をすぐに聴き直すことになった。

竹原ピストル、ここから新しい旅路。旅芸人の心意気を証明する『PEACE OUT』…

竹原ピストル、ここから新しい旅路。旅芸人の心意気を証明する『PEACE OUT』…

2017.04.05

今年の4月に出たこのアルバムを、どうして時期が過ぎた今頃になって聴いているのかというと、3月から5月にかけては単行本の執筆に集中していて、発売になったことさえ知らなかったからだ。

でもそのおかげで酷暑が過ぎていくらか過ごしやすくなったこの時期に、20年ものキャリアを積んだ一人の「歌うたい」と出会い、彼が自分の過去と現在を振り返りながら、精魂込めて作品にまとめたレコードと、ゆったりした気持ちで正面から向き合うことが出来た。

彼が「野狐禅(ヤコゼン)」というフォークバンドを結成して音楽活動を始めて、オフィスオーガスタに所属した頃から、名前からしてどこか気になる存在だった。だからシングルやアルバムは、それなりに聴いたことがあった。

その後も若い友人のシンガー・ソングライター、中村 中が「野狐禅」のこと、とりわけ竹原を贔屓にしていたので、グループが解散してソロになっても気にはなっていた。

そのあたりについては公式プロフィールで、こんなふうに述べられている。

2009年4月に野狐禅を解散し、一人きりでの表現活動を開始。シングル1枚、ミニアルバム1枚、アルバム4枚の作品を発表する傍ら、年間約250本のペースでライブも並行するなど精力的に活動を行う。
2014年、デビュー時のマネージメントオフィスであるオフィスオーガスタに再び所属、
10月22日に、ビクター/スピードスターレコーズよりニューアルバム『BEST BOUT』を発表、リリース直後から敢行した「全都道府県弾き語りツアー”BEST BOUT”」(全56公演)と「竹原ピストル(ズ)ワンマンショー “BEST BOUT”」(バンドツアー全9公演)が大盛況のうちに終了した。

野狐禅の頃から俳優としても映画やテレビで活躍するようになり、笑福亭鶴瓶や松本人志といった目利き耳利きの著名人の応援もあって、その才能は徐々に知られるようになったという。

そして昨年は114本に及ぶ全国弾き語りツアーを開催、10月にはツアーの模様や日常を追いかけたNHKBSプレミアムのドキュメンタリー番組「ネクストブレーカー」がオンエアになり、西川美和監督の映画『永い言い訳』も公開されて、日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞している。

ぼくは遅ればせながら『PEACE OUT』というアルバムに出会ったことで、発売時のインタビューなどにも目を通してみた。音楽ニュースを配信するサイトのナタリーでは、取材した秦野邦彦氏によって「全国津々浦々を巡業する“ドサ回り”生活の中で見た景色や感じた思いを落とし込んだ楽曲を収めた本作は、竹原自身が最高傑作と明言する気迫のこもった1作となっている」と紹介されていた。

確かに最高傑作と明言していいだろう。それだけのアルバムになっていると、心から同意する。そしてインタビューを読んでいくと、竹原の発言にうなずきながら、「見る人はしっかりと見ている」という言葉を思い出さずにいられなかった。

昭和を代表する作詞家の阿久悠は、まだサラリーマンだった頃の話として、つまらないと思う仕事についてこう語っていた。

仕事は不思議なもので、どんなに見えない努力や工夫も見る人はしっかりと見ている。手を抜いていることは瞬時にわかる。だから、僕はそこまで望まれてはいないものでも、自分のために、常に相手の期待よりも上を行く成果を出そうとする。

阿久 悠 「企み」の仕事術 [ロング新書]

つまらない仕事でもつまらないままに終わらせない、その積み重ねで少しずつまともな仕事がまわってくる。それにきちんと応じたことで、周囲にいる人たちが阿久悠を売り込んでくれるようになり、作詞家への道が開けたというのである。

その教訓はこつこつとライブを積み重ねてきた竹原にも、そのまま直結していくのではないかと思えた。

以下は本日、9月5日から始まる「BOSS」の新CMで松重豊と共演している竹原が、エンタメステーションの取材で語っていたことばである。

とにかくライブをたくさんやって、その中でうまくいったり、しくじったりを何度も繰り返しながら、ステージの中で育ってきた人間だということは、精神的支柱になっている気がしますね。また、あの人がチャンスをくれたから、活躍して恩返ししたいという気持ちとか、応援してくださる方、チャンスをくださる方の存在そのものも、自分のプライドに直結してくると思います。
松重豊&竹原ピストル、先輩・後輩役で「BOSS」新CMに登場。「顔に似合わず器用…

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2017.08.30

竹原ピストル 『PEACE OUT』

2017年4月5日発売
初回限定盤(CD+DVD)
VIZL-1115 ¥3,300(税別)
通常盤(CD)
VICL-64716 ¥2,900(税別)

アイキャッチ画像:撮影 / 関信行

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

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