Interview

「難しかったのは“時効”の問題。」『コールドケース』日本版を手がけた波多野貴文監督がシリーズを通じて留意したポイントとは?

「難しかったのは“時効”の問題。」『コールドケース』日本版を手がけた波多野貴文監督がシリーズを通じて留意したポイントとは?

未解決犯罪の解決に尽力する捜査チームの活躍を描いたアメリカの人気連続ドラマシリーズを、吉田羊主演でリメイクした「連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~」。WOWOW開局25周年を記念したビッグプロジェクトは、日本ならではの物語の機微やソリッドな映像美、そしてキャスト陣の名演によって評判を呼んだ。シーズン2の制作も決定したタイミングでのDVD/BDリリースに際し、波多野貴文監督にインタビュー。シリーズを通じて心がけたことや、続編への抱負を大いに語ってもらった。

 取材・文 / 平田真人 撮影 / 冨田望

タテ社会にまみれたチームではなく、信頼し合う5人を見せたかった

基本的な質問になりますが、「コールドケース」の世界観を日本版に落とし込む上で、監督が留意した点をお聞かせください。

やはり大きかったのは「時効」の問題ですね。特に難しいなと感じたのが、事件当時の音楽を使うという演出です。1990年代の半ばの音楽をセレクトする時、各年代によってスタンダードになっている曲がまちまちであることに気がつきまして。洋楽を聴いていた人もいれば、日本のヒット曲を聴いていた人も、マニアックな曲を聴いていた人もいたわけでして……。で、どこを基準に選曲するかが争点にもなったんですが(笑)、結果的にはいろいろな方の意見を聞きながら、各エピソードのテイストを踏襲する曲を選ぶという手法に落ち着きました。なるべく邦楽──日本のポップソングを使いたいと思っていたんですが、その曲の歌詞が何かストーリーと関連していたり、意味をなしているように聞こえてしまう可能性も生じるというのが、難点でしたね。ただ、日本でつくる「コールドケース」でありながら、世界に向けて発信する作品でもあったので、海外の方がご覧になったときに、曲を聴くことで「これは1995年の話か」とわかるような洋楽曲を入れる必要性もあって。その洋邦のバランスと言いますか、どう案配するかで苦労しました。

波多野貴文監督

確かに音楽の使い方がキモですよね。一方、表現の面において何か気を配った点はありましたか?

差別や格差といった問題が引き金になった事件がオリジナル版では多かったので、日本社会に置き換えたときに、どういった表現をすれば的確なのか……WOWOWさんというメディアの特性上、地上波の民放さんよりも突っ込んだ表現ができるとはいえ、観ている方に嫌悪感を与えないように配慮したうえで、どのような描き方ができるのかは、制作陣で留意していたところです。

なるほど。また、波多野監督は数々の警察モノを手がけていらっしゃいますが、今回の捜査一課チームの5人の人間模様を見せていく上で、どのようなことを考えていたのでしょうか?

通常、日本の警察というのは上下関係が厳しかったりすると思うんですけど、ひとつのチームとして動いていると、縦の関係性も砕けていくはずなんですよね。なので、刑事──公僕ではあるんですけど、いわゆる一般的な社会人の職場のニュアンスも出したいなと考えまして。ボス=課長代理の本木(三浦友和)さんもスーツでカチッと決めて、〝捜査一課課長代理!〟というよりも、少し着崩した感じにしてもらったり、言葉でのやりとりにしても、端々に上下関係が見えつつ、フラットに近い雰囲気にできればと意識して、演じてもらいました。「上司がこう言っているので……」とか「上の指示だ」といったタテ社会にまみれたチームではなく、お互いが信頼し合い必要とし合う5人である、という描き方に舵を切ったといったところでしょうか。

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

これまで手がけられた「SP 警視庁警備部警護課第四係」や「BORDER」といったアクションの見せ場があるシリーズとは異なり、「コールドケース」は心情面をフィーチャーしているドラマだけに、じっくりと“間”を取ったという印象がありますが、その辺りについては……?

オリジナル版は英語ならではの速度感と耳障りの良さがあって、なおかつ心情面を見せていくつくりになっているんですけど、日本語で速度感のあるセリフ回しをするとなると、メリハリをつけないと聞き取りづらくなる可能性があるんですね。特に、捜査一課でのシーンは事件を説明するセリフが多いので、単に情報を伝達するだけではなく、スピード感がほしくなってくるんです。なので、流れるようなやりとりになるよう意識する一方、事件の核心に迫っていく捜査のシーンでは、各キャラクターの表情をしっかり押さえて、心情を浮き彫りにしようと。そういった部分は、通常の警察モノよりも意識していました。

画づくりという点では、色彩と質感も特徴的ですよね。

そこは撮影部が本当にがんばってくれまして。4KHDRで撮っているので、対応しているモニタで観ていただくと、2Dでありながら3Dのように見えるという…… 新たな映像の可能性が見えたのではないかと、手前味噌ですけれども感じました。

シーズン2は複数の監督体制で、新しい風を吹かせたい

物語の設定に話を戻しまして…… 舞台を都内ではなくて横浜にしたのは、どういった意図があったのでしょうか?

当初は東京で考えていたんですけど、オリジナル版もフィラデルフィアが舞台なので、日本版でもそういった位置関係の都市にした方がいいなと思って、横浜にしました。新しさと古さが混在していて、いわゆる格差の問題もリアリティーをもって描けるような気がしたんです。また、警視庁になると大組織で、大きな事件を扱っているという印象もあると思うので、より身近な警察組織という見せ方をしたくて、神奈川県警の所轄の話にしました。

都心に近いけれども郊外という絶妙な距離感と、移民の人たちが登場するという設定が、スムーズになじんでいたように感じました。

横須賀には軍港もありますし、海外との接点がある港街の側面と、山側の生活感みたいなものが神奈川という地は混在していて、そこもすごく「コールドケース」の世界観に合っているなと思ったんです。東京の所轄にするという選択肢もありましたけど、5人が神奈川県警のさまざまな所轄にいたというバックグラウンドでも、追々エピソードがつくれるなと(笑)。実際、第1話で永山絢斗くんの演じる高木が「相模署から来ました」と新しくチームに加わりますけど、あの設定がいい具合に新人感を増してくれたなと思っていて。新参者であることに加えて、ベテランの中に入れられる緊張感がいい具合に出せたんじゃないかなと思います。もっとも、演出側が狙わずとも役者さんたちがそういった雰囲気を出してくださったんですけれどもね。

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

まさしく名優が5人集ったという。

はい、こちらは何も心配することがなかったです(笑)。最初に各キャラクターの話をさせてもらった後は、役者のみなさんがそれぞれの役柄を大切にして広げたり、ふくらませてくださったので、僕はそれをちょっとお借りして、ストーリーに落とし込んでいっただけですので……非常にクオリティーの高い現場を過ごすことができました。

その安定感のある5人に対して、各回のゲストの方々が不安定な要素を持ち込むという図式も面白さを深めたのではないかと思いました。

まさしくおっしゃる通りで、しかも非常に豪華な顔ぶれのゲスト陣が、作品に華を添えてくださいました。シーズン2でもゲストのキャスティングに対する期待値が高いと聞いているので、そこも楽しみにしていただければと思っています。

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

はい、期待しております。シーズン2では捜査一課の5人の過去も描かれるかも……と先ほどおっしゃいましたが、逆に言うと、シーズン1で百合以外のキャラについて描かなかったのは、敢えて、ということでしょうか?

そうです。通常の連続ドラマですと、ローテーション的にメインキャストの誰かを主人公にしていくんですけど、「コールドケース」ではその手法は避けたかったんです。あくまで、過去の経験のもとに出てくるセリフというところで、各キャラクターのバックグラウンドを想像していただいた方が、広い見方ができるのではないかと思っていました。シーズン2でも、基本的に誰かをフィーチャーするという手法は採らないと考えていますが、もう少し「かつて、こういうことがあってね……」といった感じで、吐露とまではいかないですけど、捜査一課の中で少しずつ小出しにしていこうかなと(笑)。たとえば、ある犯人に対しては怒りが抑えきれない、といったような描写を足していければいいなと思っています。

いわゆる説明ゼリフを事件周りのみにとどめて、キャラクターに関してはストーリーの中で見せていくというのも印象的でした。

僕らもよく使いがちなんですけど、過去をずっと引きずっていて、それが垣間見えるという手法は、せっかくWOWOWさんという表現に対する懐の深いメディアでのドラマだということもあって、ちょっと控えようと思ったんです。そもそも、人は過去を乗り越えて現在を生きているわけですから、よっぽど芯を突かれない限りは過去をフラッシュバックさせないようにしようと。石川百合にしても、ふだん捜査一課の面々と一緒にいるときには平静を保って生きているというナチュラルな感じは出していきたいと思っていたので、そこを掬っていただくのはうれしいですね。 

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

役者のみなさんはもちろん、作り手のみなさんにとってもWOWOWの「連続ドラマW」という枠は挑戦しがいがあるのではないかと想像しますが、その辺りについてはいかがでしょう?

そうですね、さっき申し上げた4KHDRにしてもそうですけど、どんどん新しいことに挑戦できるドラマ枠であると、僕もとらえています。「コールドケース」というシリーズのリメイク自体は挑戦的ですし、メインの5人をはじめ、ゲストにいたるまでキャスティングも非常に意欲的だと思っていて。おかげさまでシーズン1の評判がよかったので、「シーズン2にはゲストで出してほしい」という役者さんの声が次々と伝わってくるようなシリーズに育っていけばいいな、と思っています。

最後になりますが、今作は波多野監督お1人で全10話を手がけています。それは大変だったのか、あるいはやりやすかったのか……率直に感じられたところをお聞かせください。

通常の連続ドラマはチーフの監督がいて、だいたい2~3人のディレクターでローテーションしていくという撮り方が主流ですが、自分が担当していない回で新たな設定が足されていたりすることもあるんですね。それが面白い方へ転がる場合の方が多いんですけど、作品のトーンやニュアンスが変わってしまう可能性もありますし、自分の担当回で整合性をとるのが大変だったりもするんですよ(笑)。でも、今回はシリーズを通して演出できたことで、立ち上げからニュアンスのズレを気にすることなく撮れた、という意味では気持ちよく仕事をさせていただきました。シーズン1で各キャラクターが定まったので、シーズン2では僕はチーフとして携わり、何人かの監督で回していくことで新しい風を吹き込めればと思っています。そういった意味でも、今後の「コールドケース」にご期待いただけますと、うれしいです。

連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

2003年から7シーズンに渡って、アメリカ・CBSで放送された人気ドラマシリーズ「コールドケース」を、世界で初めてWOWOWがリメイク。未解決の凶悪犯罪解決に挑む捜査チームの活躍と、事件にまつわる人間模様をつぶさに描いていく。

監督:波多野貴文(「SP」シリーズ、「連続ドラマW 翳りゆく夏」)
出演:吉田羊、永山絢斗、滝藤賢一、光石研/ 三浦友和


©WOWOW/Warner Bros. International Television Production

【第1話】1996年の冬、19歳の工藤順一(吉沢亮)が父親への遺書を遺し、自宅前で絶命した。自殺と他殺の可能性があったが、捜査は難航を極めて事件の資料は神奈川県警の倉庫に封じられる。その19年後の2015年春、神奈川県警捜査一課の石川百合刑事(吉田羊)は、外国人女性から「工藤順一の殺害現場を見た」という新証言を得る。再捜査の必要性を感じた百合は、捜査一課課長代理の本木秀俊(三浦友和)の指示を受け、立川大輔(滝藤賢一)、金子徹(光石研)、異動してきたばかりの高木信次郎(永山絢斗)とともに、当事者たちにあたっていく。


2017年9月6日(水)  ブルーレイ&DVD発売 DVDレンタル開始/デジタル配信開始

ブルーレイ コンプリート・ボックス(2枚組)
¥24,000+税
DVD コンプリート・ボックス(5枚組)
¥19,000+税

発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

待望の続編が制作決定!!
WOWOW「連続ドラマW コールドケース~真実の扉~ シーズン2」

2018年、WOWOWプライムにて放送予定
監督:波多野貴文
出演:吉田羊、永山絢斗、滝藤賢一、光石研/ 三浦友和

オフィシャルサイトhttp://www.wowow.co.jp/dramaw/coldcase/

フォトギャラリー

©WOWOW/Warner Bros. International Television Production