Interview

松本花奈×北澤ゆうほ(the peggies)この新世代が業界に風穴を開ける!「脱脱脱脱17」は ほとばしる若さを爆発させた出色の青春映画だ

松本花奈×北澤ゆうほ(the peggies)この新世代が業界に風穴を開ける!「脱脱脱脱17」は ほとばしる若さを爆発させた出色の青春映画だ

いわゆる”キラキラ”とは真逆の思春期。だが、こじらせたり、はみ出した者たちにだって、青春はある。
17年間も高校生を続ける34歳の男と、リアルな17歳の季節を謳歌できない女子高生が心を通わせるとき、止まっていた時間が動き出す! 各界で注目の俊英・松本花奈監督がthe peggiesのフロントマン北澤ゆうほと撮り上げた異色にして出色の青春ロードムービー「脱脱脱脱17」(ユーロスペースにて9月2日〜15日まで限定レイトショー上映中、順次公開)。
17歳という特別な一季を描いた一篇を、あらためて両者に語ってもらった。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 荻原大志

言語に対する感覚をはじめ、お互いの感性を信じていた

まずは、この一風変わった青春映画の着想にいたったプロセスから聞かせていただけるでしょうか?

松本花奈 「脱脱脱脱17」の前に撮った「真夏の夢」のときには映像にしか興味がなくて、音に関してはほとんど何も考えずにつくっていたんです。そのときの反省があって、次の作品では音にこだわりたいなと思っていたところへ「MOOSIC LAB」(※ブレイク中の映画監督や演者を多々輩出してきた映画×音楽の祭典)に出品してみないかというお話をいただいて、「絶対にやりたい!」と思ったのが出発点です。最初は「Boy Meets Girl」という題名で、普通の高校生男女が主人公のロードムービーだったんですけど、それだとありきたりというか、どこか既視感があるなと思って……「どうしよう、どうしよう」と、お風呂の中で思案していたら「17×2=34。あ、いいかも!」みたいにパーンとひらめいて、そこからストーリーを練っていったという感じです。

映画「脱脱脱脱17」より ©2016「脱脱脱脱17」製作委員会

お風呂に映画の神様が降りてきた、と(笑)。では、北澤さんを主演に選んだ決め手とは?

松本 プロットを持って、「MOOSIC LAB」を主催している直井(卓俊)さんのところへ「演技ができて、かわいい女性の歌手を知りませんか?」って相談に行ったら、the peggiesというバンドがいること、しかも、その日にライブがあることを教えていただいて、新代田のライブハウスに観に行ったんです。そこで私がひと目ぼれして、絶対一緒にやりたいなと思って、数日後にあらためて対面しました。その時点では相手のノブオ役は決まっていなかったんですけど、the peggiesの音楽を使って北澤さんと映画を撮りたいんです、と熱い想いを伝えたんです(笑)。

北澤さんは松本さんと初めて対面したとき、どう感じました?

北澤ゆうほ 遠目から見てもめっちゃかわいくて、ビックリしました。マネージャーさんに「ねえ、めっちゃかわいいんだけど!」って言ったくらい(笑)。
でも、話してみるとアーティスト気質なところがあるのと、やりたいことが明確だっていうことがすぐわかったので、「かわいい」という見た目よりも表現に対する思いの強さの方が印象に残っています。
「プールでのシーンがあるかもしれないから、スクール水着とか着てもらうかもしれません」って言われて(笑)。まだ全体像が見えていなくて、具体的に想像もできなかったので「大丈夫です」って言ったことはよく覚えてます。実を言うと、「大丈夫だろう……大丈夫であってほしい」という感じではあったんですけど(笑)。あ、あと(プロットの)紙を1枚もらって。その時点ではタイトルが「青春なんかに泣かされて」だったんですよ。「このタイトル、めっちゃいいですね」って話をして。結果的にタイトルが「脱脱脱脱17」になったので、「(タイトルを)the peggiesの曲に使っていい?」って花奈ちゃんに聞いて、主題歌になる曲をつくったんです。

「青春なんかに泣かされて」もすごくいいフレーズですけど、よりインパクトの強いタイトルにしたかったのでしょうか?

松本 「青春なんかに泣かされて」は、どちらかというとキャッチコピーとして使いたいなと思っていたんです。設定自体がキャッチーなので、題名も同じくらい印象的なフレーズにしたいなと思って変えたんですけど、「青春なんかに〜」も同じくらい好きだったので、主題歌のモチーフにしてもらえたのは、すごくうれしかったですね。

北澤 台本を読んでいても、セリフに使う言葉の選び方がすごくいいなと思って、スッと自分の中に入ってきたんですよ。自分なりにすぐ受け入れてイメージすることができたから、花奈ちゃんとは感覚が似ていたんだろうなと思います。

松本 劇中でリカコが出ていったお父さんに向けて歌う曲もつくってもらったんですけど、その歌詞もすごくいいんですよね。初めて聴いたとき、感動したことを覚えています。

北澤 大まかな設定を花奈ちゃんから教えてもらって、そこからつくっていったんですけど、作家としてのポイントは曲の冒頭の「聞こえてくるキッチンの音」という言葉は、無意識で使っているんです。でも、ちょっとした引っかかりができて、映画の後半でリカコが歌ったときに「!」ってなることを考えると、このフレーズを使ってよかったなと思いました。

松本 耳に残るし、心にも残るんですよね。

松本花奈

いろいろなことをこじらせている人たちの青春群像劇にピッタリと合っているなと思いました。松本さんは、やはりこういったストーリーの方が好きなんでしょうか?

松本 そうですね、うまく生きられない人を描いた映画の方が、観るのも撮るのも個人的には好きです。 

北澤 音楽を好きになったときから、曲を聴き込むバンドは集客に難がある……陽の目を浴びていない人たちばかりで、私自身もいろいろとこじらせていたから、すごく魅力的なストーリーに思えたんですよね。設定だけ聞くと、34歳の男子高校生ってコミカルに思えるし、現実的にはあり得ないんですけど、だからこそ生っぽい世界観に感じられて。キラキラした「ボーイ・ミーツ・ガール」的な要素だけの映画よりも、なぜか人間味があるというか……生っぽい感触で物語が進んでいくなと思いました。

北澤さんは、「脱脱脱脱17」が初めての演技だったんですよね?

北澤 小学校の劇の発表会以来です。目立ちたがり屋だから、そのころからキャラの濃い役をやっていましたけど、ガッツリ大事な役を演じたことはなかったので、ちゃんと演技をしたのは稽古や台本読みのときが初めてでした。

北澤ゆうほ(the peggies)

松本 この映画が初めての演技だということは聞いていたので、ドキドキするところも正直あったんですけど(笑)、ジャンルこそ違っても、ふだんからステージに立って歌っているだけあって表現することに長けているから、いわゆる人前でパフォーマンスをすることに対する恥ずかしさがないのかな、と思って。
そこがすごく素敵だなと感じながら、見ていました。

北澤 最初に台本の読み合わせをしたのが、新宿の「喫茶室ルノアール」だったんですけど……花奈ちゃんが「あ、ちゃんとできてる」ってビックリしてくれたから、そこでちょっと安心できたところがあって。
その後もいろいろとアドバイスをしてくれて、それを私なりに消化してやってみたら、「そうそう、そんな感じ」って言ってくれたので、やりとりはスムーズでしたね。そのころはまだthe peggiesでミュージックビデオをちゃんと撮ったことがなかったから、カメラにも慣れてないし、自分が喋っているときの表情を客観的に見るのも初めてだったんですけど、何て言うんだろう……「やるしか──ないなぁ」って思いながら、カメラの前に立っていました(笑)。
でも、「花奈ちゃんの感性についていこう」って信頼していたので、世界観に沿うようにリカコとして生きればいいんだと素直に思えたんです。なので、撮っているときは、モニターチェックとかしたら演技が中途半端になっちゃいそうだったので、「監督がOKなら大丈夫です」って言って、なるべくエゴを出さないようにしていました。

松本 今回上映されている108分バージョンではない、MOOSIC LAB版では後半にthe peggiesのライブ映像を使っているんですけど、前半のリカコとライブ中のゆうほちゃんがまったくの別人のように見えるんですよ。
それぐらい自意識を捨ててリカコになってくれたんだなと思って、編集をしながらあらためてうれしく感じたことを思い出しました。

あっちこっち迷って見つけた答えの集合体が、この映画だと思う

撮影していたとき松本監督は17歳、北澤さんは19歳だったんですよね。

北澤 そうです、「脱脱脱脱17」の撮影が10代最後の夏の思い出です。
でも、今思いだしても本当に楽しかったなって。自分の都合のいいことばかりをかいつまんで楽しかったって言っているんじゃなくて、めぐりめぐってすべてが楽しく感じられる経験になったな、と思っているんです。撮っている最中は「演技はもう……今回だけで大丈夫っす!」って正直思っていたんですけど(笑)、新しい自分を見つけるきっかけになったなということを思い出して、最近はまた機会があったら演技してみたいな、と少しですけど思い始めるようになりました。

松本 リカコという女の子がどちらかというとストレートじゃない性格だったので、次はめちゃめちゃカワイイ性格の女の子を演じている、ゆうほちゃんを見てみたいですね。

北澤 え〜っ、できるかなぁ!? でも、リカコと自分の性格が重なる部分があったというのも、演じる上では大きかった気がするんですよね。「あぁ、この気持ちわかる」って共感するところがたくさんあったし、だからこそリカコがかわいそうに思えたり、すごく感情移入ができたので、そこはすごくよかったなって思います。

松本 確かに、役に自分と通ずるところや共感するところがあると、スッと入りやすいんですよね。

監督としては「本人と違う人物を演じてもらいたい」といった気持ちもあったりしたのでしょうか? 

松本 たぶんどの監督さんもそうだと思うんですけど、自分の想像を超える演技を引き出せたらいいなと思って演出をしている部分は、やっぱりあります。特に、ゆうほちゃんとノブオ役の鈴木理学さんの2人のシーンは、いい感じに化学反応が起こって、私が想像していたものとは違った雰囲気が生まれたりしたので、すごく素敵だなと感じていました。

北澤 鈴木さんとは今でもめっちゃ仲良しなんですよ。撮影初日の後半にはもう仲良くなっていて、ずーっと2人で喋ったり遊んでいて(笑)。そういう雰囲気だったので、私も気持ちを芝居に素直に乗せることができたと思いますし、2人のシーンは楽しくできたから、そういう意味でも鈴木さんがノブオさん役でよかったなと思っています。

松本 出番を待つ時間が長いので、2人が初日から仲良くなってくれたことは、現場にとってもすごくいい作用をもたらしてくれたんです。

北澤 鈴木さんがすごく優しいので、私が何をしても怒らないんですよ。この間、鈴木さんから言われて初めて思い出したというか……まったく無意識でやっていたんですけど、待ち時間におにぎりを食べていたとき、包んであったビニールをポンッと渡して、それを鈴木さんがゴミ箱に捨ててくれるっていう(笑)。そんなふうに鈴木さんが優しいのをいいことに、調子に乗っていたんですけど、おかげさまで楽しく過ごさせてもらいました。

松本 待ち時間っていうと……あの〝事件〟を思い出しちゃうね(笑)。

え、〝事件〟があったんですか?

北澤 学校を使ってロケしたとき、周りのお家は普通に生活しているので、夜の9時には終わらせないといけなかったんですよ。で、リカコとノブオが夜のプールに忍び込んで大事なやりとりを交わすシーンを撮る日があって、鈴木さんは待ち時間からすごく集中していたんですね。私は役者じゃないので、良くも悪くもふつうに待っていたんですけど、さすがに夜7時になると「どうしたのかな?」と思って。8時を過ぎて「あれ、まだかなぁ。間に合うのかな? というか、何待ちなのかな?」みたいな感じで、わりとのんびり構えていて。で、8時半になって「あれ、ちょっとヤバくない?」って(笑)。鈴木さんはピリピリしていたんですけど、結局9時になっちゃったんですよ。

松本 大事なシーンということで、スタッフ側にもプレッシャーがあって。「照明はどうしようか」みたいにこだわったことで、結果的にバタバタしてしまって、時間がかかってしまったという……。

作品内で印象的なプールのシーン(映画「脱脱脱脱17」より) ©2016「脱脱脱脱17」製作委員会

北澤 で、その日は撮れなくなったということがわかって、「今日はできないんだって」って鈴木さんに言ったら、窓際の方へテクテク1人で歩いていって、涙を流しているんですよ。「大丈夫? 泣かないで〜。明日また頑張ろうよ。でも、何の待ち時間だったのかスタッフさんたちに聞いてみよう」って、鈴木さんの背中に向けて言ったんです。それでプールサイドに全員が集まったとき、10分くらい私から話をさせてもらって。そのときも鈴木さんはしゃがみこんでいたんですけど、突然立ち上がって「ていうかさ……」って切り出したから「あ、ヤバイ!」って思って落ち着かせようとしたら、また泣き始めてしまって。で、「いったい何待ちなのか、教えてよ〜!」って絶叫したんです(笑)。「鈴木さん、泣かないで〜」ってなぐさめていたら、今度は花奈ちゃんも泣き出しちゃって、収集がつかなくなりそうだったから、気持ちを切り替えて明日頑張ろうって言って。

松本 あの時はカオスだったなぁ(笑)。 

北澤 でも、あの時に言いたいことを言えた感じがあったから、次の日から「今、○○待ちです」って、スタッフさんたちが細かく伝えてくれるようになったんです。で、その大事なシーンも予定していた2日後に撮れたんですけど、いったん間を置いたことで雰囲気がつかめて、結果的には良かったんじゃないかなって、私は思っているんです。