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劇場を震わせた有賀と加々美のラストステージ『メサイア ―悠久乃刻―』公演レポート

劇場を震わせた有賀と加々美のラストステージ『メサイア ―悠久乃刻―』公演レポート

舞台『メサイア -悠久乃刻-』が8月31日(木)より天王洲 銀河劇場にて絶賛上演中だ。長らく本シリーズを支えてきた井澤勇貴演じる〈有賀涼〉と、杉江大志演じる〈加々美いつき〉がついに卒業を迎えるとあって、ボルテージは最高潮。脚本の毛利亘宏自ら「過去最大級」と胸を張る過酷なミッションが展開される。悠久の中で紡がれる魂の共鳴――銀河劇場を震わせた有賀と加々美のラストステージをここにレポートする。

有賀、加々美、そして間宮。あがき、苦しみ、救われた3つの魂

世界平和を名目に裁定された軍事協定“世界の改心(ワールド・リフォーミング)”。世界各国が大幅な軍縮と兵器の開発禁止に調印し、世界は平和になったかのように見えた。しかし、水面下では兵器の代わりにスパイによる情報戦争が激化。日本もこの情勢に対抗すべく、国家最高機密のスパイ組織を発足させる。それが、警察省警備局特別公安五係――通称“サクラ”だ。国籍も戸籍も抹消された代償に、特別殺人権を与えられた闇のスパイ集団・サクラ。舞台『メサイア』シリーズでは、サクラ育成のための特殊機関・チャーチを舞台に、サクラ候補生である孤独な男たちの戦いと友情を描いてきた。

そして今回、孤独なサクラが唯一心を許せる魂の片割れ・“メサイア”として試練を乗り越えてきた有賀と加々美のふたりが、いよいよ卒業ミッションのときを迎えた。これまでも多くの先輩たちがチャーチを卒業し、終わりなき戦いの世界へと身を投じていった。原作者・高殿円の言葉を借りるなら、それこそが『メサイア』シリーズの「様式美」。回を重ねるごとに壮烈さを増す卒業ミッションに、多くのファンが涙を流してきた。  

左から 加々美いつき(杉江大志)、有賀涼(井澤勇貴)、一嶋晴海(中原裕也)

そういった歴史を踏まえた上でも、今回の卒業ミッションはまた破格のものだったと言えるだろう。なぜなら、有賀と加々美の卒業を語る上では、どうしてももうひとりの人物の名を語らずにはいられないからだ。それが、有賀のかつてのメサイア・間宮星廉(染谷俊之)だ。
過去の歴史を紐解いてみると、チャーチ在籍中にメサイアと死別した候補生たちは何人かいた。それでも間宮を喪った有賀の傷は、他の何とも比較できるものではないだろう。有賀にとって間宮は、殺人マシーンだった自分を救ってくれた存在。メサイアとして組む以前よりずっと文字通りの救い人だった。しかし、有賀はそんな間宮に手をかけなくてはならなかった。残酷な運命を背負った男たちが次々登場する本シリーズの中でも、有賀に課せられた悲劇はひときわ重く苦しい。

左から 加々美いつき(杉江大志)、チェーカー(荒木健太郎)

加々美もまた、間宮の幻影を有賀の背後に見ながら、絆を温めてきた。この世にはいない人間への慕情に、現世で生きる者はかなわない。唯一の絶対正義であったおじから離れ、初めて大切なものを見つけた加々美だからこそ、そのもどかしさ、寂しさは表で見せるより深いものだったはずだ。

そんな複雑なメサイアの因果に、本作でようやく終止符が打たれた。そして、その決着のかたちは、実にメサイアらしいものだった。

サクラは、チャーチを卒業した後、決して会うことは許されない。それぞれが、それぞれの地で、孤独に任務を遂行する。ただ、この掟には例外がある。自らのメサイアが絶体絶命の窮地に陥ったとき。魂の片割れは唯一の救い人として目の前に現れることを許されている。つまり彼らは物理的限界を超越し、精神のみでつながり続ける唯一の存在なのだ。

有賀は、加々美と、未来を夢見た。未来を語ることは、誓いを交わすことは、生きている者同士でしかできないこと。男と男を、本物の友に変えるのは、固い約束だけだ。有賀は、加々美と、未来を誓った。それこそが、加々美こそが有賀のメサイアであるという何よりの証。そして、その未来が、かつて間宮が夢見た未来であるということに、3人の宿命が凝縮されている。

本作は、3人の救済と再生を描いた壮大な魂のドラマだ。たとえもう会うことはなくとも、たとえ記憶を失っても、魂が覚えている。魂が、同じ未来を信じている。だから恐れるものは何もない。むしろ本当の意味で揺らぐことなく加々美にベクトルを向け続けていたのは、有賀の方だったのかもしれない。間宮に救われた有賀は、間宮から託された未来を、今度は加々美と夢見た。その有賀の想いに応え、加々美が真の救い人として目覚める過程を、本作はこれ以上ない熾烈さで描き切った。

かつて間宮を自らの銃で射殺した有賀。今まで何千人という人間を撃ち抜いてきたはずなのに、そのたった一発の銃声が有賀には一生解けない呪いとして強く刻印されていた。本作で、有賀は再び凄絶な決断に迫られる。そのとき、加々美がとった行動とは。まるで教会の懺悔室のような、美しくも哀しいシーンに、観客は“魂の片割れ”とはどういうことなのかを知ることとなるだろう。

有賀演ずる井澤勇貴は、加々美役の杉江大志のことを「背中を預け合える大切な仲間」と表現したことがある。このフレーズに、メサイアの絆が集約されている。裏社会を暗闘するサクラにとって、背中を見せることは死を意味する。その背中を唯一預けられるのが、メサイアなのだ。歴代シリーズの中でもメサイアが背中を預け合う構図は印象的に使われてきた。どうか、どんな苦境に置かれても背中を預け合い立ち向かう有賀と加々美の姿を瞼に強く焼きつけてほしい。きっと、それはとても温かい至福の光景のはずだ。

キャスト・スタッフが総力を結集した、渾身の人間ドラマ

また、そんな苛烈なストーリーを劇的に演出したアクションの数々も、ここでしっかりと称えておきたい。殺陣指導を担当したのは、六本木康弘。注意深くスタッフワークを観察していると、実に多くの舞台で彼の名前を発見することができる。近年の舞台人気における陰の立役者のひとりと言っていいだろう。

本作はガンアクションをベースに、肉弾戦がふんだんに盛り込まれ、シリアスな物語に演劇的な躍動感を生み出している。殴る蹴るといった原始的な動作を実にバリエーション豊かに表現し、時にはっと目の覚めるような意外性のあるアクションを加えることで、舞台にアクセントをもたらしていた。中でも井澤勇貴の回し蹴りは、持ち前の脚の長さに俊敏性も相まって実に鮮やか。俳優やアクションチームの活躍はもちろんのこと、六本木康弘の確かな手腕に、この場を借りて敬意を表したい。

さらに、コメディパートを一手に担った黒子役の小谷嘉一のキレのあるツッコミや、これからの本シリーズを受け継ぐ三代目サクラ候補生たちの存在にも期待が募った。何かと衝突しがちな御池万夜(長江崚行)&柚木小太郎(山沖勇輝)コンビは、歴代の先輩たちに連なる王道の系譜。しかも御池は何やら闇を抱えたキャラクターのようで、これからふたりがどんな名コンビへと成長していくのか、また新たな楽しみが増えた想いだ。

左から 御池万夜(長江崚行)、柚木小太郎(山沖勇輝)

さらに、小暮洵(橋本真一)と、今回から新登場の雛森千寿(山本一慶)コンビは、一癖も二癖もあるキャラクターで実に興味深い。一嶋係長(中嶋裕也)と浅からぬ因縁を持ったふたりが、チャーチにどのような事件をもたらしていくのか、次なる展開が待たれるところだ。

左から 有賀涼(井澤勇貴)、小暮洵(橋本真一)

雛森千寿(山本一慶)

舞台『メサイア -悠久乃刻-』は、9月10日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演。その後、大阪へと移り、9月22日(金)から24日(日)までサンケイホールブリーゼにて上演される。傷つき、苦悩し、迷い、叫び、それでもただひとりメサイアだけを信じて戦い続ける男たちの生き様を、あなたの人生の1ページにしかと刻みつけてほしい。

取材・文 / 横川良明 撮影 / 竹下力

『メサイア ―悠久乃刻―』

【東京公演】8月31日(木)~9月10日(日)
天王洲 銀河劇場
【大阪公演】9月22日(金)~9月24日(日)
サンケイホールブリーゼ
http://messiah-project.com/yukyu/

【出演】
井澤勇貴、杉江大志、長江崚行、山沖勇輝、橋本真一、山本一慶、大塚公祐、小谷嘉一、山田ジェームス武、宮城紘大、荒木健太朗、西野龍太、豊嶋杏輔、村田充、中原裕也 ほか

【スタッフ】
原作・ストーリー構成:高殿円「MESSIAH – 警備局特別公安五係」(講談社文庫)
脚本:毛利亘宏(少年社中)
演出:西森英行(Innocent Sphere)
殺陣指導:六本木康弘

©MESSIAH PROJECT
©2017舞台メサイア悠久乃刻製作委員会


原作本 「MESSIAH – 警備局特別公安五係」

「MESSIAH – 警備局特別公安五係」

著者:高殿円
講談社文庫

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