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いまさら聞けない現代ゾンビ映画の歴史

いまさら聞けない現代ゾンビ映画の歴史

2002年の『バイオハザード』の大ヒット以降、いまなお続く新世紀ゾンビブーム。日本でも大泉洋主演の『アイアムアヒーロー』や内田理央主演の『血まみれスケバンチェーンソー』といった作品の公開を控え、さらなる盛り上がりが期待されている。

こうしたゾンビ映画のブームはなぜ起こったのか?

『ゾンビ映画大事典』『ゾンビ映画大マガジン』を手がけた日本随一のゾンビ映画サポーター伊東美和さんに、世界初のゾンビ映画誕生から近年の大ブームまで、その歴史について語ってもらった。

南の島からやって来た!

80年前のアメリカで巻き起こったゾンビブーム!!

元々ゾンビはハイチの伝承で、ヴードゥー教の呪術師によってよみがえらされた死者たちを指すんです。彼らはモンスターではあるんですけれど、魂を奪われて農場や工場で働かされている。だから積極的に人を襲う化け物というよりは、死後も働かされる可哀想な奴隷というイメージなんですね。

それが1915年にアメリカがハイチを占領し、ハイチの文化がアメリカに紹介されていくうち、不思議なモンスター“ゾンビ”も注目を集め始めます。1920年代後半には、ゾンビのお芝居が作られたり雑誌で特集が組まれたり、アメリカでちょっとしたゾンビブームが起こるんです。

ゾンビブームは思った以上に昔からあったんですね。

当時は吸血鬼やフランケンシュタインを題材にしたユニバーサルのホラー映画が大ヒットしていましたから、独立系のプロデューサーのハルペリン兄弟が、流行りものに飛びつく形でゾンビを扱った映画を作りました。これが世界初のゾンビ映画と言われている『ホワイト・ゾンビ/恐怖城』(1932年)です。

この『ホワイト・ゾンビ/恐怖城』は、作家のウィリアム・シーブルックがハイチを訪れた時のことを書いた本『Magic Island』を原作としていて死者が砂糖工場で働かされてたりする、ヴードゥー教のゾンビ伝説に忠実な作品です。昔の、特にブードゥ教のゾンビは労働者の象徴という面もあったんです。

悪役の呪術師に『魔人ドラキュラ』(1931年)で大人気だったベラ・ルゴシを起用したり、ユニバーサルのセットをそのまま流用したりして、低予算とは思えない豪華な画面作りがされていたこともあって大当たりしました。同作は、世界初のゾンビ映画であると同時に、世界で初めて成功したインディペンデント映画とも言われています。それを見て、他の映画会社もゾンビ映画を製作するようになっていきます。

ハルペリン兄弟もカンボジアを舞台に、現地の呪術で無敵の兵士を生み出す『ゾンビの反乱』(1936年)を作ったり、段々ブードゥー教の本来のゾンビ伝承とは違った作品も増えていきました。

現代ゾンビ映画の礎となった低予算映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』!

1950年代に入ってSF映画の人気が高まると、宇宙人が死体を操る『プラン9・フロム・アウタースペース』(1956年)など、SF的なアイデアを取り入れた作品が作られるようになります。その中でもリチャード・マシスンの小説を映画化した『地球最後の男』(1964年)は、後のゾンビ映画に決定的な影響を与えました。

この作品に出てくるモンスターは吸血鬼なんですけど知能が低くて、動きがにぶくて、いまみんながイメージするゾンビそのままなんですね。後に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(以下、NOTLD)』(1968年)や『ゾンビ』(1978年)を撮るジョージ・A・ロメロ監督も、この作品からの影響を認めています。

NIGHT OF THE LIVING DEAD ジョージ・A・ロメロ

NIGHT OF THE LIVING DEAD

ロメロ監督の『NOTLD』は、現在のゾンビブームの原点と言われている作品ですが、それまでのゾンビ映画と何が違ったのでしょうか?

ロメロ監督がゾンビという名称は使い始めるのは、シリーズ2作目の『ゾンビ』からで、『NOTLD』ではグール(食人鬼)と呼んでいるんですけれど、このモンスターが現在のゾンビの原型となっているのは確かですね。

ロメロ監督は、この作品で人肉を食べ、噛まれた人はゾンビになり、脳を破壊されるまで動き続けるという従来のヴードゥ教のゾンビにはなかった新たなゾンビ像を提示しました。多くのフォロワーが生まれたのには、色んな理由があるんでしょうけれど、モダン・ゾンビのルールともいえる特徴を確立したのは大きいと思います。

公開当時『NOTLD』はどのように評価されたのでしょうか?

過激なバイオレンス描写があったので、内容の評価自体は賛否がわかれましたけど、無名の監督が作ったインディペンデンス映画の興行としては大成功だったみたいですね。ロメロ監督が観客の反応を見に、ドライブイン・シアターに行ったら、入れないであきらめて帰る車が山ほどいたという話ですし、映画雑誌「バラエティ」のその年のボックスオフィスランキングにも上位に残っていますから。

ロメロ監督が言っているだけだから、どこまでホントかわからないんですけど、当時スペインとフランスではロングランで上映されていたそうで、ヨーロッパでもゾンビ映画が作られ始めるんです。

スペインとイタリアの合作の『悪魔の墓場』(1974年)や、フランスだとジャン・ローラン監督の『殺戮謝肉祭』とか。ただヨーロッパでは、まだ一般にゾンビという存在が浸透していなくて、アクションやエロティックホラーを撮っていた監督たちが、『NOTLD』を観て見よう見まねで作っているから、いろいろ面白いですよ。たとえば『悪魔の墓場』ではゾンビが鏡に映らなかったり、火をつけたらすぐ燃えたり、明らかに吸血鬼と混同している。

DAWN OF THE DEAD © 1978 THE MKR GROUP INC. ALL RIGHTS RESERVED.

DAWN OF THE DEAD ©1978 THE MKR GROUP INC. ALL RIGHTS RESERVED.

そこからまたゾンビ映画のブームが起こったんですか?

いえいえ。それらの作品も大ヒットしたわけではなく、売れたのは『悪魔の墓場』ぐらいかな。ゾンビというモンスターが現在の形で確立したのは『NOTLD』ですけれど、それが世界的に認識されたのは『ゾンビ』以降ですね。

イタリアのスプラッタ映画の帝王、ダリオ・アルジェントが製作に関わった本作は、『NOTLD』の舞台が一軒家だったのに比べて、被害はアメリカ全土におよび立てこもる場所もショッピングモールとスケールアップ。アクションを前面に打ち出して、カラーになったことでバイオレンス描写もさらに過激になりました。

内蔵の描写なんか、いま観てもセンセーショナルですし。1970年代は、世界的なオカルトホラー映画ブームで『エクソシスト』『オーメン』といったヒット作の流れにのって映画の『ゾンビ』も、モンスターとしてのゾンビもようやく受け入れられたんです。

80年代のゾンビ映画ブームは、節操のないイタリア映画人のおかげだった!

世界的には認められたゾンビ映画ですが、日本では当時どういった状況だったのでしょう?

日本で『ゾンビ』は、だいたいアメリカと同時期に公開されて話題にはなったんですけど、この時点ではあくまでゲテモノ映画という認識で、積極的に評価していたのは映画評論家の二階堂卓也さんくらいじゃないのかな。

まずゾンビというモンスターの知識が、それまではほとんどなかった。『ゾンビ』以前に、日本で公開されたゾンビ映画は『吸血ゾンビ』(1966年)と『悪魔の墓場』くらいで、たぶん日本では一部のホラーマニアを除けばゾンビを知らなかったと思いますよ。『吸血ゾンビ』は『NOTLD』以前に作られたブードゥゾンビ映画ですし。日本でゾンビ映画が盛り上がるのは、1980年代前半のビデオ市場からなんです。

『ゾンビ』の制作時、アルジェントが出資するというので、ヨーロッパで『ゾンビ』のヒットを当て込んだ便乗映画が作られ始めたんです。ルチオ・フルチ監督の『サンゲリア』(1979年)を筆頭に、以降西部劇が流行ればマカロニウェスタンを、「007」シリーズが流行ればスパイものを節操なく流行りもの撮っていたイタリアとかフランスの映画スタッフが、次々とゾンビ映画を撮り始めた。

日本で劇場公開した作品はあまりないんですけど、当時はビデオデッキが家庭に普及して、ビデオメーカー各社が映画の権利を買いあさる、いわゆるビデオバブルが起きていたんですね。そこでホラーが人気ジャンルだったことあって、イタリアやフランスのよくわからないゾンビ映画が、どんどんビデオになっていった。ちょうど特殊メイクの技術が発達した時期でもあったので、人体破壊の描写や特撮シーンをビデオのコマ送りで観て楽しんだり。サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1982年)はアメリカ映画ですけど、こうしたスプラッタ映画のブームの鏑矢とも言われています。

ただ世界的なホラー、スプラッターブームは1980年代の半ばで急速に治まっていくんです。理由は、粗製濫造された作品も多かったので、さすがに観客がみんな飽きてきたんだと思います。たぶんピークは1985年くらいで、『NOTLD』から始まるロメオ監督の初期三部作の完結編である『死霊のえじき』と、ロメロは関係していないとはいえ『NOTLD』の続編である『バタリアン』が同時期に公開されたのは象徴的ですね。

サンゲリア©1979Euro Immobilfin Srl and Gianfranco COUYOUMDJIAN, Rome, Italy. Licensed by Variety Communications Srl - Rome, Italy. All Rights reserved.

サンゲリア©1979Euro Immobilfin Srl and Gianfranco COUYOUMDJIAN, Rome, Italy. Licensed by Variety Communications Srl – Rome, Italy. All Rights reserved.

『ゾンビ』公開が1978年で、85年には収束とは意外に80年代のゾンビブームは短かったんですね。

ブームというのはそういうもんだと思いますけどね。これ以降、ホラー映画では『羊たちの沈黙』(1990年)に代表されるようなサイコキラーもの、特殊メイクやスプラッタを前面に押し出すのではなく、もう少し現実的な恐怖を感じさせる作品が台頭してきます。

その間ゾンビ映画は、ピーター・ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992年)や『デモンズ’95』といった、いまでも傑作と呼ばれる作品もあるんですけれど製作本数自体がぐっと減って冬の時代に突入するんですね。

時代はゾンビ・アポカリプス? 21世紀に爆発的に増加したゾンビ映画

それでは現在進行中のゾンビとゾンビ映画のブームのきっかけとなったのは何なのでしょう?

それは映画でなく、「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」シリーズや「バイオハザード」シリーズといったゲームの影響が大きいと思いますよ。1980年代のゾンビ映画ブームを経験した世代が、クリエイターになって自分の作品に登場させ始めた。

あと80年代から90年代にかけてゾンビは、いまほどキャラクターとして愛されていなかったと思うんですよ。いままでは映画という作品の中にいたのが、ゲームによって物語から切り離されて、キャラクターとして成立し始めたというのもあるかもしれません。

映画の分野でも「バイオハザード」(2002年~)シリーズや、『28日後…』(2003年)『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)など、ゾンビ映画世代の作品が次々と出て来たのは、上手いことそういう周期が回って来たんでしょう。

先ほど80年代の頃は5年ほどだったのに対して、今回の21世紀に入ってからのゾンビブームは、15年近く続いていますが、そのことについてはどう思いますか?

作る側としては、先ほど挙げた世代の台頭と、ゾンビ映画は吸血鬼やフランケンシュタインといった他のモンスター映画と違って、スーツを作らなくていいから低予算でできるという点もはあると思いますけどね。でも需要がなければ作られないわけで……何なんでしょうね。

ただ2000年以降のゾンビ映画に顕著なのは、ゾンビの大量発生による人類の終焉、いわゆるゾンビ・アポカリプスをテーマにした作品が非常に多いんですよ。もしかしたらテロや暴動だったり、HIVやデボラといった感染症が流行ったりする現代では、生きる屍がさまようゾンビ映画の世界に、よりリアリティを感じるようになったのかもしれません。

それでは最後にゾンビ映画の今後についてお願いします。

以前『ゾンビ映画大事典』という本のために『ホワイト・ゾンビ/恐怖城』から『バイオハザード』の一作目まで、1932年から2002年までのゾンビ映画について調べた時、だいたい360本くらいだったんですよ。それが次の2002年から2010年までの『ゾンビ映画大マガジン』の時は300本強。それ以降もかなりのペースで作られてますから、おそらくここ15年で、前世紀70年分以上の数のゾンビ映画が生まれたことになるんですね。

これだけ作られると、さすがにもうブームは、一段落はつくだろうと思っているんです。ただなくなることはなくて『ウォーム・ボディーズ』のような恋愛ものとか、少し捻ったネタのゾンビ映画が増えるんじゃないでしょうか。

『ゾンビ映画大事典』

『ゾンビ映画大事典』

伊東美和:編著
洋泉社刊
定価:本体3,800円+税

跳ねる血しぶき! 飛び散る肉片! 地獄の底から這い出した、その数360本。全部見た! 世界最強のゾンビ映画大全集。クラシック・ゾンビからイタリア血しぶきゾンビ傑作集まで、この一冊でゾンビ映画のすべてがわかる!(本書帯より)


『別冊映画秘宝 ゾンビ映画大マガジン(洋泉社MOOK)』

『別冊映画秘宝 ゾンビ映画大マガジン(洋泉社MOOK)』

伊東美和:編
洋泉社刊
定価:本体1,500円+税

21世紀に作られた全ゾンビ作品、超大作から制作費6000円の映画まで300本を全レビュー! 新世紀、ゾンビ映画はどのように進化したのか?(本書帯より)

伊東美和(いとう よしかず)

1970年生まれ。特殊書店タコシェ店長兼ゾンビ映画サポーター。編著に『ゾンビ映画大事典』『ゾンビ映画大マガジン』『ポール・ナッシー ヨーロッパ悪趣味映画の王者』(すべて洋泉社刊)がある。

ZOMBIE手帖ブログ http://blog.livedoor.jp/zombie_tecyo/

関連作品紹介

DAWN OF THE DEAD ©1978 THE MKR GROUP INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』

スタッフ
監督・原案・撮影 ジョージ・A・ロメロ
脚本 ジョン・A・ルッソ

キャスト
ジュディス・オディア
ラッセル・ストライナー
デュアン・ジョーンズ
発売元・販売元:(株)ハピネット

墓参りを終えたジョニーとバーバラの兄弟は、謎の男に襲われて、近くの家に逃げ込んだ。そこに現れた青年によれば、死者がよみがえりグールと化して、人間を襲っているのだという……。
ジョージ・A・ロメオ監督の劇場用映画デビュー作にして、モダン・ゾンビの源泉となった金字塔的作品。本作のフィルムはニューヨーク近代美術館に保存されている。


ZOMBI_cap001

『ゾンビ』 

『ゾンビ』

スタッフ
監督・脚本 ジョージ・A・ロメロ

キャスト
ケン・フォーリー
スコット・H・ライニガー
ゲイラン・ロス

『ゾンビ』製作35周年記念究極版ブルーレイBOX 13,500円(税抜)
発売元:『ゾンビ』BD発売委員会 販売元:(株)ハピネット

突如、死者がよみがえり、人間を襲い始めた。テレビ局員のスティーブンとその恋人のフランシーン、SWAT隊員のロジャーとピーターは、生きる屍=ゾンビであふれる街から脱出し、巨大なショッピングセンターに立てこもるが……。
前作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から十年、世界にモダン・ゾンビ像を定着させたゾンビ映画の最高傑作。数多くの亜流作品を生んだが、本作自体にもアメリカ劇場公開版、ダリオ・アルジェント監修版など、様々なバージョンが存在する。また2004年に製作された『ドーン・オブ・ザ・デッド』は本作のリメイク作品である。


SANGERIA_cap_002

『サンゲリア』 

『サンゲリア』

スタッフ
監督 ルチオ・フルチ
脚本 エリザ・ブルガンティ
ダルダーノ・サケッティ

キャスト
イアン・マッカロック
ティサ・ファロー
リチャード・ジョンソン

ホラー・マニアックシリーズ第7期第3弾
サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版 5,700円(税抜)
発売元:ニューライン 
販売元:(株)ハピネット

新聞記者のピーターは、ニューヨークで起きた怪事件の調査のため、南海のマツール島を訪れる。だがその島では恐るべき奇病が発生していた……。
イタリアン・ホラーの巨匠ルチオ・フルチ監督が手がけたイタリアン・ゾンビ映画の傑作。プロットは『NOTLD』『ゾンビ』以前のブードゥー・ゾンビの路線を色濃く受け継ぎながら、バイオレンス描写やメイクは現代的にアレンジされ、視覚的にも楽しませる。