映画『散歩する侵略者』  vol. 3

Interview

不敵にしてどこか不気味な存在感。 「散歩する侵略者」で切り開かれた、高杉真宙の新境地。

不敵にしてどこか不気味な存在感。 「散歩する侵略者」で切り開かれた、高杉真宙の新境地。

カンヌ映画祭をはじめ、海外での評価も高い黒沢清監督の新作は、戯曲の映画化。前川知大率いる劇団「イキウメ」の人気舞台作品「散歩する侵略者」を、〝誰も見たことがない〟唯一無二のエンターテインメントに昇華させて世に放つ。
その侵略者の1人・天野に配された高杉真宙も、今までとは異なる表情やたたずまいで、存在感を発揮している。
新たな地平へ踏み出したと言える彼の心境を、撮影でのエピソードとともに浮き彫りにする。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 森崎純子

〝違和感〟をところどころに置くことで侵略者を表現した

外見は人間ながらも、地球外からの〝侵略者〟が醸し出す得体の知れなさを表現することに苦心したのかな、と思いました。

人と侵略者の明確な境目というのがなかったので、最初に台本をいただいて読んだ時、そこをどうしようかと自分なりに考えました。3人出てくる侵略者の中でも、僕の演じた天野は登場した時点から両親から多くの概念を奪っていたので、比較的、人間に近い感じがあって。
だから、服装もちゃんと着こなしているんですよね。(恒松祐里演じる)立花あきらは、「服を着る」という概念が不完全なので、サイズがブカブカのシャツを着ていたりするし、(松田龍平演じる)加瀬真治は映画の冒頭で雑誌を上下さかさまに持って読んでいたりして、それぞれヘンな部分があったのに対して、天野はわかりやすく変わっている部分が際立っていなかったので、どんなふうにアプローチするか黒沢清監督とお話をしながら、探っていきました。

黒沢清監督からは、どういった演出がなされたのでしょうか?

黒澤監督からは、動きに関する指示を多くしていただきました。セリフを言いながら動いていたかと思うと、急に立ち止まって振り向いてじっと見ている、という仕草をするよう、最初に撮ったシーンで言われたんですが、それをきっかけに天野が感じさせる〝違和感〟というものを、ところどころで置くように残していけば、「もしかすると天野は本当に侵略者なのかもしれない」という印象が深まっていくんじゃないか、と自分なりに考えて、演技を組み立てていきました。この、どことなく感じる〝違和感〟というものが大事だったように思います。

おそらく、すごく細かい動きや仕草に〝違和感〟を滲ませたのだろうと思いますが、具体的にはどういった……?

そうですね……ヘラヘラしていたり、歩き方にしても猫背っぽくした方が変な感じがするかなと思って、僕としては最初から最後まで、そういった仕草をするように意識していました。

なるほど。話は前後しますが、黒沢清監督の作品に出演することが決まった時、どのような思いが胸をよぎりましたか?

語れるほど監督の作品を観ているわけではない僕が言うのもなんですけど、「自分も黒沢清監督の映画に出していただけるんだ!」という喜びと緊張を同時に感じました。周りのキャストの方々の顔ぶれもすごかったですし、衣装合わせの段階から……今こうして取材を受けていることもそうですけど、何かしらのかたちで「散歩する侵略者」にかかわっている瞬間は、どこか緊張してしまうんです(笑)。

そうなんですね! 緊張しているようには見えませんが……(笑)。

それが結構、緊張していまして。黒沢組の1人として変なことは言えない、というプレッシャーを自分で勝手に感じているだけなのかもしれないんですけど……。でも、それ以上に、20歳という節目の年に黒沢監督の作品に参加させていただけて幸せだな、という思いを抱いています。観させていただいた作品の中でも「カリスマ」(’99年)や「回路」(’00年)、「岸辺の旅」(’15年)や「クリーピー 偽りの殺人」(’16年)といった作品の印象が強烈に残っているんですけど、一本の軸となる物語があって、その周りを何かがうごめいているというイメージがあって。でも、今回の「散歩する侵略者」は、そういった黒沢作品のベースを踏まえつつ、エンターテインメント性の強さを感じました。SFにアクション、ラブストーリーもあって笑いも散りばめられている、いろいろな要素のある作品だなぁ、と。

確かに。では、黒沢作品を観ている側から、つくる側にまわったことで気づいたことはありますか?

印象的だったのは、走っている車の中で会話を交わすシーンの撮り方ですね。実はすごく伝統的な撮り方をしていて、車外の変わっていく映像をスタジオの壁に映しつつ、車を動かして移動しているように見せているんです。まさか車が走っているシーンをスタジオで撮るとは思っていなかったんですけど、黒沢監督の作品では普通だそうで……。でも、車内にいると本当に進んでいるような感じがしたので──錯覚なんでしょうけど、その不思議な感覚を味わえて、面白かったです。

©2017『散歩する侵略者』製作委員会

その車内でも一緒でしたが、桜井役の長谷川博己さんと共演されてみて、どんなことを感じましたか?

さっきもお話しましたが、とにかく現場では緊張していたんですけど、長谷川さんとご一緒させていただいたシーンでは、不思議とリラックスできたんです。落ち着いて芝居ができる雰囲気があって。それがなぜなのかは僕にはわからなかったんですけど、安心感を感じたんですよね。特に何か言葉を交わしたわけではなかったので、やはりそういう空気感をお持ちだったのではないかと思っています。

一方、あきら役の恒松祐里さんとのお芝居はいかがでした?

恒松さん自身がちょっと不思議な人というか……あ、こんなことを言うと本人に怒られちゃうかもしれないんですけど(笑)、素敵なんですけど面白い人なんですよ。ただ、芝居となると一変して、途端に鋭くなるんです。
自分よりも年齢は少し下ですけど、純粋に尊敬している役者さんの1人です。
今回はアクションも恒松さんがほとんど自分でやっていて、動きのキレのよさにも驚かされました。

そして、一緒のシーンは少ないですけど、加瀬夫婦を演じた長澤まさみさんと松田龍平さんについても、お聞かせください。

同じ作品でもパートが違うと、こんなにも会わないんだなと実感していたので、ご一緒した時に「やっとお会いすることができた」と思ったことを覚えています。撮影に入る前、舞台版の「散歩する侵略者」をDVDで観させていただいて、同時多発的に起こっている出来事がやがて一つになっていく構成に「オォッ!」となったんですけど、今回の映画版でも桜井・天野・あきらと加瀬夫婦が顔を会わせた瞬間、2つの話が一つになるのを実感できたので、僕の中では静かな感動がありました。

舞台版をご覧になったのは芝居の参考とするために、ですか?

いえ、そこまで意識したわけではないんですけど、単純に「舞台版の天野はどんなキャラクターなんだろう?」といった、素朴な感情からですね。
でも、すごく面白くて、気づいたら一つの物語として見入っていました(笑)。今まで観てきた舞台とも違っていたので、圧倒されたと言いますか……。ただ、舞台版の天野に寄せていくのは、何か違うような気がして、僕なりに天野というキャラを演じていこうと思えるきっかけにはなったかもしれないです。

身の丈に合っていないと思えた現場に参加できて、うれしい

上からものを言うわけではないんですが、今回の天野役で新境地を開いた、という感触を得られたのではないでしょうか?

いえ……自分としてはまだ、そんなふうにはとても思えなくて。確かに「散歩する侵略者」の取材を受けていて、そのようにおっしゃってくださる方がたくさんいらっしゃるので、うれしいんですけど、僕自身は迷ったり探ったりしながら演じていたので、全然……。
侵略者という役どころはすごく幅広く解釈できるので、演じ方にしても何十通りもあると思うんですね。もちろん、各キャラクターの性格や違いによって、表現の仕方は絞られていくとは思うんですけど、演じる人間によって当然アプローチも変わることを考えると、もしも僕以外の役者さんが天野を演じていたら、また違う印象になったんじゃないかなって。逆に言うと、「これで正解なのかな?」と不安と迷いを抱きつつも自分なりに貫いた天野像が、公開されてどのように受け取られるのか、怖くもあり楽しみでもあります。

侵略者3人それぞれに存在感がありますけど、高杉さんだからこその天野であったことは紛れもないと思います。

ありがとうございます、緊張したぶん集中した作品だったので、そう言っていただけるとうれしいです。ただ、緊張はしましたけど、すごく楽しく現場にいられましたし……さっきもお話したように、20歳というタイミングでこの作品とめぐりあえた縁に、すごく感謝もしているんです。
常に新しい作品の現場に入るたび、「必ず何かを吸収するんだ」と意気込むんですけど、「散歩する侵略者」の現場は、そんなふうに力まなくても必然的に刺激を受けて、自然と吸収していける環境だったんですよね。これは変な意味で言うのではなくて、自分の実力やスキル、身の丈に合っていないんじゃないかと思える現場に参加できることって、すごくうれしいことであって。「もっとがんばらないと」と自分を発奮させるエンジンになりますし……今の表現がふさわしいのかはわからないですけど、そういう心がけで作品に臨んでいるので、得るものは大きかったと思います。

黒沢清監督と豪華なキャスト陣に囲まれたことで、エンジンにブーストがかかったのではないか、と想像もしますが……。

そうですね……いつも以上に緊張させてもらえる環境だったので、集中できる楽しさというものを無意識に味わえたところはあるのかもしれないです。

長谷川さん演じる桜井と対峙している時の不敵な感じに、とりわけインパクトを感じました。

桜井さんと天野の距離感が、僕も好きでした。心地いいんですよね。何の絆なのかわからないんですけど、なぜか信頼し合い、尊敬し合っている部分があるのが面白いなと、演じながら感じていました。2人のやりとりのチグハグな感じだったり……結構笑える要素もあって(笑)。それに、天野自身も仕事として侵略をやっているというか、ルールがしっかりある中で動いているのが面白かったですね。悪気があるわけでもないですし、「ガイド=桜井には手を出さない」というルールにはちゃんと従っていて、そういうところが僕は好きでした。意外とマジメというか。

その点、あきらの方が本能的に動いている感じがありましたよね。

だから、人の命を簡単に奪ってしまうんでしょうね。僕ら、というか〝桜井さんパート〟の殺伐とした雰囲気と、「愛って何だ?」というテーマで進んでいく加瀬さん夫婦のパートがどんなふうにつながっていくのか、僕としては楽しみでした。

©2017『散歩する侵略者』製作委員会

その2つのパートがさまざまな要素をはらみながら並行して進んでいく、ロードムービーでもあるんですよね。

点と点がどんなふうに結ばれていくんだろうという期待感と、線になった時の爽快さに、僕もテンションが上がりました。

この深みのある映画は、高杉さん自身にとっても後々振り返った時、ターニングポイントになり得るのではないかと思われますが……。

そうであってほしいですし……そうなるだろうと思います。現場の雰囲気そのものが大人の映画な感じがして、「僕なんかがここにいていいのかな」と思ったりもしましたが、今となっては二度と味わえるかどうかわからない、すごく貴重な経験をさせてもらったんだなと思っていて。

選ぶのが酷かもしれませんが、特に印象的なシーンを挙げるならば?

桜井さんがショッピングモールで演説をするシーンが僕は好きです。この作品には、現代社会に対する皮肉が散りばめられていて、その一つに桜井さんの演説シーンも挙げられると思うんですけど、もし僕があの場に居合わせたとしたら、きっと傍観者側として粛々と侵略されていくんだろうなと、どことなく淋しくなったというか、悲しくなったんですよね。うまく言い表せないんですけど。

確かに、あのシーンは「あなたはどっち側?」と問われているような感がありますよね。

そうなんですよ、問いかけてきますよね。また、桜井さんの演説の締めも皮肉に満ちていて。現場で見ていても、いろいろと考えさせられるワンシーンでした。

ちなみに、クランクアップはどのシーンで迎えたんですか?

さっきお話しした、スタジオでの車の中のシーンです。ずっとロケで撮ってきて、最後にスタジオというのも何か面白いなと思いました。カットがかかって、監督からOKが出た時、緊張感からの解放と達成感とで、自分の中からブワ〜ッといろいろな感情がわいてきたんです。そんなふうに感じられる現場って、そうめぐりあえるものではないので、そのぶん印象に残っているのは確かですね。僕は演技が楽しくてこの仕事をしているんですけど、何で楽しいのかは自分でもわかっていないところがあるんですよ。心身をすり減らすという意味では、きつい部分もありますし。ただ、最近になって、緊張感を味わわせてくれる現場に、自分も立つにふさわしいと思えるよう奮い立たせてもらえることが楽しいのかな、と少しずつですけど感じられるようになってきて。「散歩する侵略者」は、僕にそのことを気づかせてくれた作品と位置づけられると思います。

高杉真宙さん画像ギャラリー

映画『散歩する侵略者』

第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作品
2017年9月9日(土)ロードショー

【作品紹介】
数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…? その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。

【キャスト】
長澤まさみ 松田龍平
高杉真宙 恒松祐里
前田敦子 満島真之介 児嶋一哉 光石 研
東出昌大 小泉今日子 笹野高史
長谷川博己

監督:黒沢 清
原作:前川知大「散歩する侵略者」
脚本:田中幸子 黒沢 清
音楽:林 祐介

オフィシャルサイトhttp://sanpo-movie.jp/

©2017『散歩する侵略者』製作委員会

高杉真宙

1996年7月6日、福岡県出身。
’09年に舞台「エブリ リトル シング’09」で俳優デビュー。’10年、「大奥」で映画初出演。以後、数々の映画、ドラマ、舞台などに出演。主な作品にドラマ「高校入試」(フジテレビ系/’12年)、「35歳の高校生」(日本テレビ系/’13年)、「仮面ライダー鎧武」(テレビ朝日系/’13〜’14年)、「明日もきっと、おいしいご飯〜銀のスプーン〜」(東海テレビ・フジテレビ系/’15年 ※主演)、「表参道高校合唱部」(TBS系/’15年)、「カッコウの卵は誰のもの」(WOWOW/’16年)、映画「カルテット!」(’12年 ※主演)、「ぼんとリンちゃん」(’14年 ※主演)、「渇き。」(’14年)、「PとJK」「ReLIFE リライフ」「想影」「逆光の頃」、舞台「ジャンヌ:ダルク」(’10年)、「里見八犬伝」(’12年、’14年)、「TRUMP」(’15年 ※主演)、「闇狩人」(’16年 ※主演)など。10月スタートの連続ドラマ「セトウツミ」(テレビ東京系)で主演(内海想役)。映画「トリガール!」(9月1日公開)、「プリンシパル〜恋する私はヒロインですか?〜」(’18年公開予定)、「世界で一番長い写真」(’18年初夏公開予定 ※主演)が待機中。

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