佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 9

Column

美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~

美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~

東京芸術劇場で9月8から始まったコンサート、「美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり~」の初日、後半から間に合ったので行ってまいりました。

「今の人は、シャンソンをご存じないでしょう。こんなに切なくて、ロマンチックで叙情的な世界もあるんですよとお伝えしたくて」と、長年歌い続けてきた思い入れのあるシャンソンの数々を、美輪さんがトークとともに披露するという内容で、落ち着いてゆったり楽しむことができました。

東京では24日まで開かれているので、今週末にもう一度足を運んで、きちんと最初から最後まで堪能させていただこうと思っています。

ところで今回は、会場で販売されているパンフレットで、美輪さんと対談させて頂きました。そのなかでとくに印象に残った話を、ここで紹介したいと思います。

1968年の夏に美輪明宏(当時の芸名は丸山明宏)さんが、映画『黒蜥蜴』の主題歌として描き下ろした新曲の「黒蜥蜴の唄」をレコーディングした時、『丸山明宏リサイタル』というタイトルのアルバムも出る予定になっていたので、キングレコードのスタジオで「愛の讃歌」を筆頭に代表曲が録音されたという記録があります。それらは最終的に『丸山明宏デラックス』というタイトルに変わりましたが、「上を向いて歩こう」を作った音楽家の中村八大さんがアレンジして完成したのです。

その時のことを対談の後半にたずねると、美輪さんは「そうです。映画音楽の方は富田勲さんでしたが、シングルは八ちゃんがアレンジしました。オーケストラも含め、全員で同時録音だったんです」と答えてくださいました。

ぼくはその時に録り直されたヴァージョンのなかで、とくに「メケメケ」が気に入っていて、「黒蜥蜴の唄」とともに愛聴しています。というのも八大さんがアレンジした「メケメケ」には、パーカッションがたくさん入っていて、その10年前に録音されたオリジナルに比較すると、ビート感がかなり強くなっていて心地よいのです。

そんな感想を話すと美輪さんから、こんなエピソードを教えて頂きました。

最初にコロムビアレコードで出した時は、服部良一さんのアレンジでした。私が今、レギュラーでやっているNHKの番組「にほんごであそぼ」で音楽を担当しているのが、服部良一さんのお孫さん、隆之さんなんです。お父さんの克久さんにも、私のキング時代にアレンジしてもらってますから、「親子三代だわね」と話したんですけどね。親子三代にアレンジしてもらうなんて、ちょっと変な気がしましたよ。

僕はその話を聞いて、「才能が才能を呼んできちんと受け継がれているんだと思います」と答えました。服部良一さんがアレンジした「メケメケ」から3年後、1960年に「服部良一シルバーコンサート」が開催されています。そこで音楽監督をなさっていたのが八大さん、編曲したのが長男の克久さんと、ビブラフォン奏者だった平岡精二さんでした。だから八大さんや克久さん、平岡さんは作曲と編曲を含めて、偉大なる服部良一さんの継承者でもあるわけです。

そして八大さんが亡くなった直後くらいから、ちあきなおみさんが歌った「黄昏のビギン」がとてもいい歌だと評判になり、たくさんの人がカヴァーして歌うようになりました。ちあきさんの「黄昏のビギン」は、もちろん歌は絶品でまあ見事なものなのですが、ギターと弦楽四重奏によるアレンジも実に素晴らしい。そのアレンジのおかげで名曲という評価が一挙に高まり、日本のスタンダード・ソングとして不動の楽曲になったとさえ思います。

それをアレンジしたのが服部隆之さんだったのです。だから服部良一さんが編曲した「メケメケ」から始まって、八大さんが編曲した「愛の讃歌」や「黒蜥蜴の唄」を追っていくと、日本のシャンソンやジャズが輝いていた良き時代のエッセンスが、美輪さんによって受け継がれていることが分かりました。

そして今もまた、隆之さんと美輪さんが一緒になって、子どもたちのために新しい音楽をつくっているというのです。美輪さんは対談の最後でこう仰っていました。

先日、「にほんごであそぼ」のコンサートの収録があったんです。隆之さんに私の作詞・作曲の「長崎育ち」という曲をもう少しテンポを速くして子供たちが歌えるようにアレンジし直していただきました。不思議ですね。

それを聞いて、美輪さんのところに才能が集まってくるのは、必然だという思いを強くしました。「ヨイトマケの唄」は多くのシンガーソングライターがカヴァーしています。桑田佳祐、泉谷しげる、加藤和彦、なぎら健壱、槇原敬之……、なぜ、日本のシンガーソングライターたちが、積極的にあの歌をカヴァーするようになったのか?

それは日本の最初のシンガーソングライターである美輪さんへの、無意識のリスペクトがあったからではないかと、あらためて思い直しています。

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

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