スピッツが僕たちに見せてくれた世界  vol. 10

Review

「スピッツの王道」の幅を押し広げた冒険作-9thアルバム『ハヤブサ』

「スピッツの王道」の幅を押し広げた冒険作-9thアルバム『ハヤブサ』

スピッツが結成30周年を迎え、シングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を届けてくれた。
世代を超えて愛され続けている音楽を作ることを成し得たアーティストが到達できる30周年。聴く人の喜怒哀楽、それぞれの想いにもそっと寄り添い、潤いを与え続けているスピッツが僕たちに見せてくれた世界をオリジナルアルバム単位で1枚ずつ振り返っていきたい。
『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』に収録されているシングルの味わいもグッと増し、もっとスピッツを知りたくなってくれることを願って。

#10 9th Album「ハヤブサ」(2000年7月26日発売)

前作『フェイクファー』との間に、3曲入りの『99ep』、シングルのカップリング曲やインディーズ時代の曲やPUFFYに提供した「愛のしるし」のセルフカバーを収録した編集盤『花鳥風月』をはさんで、2000年7月26日にリリースされた9枚目のオリジナル・アルバムがこの『ハヤブサ』。
なのだが、最初に聴いた時「うわ! いいじゃん!」と、なんだかやたらうれしく感じたのを、よく憶えている。

何が「いいじゃん!」なのかというと、楽しそうなのだ。いきいきしているのだ。じゃあ前のスピッツは楽しくなさそうだったのかというとそんなことはないが、バンドをやること、4人で音を出すことの楽しさに立ち戻ったというか、最初に音を出した時のワクワク感を取り戻したというか、そんな感触が伝わってくるアルバムなのだった、『ハヤブサ』は。
アディショナル・ミュージシャン、クジヒロコと「ハートが帰らない」でマサムネと歌っている五島良子くらいで、バンド・サウンド主体のアルバムではあるが、だからそう感じたわけでは、必ずしもない。
これまでのスピッツだったらやらなかったような、打ち込みと同期したイントロで始まる「いろは」や、声にエフェクトかけまくったトーキング・ボーカルで始まる「メモリーズ・カスタム」のような(この曲も途中で打ち込みを使っている)、「これこそスピッツ王道のバンド・サウンド」という範囲からは大きく逸脱した曲も、何曲も入っているので。で、それらの曲も同じような、いや、それ以上のワクワク感を孕んでいるので。

『Crispy!』から『インディゴ地平線』までの4枚をプロデュースした笹路正徳は先生、『フェイクファー』を共同プロデュースした棚谷祐一は兄貴だったとするなら、今作のプロデューサー石田ショーキチは友達、もしくは仲間と言えるだろう。次は同世代(彼はスピッツより1歳下)のプロデューサーとやりたい、というのはメンバー共通の意志だったそうだ。それが見事にハマったのがこのアルバムだった、ということだろう。

やりたいことをどんどんやろう、乱暴でもいいしラフでもいいしはみ出していてもいい、というのが石田ショーキチのプロデュース方針だったようで、かなり思い切ったアレンジ、振り切ったサウンド・プロダクトが、随所に聴かれるアルバムになっている。
「こんなに速くて威勢いい曲でマサムネ弾いてるのアコギなの? エレキじゃないの?」 とまずびっくりする「今」もそうだし、先に書いたとおり打ち込みを入れた「いろは」や「メロディーズ・カスタム」もそうだし、テツヤ作曲の、ほとんどアンビエントみたいなインストゥルメンタル「宇宙虫」もそうだ。

という仕上がりのアルバムになったのは、正直、意外だった。というのも、石田ショーキチ(と改名する前は石田小吉)、Spiral Lifeでデビューして大成功、でもアルバム3枚で解散して自身のユニットScudelia Electroを立ち上げて活動しつつ、人のプロデュースや楽曲提供も行っていたのがこの時期だったのだが、スパイラル(特に初期)もスクーデリアも、バンド・サウンドではあるものの、そういうラフで豪快な音の作り方ではなく、高密度でハイ・クオリティなポップ・ミュージックをしっかり作る、みたいなイメージを、僕は持っていたので。
つまり、自分の体質とかは置いといて、今の時期のスピッツが出すべきなのはそういう音である、と石田ショーキチ見抜いたということなのだと思う。

22nd Single「メモリーズ/放浪カモメはどこまでも」(2000年6月21日発売)

と、ここまでの書き方だと、スピッツの歩んできた道のまんなかからは外れたアバンギャルドな作品、みたいに思えるかもしれないが、たとえば本作の「放浪カモメはどこまでも」や「8823」や「メモリーズ・カスタム」が、今でもライブで頻繁に演奏される曲であるという事実が、決してそうではないことを示していると思う。
言わばこれもスピッツの王道なのだ、ということです。特に「8823」は“演奏しながら田村が大暴れする曲”として、長年にわたりすっかりおなじみになっている。

なお、スピッツと石田ショーキチが組んだのはこの1枚だけだが、その後田村は2004年に石田ショーキチ・黒沢健一(L↔R)らとバンド、MOTORWORKSを結成、アルバムをリリースした。スピッツのメンバーがスピッツ以外でバンドをやったりソロをやったりしたのは、このMOTORWORKSだけである。
あ、マサムネがKREVAの曲で歌ったのもあったけど、あれはフィーチャリング・ボーカルだから除外します。

文 / 兵庫慎司

楽曲/DISCOGRAPHY

9th Album
ハヤブサ

発売日:2000年7月26日
品番:POCH-4001

【収録曲】
01. 今
02. 放浪カモメはどこまでも album mix
03. いろは
04. さらばユニヴァース
05. 甘い手
06. Holiday
07. 8823
08. 宇宙虫
09. ハートが帰らない
10. ホタル
11. メモリーズ・カスタム
12. 俺の赤い星
13. ジュテーム?
14. アカネ

リリース情報

スピッツ

CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-

2017年7月5日発売
(3CD)UPCH-7329/31
¥3,900+税

1991年のデビューシングルから昨年2016年4月に発売されたシングル曲「みなと」までの全シングル曲、そして「愛のことば-2014mix-」「雪風」といったドラマ主題歌としても話題となった配信限定シングル曲、さらには、新たにレコーディングをした新曲3曲を加えた全45曲収録のCD3枚組アルバム。

【収録曲】
【DISC 1】CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection
01.ヒバリのこころ
02. 夏の魔物
03.魔女旅に出る
04.惑星のかけら
05.日なたの窓に憧れて
06.裸のままで
07.君が思い出になる前に
08.空も飛べるはず
09.青い車
10.スパイダー
11.ロビンソン
12.涙がキラリ☆
13.チェリー
14.渚
15.スカーレット

【DISC 2】CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection
01.夢じゃない
02.運命の人
03.冷たい頬
04.楓
05.流れ星
06.ホタル
07.メモリーズ
08.遥か
09.夢追い虫
10.さわって・変わって
11.ハネモノ
12.水色の街
13.スターゲイザー
14.正夢
15.春の歌

【DISC 3】CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
01.魔法のコトバ
02.ルキンフォー
03.群青
04.若葉
05.君は太陽
06.つぐみ
07.シロクマ
08.タイム・トラベル
09.さらさら
10.愛のことば-2014mix-
11.雪風
12.みなと
13.ヘビーメロウ
14.歌ウサギ
15.1987→ 

2006年に発売された2枚の『CYCLE HIT』も2017年最新のマスタリングをして再発売!

CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2129 ¥2,500+税

CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2130 ¥2,500+税

CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2131 ¥2,500+税

『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』、そして『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』も、今回の新たなアイテムに合わせ、2017年の最新スピッツサウンドを表現する為に、世界最高峰の「Marcussen Mastering」にてリマスタリングを遂行。7月5日に再発売。

アナログ盤も“重量盤”で7月5日同時発売!

ファーストアルバム『スピッツ』から昨年7月に発売された最新アルバム『醒めない』までのオリジナルアルバム15作品に、ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』を加えた全16作品をアナログ盤で発売。

ライブ情報

『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』

8月05日(土):長野県・長野・ビッグハット
8月06日(日):長野県・長野ビッグハット
8月11日(金・祝):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月12日(土):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月16日(水):東京都・日本武道館
8月17日(木):東京都・日本武道館
8月19日(土):東京都・日本武道館
8月23日(水):神奈川県・横浜アリーナ
8月24日(木):神奈川県・横浜アリーナ
9月02日(土):福岡県・マリンメッセ福岡
9月03日(日):福岡県・マリンメッセ福岡
9月16日(土):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月17日(日):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月30日(土):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)
10月1日(日):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)

SPITZ

草野マサムネ :1967年12月21日 福岡県 O型 ヴォーカル&ギター
三輪テツヤ :1967年5月17日 静岡県 B型 ギター
田村明浩 :1967年5月31日 静岡県 A型 ベースギター
﨑山龍男 :1967年10月25日 栃木県 B型 ドラムス
草野マサムネ(Vo/Gt)、三輪テツヤ(Gt)、 田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の4人 組ロックバンド。
1987年結成。1991年3月シングル「ヒバリのこころ」、アルバム「スピッツ」でメジャーデビュー後、1995年リリースの11thシングル「ロビンソン」、6thアルバム『ハチミツ』のヒットを機に、多くのファンを獲得。
以後、楽曲制作はもちろん、日本国内をくまなく廻る全国ツアーや自らオーガナイズするイベント開催など、マイペースな活動を継続している。 そして今夏、15thアルバム『醒めない』を発売、全国ツアーも大成功。
2017年結成30周年を迎え、7月5日は「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」を発売、『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』も敢行中と精力的に活動を展開している。
オフィシャルサイトhttp://spitz.r-s.co.jp/

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