Interview

真心ブラザーズが一発録りのモノラル録音で挑戦した新たな冒険

真心ブラザーズが一発録りのモノラル録音で挑戦した新たな冒険

飄々とした表情を浮かべながら、その実、誰にも負けない秘めたる情熱を携えて、真心ブラザーズが還って来た! 約3年ぶり、通算15枚目のニューアルバム『FLOW ON THE CLOUD』は、今の彼らの充実と音楽への深い愛着がしっかり刻まれた力作になった。YO-KINGと桜井秀俊が、この3年活動を共にしているベースの岡部晴彦とドラムの伊藤大地との4人だけでセッションをしながら生み出した音は一発録り! その生々しさ、躍動感、気迫はロックンロールのルーツと真心の原点を彷彿とさせ、彼らから新しい歌と言葉を紡ぎだすことになったようだ。全曲モノラルミックスという大胆な意匠も、デジタル時代のカウンターたる姿勢の表れでもある。
デビュー28年目にして、新たなチャレンジをやってのける真心ブラザーズのYO-KINGと桜井秀俊に訊く。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 板橋淳一

ミュージシャンが弾けた瞬間を逃さずに録音するレコーディング・セッション

前作『Do Sing』(2014年)からおよそ3年。アルバム制作に対しての考え方に何か変化はあったのでしょうか?

桜井 間にカヴァー・アルバム(昭和の女性アイドルの楽曲をテーマにした『PACK TO THE FUTURE』)はあったものの、オリジナルはちょっと空いちゃいましたね。

YO-KING 俺はアルバムの内容は良いに越したことはないけど、格別良いものでなくても出してもいいんじゃないかというミュージシャンなんだよね。ここ10年くらいは、アルバムをつくるのはこれが最後かなぁと思ってるし。

桜井 新曲はつくるにしても、それがアルバムというものに帰結するかどうか最近は見えづらくなってきたでしょ。

YO-KING 世の中的にアルバムというものが昔ほど求められなくなってきているからね。とはいえ、なかなか粘るけどね、アルバムってやつも。90年代はCDの収録時間ギリギリまで目一杯曲を入れるようなところがあったけど、あれで名盤という概念が薄まったような気がするんだよね。やっぱり、アルバムって、アナログのAB面くらいの時間がちょうど良いと思う。

桜井 今回のアルバムで50分強かな。限定でアナログ盤も出すんですけど、我々はアナログと46分カセットの世代ですから。全曲モノラルミックスというのは、YOYO-KINGさんたっての提案で。

『FLOW ON THE CLOUD』は、ベース岡部晴彦さん、ドラム伊藤大地さんと4人で一発録りとか。その意図は?

YO-KING 最初はピアノとか誰か入れてもいいかなと思っていたんだけど、ベーシックを録り出したら、この4人で完結するのもアリだなと思ったんだよ。

桜井 二人と一緒にやるようになって丸3年かな。彼らがミュージシャンとして脂がのってきている時期に一緒に演奏できることが僕らも嬉しくてしょうがない。それは音にありありと出ている。

ボブ・ディラン&ザ・バンドの『地下室(ザ・ベースメント・テープス)』を彷彿とさせるセッションをしながらのレコーディングだったわけですね。

YO-KING  まさに。そう、裏テーマは『地下室』だった。セッションしながらどんどん録っていって良い曲をアルバムに入れる。そういうレコーディングのやり方はミュージシャンなら誰でも憧れると思うんだ。

桜井 ただ、行き当たりばったりというのではなく、ミュージシャン同士が魂を込めてぶつけ合ったものが弾けた瞬間を逃さずに録音する。昔はそれが出来なかったんですよ。アナログ・レコーディングだと膨大なテープが要るだろうし、当時の自分たちの技量では難しかった。今はちゃんとした楽器をしっかり鳴らすことができるような腕もついて、ようやく実現することができたんです。

気の利いたことを言おうと思わずに書いてみた歌詞の面白さ

そういうレコーディングの方法によってもたらされたものは?

桜井 YO-KINGさんにいたっては、レコーディングに1番の歌詞とコードしか用意してこなかった(笑)。現場で演奏が固まりだして、ようやく2番の歌詞を書きはじめるという。

YO-KING 昔は2番つくってこないと、皆のテンションが落ちると悪いなと取り繕っていたんだけど、今はもうバレてもいいやと(笑)。

桜井 俺は家で弾き語った曲をiPhoneで録って、事前にみんなに送るくらいのことはしましたけどね。

YO-KING 俺は流れにまかしてみたかったんだよね。1番だけ持って現場に行って、良い曲になって2番ができればいいし、出来なければそれでもいい。現場で書いた歌詞って、意図や作為がないから面白いんだよね。さすがにまったくのゼロは怖いから、どの曲に使うかは別として、言葉のストックはしていたけど。

シンプルな音だけに、ハッとさせられる言葉が強く光りますね。

YO-KING アルバムは久しぶりだから、曲の作り方をちょっと忘れていて、歌詞先でつくりはじめたら、ポンポン出来ちゃって。最初は1日10分だけ作曲すると決めてつくり始めたんだけど、ギターとまっさらなノートとiPhoneがあると、なんか出来るんだよ。それで気がつくと30分経っていたりする。

歌詞の作り方で意識したことは?

YO-KING あんまり気の利いたことを言おうと思わずに書いてみたんだ。〈スライは雨に似合う 刺身は日本酒に合う〉って、何だろうと思うじゃん? でも、何かに導かれて出て来た言葉なんだよね。言葉でうまいこと言おうとしなくても伝わるのが音楽の面白いところなんじゃない? みんなハードルを上げすぎなんですよ(笑)。

桜井 近田春夫さんが「作詞はイメージのしりとりだ」って言ってましたけど、それはすごく共感しますね。僕は音がシンプルになることは分かっていたから、地に足が着いた言葉を選ぼうといつも以上に気を遣いましましたね。

そんな即興性を生かした歌詞の作り方やレコーディングの方法が、今の真心をリアルに写していますね。

YO-KING 実は『KING OF ROCK』や『GREAT ADVENTURE』の頃も、そういう風につくっていたんだよね。あの頃は、即興でこの16小節にこの言葉を入れたらどうだろうとミクスチャー・ロックの体でやってみたんだけど、今回はそれをボブ・ディラン風の音楽でそれをやってみたと。

古い音を求めていくと新しくなる、今に響くルーツ・ロック

ある意味、それは真心の原点でもありますよね?

YO-KING そうそう。フォークデュオとしては戻っちゃったね。ただ、昔はブルースとかボブ・ディランとか、口ではカッコイイと言っていたけど、あの頃は憧れでしかなかった。

時を経て、それを実践できるスキルと境地になった。

YO-KING そうだね。デビューシングルの「うみ」のレコーディングで、ああこういう音になるんだ、いつも聞いているビートルズやストーンズの音と違うのはなぜなんだろうと思ったけど、それをどう伝えていいか分からなかった。そこから30年近くかけて、様々な音楽を聴き、経験を積み、コミュニケーションの仕方なんかも勉強して、やっと自分が好きな音で表現できるようになったってことなんだと思う。

「雲の形が変化をした」という曲には、ライ・クーダー、ニール・ヤングなどの名前が出てきますが、そういうルーツ・ロックの文脈に接近していったのは?

YO-KING それも自然な流れでしたね。90年代までは聴くものと、やりたい音楽が一致していたんだけど、2005年の復活以降は、ルーツ・ロック的なものが自分の中に根を張るようになっていった。最近は新しいヒップホップも好きでよく聴いているんだけど、自分でやりたいものとは違うんだよ。歌の中に出てくるミュージシャンは、家のレコード棚の前に出ている人たち。ずっと飽きずに聴き続けているレコード。

桜井 僕は最近、真心の路線と聴くものが一致しているな。高田漣くんが教えてくれたカントリー系の音楽なんかをよく聴いていますね。

YO-KING この4人と高田漣くんと一緒に『cozy moment』というライブ・ツアーをやったんだけど、それもイイ感じだったんだよね。

今回のアルバムでは、桜井さんはスチール・ギターやヴァイオリンを弾き、アメリカーナなカントリー・テイストを醸していますね。

桜井 ラップ・スチールとバンジョーも買ったし、ヴァイオリンもあるし、部屋の中がなんだかおかしなことになってきています(笑)。

YO-KING 僕はそういう60〜70年代の音楽は後から再発見したクチだけど、今聞いても新鮮な驚きがあって飽きない。そこには何かあるんだよ、絶対に。

アルバムのリード・トラック「レコードのブツブツ」の“ブツブツ”は、アナログ・レコードの片面が終わった後に生じる針の音のことですよね?

YO-KING そう。あのブツブツいう音、好きなんだよね。アナログ・プレーヤーはCD全盛期にも持っていたし、基本的にアナログの音が好きなんだよ。

桜井 でも、古い音を求めていくと、なぜか新しくなるというのが不思議で、面白いんですよ。確かに温もりのあるサウンドではあるんだけど、やっぱりちゃんと今の音になっているんですよ。それはやっている人間が今を生きているからなんでしょうね。

YO-KING 結果的にあまり聴いたことのない音になっているんじゃないかな。

音楽の楽しさの中に秘めた「バンドごっこをまっとうしたい」という想い

真心の変遷もアルバム・タイトルのように雲の流れのごとく不定形に自由に変化してきたのでは?

YO-KING そうだね。そういう意味では、今回のアルバムは自分の中ではアート寄りというか、趣味的なアルバムではあると思う。もう随分前から、何が売れるとかあまり意味をなさなくなってきたし、俺は自由にやりたいことをやって、それを正直に見せていく方が誠実だと思うんだよね。

桜井 今回は基本的にダビングとか録り直しが出来ない「体裁繕っているんじゃねーよ!」という雰囲気だった。ヨレた音も出してるんだけど、それすら記録に残してしまうことで吹っ切れた感はある。

YO-KING それだけ集中力を持ってやるから、緊張感はあっても、楽しいんだよね。一緒に音を出す楽しさは、何にも替えがたい。ここ10年くらいの俺のテーマに「バンドごっこをまっとうしたい」というのがあって、要は音楽を始めた頃の気持ちを死ぬまで持ち続けていたいんだよね。今のバンドは一言言えばすぐ通じるからすごく気持ちいい。

桜井 音楽でないと遊べない、楽しめないことってあるからね。

YO-KING 僕は独善的だから、自分が楽しければいいとどっかで思っているんですよ。アルバムの出来は良いに越したことはないけど、その日のレコーディング・セッションが楽しければいいと思っているふしがある。そのかけがえのない時間が大切であって、アルバムはそのご褒美だと思う。

桜井 そうだね。楽しいを超越した時間だったね。今、何かが生まれているぞという興奮が、この歳になっても味わえるのは何よりの悦びだった。

その悦びや興奮が続く限り、音楽に飽きることはないですね。

桜井 30年近く音楽を続けてきても、今まで味わえなかった種類の悦びがあるんだと知ったし、歳はとるもんだと思いましたよ。

YO-KING 実はレコーディングした音源は、この2倍あるんですよ。その事実だけで、俺はもうすごく嬉しいんだよね。

桜井 今の真心の音楽のかたちと姿勢はここではっきり出せたと思うんですよ。今の何かが弾けたようなエネルギーは感じていただけるんじゃないかと。

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ライブ情報

ライブツアー『FLOW ON THE CLOUD

10月08日(日)横浜・F.A.D YOKOHAMA
10月12日(木)札幌・cube garden
10月14日(土)盛岡・CLUB CHANGE WAVE
10月15日(日)仙台・darwin
10月21日(土)熊谷・HEAVEN’S ROCK Kumagaya VJ-1
10月28日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
11月04日(土)熊本・B.9 V1
11月05日(日)福岡・DRUM Be-1
11月18日(土)広島・SECOND CRUTCH
11月19日(日)神戸・SLOPE
11月25日(土)高松・MONSTER
11月26日(日)岡山・IMAGE
12月01日(金)金沢・AZ
12月03日(日)新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE
12月05日(火)東京・赤坂BLITZ
12月10日(日)沖縄・桜坂セントラル
12月16日(土)京都・磔磔
12月17日(日)名古屋・CLUB QUATTRO

真心ブラザーズ

1989年、大学在学中に音楽サークルの先輩YO-KINGと後輩の桜井秀俊で結成。バラエティ番組内“フォークソング合戦”にて10週連続を勝ち抜き、1989年9月にメジャー・デビュー。「どか~ん」「サマー・ヌード」、「拝啓、ジョン・レノン」など数々の名曲を世に送り出す。2014年にはデビュー25周年を迎え、自身のレーベルDo Thing Recordingsを設立し、レーベル第1弾アルバム『Do Sing』をリリース。2015年、昭和女性アイドルの楽曲をテーマにした、初のカヴァー・アルバム『PACK TO THE FUTURE』を発表。今年5月には、好評の自主企画対バンイベント『マゴーソニック2017』、6月にはジャズ・クラブ・ツアー『cozy moment』を開催。

オフシャルサイトhttp://www.magokorobros.com/

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