【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 38

Column

80年代を象徴するバンド、オフコースを語り始めたら停まらなくなる! 今回は時計の針戻して「愛を止めないで」を

80年代を象徴するバンド、オフコースを語り始めたら停まらなくなる! 今回は時計の針戻して「愛を止めないで」を

前回、このコラムで紹介した「さよなら」が楽曲制作された際のエピソードは、昨年、小田和正のベスト・アルバム、『あの日 あの時』がリリースされた際、アリオラジャパンが制作し、無料配布したパンフレットにおける小田へのインタビューからのものであり、ほかにも「愛を止めないで」の歌詞が、当初は「“愛を止めて”みたいな歌だった」といった、(手前味噌ではあるが)非常に興味深い内容を含むものだ。

で、今回は『LIVE』を経て、いよいよ『We Are』へと書き進んでいくことにしたいのだが、「愛を止めないで」で思い出したことがあるので、シングル・リリースの順番は戻ってしまうことにもなるけど、それを書いてから次へ移りたい(時間軸を追ったバイオグラフィ的な文章は他にもあると思うので、本コラムでは筆者の気まぐれをお許しくださいませ…)。

しかしこの歌も息が長いというか、昨年、フジテレビ系ドラマ『OUR HOUSE』で、主題歌になったのはビックリした。そして2016年のお茶の間に流れても、まったく古さを感じさせなかった。サウンドが単にハヤリをまとったものじゃなく、曲構成が“ソングライター入門”みたいな本に書いてある杓子定規なものじゃなく、歌詞も当時の世相に負ぶさったものじゃなかったからこそ、古さを感じさせなかったのだろう。

ところで「愛を止めないで」(リリースは79年)は、当時の熱心なファンから、“反発もあった作品”だというのは有名な話だ。歌詞中の“いきなり君を抱きしめよう”が、“らしくない”ということで、反発された。もちろん、ファンの中に“らしさ”が、このバンドに対する認識(大袈裟にいえばパブリック・イメージ)が芽生えていたからこそ、こういう事態にもなった(由々しきことのようで反面、アーティストがビッグになっていく通過儀礼的側面で言うなら、目出度いことでもあった)。

一方、アーティスト側はどうだったかというと、この時期、小田のソングライティングに変化が見られる。当初、小田は他人事のように、「“抱きしめよう”とかって歌詞を、もし誰かが歌ったら、“そりゃカッコいいだろう”」と思ってた(『YES-NO 小田和正ヒストリー』133ペ−ジ)。その“他人事”を、敢えて歌の中では“自分事”としてやってみようとしたのが、「愛を止めないで」なのだ。自らが決断し、普段は袖を通さぬシャツを着てみたわけである。でもこういう時こそ、傑作が生まれることが多い(他のアーティストも含め…)。

キーワードに戻る。通常、“抱きしめる”を男性ソングライターが歌にしたら、その行為にあてがう擬音は、“グィッ”、だろう。男らしい歌になるハズだ。でも改めて「愛を止めないで」を聴くと、けして“グイッ”、という歌ではない。

第一義として相手に伝えたいのは、この愛を止めないで、ということなのであって、その先にある“抱きしめよう”は、“なだらかな明日”への坂道を駈け登らない限り果たされない。なだらかな坂道なら、僕の近所にもセブンイレブンへいく途中にあるけど、なだらかな⇒明日への⇒坂道というのは、非常に抽象的だ。

でも敢えてそうしていると思われる。現状、この愛は、止まってしまうかもしれない。止まったら、明日も坂道も有り得ない。現時的ではよく分らないからこそ、抽象的なのだろう。繰り返すが、愛を止めないことこそが、大事なことなのだ。

この歌のエンディングも画期的というか斬新というか、これもよく語られる。ここがグッとくるというヒトは非常に多い。映画を観ていて、肝心の結末を迎える前、ふと映画館を出てきてしまったような気分でもある。“君の人生”への願いが歌われ、いよいよ“僕の人生”の番になって、もちろん様々に想像出来るし、ハッピーエンド率が高そうではあるが、肝心なところで、そう、時間切れとなっているわけである。

なぜこのような構成なのだろう。もちろん、余韻を計算しているのだろう。そう書くと、当たり前すぎてつまらないので、もっと大袈裟に書くなら、僕たちの音楽が止まらず、永遠に鳴っていたらいいのに〜、という、そんな願いから、かもしれない。

音楽をやっている人間というのは、自らの存在を、まさに音が鳴っている、その間だけしか示すことができない。絵画などとは明らかに違う。そこでみんな、余韻というものに注目する。この歌の場合、もっと大胆に、歌詞を未完にすることで、聴き手ひとりひとりの心の中に、住みつこうとしたのかもしれない。

この歌を聴いた当時の女性ファンのヒトは、“そのひとつが まっすぐに”という歌詞の、そのあとに続く“…………”を、自分だけに聞こえるコトバで“聴いた”のだろう。いやこれは性別問わず、誰だってこの歌のエンディングは、J-POP史上稀に見るほど、ぐっとくる瞬間なのだ。

さてみなさん。今回は『LIVE』を経て、いよいよ『We Are』へと書き進んでいくことにしたいのだが、と、そう書いておいて、「愛を止めないで」の話に終始してしまった。次回(といっても一週間後)は必ず…。

文 / 小貫信昭

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