Interview

小説家・似鳥鶏×俳優・平野良の異業種対談「舞台をイメージして書くんです」―『100億人のヨリコさん』発売記念

小説家・似鳥鶏×俳優・平野良の異業種対談「舞台をイメージして書くんです」―『100億人のヨリコさん』発売記念

今年デビュー10周年を迎えた作家・似鳥鶏が、新作4冊を刊行。最新刊「100億人のヨリコさん」(光文社)の発売にちなんで、舞台・ミュージカルなどで活躍中の俳優・平野良と対談を行った。大学の個性的な寮生が、怪奇現象「依子さん」の解明に挑むエンターテインメント小説を、読書家である平野はどう読んだのだろうか? また、似鳥自ら新作の着想がどこからきたのかなども語った。初対面の二人が、書くことと演じることの共通点などにも話を弾ませた。

取材・文 / 上村恭子 撮影 / 森崎純子

“トンデモ理論”で広がっていく怒涛の恐怖 

まずは、平野さん、本書をお読みになった感想を教えてください。

平野良 これまでに読んだことのないような話でした。疾走感があって、とっても面白かったです。大学の古い寮という狭い空間から始まって、だんだん話が大規模へと広がっていく。新たなゾンビ映画のような怒涛の恐怖もあって、笑えるところもいっぱいありました。

似鳥鶏 ありがとうございます。一番うれしい感想です! 一度も読んだことのないような話をつくろうと思って書きましたので。

左から 平野良、似鳥鶏

平野 最初は幽霊の話かと思っていたら、それだけではなくて。目が見えない人に依子さんが見えたというあたりから、「依子さんは幽霊ではなく思想なのだろうか?」と思ったり、その後の展開に無限の選択肢があったりで。でも最後に、砂時計の砂がスッと落ちたみたいに「ハッ!」という感じに着地しました。

似鳥 それこそ、ミステリーのつくりなんですよ。もしかしてSFもお好きですか?

平野 好きですね。

似鳥 ファンタジーとかホラーというのは、不思議なものについて説明をしないのですが、ミステリー作家は不思議を不思議で終わらせたくないというのがありまして。全部鍵がかかっている部屋で犯罪が起きるといった不可能犯罪ものと同じように、幽霊の謎を解明してみようというのが着想の始まりでした。血まみれの女性の幽霊が大学の寮の天井にはりついている現象に、納得がいく説明をしてみよう、と思ったんです。

平野 その説明が“トンデモ理論”なのに、すごく説得力があるんですよ。本当にこういう学説があるんじゃないかと思って、僕、インターネットで検索しましたよ。

似鳥 そうなんですね! いろいろな学説を調べながら、その“トンデモ理論”を私なりにつくって書く過程が一番大変でしたが、そこがまさに今回、アイデアが閃いて「降りてきた」と言える部分です。幽霊が出てくるまでは、いつも通りに筆が進みましたが、その後の展開は、自分でもこれまでにないものになりました。

平野 依子さんは幽霊だからそれ自体怖いのだけど、僕はその理論によって依子さんが拡散していくという現象に恐怖を感じましたね。最初、依子さんは、登場人物それぞれが抱える「何か」なのかなあと思っていましたが、想像もつかないことになっていって……。

似鳥 すごく読み込んでいただけて、うれしいです。私がイメージしたのは、コンピューターウイルス。いまは誰もが情報の発信源になれる時代。ちょっとしたミスが世界中に拡散される怖さがあって、それに対抗できるものとして、寮生である変わり者の集団を据えました。

個性的なキャラクターたちの強さにスカッとする

貧乏学生、アフリカからの留学生、学部不詳の学生、在日の学生、沖縄出身の学生、パートの母と娘……個性的な登場人物に、「マイノリティー」という共通項を持たせましたが、世界を救おうと乗り出す展開と関係がありそうですね。

似鳥 登場人物が「マイノリティー」という共通項になったのは、意図したものではなく必然でした。なぜ貧乏な寮にいるのかと考えたとき、ここにいるべき理由があると思ったからです。「多数派以外は死んでもいい」というような極端な意見がまかり通っている世の中に、何らかの理由で排除されてきた者たちを照らし合わせたとき、自然とキャラクターができ上がりました。社会が均質化してしまうと一種類の危機で全滅してしまう怖さがある。でも、それに打ち勝てるのは、社会からはみ出した変わり者たちなんですよね。

平野 彼らはたしかに社会の少数派かもしれないけれど、それを受け入れつつ生きている強いメンバーでした。僕は読んでいて清々しかったです。パニックになった世界に、当然のこととして立ち向かっていく姿にスカッとしました。虐げられてきた社会をなぜ救わなければならないのか、という葛藤もあったかもしれないのに。

似鳥 ああ、見抜かれた! 最初のプロットでは、彼らが世界を救いに出るかどうか悩むというシーンもあったんです。でも、「こんな世界どうでもいい」と思ってしまう人物を読者は応援しにくいし、楽しい本にしたかった。善良で正義感が強い人たちだということは、彼らの行動から感じてもらえると思いました。書かない部分を読者に想像して掘り下げてもらいたいという気持ちは、少し演じることと似ているかもしれませんね。

平野 わかります。僕も演じるとき、せりふだけではなく、佇まいとか、しぐさ、間合いなどで表現していきたいと思っていますので。

コントのようなつくりの会話が笑える

平野さん、もし演じるとしたらどの人物を演じてみたいと思いましたか?

平野 僕は筋肉がないので、汪さん(下肢不自由だが、上半身は鍛えていてムキムキ)は無理かなあと思っています(笑)。

似鳥 オーラがあって、着流しが似合いそうなので、先輩(男前で古風)を演じてもらいたいですね。

平野 いいですね。先輩、儀間さん(怪しいキノコ、パンツダケを栽培している)、みんなクセがあって。役者として変人を演じるのは楽しいですから。

似鳥 変人、変態、悪人の役をやるのが楽しいのと同じで、書く方も楽しかったですよ。最初は変な人を10人くらい出そうと考えていたほどです。主人公の小磯が常識人でツッコミ役なら、もう一人がボケ役というパターンで、コント風の芝居のように会話を書いていきました。

平野 読み手である僕も、登場人物のボケにツッコミたくなるシーンがたくさんありました。汪さんが車椅子に乗って叫びながら闘うところなんか、「なんで叫んでいるんだ!」って、声を出して笑っちゃいました。

似鳥 汪さんの車椅子を改造したマフトンジさんはドローン製作でも活躍しますが、大学生の話だから、それぞれが専門的な分野で活躍できるんですね。実際、大学って年齢もバラバラで、留学生もいて、何年大学にいるのかわからないような人もいます。今回、執筆のために大学生に生活の悩みなどを聞いて取材をしましたが、変な学生を考えていたらそちらに夢中になって、全然違う話になってしまいました(笑)。

団塊世代には懐かしい!? オンボロ寮にはモデルがあった!

そんな学生たちが住む富穣寮は、オンボロだけど畑もあって、プロジェクトマッピングも楽しめて、とても豊かな場所です。細やかな描写が面白さの一つでもありました。

平野 とっても面白かったです。壁づたいにモールス信号で伝達し合うところとか。それから、ガラパゴスゾウガメとかの四神と暮らしているところも好きですね。

似鳥 寮の話などは、団塊の世代の方に「懐かしい」って言われましたね。富穣寮は、地方の国立大学のイメージで設定しました。農学部の演習林には、キョン※(千葉県などで大繁殖している外来種のシカ。小柄で可愛らしいが、「ウエ゛エ゛エ゛オ!」という怖ろしい声で鳴くため不気味。)が住んでいるかもしれないという噂があったり、人知れぬ怪しい雰囲気があったりで、私自身あこがれがありました。今回、キャンパスのイメージは筑波大学で、平砂宿舎を取材しました。寮の建物のイメージは京都大学の吉田寮です。実際に、OBが置いていった怪しげな仮面とか人形とかがありましたね。

平野 やっぱり、そういうのがあるんだ! 僕はそんな寮に住むのは遠慮したいと思いますが、仮に富穣寮の湿気の多い1階と床が抜けて落ちる2階だったら、1階に住むかなあ(笑)。壁紙を変えて、カビが生えないように改装します。いやあ、でも無理ですね(笑)。パンツダケの入った寮の名物料理・詭弁鍋も、僕は食べるの、遠慮しておきます(笑)。

似鳥 パンツダケは鍋だけでなく、天ぷらもありますがどうですか? 天ぷらにすれば、野草でもなんでも食べられるっていう会話が出てきますが、実際、私も食べないと思います(笑)ところで、本当に天井に幽霊が張り付いていたら、どうしますか?

平野 もし幽霊を見たらですか……。実は、怖いと思うときの僕なりのルールがあって、「今が幸せなんだろう」と思うことにしているんです。落ち込んでいるときは「幽霊でもなんでもどうでもいいや」って気分になっちゃうから、怖いのは「幸せ」だ、と。それか、幽霊がめちゃめちゃ美人だったらいいですね。向こうもこっちに好意を持ってくれて、夜のおしゃべりが待ち遠しくなって、半年くらいして幽霊に除霊を頼まれるんです。一緒にいると生気を吸い取ってしまい、ガリガリになった僕を見ていられないって。除霊をしようかどうか悩んでいるうちに、眠ってしまうでしょうけど(笑)。