黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 8

Interview

水口哲也氏(中)天才クリエイターがゲームを創った本当の理由

水口哲也氏(中)天才クリエイターがゲームを創った本当の理由

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

水口哲也の異人的存在感はカッコいい。そして、そのカッコよさは、諦めない心の葛藤と、人生の良きタイミングで彼が導き出したその成果によるものだと思います。水口氏は、株式会社セガ・エンタープライゼス(当時)に於いて、黎明期のコンピュータグラフィックスで新しい映像コンテンツに取り組み、そののちにアーケードゲーム「セガラリー・チャンピオンシップ」など新しいレースジャンルを開拓、さらにはゲームとビジュアルとサウンドがミックスした「Rez」「スペースチャンネル5」などをプロデュース、そして今再びバーチャルリアリティを纏(まと)って「Rez Infinite」でバーチャルリアリティのあるべき姿を世界の人々に提示しました。

今回は、彼を突き動かすその情熱の背景を幼少期から現在に至る心の深淵を覗くインタビューをお届けします。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの第2回です。第1回(上)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄

セガしか入りたくなかった

セガの話にいきたいと思います。セガの面接でナムコのキャッチコピーを言ったりしたとかいう逸話を読んだことがあるんですけど、必ずしもセガに入りたいというわけではなかったんでしょうか。

水口 いや、当時の僕は、もうセガしか入りたくなかったんです。

セガだけだったんですか? そうだったんだ。

水口 ええ。とにかく『R-360』が衝撃だったんですよ。「これを作った会社はなんなんだ?」って。だから、他の会社にはまったく興味がなかったですね。セガがダメだったら大学に残ろうくらいに考えてました。

そこまでだったんですね。

水口 そんなだから、面接で「御社の“遊びをクリエイトする”っていうキャッチコピーがありますよね」なんて言って、「それ、ナムコだよ」と。付け焼き刃が露呈しただけです。そのときの僕はそんな知識もなかったんですね。

でも、セガもそれでよく採用したというか、キャパがありましたね。やっぱり、鈴木久司さん(注25)のキャパですかね。

水口 それはもう鈴木久司さんでしょうね。当時の僕は自分の持っている知識を一生懸命ふりかざすだけでしたから。学生時代に作った同人誌を持っていったりとかしてね。メディア美学のちょっと集大成的な、アートエンタテインメントテクノロジーみたいなことをまとめた本で、それを見せたんですけど、鈴木さんは「う~ん、なんかよく分かんねえなあ」って感じでした(笑)。

注25:元セガ副社長。長く常務として業務用ゲームを統括し、2001年の分社化の際にはSEGA-AM2の代表取締役社長を務めた。

「アンタはそういうの持ってんのかい?」

言いそうですねえ(笑)。

水口 それで、会って一発目で説教が始まって。「いいかい? エンタテインメントってのはね、ココ(頭)じゃねえんだよ、ココ(鼻)なんだよ」と。あの人、よく言うじゃないですか、とにかく、「鼻」だって。どんなに勉強しても、どんなに頭が良くても、面白いものを作れるわけじゃない。人が感動するものとか、心動くものっていうのは、知性だけでできるもんじゃないんだと。で、「アンタはそういうの持ってんのかい?」みたいなことを言われて、「自信はあります」と答えたんですけど、その時になんかその……ゲームを作りたいわけじゃないみたいな、ヘンな言い方をしてしまったんですよね。

らしいですね。

水口 ええ。「作りたいのは今のゲームじゃないんです。もっとその先のゲームとかエンタテインメントがやりたいんです。僕はそういうことがやりたくて、この会社を志望したんです」みたいな話をしたら、黙り込んで「う~ん」みたいな。そうやってしばらく黙り込んだあとに、「まあ、いっか。お前みたいなヤツがひとりくらいいても」って。それで、採用してもらったんですよね(笑)。

はあ~、すごいですね。

水口 まあ、当時のセガはライジングサンのようになっていたとはいえ、今で言うところのスタートアップに近いですからね。まだ上場もしていなかったし、ホントに町工場みたいなところで、ベンチャーに近かったですから。

ただ、僕はそのときに、「必ずあと数年で3DのCGがこの世界に入ってくる」とか、「バーチャルリアリティーというのがあって」とか言ったんですけど、鈴木さんはジーッと聞いてましたね。あの人も鼻のききかたがスゴイじゃないですか。だから、何か時代の流れを感じていたのかもしれませんね。そこにヘンな若者が来てワーワーと、さもことありげにいろいろ言うもんだから、こういうヤツがいたら少しは波風立つのかなぐらいな、ハハハハ。

なるほど、なんとなくそれは分かります。

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