佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 12

Column

好奇心と探究心をカタチにしてみせた不思議な傑作 映画『茅ヶ崎物語~MY LITTLE HOMETOWN~』

好奇心と探究心をカタチにしてみせた不思議な傑作 映画『茅ヶ崎物語~MY LITTLE HOMETOWN~』

“街のレコード屋とレコード会社によるコラボ企画”『第4回青山レコード祭り』に呼ばれて、貴重なアナログ・レコードを聴きながらトークするイベントに出演させて頂いたのは、今年の4月16日(日)のことです。
その時に司会進行をして下さったレコード会社の洋楽マン、宮治淳一さんから「茅ヶ崎」という土地について、音楽や芸能との関係を研究しているという話しを聞きました。その着眼点には大いに興味がわいたのですが、その研究がそのまま映画になってまもなく完成するとも聞かされて、かなり驚いたことを覚えています。

さて、完成した映画『茅ヶ崎物語~MY LITTLE HOMETOWN~』を観たのは9月29日、東京での上映最終日の最終回でしたが、本当に面白くて、しかもとても勉強になる映画でした。
観終わったあとの満足感、そして励ましとでもいうべき不思議な余韻は、今もなお脳裏に残っています。

楽しんで終わりなのではなく、自分も何かができそうだ、何をすればいいのだろうと、次なる行動を考えさせられる、そんな傑作だったのです。

映画で冒頭に紹介された茅ヶ崎にゆかりのある芸能人や文化人は、以下の方々だったと思います。

添田唖蝉坊
川上音二郎・貞奴
九代目市川團十郎
山田耕筰
小津安二郎
中村八大
平尾昌晃
加山雄三
ブレッド&バター
桑田佳祐
Suchmos

なぜ茅ヶ崎からこんなにも多く才能ある人が出たのか、この町には何か特別の力があるのではないか、その謎を探るドキュメンタリー・タッチの内容は一見すると、テレビ的なアプローチに見えました。
ところが、大きなスクリーンに映し出される海の祭りの生々しい映像やそのサウンド、沖合にある烏帽子岩における桑田佳祐の演奏シーンのスケール感は、まさに映画館でなければ味わえないものです。
この映画に携わった製作者たちの考え方や、完成させた監督の技量には脱帽させられました。

映画の中には茅ヶ崎が生んだスターの加山雄三さんもインタビューで登場します。
しかし、最後まで観終わると、主役は加山さんでも桑田さんでもなく、宮治さんや中沢さんが持っている「好奇心と探究心」だったという気がしました。

なお、後半にはさみ込まれた神木隆之介や野村周平による再現ドラマも、手づくりの学園祭を扱っていることもあってか、どこか手づくり的な映画という風情があって、ほほえましくも愛おしい感じが印象に残っています。

それにしても進行役となった宮治さんは、風貌からして自然体で味がありました。

また重要な役割を務めた人類学者の中沢さんも、、歴史的な場所をめぐって講義する姿と話しが楽しかったです。
とくに「海」と「祭り」と「音楽」は、切っても切り離せない関係にあるということは勉強にもなりました。
また祭りや音楽を担ってきたのが、「自由で不埒な人々」だったという結論にも、納得が得られました 。
だからこそ、「自由で不埒な人々」を体現している桑田佳祐の歌声や、彼のつくるライブという祝祭空間の映像からは、なんとも言い難いオーラが伝わってくるのだと思ったのです。

特別の人から放たれるオーラというものが、実はそれを察知して受けとめる人が持っている能力によるのだということを、あらためて認識させられた気がしています。

映画『茅ヶ崎物語 〜MY LITTLE HOMETOWN〜』

『パーク アンド ラブホテル』で日本人初となるベルリン国際映画祭最優秀新人作品賞を受賞した熊坂出監督の最新長編映画。茅ヶ崎の芸能史を編纂する“日本一のレコードコレクター”であり、洋楽ポップスのプロモーター・宮治淳一氏と、アースダイブという手法で茅ヶ崎の秘密を遡る人類学者・中沢新一氏への密着、加山雄三らへのインタビューなどを通して。芸能の地・茅ヶ崎の秘密に迫る作品。
宮治氏は、桑田佳祐の親友でありサザンオールスターズの名付け親としても知られる。その宮治氏にとって運命の分岐点となった、桑田とのある出来事が、映画の後半に描き出されており、そのドラマで宮治の学生時代を神木隆之介が、桑田の学生時代を野村周平がそれぞれ演じるほか、賀来賢人、須藤理紗、安田顕ら俳優陣やミュージシャンが様々なキャラクターとなって登場する。

出演:宮治淳一 中沢新一 加山雄三 萩原健太 小倉久寛 神木隆之介 野村周平 賀来賢人 須藤理彩 安田顕 桑田佳祐
監督:熊坂出
制作プロダクション:スタジオブルー
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
製作:「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~ 」実行委員会

『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』映画オフィシャルサイト
http://tales-of-chigasaki.com

©2017 Tales of CHIGASAKI film committee


著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

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