Interview

今年だけで出演作15作以上! 『あゝ、荒野』で“役を生きた” と語る山田裕貴が目指す役者像とは?

今年だけで出演作15作以上! 『あゝ、荒野』で“役を生きた” と語る山田裕貴が目指す役者像とは?

寺山修司が遺した唯一の長編小説「あゝ、荒野」の舞台を現代に置き換え、『二重生活』の岸善幸監督がメガホンをとって映画化。前後篇となったこの大作で、主人公〈沢村新次〉(菅田将暉)の因縁の相手であり、ボクシングで真っ向勝負を挑まれる〈山本裕二〉に扮するのが、今年だけでも15作以上の出演作が相次ぎ、作品ごとに異なる存在感を発揮する実力派・山田裕貴。彼が魂と肉体を削りながら臨んだ『あゝ、荒野』の現場を振り返りながら、「役でも嘘を付きたくない」という役者としてのモットー、目指す俳優像まで語ってくれた。

取材・文 / 山崎麻 撮影 / 三橋優美子
スタイリスト / 小田優士(Creative GUILD)
ヘアメイク / 仲田須加

1回意識が飛んだと語る壮絶なボクシングシーン撮影で
「『菅田に負けたくない』とかいろいろな想いが巡った」

前後篇の分厚い脚本がドンと来たのかと思うのですが、まず脚本を読んだ感想から教えてください。

山田 〈裕二〉が傷付けてしまった〈劉輝〉(小林且弥)さんに対する想いとかを想像しながら、キャラクターの内面や背景を頭の中で考えながら読み進めました。何度か改稿される中で、背景として〈裕二〉がずっと雑用として使われていたという描写があったんです。〈裕二〉は、本当は(悪事を)やりたくなかったのに仲間として断りきれなかったという彼なりの事情があって、どんどん周囲に対して憎悪が蓄積されていったという人物。本当にその辺にいる若者と変わりなかったんですよね。

そんな中、〈新次〉と再会した後の、今の〈裕二〉をどのように作り上げたのでしょうか。

山田 そういう男の子だった〈裕二〉が、数年後に〈新次〉と再会したときには子どもも奥さんもいて。〈新次〉は目の前のことに直にぶつかって問題を乗り越えないといけない人で、〈バリカン建二〉(ヤン・イクチュン)は壁を乗り越えようと必死にもがく人ですが、〈裕二〉はその壁や問題をもう乗り越えた人なんです。物事をしっかり解決している人、愛みたいなものを知っちゃった人、幸せがどういうことかを知っている人。だから少ないシーンの中でも、この三者の対比をいかに見せられるかということを考えました。〈裕二〉は子どもをなだめるように〈新次〉に相対しているけれど、昔の恐怖は残っているからボクシングだけはしっかりやろうとする。ボクシングで負けたら〈裕二〉は〈新次〉に対して何も言わないからっていう立場なんですよね。若いけど中身は大人なんだろうなと思いました。

ボクシングシーンが壮絶すぎて、「リアルでしたね」なんて軽く言えないほどすごく圧倒されました。

山田 あ、でもリアルですよ(笑)。お芝居じゃないです。ちゃんと(パンチを)当てています。トレーニングを重ねてきているので、「やっと本番が来てボクシングできて楽しい」という感覚でした。むしろトレーニングの方が辛かったです(笑)。

本番までどんなトレーニングをされたのでしょうか?

山田 だいたい2~3カ月くらい、スパーリングとかミット打ちをきっちりやっていました。1ラウンドは3分ですけど、1ラウンドを耐えられるように、1回4分くらいを数ラウンド続けていたんです。体験したらわかると思うんですけど、最初は1分も動いていられなくて、すぐヘトヘトになってしまうんです。それがトレーニングを重ねるうちにだんだん長い時間できるようになってきて。あとはお腹を鍛えるためにグローブをつけたトレーナーさんに本当に殴ってもらったり、メディシンボールというボクサー専用のボールを腹に落としてもらったり。これは実際のボクサーの方がやるトレーニングで、すごく内臓に響くんです。ジムの方が「そこまで本当に厳しくやるんですか?」って驚いていたくらいです(笑)。ウェイトもちゃんと測っていたので、最後にはちゃんとボクサー体型になっていました。

通常ならボクシングシーンであっても、アクションにはきちんと“振り付け”があると思いますが……。

山田 途中まではあったんですけど、岸(善幸)監督がカットをかけないことで有名で、本当にカットがかからないんです。だからそのまま打ち合いを続けて、本当に当てたし、当てられていました。でも僕は本当に当ててもらった方が断然やりやすいので、むしろそういうやり方の方が良くて。アクションに振り付けが付くとやりにくいんです。本当に殴られた方がリアルなリアクションが取れますし。だから僕は本当にやりたいタイプ。実際、撮影のとき、僕、1回意識が飛びましたもん(笑)。

意識が飛んだとは?

山田 意識が飛んでいる間はすごく長い時間が経ってるように感じるんですけど、一瞬なんですよね。いろんなことが頭を巡って走馬灯みたいになって、「俺、このまま膝をついたら屈辱だな」とか、役としても「〈裕二〉が〈新次〉に負けちゃいけない」とか、「俺も菅田に負けたくない」とか、いろいろな想いが巡って。一瞬、倒れかけたんですけど、でもその想いによってフッと意識が戻って。あの感覚は初めて味わったんですが、すごく面白かったです。

どの現場でも“実際に役を生きる”をモットーに
“本当の感情が生まれる”ということを大事にしたい

先ほども「本番は楽しかった」とおっしゃっていて、意識が飛んだことも「すごく面白かった」ということですが、どういう種類の楽しさ、面白さだったのでしょうか?

山田 この作品を撮っているときは「〈裕二〉として生きたな」という感覚がすごくありました。「本番、よーい、はい」からカメラが回り始めた後は、菅田くんとのボクシングでのキャッチボールで、言葉では言い表せないんですが、とにかく「生きてるな」という感覚で。菅田くんが〈新次〉で、僕が〈裕二〉という想いが自然と沸き上がってくる。あまり他の現場では味わえない感覚でした。決められた脚本通りに決められた動きでやっていたら“フィクション”なんですけど、この現場では予定調和にならず、脚本や振り付けも関係ないところで、岸さんはドキュメンタリーのように撮っていたと思うので、演じる側も必死でした。

すごいですね……。試合の撮影は2日間ということでしたけど、その2日間は菅田さんとどんな距離感で現場にいたのでしょうか?

山田 トレーニングから一緒になることがあったので、「あの作品を観たよ」とかお互いの出演作の話をしたりしていました。菅田くんがよく言ってくれたのが『HiGH&LOW』シリーズでの僕の役(鬼邪高校の〈村山良樹〉)がめっちゃ良くてびっくりしたということ。試合シーンの撮影の休憩でも、「次はどんな作品をやりたい?」とか、そういう普通の会話をしていました(笑)。役やシーンを引きずるというより、休憩を入れて普通の会話をすることで、1度スイッチをオフにしていたんだと思います。撮影中はお互い、〈裕二〉と〈新次〉に全力で集中していたので。

映画を観ていて、山田さんも菅田さんもヤン・イクチュンさんも命を削りながらこの役に臨んでいるんだろうなと思わせられました。

山田 本当にそういうことを感じさせられる映画というか。観る方も生半可な気持ちじゃ観られない作品だと思うんです。――と言っても、たくさんの方に観ていただきたいのでこんなこと言わない方がいいかもしれないですけど(笑)。僕は前後篇、一気に観たんですけど、久々に「すごい映画を観たな」という気持ちになりました。