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『UNDERTALE』愛さずにはいられない『MOTHER』的世界

『UNDERTALE』愛さずにはいられない『MOTHER』的世界

2017年8月16日にPlayStation®4、PlayStation®Vita版が発売し、8月22日にはSteam版の日本語対応も行われた『UNDERTALE』。アメリカの作曲家・ゲーム開発者であるトビー・フォックス氏がほぼひとりで製作した、いわゆるインディーゲームである本作は、大手ディベロッパーであればいまの時代には実現できなかったであろう独自の世界を作り出し、世界中のプレイヤーに深い感銘を与えている。『MOTHER』シリーズのエッセンスを盛り込んだレトロなビジュアル、イベントをよりいっそう印象的なものにするBGM、そして何よりも“誰も死ななくていい優しいRPG”という独特の世界を描いた本作は、単なる“レトロゲーム”では終わらないゲーム体験を提供する名作として、世界中で高い評価を得ている。

本稿では、『UNDERTALE』の生み出す心温まる、そして心をえぐる物語や独特の世界を描くのに最適化されたシステムなど、本作の魅力を追及していく。第1回では、プレイヤーを自然に作品世界へ導く個性的なテキスト、ゲームであることを最大限に活かしたその物語などから本作が絶大な人気を得た理由を追及する。

文 / 村田征二朗(SPB15)


“プレイしたい”雰囲気を生み出すテキスト 

『UNDERTALE』。本作がどのようなゲームであるか、といった説明は後述しますが、筆者がこの作品の名を見かけたのは数年前のことです。インディーゲームクリエイターのトビー・フォックス氏が開発した本作は、2015年の9月にパソコン向けのソフトとしてSteam上でリリースされました。いわゆる洋ゲーであり、当然ながらゲーム内のテキストは英語、しかもパソコン向けゲーム。普通に考えるとその状態では日本のユーザーに広がりようもない気がしますが、有志による日本語化パッチが作成されたこともあり、本作は早い段階で日本のユーザーにも広がっていきました。なお、Steam版も8月22日に日本語化に対応したので、現在はパソコンでも家庭用ゲーム機でも最初から日本語で遊ぶことができます。

本作が世界中で、そして日本で高く評価されているのは、システム的な面白さもありますが、もっとも大きいのは『UNDERTALE』という作品にプレイヤーが非常に強く感情移入できる点でしょう。作者のトビー氏がインタビューなどで語っているように、本作はファミリーコンピュータやスーパーファミコンでリリースされ、いまだに史上最高の名作と呼ばれる『MOTHER』シリーズに強く影響を受けています。おそらく本作のゲーム画面を見たときに“『MOTHER』っぽさ”を感じた人も少なからずいることでしょう。

▲丸みのあるドット絵風のキャラクターはシンプルながら愛嬌があり、絶妙な味を持っています。なお、画面中央にいる主人公は中性的に描かれており、少年としても少女としても見ることができます

『MOTHER』シリーズと言えば、キャラクターのセリフに代表されるゲーム内のテキストがシステム的ではなく個性的で、キャラクターたちは生きたひとりの人間(あるいは動物)として感じられ、ゲームの世界が優しく温かいことが非常に印象的です。そして、それはそのまま『UNDERTALE』にも当てはまるのです。本作に登場するキャラクターたちもかなり個性的、というかどちらかと言えばどこかネジが外れていることが多く、印象に残らないキャラクターのほうが少ないぐらいです。物語において重要なポジションにいるキャラクターはもちろん、名前が表示されないモブキャラクターや敵モンスターですら外見やセリフ、アクションがプレイヤーの心に強く残るのです。

▲かわいらしいキャラクターから若干得体の知れないキャラクターまで、“濃い”のひと言では済まない存在感を溢れさせています

もちろん、個性的なテキストを見せてくれるのはキャラクターたちだけではありません。ダンジョンの仕掛けから部屋に置いてある植物のように何気ないマップパーツに至るまで、何かを調べたときに表示されるテキストがどれも少し変わっていて、ちょっとくすりと笑ってしまうのです。本当に細かい部分に細かい面白さが入れ込まれているため、プレイヤーは作業的に歩きながら〇ボタンを連打してマップを調べることにはなりません。むしろ、「ここを調べたらどんなことが起きるのだろう?」、「どんなメッセージが表示されるのかな?」と自然に小さなワクワク感を持ってマップ探索をするようになります。作品の世界に自分から入り込んでいくようになる仕掛けとして、本作のテキストは非常に良い仕事をしているのです。

▲サボテンや鏡といったありふれた物を調べたときに、ただ「サボテンだ」で終わらずに主人公が見せるリアクションが退屈でもなくうるさくもなく、まさに絶妙です

また、本作のテキストを語るうえで欠かせないのが、すさまじく力の入ったローカライズです。たとえば、イケているものに憧れながらもあまりイケていない雰囲気の“パピルス”というキャラクター。彼のセリフはキャラクター名と同じ“パピルス”という名前のフォントで書かれており、英語圏のプレイヤーであれば彼のセリフを見た瞬間「ダサい奴がちょっと背伸びしている(つまりさらにダサい)」といった印象を覚えるそうです。そんな衝撃を、『NieR:Automata』の海外向けローカライズや『クラッシュ・ロワイヤル』の国内向けローカライズを行い、本作ではローカライズとパブリッシングを行っているハチノヨンがどう翻訳したかというと……、これは実際にゲーム画面を見てもらったほうがいいでしょう。

▲画面右下に立っているのがパピルス。セリフをそのまま訳すなら「サンズ!(キャラクター名)ウソでしょ! あれって……」ぐらいですが、ハチノヨンはフォントの印象を伝えるために……

▲なんとセリフを縦書きに変更! セリフの翻訳も大意を捕えつつ、キャラクター性を前に出したものとなっています

ただ英語を日本語にするだけでなく、『UNDERTALE』が生み出す独特の雰囲気、それを見るプレイヤーの体験が同じになるように翻訳を行っている本作のローカライズ。はっきり言って、ここまで力が入ったローカライズはほかにはないと思えるレベルなのです。

本作の非常にユニークな戦闘システムについては第2回で触れていきますが、戦闘中に表示されるテキストもまた味のあるものであることはここでも述べておきましょう。敵として登場するモンスターたちもまた非常に個性的で愛らしく、敵として登場はするものの憎めないキャラクターばかりです。

▲“ツンデレひこうき”や“かざんちゃん”というネーミングセンスだけでも面白いのですが、セットで登場すると専用のテキストが表示されるなど、随所で芸が細かく、テキスト探しも楽しめます

会話、探索、戦闘、あらゆる場面で表示されるテキストに細かなユーモアが盛り込まれていることでプレイヤーもゲームの世界を積極的に楽しめるようになり、それゆえに『UNDERTALE』に登場するすべてのキャラクター、そのキャラクターたちが暮らす世界に対して自然に、そして強く感情移入することができるのです。後述するストーリー展開、ストーリー構成の巧妙さもあり、プレイした後にこれほど強くゲームの世界のことを考える作品は、ほかにはないと言ってもいいでしょう。『UNDERTALE』において、プレイヤーは物語をただ見るのでもなく、ただ読むのでもなく、まさに“体験”することになります。ゲームを体験するという表現はありふれたものですが、本作はその意味を改めて考えさせ、「“体験する”ということはこういうことだ」と実感させてくれる作品なのです。