Interview

吉澤嘉代子 新作は恋の歌。季節の境目に残された主人公の切ない思いが美しい歌声とともに溢れていく

吉澤嘉代子 新作は恋の歌。季節の境目に残された主人公の切ない思いが美しい歌声とともに溢れていく

愛しい人の姿が目に、声が耳に焼きつく。それだけでなく、その人の気配が自分のそこかしこにある。そういった熱い想いと相反する、一夜にして暑さなど忘れたかのような今日のたたずまい──。美しいエロティックさとは、こういうことを言うのではないかと心から思った。
これまでも新曲を聴くたび、新作を聴くたびに、この人のソングライティングの才には舌を巻いてきたものだが、今度という今度は、ため息が止まらなかった。シンガーとしての表現にも言葉が出てこなかった。バージョン違いのふたつの『残ってる』をとおして見えてくるのは、肌と心で感じる季節の境目に、意思を持って「昨日」に残ろうとする恋する女性。ここ数年のなかで最も素晴らしい恋の歌だと思う。

取材・文 / 前原雅子

耳なじみのいい言葉を選ぶ挑戦をしてて

『残ってる』はいつ頃作った曲なのですか。

2年前の秋くらいに作りました。すでにライブでも歌ったりしてたんですけど、好きな曲なので、ちょうどいい季節に出したいと思ってたら2年も経ってました。

とってもきれいな歌詞の曲だと思ったのですが、曲ができたきっかけはどんなことだったのですか。

友達に聞いた話がきっかけです。「急に気温が下がった日、街の装いに反して一人だけ夏のままみたいな薄着で、いかにも朝帰り風な女の子が駅にいた」と聞いて。その姿が目に浮かんで、曲を作りました。ちょうど本当に秋に移り変わる季節だったので、夏の名残を街を歩きながら探し集めて。夏のなかでは輝かしいものだったのに、季節が変わって秋になると寒々しく感じるっていうのが面白いなと思って。

しかもこの曲、歌詞がかなり色っぽい。「浮かれたワンピース」姿で、前の日はどこで何をしていたの?って。

そうですよね。なんかそういう色っぽいものに、ちょっと挑戦してみたいと思って書いた曲でもあるんです。アルバム3枚を出したあと、次はどんなイメージで作っていこうかなって考えるなかで。

とはいえ色っぽい歌詞は難しくないですか。さじ加減一つで。

下品になってしまったり、控えめすぎると伝わらないかもしれないし。

でもこの歌詞は、そのあたりが絶妙ですね。

嬉しい、よかったです。

色っぽさみたいなことも、絶対に一つずつ散らばらせようと思って書いてましたね

最初からすごいことを言っているわけではないのに、ちょっとずつの蓄積が効いてきて曲終わるくらいに、もしかして、これはすごいこと言ってないか……?って思うという(笑)。

ふふふふ。じんわり蓄積が。たしかに一つ一つはそうでもないかもしれない。曲を書きながら、すごく好きな曲になりそうだったので、どのブロックにも好きな言葉だったり、好きなモチーフやシーンだったりを一つは入れようって思ってたんですね。……捨てながら書いたようなことが、一つもないものにしようって意識もしたし。そのなかで色っぽさみたいなことも、絶対に一つずつ散らばらせようと思って書いてましたね。

「捨てながら書く」というのは、どういう感覚なんですか。

一つの手法だと思ってるんですけど。言葉を軽くするっていうか、音楽を聴くときに全部が耳に引っかかってこないものにするというか……。「引っかかる」っていうのはいいことでもあるんですけど、日本語が絶えず耳に引っかかるって疲れるんですよね。だから言葉を軽くして、流れていくような言葉を積極的に使った歌詞というのが、私のなかでは捨てながら書いてるっていう感覚で。

たしかにフックのある言葉がいっぱいあると、最初はいいんですけど、だんだん疲れてくるっていうのはありますね。

私は曲を書くことを仕事にしてるので、それがいかに面白い曲かっていうことを基準に曲を聴いてしまうんですけど。そういう耳で聴いていない人、ただ楽しいものだったり切なくなるものとして聴いている人にとっては違うんだろうなぁと思っていて。最近はそういう歌詞にチャレンジしているんです。

言葉を軽くしていく歌詞に?

そうですね。私は「これが私だ」っていうような言葉でゴテゴテにした曲が好きなんです。でもそういう目線を一回捨てて、耳なじみのいい言葉を選ぶ挑戦をしてて。

「これが私だ」という曲は、過去の曲でいうと、どういう曲になりますか。

ほとんどの曲がそうなんですけど(笑)。特に『シーラカンス通り』『地獄タクシー』とかはそうですね。一つ一つの言葉に関して、それでしかない言葉を選ぼうとして、必死になって掴み取った言葉が並んでるので。昔から私はそういうのが好きで、それを3枚目のアルバム『屋根裏獣』では好きなようにやったので、一度そこから離れてみようと思ったんですけど難しいですね。それが一番苦手なことかもしれないです。心の趣くままに、みたいに余裕を持って作るのがすごい苦手なんで。どうしても「これもダメだ」「あれもダメだ」って詰めちゃうほうなんで。

曲を作っていると、ついつい、いつもの自分が。

出てきちゃうんです。でも前回のシングル『月曜日戦争』も挑戦して書いた曲です。曲だけで100%完結するものじゃないというか、何かを彩るものというか。そういうことを意識して最近はやってますね。

ライブではピアノやギターの弾き語りで歌うことも多くて。それもすごく好きだったので

ところで『残ってる』は2バージョン収録されていますが。

作ったときはバンドバージョンのイメージだったんですけど、ライブではピアノやギターの弾き語りで歌うことも多くて。それもすごく好きだったので。どっちも入れようっていうことになりまして。ツアーや制作でご一緒してる伊澤一葉さんの王子様的な感じがいいなと思って(笑)。すごくロマンチックなピアノなので。

これはピアノと歌を同時に録ったのですか。

最初は「せーの!」で録ったんですけど、そのあとピアノをまた録音したりして。そしたら歌も、もっとこうしたらいいんじゃないかってことになって、イタチごっこのようにめっちゃ録音しました。その途中で伊澤さんが弾いた別のフレーズがすごくキュンときて、「今のすごくよかったです」と言ったら、「あ、あれ間違えてたんだよ」って。その間違えたフレーズがすごく素敵だったんで、そのまま採用したりとか。そうやって一緒に相談しながら作れたので、今までのなかでも気に入ったテイクになりました。

楽器一つとボーカルだけって、一度「これでいいのかな……」って思うと大変なことになったりするみたいですね。

そうなんですよね、もう2人でやってるんで、どっちも迷っちゃうと2人で悩みに入ってました。「ダメだ……」「これじゃない……」って、それぞれ自分に言ってるみたいな感じで。最終的にお気に入りにものができてよかったです。

自分が作った歌っていうところから切り離されたような感覚があって

1曲目のアレンジはゴンドウトモヒコさんにお任せして?

アコースティックギターがメインっていうのは伝えました。あとゴンドウさんは菅楽器を演奏されるんで、何かエキゾチックなメロディーラインが入ったらいいなぁって相談して作ってもらいました。

同じ曲でも、これだけスタイルが変わると、歌う気分もかなり変わるでしょうね。

変わりますね。バンドバージョンは感情爆発みたいなパワー系で歌ったんですけど、ピアノのほうはもうちょっと感情を抑えて歌おうと思ってましたね。ただピアノと歌のほうが音が少ないぶん、感情が見えてくる感じはありますね。なんか全部さらけ出されてしまうというか。

ピアノのほうも、ある意味、感情爆発なのかもしれないですね。

ただ歌ってるときは、ちょっと不安でした。バンドバージョンとピアノバージョンの録音日が、あまり間隔があいてなかったんで。レコーディングって自分のなかに封じ込めるつもりで録るんで、正直なところ、ピアノのときは自分のなかの感情がほとんど残ってなかったんですね。だから大丈夫だろうかって思ってたんです。だけどミックスのときに、なんかこう、自分が作った歌っていうところから切り離されたような感覚があって。それですごい涙が出てきたんですよね。「あ……、これはもう私の曲じゃなくなった」って思って。変な言い方ですけど、誰かが歌ってる曲として自分のなかにスッと入ってきたので。曲が手元を離れた瞬間っていう気がして。

かなり早いタイミングで手が離れてしまった、と。

普通はもっと時間がかかるのに、立て続けに2回も録ったからだと思うんですけど。でも……、なんかいいなって思いました。

普段は目立たない町娘が真夜中にお化粧をして女怪盗になるっていう話が浮かんで

そして3曲目はSHISEIDO“インクストローク アイライナー”Web CMソングでもある『怪盗メタモルフォーゼ』。

コマーシャルバージョンなんで短いんですけど。これも気に入ってる曲だったので、入れちゃいました。

この曲はCMに使われる前提で書いた曲ですか。

そうです、お話をいただいて書き下ろしをしました。

CMの前提で。

そうですね。これこそ言葉を軽くするみたいな感じで書いていきました。映像があって、そこに足されるものとしての曲なので。だからスッと入ってくる言葉にしよう、サビは特にそうしようかなと思って書きましたね。それも自分が今やってみたいことだったので。イメージとしては、普段は目立たない町娘が真夜中にお化粧をして女怪盗になるっていう話が浮かんで、それをもとに書いています。
アイラインがちょっと墨や筆みたいな和風がテーマになったものなので、黒墨っていう言葉を入れてみたり。そんなイメージで作っていったんですけど、楽しかったです。

アイラインから真夜中の怪盗が浮かぶという、その発想もすごいですね。

お化粧→変身→怪盗だったのかな。なんか私は、自由になるのは外に出ていくよりも、もっと内省的なもので自由になるっていう考え方で。目を開けることによって旅に出るというより、目を閉じることで自分のなかに戻る旅に出るっていう傾向があるので。

インナートリップ。

そういう傾向がすごくあって。でもこれ、まだコマーシャルのバージョンなので。いつかフルサイズで書きたいなと思ってます。

吉澤嘉代子として普通にお喋りするようなライブにしようと思って

そしてリリース後は「お茶会ツアー2017」ですね。

今まではカッチリした構成でライブをお届けすることが多かったんですけど、今回はもうちょっとお客さんとコミュニケーションをとれるというか。吉澤嘉代子として普通にお喋りするようなライブにしようと思って。なので会場も趣のあるコンパクトな場所にして、ギターのKASHIFさんと私でやってみようと。MCは得意じゃないので、かなり心配ですけど(笑)。でもとっても楽しみにしています。

その他の吉澤嘉代子の作品はこちらへ

ライブ情報

吉澤嘉代子 「お茶会ツアー2017」

10月23日(月) 浜松 窓枠
10月28日(土) 札幌 Fiesta
10月29日(日) 仙台 retro Backpage
10月31日(火) 青森 1/3
11月02日(木) 京都 紫明会館
11月05日(日) 福岡 住吉能楽殿
11月06日(月) 熊本 早川倉庫
11月08日(水) 長崎 旧香港上海銀行長崎支店記念館
11月12日(日) 名古屋 三楽座
11月13日(月) 横浜O-SITE
11月17日(金) 岡山 MO;GLA
11月18日(土) 神戸 月世界
11月20日(月) 東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
11月21日(火) 東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

その他のライブ、イベント情報は
http://yoshizawakayoko.com/schedule/live.html

吉澤 嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場育ち。
ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに2014年メジャーデビュー。国内の大型フェスヘ出演し、全国ホールツアーを成功。
私立恵比寿中学や、松本隆との共作によりシンガークミコへ楽曲提供も行う。
バカリズム作ドラマ「架空OL日記」の主題歌として「月曜日戦争」を書き下ろす。
10月4日 2ndシングル「残ってる」をリリース。

オフィシャルサイトhttp://yoshizawakayoko.com