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「女の人が黙っているとそこになにかあるような感じがする」。市川準監督は女性に希望をもっていた。犬童一心監督インタビュー(後編)

「女の人が黙っているとそこになにかあるような感じがする」。市川準監督は女性に希望をもっていた。犬童一心監督インタビュー(後編)

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企画者 犬童 一心 プロフィール

犬童一心 Isshin INUDO

映画監督/CMディレクター。高校時代より自主映画の監督・製作をスタートし、大学卒業後はCM演出家としてTV-CMの企画・演出を手掛け、数々の広告賞を受賞。 その後、長編映画デビュー作となる『二人が喋ってる。』(97)が、映画監督協会新人賞を受賞。1998年に市川準監督の『大阪物語』の脚本執筆を手掛け、本格的に映画界へ進出。 1999年に『金髪の草原』で監督デビュー。2003年には『ジョゼと虎と魚たち』にて第54回芸術選奨文部科学大臣新人賞、「メゾン・ド・ヒミコ」(05)で第56回文部科学大臣賞を受賞。 以後、『タッチ』(05)、『黄色い涙』(07)、『眉山 びざん』(07)、『グーグーだって猫である』(08)等、話題作を発表し、『ゼロの焦点』(09)で第33回日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞・脚本賞、『のぼうの城』(12)で第36回日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞を受賞。 近年の作品には『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(14)、WOWOW『連続ドラマW 夢を与える』(15)等がある。


市川準監督と言えば、「金鳥 タンスにゴン」や「ヤクルトタフマン」、「サントリーオールド」といった数多くのヒットCMを生み出してきたCM演出家として知られていますが、とりわけ「三井のリハウス」シリーズは初代の宮沢りえさんをはじめ、池脇千鶴さんや蒼井優さん、夏帆さんといったリハウスガールを輩出し、映画や芸能の世界に影響を与えてきました。
「三井のリハウス」をはじめ、CMで出会った女の子たちを起用した市川作品には、いまだ褪せない女優たちの姿がそこにあります。今回の「市川準監督特集2015 市川準と女優たち」は、市川監督と彼女たちが創りだした作品世界に触れられる貴重な機会となりそうです。犬童監督の知る、市川監督と女優たちについて、うかがいました。

辛い状況に置かれていても “マドンナ” なんです

今回の特集上映についてですが、上映される作品の中で特におすすめの作品をお聞かせください。

まず「BU・SU」(1987年)なんですが、今回、これを上映したかったということがありました。「BU・SU」はもうフィルムがなくて、フィルムセンターで数年に一回しか見られない状況なので、劇場で見たかったということもあります。それで、宮久保支配人に現像所を探してもらいました。「BU・SU」は市川監督の処女作だし、なんと言っても、80年代を代表する青春映画なので、いまの若い方にもぜひ見てもらいたいです。

宮沢りえさんと仕事した「トニー滝谷」も素晴らしい。これもぜひ久しぶりにフィルムで見たかったんです。個人的にこの2本です。それと「東京兄弟」もフィルムがなかった。自主映画みたいで、これぞ市川準映画と言える作品です。「トニー滝谷」は村上春樹さんの原作があるので、原作の力を借りていると思いますが、「東京兄弟」は市川さんが好きなことをやっている作品だと思います。

難しい質問かもしれませんが、あえて選ぶならもっとも好きな市川監督作品はどれですか?

そうですね。一番好きなのは「トニー滝谷」でしょうか。あの実験精神に惹かれます。「BU・SU」や「大阪物語」の小林さんのあたたかい感じも好きなんですが、「トニー滝谷」は広川泰士さんのクールなタッチもなかなかです。

今回、女優にフォーカスした特集ということですが、市川監督は女優をどのように描いたとお考えですか?

市川さんの描く女性というのは、寡黙な人が熱いものを持っている、という感じがするんです。饒舌じゃない、口数が少ない、不器用で世の中にハマっていけていない。それぞれの作品で違う女優さんが演じているのですが、それがどれも、おなじ人のイメージがあるんです。辛い状況に置かれていても “マドンナ” なんです。

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女優さんによる部分もあるのだと思いますが。

あまり余計な事を考えない方がいいんだと思います。ご当人はなにも考えていなくて、なにか持っているような感じがする。そういう想像をさせることができるかどうか。つかこうへいさんがエッセーの中で、ある質問に男の子が答えると間違いだと言い、おなじ答えをしても女の子だと正しいと言う。その理由は背景が感じられるかどうかだ、と言うのです。そういう意味では、新人の女優さんはよかったんだと思います。その点、「東京夜曲」の桃井かおりさんは大変だったでしょうね。実質的に背景が見えるんですから。

「女の人が黙っているとそこになにかあるような感じがする」。市川さんの世代って、そういうことを強くもっている世代なんじゃないかと思います。実は僕は、本気でそういうふうに女優さんは使えないのです。市川さんは女性に希望をもっていたと思います。だから、女性の視点で物事を見ていくことができたんだと思います。

監督にとって、女優とはどのような存在ですか?

監督によって、女性に仮託したくなる人とそうでない人がいると思うんです。例えば、黒澤明は男性、溝口健二は女性、ロベール・ブレッソンは客観。市川さんは女性だと思います。僕の場合、どちらかといえば、女性なんですが、「黄色い涙」(2007年)での二宮和也さんはよかった。そういう意味では俳優、女優ではなく、役者さんによるといったところでしょうか。

宮沢さんって「ベルリン天使の詩」の元天使みたい

3回に渡って行われる対談のみどころについてお聞かせください。

最初の成海璃子さんは、市川さんとまったく違う世代なので、どう青春を捉えているか、成海さんがどういう見方をしていたのか興味深いと思います。鈴木秀幸さんとは(脚本を書く)同じ立場として、現場で市川さんにどう壊されたのか。これは佐藤信介さんもそうなんです。そのあたりを語り合うようになると思います。

最後の宮沢りえさんは、市川さんが村上春樹原作をどうしようとしていたかが聞けるといいなと思っています。市川さんと何本も一緒にCMを撮っている宮沢さんから、市川さんが人としてどういう人だったのか聞けるのが楽しみです。それと「トニー滝谷」に出演をオファーして、OKをもらった時に、市川さんがとっても喜んでいたんです。それで宮沢さんにどうたのんだか、お聞きしたいです。

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宮沢りえさんとの対談は見逃せませんね。

宮沢さんって、浮世離れしている感じがするんです。言ってみれば、「ベルリン天使の詩」(監督:ヴィム・ヴェンダース、1987年)に出てきた元天使のような存在。ちょっと浮いている感じ。そんな宮沢さんとお話できるのを僕も楽しみにしています。

最後にエンタメステーションの読者にメッセージをお願いします。

市川準監督の映画は、良質な大人の映画だと思います。ぜひ、女性と一緒に見て、しみじみしてほしいと思います。映画を見た後に、静かな店に行って、一緒にお酒でも呑みながら、ゆっくり話していただきたいですね。市川作品はそういう映画だと思います。

本日はありがとうございました。上映、対談どちらも楽しみにしております。

インタビュー / チバヒデトシ 写真 / 吉崎 貴幸

犬童一心監督インタビュー(前編)