Interview

アニメ『クズの本懐』OP曲「嘘の火花」で注目の96猫が豪華2枚組アルバムを発表。多彩な歌声を聴かせる本作で彼女が見せるこだわり

アニメ『クズの本懐』OP曲「嘘の火花」で注目の96猫が豪華2枚組アルバムを発表。多彩な歌声を聴かせる本作で彼女が見せるこだわり

ニコ動発の女性シンガー、96猫がアルバム『O2O(オーツーオー)』をリリースした。GLAYのHISAHIが参加したことでも話題を呼んだ前作『Brand New…』から約2年9ヵ月ぶりとなるフルアルバムは、アニメ『クズの本懐』のOPテーマ「嘘の火花」などのオリジナル曲を収録した“オリジナル盤”と、ナノウ「ハロ/ハワユ」などのボカロ曲のカバーを収録した“歌ってみた盤”の2枚組となっている。2006年から「歌ってみた」の投稿を開始し、2016年6月にミニアルバム『Crimson Stain』でメジャーデビューを果たした彼女が、オンラインからオフラインへ、ネットからリアルへと活動の幅を広げた今もなお、「歌ってみた」にこだわる理由を訊いた。

取材・文 / 永堀アツオ

結局は、自分の歌いたいように歌っていいんだなって

前作『Brand New…』はタイトルどおり、ここから新しく歩み始めるんだという決意が込められました。そこからの3年間はどんな日々でしたか?

環境がガラッと変わったことで、いろんなことが変わったんですけど、その中でも歌い方がいちばん変わったなって思います。去年の11月に出したメジャーでは2枚目のミニアルバム『7S』の頃は、特に歌い方に迷っていて。メジャーで出せたことでそれまで知らなかった人が知ってくれる機会が増えて。それは純粋に嬉しいことだったんですけど、いままでの96猫を知っている人と、メジャーデビュー以降に好きになってくれた人、どっちに向けて歌えばいいのかわからなくなってしまって。例えば、癖の強い歌い方で歌うと、「歌ってみた」から入ってくれた人は喜んでくれるけど、「嘘の火花」から入ってくれた人はびっくりしちゃうんじゃないかなっていう心配があったり。どういう歌い方で歌うのがいいのか悩みました。でも、最近知ってくれた方にも「癖のある歌い方が好きだ」とか言ってもらえて。結局は、自分の歌いたいように歌っていいんだなっていう結論が見つけられたので、今回のアルバムでは特に気にせずに、好きなように歌いました。

今作は、メジャーでは1枚目、通算5枚目のアルバムになりますが、制作前はどんな作品にしたいと考えてました?

「歌ってみた」とオリジナルを半分半分っていうのはずっと決めてました。やっぱりメジャーでフルアルバムを出すってなったときに、全曲オリジナルだけでいくのは違うなと思って。「歌ってみた」のカバーから知ってくれてる人が多いので、そこを切り捨てずに残しつつ、オリジナルも含めてアルバムにしてメジャーから知ってくれた人にも両方聴いてもらえるようにと思いました。

その想いがタイトル『O2O』にも表れてますよね。

そうですね。“ONLINE TO OFFLINE”の略語なんですけど、“ネット上の96猫”と、リアルでライヴをやってる、パソコンの電源を落とした“現実の世界の96猫”っていう意味があリます。「歌ってみた」とオリジナル、その二面性というか。

「歌ってみた」とオリジナル、ネットとリアル、オンとオフは96猫さんの歌い手/シンガーとしての活動にどんな影響を与え合ってますか? ニコ動で人気が出てメジャーデビューしたあとは、オリジナルしか歌わない歌い手さんもいらっしゃいますが。

私にとってはどちらもかけがえのないものですね。どちらかひとつが欠けちゃったら、私じゃなくなる。オンラインもオフラインもそれぐらい大事なものかな。だから、今の私はどちらも続けていきたいと思ってます。人前が苦手なのでライヴが嫌になったときはオンライン上で歌うし、外の空気を吸いたいな、新しいことしてみたいなっていうときはオフラインになるかもしれないし。家を出て外出したり、帰ってきたりするみたいな感じですね。ネットが家。「ネットの料金払い損ねたら終わりだぜ!」って思ってますから(笑)。

らしさが言葉にできなくて。おそらく、気づけば出てるものだと思う

(笑)では、“オリジナル盤”と“歌ってみた盤”の各10曲の中から“オリジナルから入った人”(以下、新規)と“「歌ってみた」から知ってる人”(以下、古参)のそれぞれに96猫さんのオススメ曲を挙げてもらえますか?

最近知ってくれた方は、やっぱり「嘘の火花」がきっかけの人が多いと思うんですよね。ボカロ系をまったく知らない方からすると、「なんだ、この早い曲。息継ぎできねーな!」ってなっちゃう曲だと思うんですけど(笑)、個人的には何度も録り直したという大変な思い出があって。最初は少女漫画(『クズの本懐』)だからというのもあって、普段とは真逆の少女少女した感じで歌ってたんですけど、あまりにも96猫要素がないんじゃないかっていう疑問があって。アニメの制作サイドにお渡しする1週間前に急遽、「もう一回だけ録らさせてください」ってお願いして、こっちがいいなって思う歌い方で歌ったものを起用していただけたんです。

96猫さんはロートーンのセクシーな女性の声から中性的な声、キュートなアイドル声まで、多様な歌い方や声色を使い分けてますよね。“七色の歌声”と称されるほど多彩な中で、ご自身が考える“96猫要素”っていうのは?

ないんですよね。らしさが言葉にできなくて。おそらく、気づけば出てるものだと思うんですよ。だから、「96猫らしさを出してよ」って言われても出せないし、「96猫らしさを消してよ」って言われても消せない(笑)。なんて言うんだろう……形のないもの、言葉にできない部分、無意識に出てしまうところに、らしさがあるのかなって思います。ただ、「嘘の火花」に関しては、私じゃなくてもいいよねっていうくらいの歌い方で歌ってたので。その場にいたスタッフさんにも「96猫ちゃんぽさはないね」って言われてて。そのときも「私らしさって何だろうな?」って考えたんですけど、無理して歌わないことかなって思います。

自分が思うがままに歌うっていうこと?

そうですね。思うがままに歌ったうえで、ディレクターさんとかに言われた要素を足す。引くんじゃなくて、足すことなのかなっていうのは学びましたね。

一曲一曲、主人公のキャラクターと背景を想像して、そこから歌い始めます

どの歌声でいくかはどうやって決めてるんですか?

曲を聴いたときの第一印象でぱっと出てきた歌い方でいつも歌ってます。基本的には、勝手に人物とか物語を作っちゃう感じですね。ただ、「嘘の火花」に関してはアニメだったので、主人公の花火ちゃんを思い描きながら歌いました。それ以外は一曲一曲、主人公のキャラクターと背景を想像して、そこから歌い始めます。

シングル曲以外に新規ファンにオススメしたい曲は?

奥華子さんと共作した「MOTHER」かな。これは、結婚式とか母の日とかに歌って欲しい曲ですね。

この曲ではどんなキャラクターを想像しました。

この曲に関しては、ファンの人に向けてでもなく、自己満足になりますが自分の母に向けて歌ったので、歌い方も人物も自分ですね。本当にそのまま歌ってます。

母親に対するどんな想いを歌ってますか?

母子家庭だったので、母は朝昼晩とずっと働きに出ていて一緒に過ごす時間もあまりなかったんです。反抗期はよく喧嘩もしていたけど、それでも、いつもいちばん身近にいてくれたなっていう感謝の気持ちがあって。あんまり泣かない人なんですけど、ある日の夜、泣いてる姿を見ちゃったんです。母が普段、いろんなつらいことを我慢して頑張ってくれてたんだなっていうことに気づいてからはもう、母に感謝しかなかったですね。だから今、親と喧嘩しちゃってる人とか両親が嫌いだって思ってる人がいたら、親が自分たちに見せない部分も見てあげて欲しいなって思いますね。

歌うことに関しても応援してくれてました?

してくれました。もともとは声優を目指していて。オーディションを受けるときも「費用、払ったるよ!」って言ってくれたり。一度あきらめようとしたときには教材をいろいろ買ってくれたり。パソコンでコソコソ生放送してたときなんて、マイクを買ってきて「あんた、これ使って」って(笑)。いつも背中を押してくれました。

のちに、アニメ『影鰐-KAGEWANI-承』で声優デビューも果たして、アニメの主題歌も歌うようになっているので、いろんな夢が叶ってますね。

ありがたいことに。母も「頑張ってるね」って言ってくれてて。でも、『7S』のときに歌い方に迷っていたのは、なぜか母には伝わっていたようで、「あんた今回、ちょっと面白味ないで」って言われました(笑)。

あはは。お母さん率直ですね。

頑張って作ったアルバムなんやけどなって(笑)。コラボ曲が多かったのもあると思うんですけど、「相手に合わせ過ぎてるよ。もっとあんた感を出したほうが良かったんちゃう?」って言われて。厳しい意見もありがたいなと思いながらやってます。