佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 13

Column

「ロックンロールがオレたちを出会わせてくれた」

「ロックンロールがオレたちを出会わせてくれた」

10月9日の夕方、日比谷野外音楽堂でロックンロールの魂に出会ってきた。

RCサクセションの「雨上がりの夜空に」の音源が、秋の青空にフルコーラスで鳴り響いてから、67歳を迎えた仲井戸麗市のバースデー・ライブは始まった。

出演したのはCHABO BAND、早川岳晴、河村カースケ智康、Dr.kyOn、片山広明、梅津和時、仲井戸麗市というメンバーである。

デビュー45周年を機に2015年に発表したオリジナル・ソロ・アルバム『CHABO』は、このメンバーによって制作された作品だった。しかし日本の音楽シーンで引く手あまたのメンバーたちは、スケジュール調整がままならず、その年はライブができなかったという。
だからコンサートの中盤でそのアルバムから「QUESTION」、「雨!」、「ま、いずれにせよ」、「歩く」と続けて初披露してくれたのだが、素晴らしいコンビネーションでライブならではの圧倒的な説得力に満ちた演奏となった。

コンサートが始まってから2時間半が過ぎたところで、本編の最後となる曲を演奏する前に、チャボ(仲井戸麗市)さんがこう言った。

「ロックンロールがオレたちを出会わせてくれた。オレたちにはロックンロールがあったから、(観客席を指して)みんなここにいるんだよな!」

その言葉にうなずいていると、「My R&R(マイ・ロックンロール)」が始まった。1番はビートルズ、2番がジミ・ヘンドリックス 、そして3番ではミシシッピ・デルタ・ブルースが出て来る。 それはチャボさんの個人史における、ロックンロールとの出会いなのだ。

「My R&R(マイ・ロックンロール)」
作詞・作曲・歌:仲井戸麗市

何処でもない何処からか
やって来たのなら
何処でもない何処かへ
帰って行けばいいサ
身体に流れる血は どこの国の色もない
とりたてて何処かアジアの色なども流れてない
覚えた事は自分を知ろうとすること
事のはじまりは 例えばそれは
俺ならTHE BEATLES…oh yeh

そして、ぼくの個人史におけるロックンロールとの出会いは、RCサクセションが大胆なアレンジでカヴァーした「上を向いて歩こう」だった。

忌野清志郎が誰でも知っている坂本九さんの歌を、発売から18年後にとりあげて「日本の有名なロックンロール」と言った時、この歌には新しい命が吹き込まれたのだと思っている。

ところでぼくがひそかに待ち焦がれていた忌野清志郎の、もっとも彼らしい歌を聴くことができたのは、アンコールの2曲目だった。
新宿に生まれ、新宿に育ったチャボさんが都営アパートに家族と住んでいた頃、知り合ってまもない清志郎さんがよく泊まりに来て、という話が枕になっていた。

チャボさんはそのときに清志郎さんがうたってくれた歌を聴いて、「こんな歌をうたうやつと友だちになりたい」と思ったのだと語り、「RCの、マイナーだけど大好きな曲」と付け足して、バンドとともに「お墓」を歌い始めた。

「お墓」
作詞・作曲:忌野清志郎 歌:RCサクセション

ぼくのこの愛は二度と燃えないはずさ
ぼくの心は冷えてしまった 冷えてしまった 冷えてしまった
あまりに大きかった失望が ぼくのこの目を変えてしまった
ぼくの心を変えてしまった ぼくの頭を変えてしまった
変えてしまった 変えてしまった

ぼくのあの人は二度と戻らぬはずさ
ぼくは心を閉じてしまった 閉じてしまった 閉じてしまった
あまりに苦しかった毎日が 僕のこの目を変えてしまった
ぼくの心を変えてしまった ぼくの頭を変えてしまった
変えてしまった

あまりに冷たかったお別れが ぼくのすべてを
変えてしまった 変えてしまった 変えてしまった

ぼくはあの街に二度と行かないはずさ ぼくの心が死んだところさ
そしてお墓が建っているのさ
Na na na na……

まっすぐすぎる「お墓」というタイトルからしてそうなのだが、「変えてしまった 変えてしまった 変えてしまった」と、何度も繰り返される歌詞からは少年の純粋な心、清志郎さんらしい純潔な思いが朋友のチャボさんを通して、切々と伝わってきた。
歌はこうしてうたい継がれていく。
そして心の叫びや言葉にならない思いは、音楽として受け渡される。

この歌がその昔、チャボさんと清志郎さんを結びつけたのかと思うと、2017年の10月9日に日比谷野外音楽堂にいて、チャボさんがギターを弾きながら歌っている場に自分がいることにも、個人史の中での必然性を感じずにはいられなかった。

というのも、つい先ごろ出版された本、2段組464ページの「ON THE ROCK仲井戸麗市“ロック”対談集」を読んだことで、三浦友和さんや佐野史郎さん、ピーター・バラカンさん、金子マリさん、カルメン・マキさんなど、24人の人たちと語り合うチャボさんの話から、触発されるものをたくさん受け取っていたからだ。

ぼくはここ数年、自分がじかに見聞きしたことだけでなく、たくさんの先駆者たちの著書や音源、インタビューなどの資料にあたって、日本の音楽史をあらためてたどって事実と真実を調べることに力を注いでいる。 音楽に出会ったことで喜びや自由を感じて、いま生きている自分がいることに感謝し、知っていることを今の若い人たちにも、できるだけ正確に残して、役に立ってほしいと思うからだ。

そういう意味でもこの本はとても貴重な時代の証言集であり、大切なエピソードをたくさん知ることができた。
この日も日比谷野外音楽堂に向かう途中に、小林克也さんのこんな言葉に出会ったばかりだった。

「ロックとは何か?」と聞かれたら生き方ですよね。生き方でしかない。そうした広い意味で言えば、アナウンサーにだってロックはあるんですよ。

コンサートの本編で聴いて感銘を受けた「歩く」という歌が、とりわけ強く印象に残ったのは、そのことをテーマにした歌だったからなのだろう。

「歩く」
作詞・作曲・歌:仲井戸麗市)

僕らは何を手渡され
何を手渡してゆく
僕は今誰に何を手渡され
今 誰に何を手渡してゆく
ゆく 歩く

チャボさんはこの日、アグレッシブな試みの新曲も聴かせてくれた。
ぼくが13歳で出会って以来ファンになったバンド、ザ・ローリング・ストーンズのなかで、もっともたくさん聴いたアルバム『アフター・マス』と同じタイトルだと言われて、期待がふくらんだその歌は、裁判官という言葉で始まったように思う。
歌詞の中には執行猶予や情状酌量といった、硬くて怖さを感じさせる単語が出てきて、最後に「ヘルプ・ミー」という主題が繰り返される。

大人たちの無理解によって社会から切り捨てられた、少年少女たちの悲痛な叫びをとりあげていたその歌は、2017年の日本人に向けた痛烈なメッセージ・ソングで、「お墓」にも通じるものだったことに驚かされた。

最後の最後に「67なんて、まだ小僧だ」と言っていたが、チャボさんは小僧であるがゆえの純粋さを抱いたまま、ロックンロールとともに我が道を歩いてゆく。

だからそう、ぼくも今日を歩いてゆく。
そして、ときどき自分にこう語りかける。

「上を向いて歩こう」


著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

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