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布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<前編>

布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<前編>

昨年の35thイヤーを全力で駆け抜けた布袋寅泰が、ニューアルバム『Paradox』をリリースする。日本語で歌うオリジナル・アルバムとしては、4年ぶりとなる。
布袋自身による作詞はもちろん、盟友の森雪之丞、小渕健太郎(コブクロ)、いしわたり淳治、高橋久美子(ex.チャットモンチー)といった個性的な作詞家たちを起用して、世界で活躍する布袋ならではの視点で2017年の“Paradox=矛盾”を描き出す。またサウンド面では日本と海外の傑出したミュージシャンやエンジニアたちが結集して、これまで以上に鋭く優しい“布袋ワールド”の構築に力を貸している。何より素晴らしいのは、こうした叡智を漏れなく音楽に落し込んだ布袋のプロデュースワークだ。
快心の傑作『Paradox』の全曲を、布袋寅泰自身に語ってもらった。

取材・文 / 平山雄一

普通は「Amplifier」と書くところを「fire」にして、感情の炎を増幅させる音楽=ロックへの思いを込めました

1「Amplifire」

「Amplifire」は、基本的にワンコード。ほとんど一個のコードで押し通してますね。

そうですね。あんまり飾りたくないって思っていて。コードだけじゃなくて、歌詞も飾りたくなかった。日本語って難しいから、ついつい説明的に「♪僕は~こういう理由で~こうしたのに~」っていうように使っちゃうんですよね。そして歌い回したくなっちゃう。実際、自分もそうだったし、自分が作ってきた音楽を日本で聴くと違和感が全然ないけど、向こうで聴くとすっごくうるさく感じるんですよ(笑)。絵でいえば、色の使い過ぎというか。海外では、同じものを描いても無骨でシンプルな表現になる。ワンコードのリフでどれだけ踊れるかという感覚を大切にした。その方がシンプルで歌詞も届くしね。聴いていても気持ちいいですよね。僕にも昔からそういう志向はあったけど、ついついいろいろ展開したくなる癖があって。それが今回、ドシッと構えて、あえてカーブを切らないで走りきったことで、言葉をしっかり際立たせることができたと思う。

それにしても今回は、いつにも増して“ギター・リフの宝庫”(笑)。リフの一発勝負ですね。

そうですね。あんまり細々としたことをやらず、ひたすらリフに集中できた。ギタープレイもいよいよ理想的なところに来れたな、と感じています。

ギター・リフ一発勝負が、歌詞の表現にもギターの表現にも、すべてに関係してるんですね。

そう、それが36年目の布袋寅泰ですよ。

ここまで来たぞっていう。

これが、昔はできなかった!(苦笑)

ははは!

タイトルの「Amplifire」は造語です。普通は「Amplifier」と書くところを「fire」にして、感情の炎を増幅させる音楽=ロックへの思いを込めました。

2「Pandemoniac Frustration」

これは森雪之丞さんの作詞ですね。世界の危機が、かなり具体的に書かれている。

いや、元はもっと具体的だったんですよ。危険なくらい。でも具体的なものを、いかにメタファーとして音楽にするかっていうのがこの曲のテーマだったので、ビートに乗せながらいろんな言葉をパズルのように組み合わせて、何度も書き直してもらいました。

神様がいるのかいないのか?今や神の名を騙ってテロリズムは起こるわけじゃない?これこそ矛盾もはなはだしい。だって、敬虔なイスラム教徒たちはそんな考えを持っていないだろうし、神様だってきっと「私はそんなこと言ってないぞ」って嘆いているに違いない。この曲は辛辣なブラックジョークで、神様がニュース番組で独占インタビューを受けたら、画面に向かって中指立ててペロリと舌を出すという、非常に森さんらしい演劇的でマンガっぽい歌詞です。

そこが森さんらしい!

森さんしか書けない世界だよね。サウンドは非常に重厚で、僕らの大好きなデヴィッド・ボウイの「ファッション」や「ゴールデン・イヤーズ」などにも通じるヘヴィーでアバンギャルドなダンスミュージックになってる。クスッてきちゃうけど、シリアスで笑うに笑えないみたいな。

特に今の世の中ではね。

うん。ブラックでシニカルに仕上がって、僕はとても気に入ってます。

3「Dreamers Are Lonely」

「Dreamers Are Lonely」っていうタイトルがすごい!

サビの「♪Dreamers Are Lonely~」の部分は、はじめからメロディにこの言葉がついていましたね。

これは「夢見る人は、孤独だ」と、ひと言で言い切っちゃってます。

この曲は、自分が夢を追い求める限り、歌い続けてゆくべき曲たど思います。決してキレイなだけの曲じゃない。僕にとっては今まさに血のにじむような想いもしてるだけに生々しいし、今さらただ無責任に「夢を追いかけようぜ」なんていうつもりはない。僕を支えてくれたファンの皆も夢を追って年を重ねて、上手く行った奴もいれば上手く行かなかった奴もいる。挫けても何度もやり直してる奴だっているかもしれない。最早、僕とファンは30年も一緒にいるわけですから、「元気でやってるか?」っていう想いと同時に、「もうちょっと向こうまで行こうぜ」っていう想いを込めました。

ボーカル以外はほとんどヘッドホンをしないで録った。そのリアルな空間の中で探した音が、結果、すごくピュアでしたね

4「ヒトコト」

僕は「ヒトコト」が、このアルバムの中でいちばん好きなんです。

あ、そうなんですか?嬉しいな。

何かに静かに怒ってる感じが、すごく面白かった。

あー、なるほどね。

これは布袋さんが自分で歌詞を書いてますね。

うん。僕もこの曲はすごく気に入っています。大切な言葉を淡々とメロディに乗せながらも、どんどん高揚してゆく感じ。綺麗な曲ですよね。

ギター・ソロも思いっきり弾いてますね。

でもきっと前だったらもっとディトーションきかせて音を歪ませていただろうし、アームを使ったり、エフェクトをかけたりしてもっと装飾をしてたかもしれませんね。今回はあえて歪みやトーンを抑えて、フレーズも過剰にならないように集中して録りました。

狂ったような感じではなく?

うん。もうあれは封印です!

わはははは!

まあ、ライブではどうなるかわかんないけどね(笑)。

ギターが口笛みたいなタッチで、自然な感じがしました。

そうですか?ナチュラルに歌ってるっていうことだよね。それは嬉しい表現だな。これ、実はデモのソロなんですよ。あのソロは一人で3時間ぐらい弾いてました、デモなのにね(笑)。

デモのソロなんですね。

そのデモのソロを聴きながらザッカリーがドラムを叩いてくれたんだけど、印象深かったのはミキシングブースから彼が叩いてる姿を見ていたら、ソロがキュイーンて気持ち良く上がるところでニヤッて笑うわけですよ。そこに反応して派手なフィル(注:ドラムの装飾フレーズ)が来るかなって思ったら、ニヤッと笑うだけであえてフィルを叩かなかったんですよね(笑)。そういう音の隙間を――

埋めないほうがいいなっていう。

そう。ドラムって普通、8小節や16小節ごとにフィルが来るじゃない。彼はストイックに叩かない。最終的にデモのソロを使えたのは、1音1音を大切にプレイしてくれたザッカリーのおかげかな。新たにソロを弾き直すっていう気持ちにはなれなかったんだよね。

まさに響き合ったテイクだったんですね。

うん。それと今回は、自分のプライベート・スタジオで歌やギターなどを録音したのも大きい。小さなスタジオなんだけど、スピーカーだけは奮発して良いのにしたのね。それがホントに分離や音圧が素晴らしい音で、リバーブやEQをかける必要がないくらい。ボーカル以外はほとんどヘッドホンをしないでスピーカーに向き合って録音した。そのリアルな空間の中で探した音が、結果的にとてもピュアな表現に繋がりましたね。この「ヒトコト」のソロは、その空間の中に漂いながら最高に気持ちよく弾けました。

5「Paradox」

アルバムのタイトル曲「Paradox」は?

「Paradox」=「矛盾」というテーマをどのように表現するか? でも、矛盾を表現すること自体が矛盾なんじゃないかって。そんな話をしてたら、森さんが探してきた言葉が面白かった。「張り紙禁止の張り紙」、これこそ矛盾だって(笑)。説明すれば説明するほど矛盾していく。

「飛べない翼」とか「言えない言葉」も出て来る(笑)。翼があるのに飛べないっていうことですよね。

そうそうそう。

森さんはこういう表現がが本当に巧い。「幸せの影を踏めば堕ちてゆく Dark Side」とかね。伝説のキング・クリムゾンっていうバンドには作詞担当のピート・シンフィールドというメンバーがいたように、僕にとっての森雪之丞さんの存在は「言葉を奏でる」バンドのメンバーの1人です。

悲しみと未来の狭間にある青空が、あまりにもシュールで象徴的な情景だったので、その時の気持ちを森さんに託したんですよね

6「Blue Sky」

この曲の歌詞が一番最初に出来上ったんですよ。とても深く、美しく、儚く、悲しいけれど力強い、本当に素晴らしい詞だと思う。その詞の一節に「探せば失う記憶のパラドックス」っていう言葉があったんです。これを見た瞬間「このアルバムのタイトルは『Paradox』にしよう!」って決めたんです。今回森さんとまたがっちりタッグを組めたのは大きいな。とても感謝しています。

森さんはかなり具体的なことも歌詞に書いてますね。

うん、かなり重いテーマにも向きあって書いてもらいましたね。「やがて陽は昇る」じゃないけれども、生々しいテロのニュースが流れた次の朝、ロンドンには抜けるような青空が清々しく広がっていた。悲しみと未来の狭間にある青空が、あまりにもシュールで象徴的な情景だったので、その時の気持ちを森さんに託したんですよね。サウンドを構築してゆく過程で、僕の視点が変化しながらもどんどん明確になっていくのに、森さんが根気よく付き合ってくれたおかげで、それぞれの曲のクオリティーが高まったと思います。

人間は一度しか死ねない」って、いい言葉だなあと思った

〈番外編インタビュー 前編〉

アルバム・タイトルの『Paradox』=矛盾というのは?

矛盾っていうのは、もちろん自分の中にもあります。ものを作っていて、いつも「矛か盾か、はたして俺はどっちなんだよ」って思う。生きてるって、そんな瞬間の連続じゃないですか。でもそれを抱えながらも、やっぱりもっと自分らしく、もっと前向きに、もっと清々しく明日を迎えたい。それって言ってみれば、「気持ち良く死にたい」ということにも繋がるのかな、と。昨日たまたまテレビで誰かが「人間は一度しか死ねない」って言ってて、まさにそのとおりだなと思った。

どうせ1回だったら、気持ち良く死にたいよねっていう。

ねえ。「人生は一度きり」って言っても、みんなそこにはなかなか気付かない、「明日は来る」って信じてるから。だから「1度しか死ねない」って、いい言葉だなあと思った。まだまだ僕はそういうことを意識しなくてもいい年齢かもしれないけど、僕はまた来年には海外に向けてのアルバム制作に入る。海外では、一つの作品を作ってから各国にPRし、ライブ活動などを通じて聴き手に伝えるのに約3年掛かりますからね。1枚に3年かかって、チャンスがあれば日本語のアルバムをまた作って・・・残りの生涯であと何枚のアルバムを作れるのか?と考えた時、「ああ、布袋寅泰というアーティストはこういう生き方をして、こういうことを見つめ感じながら、こんなメッセージを音楽に託したんだ」ということを、自分が生きた証として残したい。というより、自分自身に対してそんな気持ちを忘れたくない、というべきかな。『Paradox』の制作はとっても充実してたし、むしろ最後は完成するのがさみしいぐらいだった。

やりきったんですね。

うん。こういう気持ちでこれからもずっと音楽を作っていきたいし、またライブも続けていきたい。

この9月に「氣志團万博」に出演した時も、自分を演じるのではなく、オーディエンスが布袋寅泰に期待している沸き立つようなビートとサウンドを、胸を張って堂々と自分らしくプレイすることができた。やっとここにこれた、って感じ。「THRILL」も「POISON」も「バンビーナ」も「Dreamin’」も、もはや日本のクラシック・ロックですからね。 

氣志團のメンバーは喜んだでしょう。

うん。お客さんも皆喜んでくれたし、僕も嬉しかったです。

よかったですね。

(「全曲解説・インタビュー 後編」へ続く)

「全曲解説・インタビュー 後編」はこちら
布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<後編>

布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<後編>

2017.10.26

その他の布袋寅泰の作品はこちらへ

ライブ情報

HOTEI Live In Japan 2017 ~Paradox Tour~

詳細はhttp://www.hotei.com/lives/

HOTEI Paradox Tour 2017 The FINAL ~Rock’n Roll Circus~

12月25日(月) 神奈川 横浜アリーナ

布袋寅泰

日本を代表するギタリスト。
日本のロックシーンへ大きな影響を与えた伝説的ロックバンドBOOWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。
プロデューサー、作詞・作曲家としても才能を高く評価されている。
クエンティン・タランティーノ監督からのオファーにより、「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が映画『KILL BILL』のテーマ曲となり世界的にも大きな評価を受け、今も尚、世界で愛されている。
2012年よりイギリスへ移住し、三度のロンドン公演を成功させた。
2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、2015年海外レーベルSpinefarm Recordsと契約。
その年の10月にインターナショナルアルバム「Strangers」がUK、ヨーロッパでCDリリース、そして全世界へ向け配信リリースもされた。
2016年2月にはベルリン、パリ、アムステルダム、5月にロス、ニューヨークでの単独公演を開催し大成功を収める。
海外公演と並行し日本においてはアーティスト活動35周年を迎え様々なリリース、企画、ライブを経て、12月30日の日本武道館公演にて35周年を盛大に締めくくる。
2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを大盛況のうちに終了。
今後も精力的な活動が予定されている。

オフィシャルサイトhttp://www.hotei.com/