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【レビュー】「Fate」ファンが渇望した「Heaven’s Feel」。“桜は俺の嫁”を自称するすべてのファンの心を満たす、映像美の極致

【レビュー】「Fate」ファンが渇望した「Heaven’s Feel」。“桜は俺の嫁”を自称するすべてのファンの心を満たす、映像美の極致

2017年10月14日(土)から公開がスタートした“劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』Ⅰ.presage flower”(以下[HF])。3部作で構成される物語の第1作目は、公開初週の土日2日間で、動員数は24万人を突破。興行収入が4億円を超える大ヒットスタートを切った。映画レビューサイトなどでも高評価を叩き出している本作は、いかなる作品なのか。原作を手掛けるTYPE-MOONの処女作『月姫』からの古参ファンを自認し、『Fate/stay night』やその他の派生作品にもどっぷり浸かり続けてきた筆者が、[HF] を鑑賞した所感について語ってみたいと思う。

文 / 福西輝明

一見さんお断り!?   だがファンにとっては“最高のご馳走”な一作

[HF] はヴィジュアルノベルゲーム『Fate/stay night』で描かれている3つのメインルート [Fate] [Unlimited Blade Works] [Heaven’s Feel] のうち、最後に描かれる物語を映像化した作品。他のルートはこれまでにもTVアニメ化されてきたが、[HF] は原作ゲームの発売からじつに13年の時を経て、ようやく映像化が実現した。しかし、それは無理もないこと。[Heaven’s Feel] ルートの物語は他のルートと比べて、あまりにも異色すぎるのである。

超常の力を持つ英霊「サーヴァント」と、その主たる魔術師「マスター」のコンビが、7組に分かれて「聖杯」を巡って殺し合う。その「聖杯戦争」の中で、主人公である衛宮士郎がパートナーであるセイバーと共に幾多の強敵と戦いを繰り広げ、運命を切り開いていく。それが『Fate/stay night』の大枠である。[Fate] は士郎とセイバーの出会いと絆の物語、そして [Unlimited Blade Works] は「正義の味方」を志す士郎が、己の理想と対決する物語が描かれた。だが、最後にひかえた [Heaven’s Feel] は、その2つのルートの大枠やテーマを根底から覆す内容なのだ。つまり、[Fate] と [Unlimited Blade Works] を踏まえたうえでないと描けない物語なのである。

[HF] をTVアニメではなく、劇場映画というメディアで公開したのにも明確な意図が感じられる。要は「視聴者の選定」だ。映画を観るために予定を空け、劇場まで足を運び鑑賞料金を支払う。鑑賞するためにはいくつものハードルを越えなければならない。逆に言えば、[HF] を劇場まで観に行った時点で、その人は「精鋭『Fate』ファン」なのである。こうした層が相手ならば、作り手も容赦する必要がない。本作でメガホンをとった須藤友徳監督も、本作のヒロインである間桐 桜への思いの丈を存分にぶちまけることができる。

本作を実際に鑑賞してみると、『Fate』シリーズに詳しくない人にとっては少々敷居が高い作品となっているのがわかる。しかしそれは当然だ。なぜなら、本作は『Fate』ファン、とりわけ「『桜ルート』を早く観たい!」という思いの強い、熱心な桜ファンの心に届くように作られた作品なのだから。「聖杯戦争」についての説明や、士郎がセイバーのマスターとなった経緯といった、『Fate』を知る人にとってもはや常識となっている要素は潔く割愛。冒頭部分でサラッと流すことで消化している。思い切った判断だが、他の重要なシーンに尺を割くための妙手と言える。

長年 [Heaven’s Feel] ルートの映像化を熱望、いや渇望していたファンの、期待の上を行く。そうした熱意をフィルムの端々から感じる劇場版『HF』は、まさにファンサービスの極致とも言える出来だった。原作ゲームの物語に忠実でありながらも、各人の人間関係や心理描写を深く掘り下げ、『HF』で描かれるテーマにさらなる深みを与えていた。

また、アクションシーンは精緻にしてクール。読み解き甲斐のある人間ドラマと、大作感あふれるアクションパートが絶妙に融合した一級品のエンタメ作品だった。制作を手掛けたアニメスタジオ・ufotableはTVアニメ『Fate/Zero』や『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』を過去に発表し、両作品ともファンから高い評価を得ている。そして、ファンの多くは「ufotableが『HF』を作るなら、あのシーンはこんな風になるかなぁ…」などと妄想していたことだろう。

断言する。本作はその遙か先で「ついて来れるか」と雄々しい背中をこちらに見せていると。それほど本作のクオリティと満足度は、近年の『Fate』作品の中でも群を抜いていた。