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【レビュー】「Fate」ファンが渇望した「Heaven’s Feel」。“桜は俺の嫁”を自称するすべてのファンの心を満たす、映像美の極致

【レビュー】「Fate」ファンが渇望した「Heaven’s Feel」。“桜は俺の嫁”を自称するすべてのファンの心を満たす、映像美の極致

エロかわいく、そしてちょっと黒い 様々な側面を持つ桜の魅力

[HF] では、他のルートでは「聖杯戦争」には関わりのない、「家庭的で面倒見の良い士郎の後輩ポジション」だった桜がメインヒロインとして描かれている。『Fate/Zero』を視聴して、彼女の幼少期に触れた人なら知っているだろう。桜がそんな生やさしいポジションにいるような人間ではないことを。普段は明るく朗らかで、想いを寄せる士郎にとことん尽くす良妻賢母。だが、突然家にやってきたセイバーにヤキモチを妬いて士郎を困らせる、かわいらしいところもある――。しかし、それは桜の「表の顔」に過ぎない。運命のいたずらによって桜が「聖杯戦争」で重要な役割を果たすことになる『HF』では、登場人物の誰よりも薄暗く、そして恐ろしい一面が顔をのぞかせるのである。

『Fate』の重度のファンになるほど、「桜は俺の嫁」と言ってはばからない桜ファンが多い気がする。須藤監督も自他ともに認める桜ファンであり、過去に「いつか [HF] を映像化するなら、ぜひ自分が監督を手掛けたい。そして、桜のカットは全部自分が描きたい」と公言するほどだった。そんな須藤監督だからこそ、桜の描写に並々ならぬ力が入っているのが伝わってきた。士郎に向ける朗らかな笑顔。ふとしたことで、恥ずかしそうに頬を染める表情。時折のぞかせる、すべてを見透かしているかのような悲しげな瞳。肌の露出が多いわけではないのに漂ってくる、匂い立つような色気。そしてチラリと垣間見せる、薄暗い一面。桜が持つ魅力が、約2時間の中に散りばめられている。それだけでも、桜ファンにとっては観る価値のある作品と言えるだろう。

登場人物たちの心情描写を深く掘り下げる丁寧な演出

本作を語るうえで外せないのが、作中で描かれている登場人物たちの心情描写だ。壮絶な過去を持つ桜が、いかなる過程を踏んで笑顔を見せるようになっていったのか。彼女にとって、士郎はいかなる存在となっているのか。それらはちょっとした表情芝居や何気ないしぐさ、そしてBGMがないまま描かれる冒頭部分から、ようやく音楽が流れ始める一幕など、演出によって描かれているのである。セリフに頼らず、ひとつひとつのシーンで丁寧に表現していく手法は、もともと作画畑だった須藤監督のセンスが光るところ。

また、桜の兄である間桐慎二の心情描写も素晴らしかった。プライドが高く傲慢な慎二は、ともすれば単なるかませ犬の小物キャラで終わるだろう。だが、「御三家」と呼ばれる間桐家の跡取りとしては、実力不足であることを自認していることへのジレンマが、言葉に出さずとも伝わってくる。また、自分にとって数少ない「友人」である士郎に対しても、歪んではいるが彼なりに友情を感じていることが、ちょっとした表情の変化や絶妙なセリフ運びで表現されていた。他のルートでは、士郎が最初に戦うことになるかませ犬だったり、身勝手な行動で破滅していく小物だったりした。一方、[HF] でも依然として「イヤなヤツ」ではあったが、じつに人間くさく描写されていたのが印象的だった。

いぶし銀の凄み 格好良すぎる真アサシン

筆者が個人的に本作で一押ししたいのが、他のルートには登場しないイレギュラーキャラである真アサシンである。彼の現界が、これまでの「聖杯戦争」の様相を変えるきっかけとなっていくこともあり、その存在自体が謎に満ちており、禍々しく描写されている。

とはいえ、よくある「謎の強キャラが出現して、主人公たちを苦しめる」というものではない。むしろ、真アサシン自身の戦闘能力は、本作に登場するサーヴァントの中でも下から数えた方が早いくらい低い。「気配遮断スキル」によって気配を消し、ひそかに敵マスターに近づいて暗殺するのを得意としているのだが、そのぶん単体としての強さはさほどでもないのだ。しかし、彼我の戦力差を正確に認識し、追いつめられながらも自分が有利になるフィールドを探して反撃。それでも敵わず逃走したと見せかけて、周到に張り巡らせた罠にはめる……。手持ちのカードを有効に使い、勝利に向かってやるべきことをやる。いわば真アサシンは、主人公である士郎とは別の立ち位置にいる、もうひとりの主人公「ダークヒーロー」的存在なのである。そのいぶし銀の戦いぶりは、観ていて鳥肌が立つほどケレン味にあふれている。

初見の人は要予習 桜ファンは絶対観ろ!

『Fate』シリーズの映像作品の中でも、極上の逸品と言える本作。無論、桜好きなら絶対に観ておくべき作品だ。しかも、これが全3部作の導入部である1作目だというのだから、後に続く2作品に期待せずにはいられない。筆者も観終わった後、第2部の公開がいつになるのか考えて、軽く絶望を覚えたほどである。

また、アプリゲーム『Fate/Grand Order』で『Fate』ファンになった人も多いだろうが、初心者は [HF] を見る前に予習が必要だ。少なくともTVアニメ『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』の#00と#01は見てから劇場に向かうといいだろう。そして、ぜひ桜のエロかわいさ&黒さの片鱗と、真アサシンの格好良さに触れてみてほしい。

劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅰ.presage flower

2017年10月14日(土)公開

全国128館

■スタッフ
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
キャラクター原案:武内 崇
監督:須藤友徳
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷 敦・田畑壽之
脚本:桧山彬(ufotable)
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:松岡美佳
編集:神野 学
音楽:梶浦由記
主題歌:Aimer 「花の唄」
制作プロデューサー:近藤 光
アニメーション制作:ufotable
配給:アニプレックス

©TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

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