
ロック、ヒップホップ、ファンク、ジャズ、エレクトロから現代音楽までを自在に取り入れたバンドサウンド、どこか叙情的な雰囲気を感じさせる歌。高度な音楽性と独自のミクスチャーセンスを兼ね備えた楽曲は“最新型のTokyo’s Music”と呼ぶにふさわしい──。アルバム『Tokyo Rendez-Vous』が初のリリース作品となるKing Gnu(キング・ヌー)。前進バンドである“Srv.Vinci”時代から高い評価を得ていたサウンドメイクはさらに進化。メンバー個々の卓越したプレイヤビリティも加わり、初のリリース作品とは思えないほどのクオリティが実現されている。
今回『エンタメステーション』ではメンバー全員にインタビュー。個々のルーツミュージック、King Gnuのコンセプト、アルバム『Tokyo Rendez-Vous』の制作などについて訊いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 関信行
“Gnu=ヌー”は春から少しずつ合流して、最後はデカい群れになる
以前は“Srv.Vinci”名義で活動をされていましたが、バンド名を“King Gnu”に変更したのはどうしてなんですか?
常田大希 “Srv.Vinci”は、もっと個人的な感じだったんですよ。そこから音楽の内容がちょっとずつ変化してきて、音楽の市場のほうに向かいたいと思って。もともとストレートな音楽も好きだったし。
個人的に好きなことをやるというよりも、マーケットを意識した音楽をやるということですか?
常田 そうですね。“Gnu=ヌー”という動物は春から少しずつ合流して、最後はデカい群れになるんですけど、自分たちもそうなれたらいいなと。
今年の夏は〈FUJI ROCK FESTIVAL〉に出演するなど、大型フェスへの参加も増えてきて。名前を知られてきた実感もあるのでは?
勢喜遊 そうですね。バンド名を変えてからは。
新井和輝 だいぶ実感が伴ってきましたね。
そもそも、メンバー4人はいつくらいから交流があるんですか?
常田 (井口)理とは幼なじみみたいなものだから、付き合いは長くて。遊と和輝はどれくらいだっけ?
勢喜 3年くらいかな。
新井 うん。僕とドラムの遊はセッションで知り合ったんですけど、それが4〜5年前で。遊と大希も別のセッションで知り合って、それが“Srv.Vinci”の活動に繋がって。
勢喜 大希と知り合ったあと、僕がベース(新井)、大希がボーカル(井口)を連れてきて、今の形になったという感じです。

井口理(vocal, keyboards)
音楽のルーツはそれぞれ違うんですか?
新井 違いますね。僕はブラックミュージックから入ってるんですけど、大希はもっと幅広く聴いていて。
常田 ルーツと言われると難しいんですけど、まあ、オルタナですかね。
オルタナってめちゃくちゃ幅広いですけどね(笑)。
常田 だから、便利な言葉なんですよ(笑)。理は、日本ライクなものを聴いてたんでしょ?
井口理 そう。日本人の音楽ばっかりですね。いちばん好きなのは七尾旅人さんなんですけど、親の影響で昭和歌謡やフォークをよく聴いていて。チューリップ、オフコース、布施明、尾崎紀世彦とか。骨太な感じが好きなんですよね。
勢喜 僕はダンスミュージックですね。ファンクがルーツなんですけど、その後、ラテンを聴いていた時期もあって。ダンスをやっていたこともあるから、ヒップホップも聴いてました。
もしかして、ダンサーを目指したことも?
勢喜 ありましたね(笑)。
井口 これ、ホントの話みたいですよ(笑)。

たしかにルーツやキャリアはバラバラですね。King Gnuとしての音楽的な方向性は最初から明確だったんですか?
常田 今回のアルバムを作り始めた頃に明確になった感じですね。「Tokyo Rendez−Vous」という曲が出来たことで定まったところもあって。ビートはブラックミュージックのいかつさを残しつつ、サビは歌謡曲チックというか。そういうミクスチャー感なのかなって思ってます。ほかのアーティストにもそういう曲がありますけど、もっと自然にやれるんじゃないかなと。
歌謡テイストのメロディは、井口さんの好みとも合致してますよね?
井口 そうですね。4~5年前に大希がやってたライヴを観に行ったことがあるんですけど、そのときはかなりアーバンというか、めちゃくちゃ尖った音楽をやっていて。「すごくいいけど、売れんのかな?」と思ったんですよね。
常田 あはは!
井口 そのときに比べるとだいぶポップになってますね、「Tokyo Rendez-Vous」は。自分で歌っていても不思議でしょうがないというか、こんなにキャッチーにまとまってるのが信じられなくて。
たしかにメロディはキャッチーに振り切ってるけど、尖った部分もちゃんと残ってますよね。
井口 そう。自分たちで作ったんですけど、聴くたびに「こんな音が入ってるんだ?」という発見があって。
勢喜 たしかにあるね。でも、大希がいちばん言ってるんじゃない? 「こんな音入ってたっけ?」って。
常田 まあ、自分で入れてるんだけどね(笑)。

新井和輝(bass)
そういう情報量の多さが「何度聴いても飽きない」ということに繋がってるのかも。
井口 ただ、ミックスは大変でしたけどね。歌を聴かせたいんだけど、バックで鳴っている音も目立たせたいので。
新井 結果的にいいバランスに仕上がってると思います。いろんな音が入ってるし、質量も結構あるんだけど、胃もたれしないで聴けるというか。アレンジの段階から「これだと、いかつすぎるかな」みたいな話もしてたんですけど。
勢喜 そこは相談しながらうまいこと進めてるよね。
常田 デモは俺が作ってるんですけど、メンバーのプレイは任せてるんです。フレーズを入れてもらうことでさらに良くなることが多いので、最近は。
新井 この4人で最初に作ったのは「ロウラヴ」なんですけど、ギターのリフだけがあって「ちょっとやってみて」という感じでアレンジして。
勢喜 最初はサーフミュージックみたいな雰囲気だったんですけど、そこからどんどん変わっていって。
結果的にベースのリフが軸になってますよね。作り方は曲によって違う?
常田 そうですね。ギターで作ることもあるし、鍵盤系の曲もあって。