佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 15

Column

GLIM SPANKYの「ガラスの林檎」と「胸が痛い」に、胸をわしづかみにされた夜

GLIM SPANKYの「ガラスの林檎」と「胸が痛い」に、胸をわしづかみにされた夜

去年から注目していたGLIM SPANKYを、ライブで初体験したのは10月12日の夜のことだ。
それ以来、彼らの「ガラスの林檎」と「胸が痛い」、そしてすっかりヘビーローテーションになったニュー・アルバムの『BIZARRE CARNIVAL』が、ぼくの頭のどこかで鳴り続けている。

ジャンルや世代を越えて様々なアーティストが名曲をカヴァーする、NHKの音楽番組『The Covers』が2013年10月20日と27日、パイロット版を放送したときからぼくは縁があって、うまくいくようにと願っていたが、幸いにも視聴者と出演者の両方から評判が良くて、翌年からレギュラー番組としてスタートすることになった。

毎回の放送とは別に、年に1回の「The Covers’Fes.」も開かれるようになり、今春からは30分だったレギュラーの放送時間が1時間に拡大している。

この番組が定着したおかげで、ジャンルや世代を超えたアーティストが、かつての名曲や知られざる佳曲をカヴァーする機会が増えた。

それによって歌に新しい命を吹き込むということが、あたり前に行われるようになったために、日本にもスタンダード・ソングという概念が、以前よりもずっと広まってきたのは事実だ。

「歌は、歌い継がれることでスタンダードとなり、永遠の命を授けられます」

NHKホールで開催された今年の「The Covers’Fes.2017」に出演したアーティストは、出演順に、クレイジーケンバンド、持田香織、田島貴男、ハナレグミ、GLIM SPANKY、BRAHMAN。

期待のGLIM SPANKYが1曲目にカヴァーしたのは、松田聖子の中でもロック色を感じさせる「ガラスの林檎」だった。
亀本寛貴の歪んだギターでライブが始まり、そこに松尾レミのヴォーカルが乗った瞬間、ぼくは胸をわしづかみにされたような気分になった。

その演奏と歌を聴いているうちに、オリジナルをうたっていた松田聖子よりも、はっぴいえんどの姿が背後から、浮かび上がってくるようにも思えてきた。
松尾レミの歌声からは大滝詠一の気配までも感じてしまった。

この楽曲が1983年に発表されたとき、人気絶頂のアイドルだった松田聖子にしてはやや地味めな印象で、当時はさほどヒットしたという印象がなかった。
なぜならばB面に入っていた「SWEET MEMORIES」が、何年かに1度しか出ないというレベルの名曲だったので、そちらの好印象が強く記憶に残ったからだ。

しかしGLIM SPANKYによる「ガラスの林檎」は、この楽曲をつくったソングライターの松本隆と細野晴臣が、1968年にデビューと同時に解散したエイプリルフールを経て、日本語によるロックを確立させた先駆者だったことを、聴くものに突きつけるような音楽として、ロック・スピリッツとともに届けてくれた。

それに続くBRAHMANとのコラボレーションで初披露したのは、日本で最古参のブルースマンたち、憂歌団の「胸が痛い」だった。

聞くところによると、この日に実現したコラボレーションは、GLIM SPANKYの音楽性を高く評価していた、BRAHMANからの提案で実現したものだという。
BRAHMANはほとんどTV出演することがないバンドだが、この「The Covers’Fes.」には2年連続の参加となった。
それだけ『The Covers』という番組には、思うところがあるのだろう。
「胸が痛い」はもう最初から最後まで、圧巻としか言いようがない素晴らしい出来栄えで、哀切きわまりない楽曲を堪能することができた。

©Tsukasa Miyoshi (Showcase)

何度もくり返される「♪ 胸が痛い 胸が痛い」というサビを持つこの歌は、憂歌団の熱心なファンの間ではこのうえもなく真っ直ぐな、日本のブルースとして知られてきた。

ぼくは大阪で結成された憂歌団が初めて上京して、東京でライブを行ったときからライブを観ているが、2014年の夏に東京・日比谷野外大音楽堂行なわれた久しぶりのバンドによるライブで、初めてオリジナルを聴いた。

そうした伝説的なバンドの貴重な楽曲が21世紀にまで歌い継がれてきて、BRAHMANとGLIM SPANKYという後継者たちによって、まさにスタンダード・ソングになろうとしている場に居合わせることが出来たのだ。

すべてを聴き終わった後でも、あらためて「本当に良かったな」という思いがこみ上げてきた。

どのアーティストも持ち味を十分に発揮していたが、印象に残ったのはハナレグミの「花と小父さん」、持田香織の「さらば恋人」、田島貴男の「時のないホテル」、だった。

「The Covers’Fes.2017」は司会のリリー・フランキーが、番組では決してオンエアされない下ネタ・トークを全開にして会場や出演者をリラックスさせるなかで、ほどよい緊張感をともなって終了した。

なお、当日のライブの模様は10月27日にNHKBSプレミアムで、一時間半にわたって全曲がオンエアされる。

http://www4.nhk.or.jp/thecovers/

The Covers’Fes.2017

10/27(金) 22:00~23:29〔BSP〕

〈カバー曲〉
クレイジーケンバンド
・ルビーの指環/寺尾聰
・虹と雪のバラード/トワ・エ・モワ
GLIM SPANKY
・ガラスの林檎/松田聖子
田島貴男
・アイ・ラヴ・ユー,OK/矢沢永吉
・時のないホテル/松任谷由実
ハナレグミ
・夢の途中/来生たかお
・花と小父さん/伊東きよ子
BRAHMAN
・胸が痛い/憂歌団
持田香織
・さらば恋人/堺 正章
・あの日にかえりたい/荒井由実


著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

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