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布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<後編>

布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<後編>

ニューアルバム『Paradox』の後半も意欲作が並ぶ。盟友の森雪之丞が布袋のロック・ヒーローへのリスペクトを描く「Strawberry Fieldsの太陽」や、ヴィヴィッドなロックンロール「Parade」、布袋の生活基盤であるロンドンのユーモア感覚が満載の「London Bridge」、そして小渕健太郎の渾身のリリックが布袋の魂とシンクロする「Aquarium」など、聴きごたえ充分。
またインストの「Maze」が、アルバム中盤に強烈なアクセントを付け加えている。

取材・文 / 平山雄一

「全曲解説・インタビュー 前編」はこちら
布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<前編>

布袋寅泰 4年ぶりとなるアルバム『Paradox』。全曲解説・インタビューから見えてくる、彼の視点<前編>

2017.10.25

僕がギタリストとして、攻めの気持ちでギターと向き合ってるっていうのを証明できたと思います

7「Maze」

10曲目の「Strawberry Fieldsの太陽」のギター・ソロは、すごく面白かった。ロックの歴史をすごく感じました。

うん。あのソロはローリング・ストーンズとのセッションがあったから弾けたんだと思う。ロニー・ウッドとキース・リチャーズの音を同じステージ上で聴いてるっていうのは、もの凄い体験でした。それにこの5年間でストーンズの他にも、イギー・ポップやイタリアの国民的歌手のズッケロやロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラともセッションしたんですよ!

すごい!

フィル・マンザネラとの共演がきっかけでこの「Maze」っていうインストゥルメンタルが出来た。この渡英後の5年間での多くのアーティストとセッションを通じて、ギタリストとしても成長できたと思います。

それであのギター・ソロが生まれたり、インストの「Maze」が出来ているんだ。

うん。そういう影響は、絶対随所にサウンドになって表われてると思います。彼らの実験的マインドやダンディズムは、しっかり受け継ぎたいなと思う。それと最近あらためて“プログレッシブ・ロック”の影響が自分の中にあることに気付いた。「Maze」は7拍子が入るんですけど、今そんな変拍子が新鮮じゃないですかね。ギターのインストゥルメンタルどころかギターソロ自体があまり聴けない時代には新鮮でしょう。こういう少し変化球の、弾きたくなるけど弾くとめんどくさい(笑)、コピーする方には一番イヤなタイプの曲だと思うんですよね。

あはは。

この前、ロンドンでピンク・フロイド展を見て、それからずーっとピンク・フロイドの歴史を聴き返していたら「俺はピンク・フロイドのギタリストのデイブ・ギルモアに、こんなに影響を受けていたんだ!」と驚いた。僕はインタビューなどではあまりギルモアの名前を口にすることは今までなかったけど、海外でライブをやると、「君のスタイルはギルモアとブライアン・メイに似てるね」ってよく言われるんですよ。

そうなんだ。

ロックを聴き始めた14、15才の頃、レコードに針を落としたら最後まで聴くしかなかったからね。プログレは聴いてる途中でよく寝たりしましたけど(笑)そんな多感な時期にピンク・フロイドを聴いてたら、やっぱり血になってるよね。だから“プログレ心”って、いまだに僕の中にあるんですよ。

「今の自分の中にある感覚を、ギターのプレイで表わすインストゥルメンタルを、1曲入れたいな」っていう思いからできた曲。「Maze」のギターは、“泣く”っていうよりも“攻めてる”音。これはきっと今後のヨーロッパのライブで、とても人気の出る曲になると思うよ。これで僕がギタリストとして、攻めの気持ちでギターと向き合ってるっていうのを証明できたと思います。

高橋さんのユーモアが乗っかると、ただシリアスじゃなくて、“センス・オブ・ユーモア”になる

8「Parade」

高橋久美子(ex.チャットモンチー)さんが作詞している「Parade」にはビックリしました。だって布袋さんが♪それ わっしょい!♪って歌っているんですから。

高橋さんは、今回が初めてなんですよ。その前に1作、NHKの「クラシカロイド」というアニメで1曲お願いした経緯はあるんだけど、僕の作品に作詞してもらうのは初めてで。前からお名前をよく聞いてました。とてもいい作詞家だって。ご自身がドラマーだからかどうかはわからないけど、1曲目の「Amplifire」の歌詞を書いてくれた、いしわたり(淳治)くんにも通じる言葉に独特のビート感がある。

ああ、ドラマーですからね。

また、女性ならではの独自の視点もある。このデモを聴いてもらったときに、「スラップスティックなドタバタ劇も目に浮かぶし、男たちが居酒屋ででっかいビールジョッキで『カンパーイ!』って言ってる絵も浮かぶんですよねえ」なんて言ってたな。メールでやりとりしながらお互いの焦点を合わせていったんだけど、すごく面白かったですね。

っていうか、「わっしょい!」にはちょっとビックリした。こんな言葉を「歌うんだ!?」みたいな(笑)。

そう(笑)。はじめはねえ、「わっしょい!」が2回あったんだよ。「♪わっしょい! わっしょい!」って。それで「いや、これはさすがに……」って(笑)。

うははは! さすがに、みたいな(笑)。

うん、高橋さんに「一応、僕これ、ダンディにスーツ着て歌うっていうイメージなんですけど」って言ったら、違う英語の言葉に変えてくれて。それで一応オッケーになってたんですよ。でも自分ひとりで歌入れをやってたんだけど、なんか歌ってるうちに――

「わっしょい!」が聞こえてきたんだ(笑)。

そう! それがないと、なんかこうスルッと流れちゃう。耳触りのいい言葉より、引っかかる方がいい。それこそスラップスティックで。結局、僕が勝手に判断して「わっしょい!」に戻して。そしたら彼女は「ホントにいいんですか? わっしょいで」と心配してくれました(笑)。

賑やかで、すごくポップな感じになってる。

うんうん。人類の無責任なパレード感が出た(笑)。彼女、上手いなあと思いますね。

サウンドも「わっしょい!」っていう感じですね(笑)。

これはもう、急カーブを描くアレンジメントで、「ザ・布袋寅泰!」。そこに高橋さんのユーモアが乗っかると、ただシリアスじゃなくて、“センス・オブ・ユーモア”になる。それって大事じゃないですか。森さんの場合は、もっとホラーになったり、格言というか、シュールな、プログレッシブな視点の方が似合う。

そういう意味では今回、高橋さんに求めたのは、ユーモア?

うん。

バックに入っているに女性の声は?

これは、ジャスミン・ロジャースって言って、バッド・カンパニーのボーカルのポール・ロジャースの娘です。

そうなんだ!

俺もジャスミンの作品に参加してます。彼女は日本語がちょっとしゃべれるんだ。人類のパレード感、お祭り感に、ジャスミンがピッタリだった。彼女もいいシンガーだよ。

9「London Bridge」

「London Bridge」の中で描かれている、渡英5年目のロンドンっていうのはどういうものなんですか?

ロンドンという街はね、なんだかタフなんですよ。センス・オブ・ユーモアが利いていて、いかに気持ち良くカッコ良く鮮やかにジョークを交わすかっていうところがあって。しかもそこに伝統や歴史や誇りがある。「古いものと新しいものが共存した上で、誇りを失わず」、それがイギリスのイメージっていうのがあるけれども、暮らしてみるとそれは確かに本当だなと実感する。

たとえば♪London Bridge Will Never Fall Down♪っていうフレーズは、テロの起きた直後に地下鉄の駅員が掲示板に書いた一節なんですよね。有名な♪London Bridge Is Falling Down~ロンドン橋、落ちた♪っていう歌詞の逆で、「俺たちは絶対に負けない」っていうメッセージだった。

そういえば曲の途中に、「ロンドン橋、落ちた」のメロディのパロディ・フレーズが入ってました(笑)。

それもセンス・オブ・ユーモアですね(笑)。もう一つ、♪Keep Calm And Carry on♪もよくマグカップになってるけど、あれは第二次世界大戦が始まる前に政府が言った「何が起こっても平穏を忘れずに、いつものように行動して戦い続ける」っていうスローガンだそうです。

残虐なテロに対して、怒りだけに感情を委ねず、堂々と胸を張って立ち向かうという人々の姿がある。アリアナ・グランデのコンサート会場で起こったテロの時も力強かった。♪パイント片手にFoot Ball♪っていうフレーズは、ロンドンブリッジのテロの翌朝に、新聞の紙面を飾った写真のこと。ひとりの男がビールをなみなみと注いだパイントグラスを片手に逃げてるんですよ。

あー! ビールを持ったままテロから逃げてるんだ(笑)

ともすれば「こんなときにけしからん!」って言われるような光景だけど、イギリス国民はそれをみんなで賞賛した。こういうときこそ「Keep Calm And Carry on」で、「それこそ英国の誇りだ」って。そういうところも英国らしいなあと思ってね。

だからこの歌は、ただ「ロンドンが好きだ、ロンドンは元気だ」っていうことじゃなく、そういうことを忘れちゃいかんなあって。何があっても誰のせいにもせず、「Noだ!Noだ!」って言うのは簡単だけど、「Yesなんだ」っていうことをもっとシェアしたいなって。これも軽快なサウンドに乗せて、純粋なロックンロールチューンとして楽しい曲に仕上がりました。

ライブで盛り上がりそうですね。

うん。これがいちばん最後に詞ができた。いつも自分で書く詞はギリギリ(笑)。

ははは。そういう意味では、英国流のシャレがてんこ盛り!

そうですね。ロンドンに暮らさなければ見えなかったこともあると思うし、またイギリスだけが混沌・混迷の時代というわけではないですからね。地球全体の問題を、我々は無視することはできないんだよね。

10「Strawberry Fieldsの太陽」

この曲も森さんの作詞で、はじめの詞とはまったく違う詞になった。森さんからポンといきなりこの「Strawberry Fieldsの太陽」っていう1行目のフレーズが届いて、僕はそれがとっても気に入ってね。ストロベリーフィールズ、ビートルズ、ジョン・レノン・・・天に行った人たちは星になったりするけど、ストロベリーフィールズに浮かんでる太陽という、眩しいロックスターたちのいる場所っていうイメージに直結した。そこから「僕らの愛したロックスターに捧げないか」っていうところに行くまで、この歌詞はいろいろ旅をしたんです。

そしてこのコンセプトに、だんだん集約されていった。

言葉数が少ない曲ほど難しいんですよね。インパクトがありながら、心に残る歌詞にするっていうのは。いちばんセンチメンタルな曲だけど、すごくロックンロールしてます。

聴いてると、グイグイ入ってっちゃうというか。小渕くんとアルバムの爆音試聴会をやって、盛り上がりましたよ

11「Aquarium」& 12「Amplifire(Reprise)」

コブクロの小渕(健太郎)くんは、僕に憧れを抱いてくれたミュージシャンの一人で、僕が英国に移ると決めたタイミングのことも知っているし、向こうでコツコツとライブハウスをやってることも知ってくれている。この「Aquarium」という歌詞は彼ならではの視点で「我々の住むこの世界は、境界線のない自由な世界のように見えるが、まるで海の中に沈めた水槽みたいに、見えないガラスの壁で区切られている。指先がそれに触れた時に初めて知る壁。しかし見上げると、そこには壁のない空がある」というパラドックスを描いてくれた。

小渕さんは、完成した「Aquarium」を聴いて何か言ってましたか?

うん、「まるで映画のラストシーンみたいじゃないですか。感動した」って。そのあとに12曲目の「Amplifire(Reprise)」があって、映画のエンドロールのクレジットを見るようだって。そこからまたアルバムの頭に繋がっていく。

ああ、このRepriseはそういうイメージですね。

聴いてると、グイグイ入ってっちゃうというか。小渕くんとはアルバムの爆音試聴会をやって、かなり盛り上がりましたよ。

それは楽しかったですね!

初めての百点満点のアルバムですね

〈番外編インタビュー 後編〉

35周年を経た古いファンの皆さんも、また新しく僕の音楽に入ってくる人たちも、みなさんに楽しんでもらえる。僕も言いたいことをしっかり言えたアルバムになりました。サウンドは、コンピュータの打ち込み系をほとんど使わなかったんで、今までの作品の中ではいちばん太くてロックベースな作品です。久しぶりの、というか、初めての百点満点のアルバムですね。

おお、珍しいですね、そこまで言うのは。

うん!本当に、何から何まで好きです。活動36年目を迎えた今、そういう言い切れる作品が作れて本当に良かった。もうすぐ始まるツアーは、シンプルにサウンド勝負。最高のバンドとともに最高のサウンドを聴かせることがコンセプト。新作を中心にビックリするようなレアな選曲で挑みますよ!

楽しみにしてます! ありがとうございました。

はい、ありがとうございました!

その他の布袋寅泰の作品はこちらへ

ライブ情報

HOTEI Live In Japan 2017 ~Paradox Tour~

詳細はhttp://www.hotei.com/lives/

HOTEI Paradox Tour 2017 The FINAL ~Rock’n Roll Circus~

12月25日(月) 神奈川 横浜アリーナ

布袋寅泰

日本を代表するギタリスト。
日本のロックシーンへ大きな影響を与えた伝説的ロックバンドBOOWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。
プロデューサー、作詞・作曲家としても才能を高く評価されている。
クエンティン・タランティーノ監督からのオファーにより、「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が映画『KILL BILL』のテーマ曲となり世界的にも大きな評価を受け、今も尚、世界で愛されている。
2012年よりイギリスへ移住し、三度のロンドン公演を成功させた。
2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、2015年海外レーベルSpinefarm Recordsと契約。
その年の10月にインターナショナルアルバム「Strangers」がUK、ヨーロッパでCDリリース、そして全世界へ向け配信リリースもされた。
2016年2月にはベルリン、パリ、アムステルダム、5月にロス、ニューヨークでの単独公演を開催し大成功を収める。
海外公演と並行し日本においてはアーティスト活動35周年を迎え様々なリリース、企画、ライブを経て、12月30日の日本武道館公演にて35周年を盛大に締めくくる。
2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを大盛況のうちに終了。
今後も精力的な活動が予定されている。

オフィシャルサイトhttp://www.hotei.com/