Interview

松雪泰子が懸命にもがき生きた女性作家に挑む舞台『この熱き私の激情』。彼女が残した強烈な言葉、その人生と向き合って

松雪泰子が懸命にもがき生きた女性作家に挑む舞台『この熱き私の激情』。彼女が残した強烈な言葉、その人生と向き合って

たった36歳で自らの波乱万丈の人生に幕を下ろし、その作品の印象とともに強烈なインパクトを人々に与えた女性作家、ネリー・アルカン。彼女が8年間の作家人生の間に書き連ねた小説の中から、“女であることの戸惑い”や“生きていくことのつらさ”、“怒り”、“悲しみ”、“コンプレックス”、“無力感”、そして“孤独”といった彼女ならではのモチーフをコラージュし、一本の舞台作品へと昇華させたのが『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』だ。
舞台上には10個のキューブが積み重ねられ、その中に6名の女優+1名のダンサーが入り、その“部屋”に閉じ込められたままでセリフを口にしたり、歌ったりする。それぞれの部屋は“幻想の部屋”、“天空の部屋”、“血の部屋”、“神秘の部屋”、“影の部屋”、“ヘビの部屋”、“失われた部屋”と名付けられ、すべてがネリー自身や作品世界を象徴している、という仕掛けになっているのだ。
演出を手がけるのはカナダの女優で作家、演出家でもあるマリー・ブラッサール。今回の日本版キャストとしては松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢という華麗な実力者たちが顔を揃える。 その中でも今年は映像に舞台にと活躍ぶりが目覚ましい松雪泰子に、この作品への想いを語ってもらった。

取材・文 / 田中里津子 撮影 / 舞山秀一
ヘアメイク / 石田絵里子(air notes) スタイリスト / 安野ともこ(コラソン)
衣装協力 / (Hanae Mori manuscript Show Room
Nagi Nakajima Design Studio

彼女の言葉と表現方法は想像をはるかに超えるほどに強烈で苦しく……これを表現という領域に落とし込んでいくにはどういう道を辿ったらいいのか、ものすごく苦悩しました

まず、この作品のどういうところに魅力を感じられたのでしょうか。

オファーを受けたときに戯曲を読ませていただいたのですが、すごく詩的な言葉が並んでいる作品だなと思いました。そのあとでモントリオールでの公演(初演)を映像で観させていただいたら、舞台美術がとても素晴らしくて。それまでネリー・アルカンという存在は知らなかったんですが、彼女が書く言葉の美しさと強烈さに、「なぜこんな言葉を書いたのだろう」ととても興味が湧きました。その後、彼女の書いた小説を読み、最近になって彼女の人生や作品のことを描いた映画(『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』)も観て。あとはもちろん、演出のマリーさんとのコラボレーションだということもとても魅力に感じましたし、今回、この日本人の俳優たちが演じることでどういったものが生まれるのかも興味深かったので、ぜひやってみたいと思ったんです。

マリーさんとのワークショップをやられたことで、作品に対するイメージは当初と変わりましたか。

そうですね。まず『Putain(ピュタン)』という小説を読んだら、戯曲を読むだけでは理解できなかった部分が少しは理解できてきた気がします。でも、そこに書かれていた彼女の言葉と表現方法は想像をはるかに超えるほどに強烈で苦しくて、読み進めるのがやっとというくらいで。最後に死を選択していくまでに彼女は何を思ったのだろうかとか、そういったことをワークショップで考察すればするほど、自分自身もどんどん苦しくなってしまって。これを表現という領域に落とし込んでいくにはどういう道を辿ったらいいのか、ものすごく苦悩しましたね。「とんでもないプロジェクトが始まっちゃった!」と思って(笑)。だけどやっぱり、ネリーの知性をもっとたくさんの方に知っていただきたいんです。女として生きるということ、女性がありのままの姿で存在しにくいこの社会の風潮のこと……つまり「女性たるものこうあるべき」とか「結婚して子供を産み家庭を持つことが女性のベストな幸せの在り方」という限定的な考えや、そこに到達しなければダメな女性だとされてしまうようなところ……女性への偏見や差別は今はそれほどないとはいえ、ベースにはまだありますので、そういったことを含めた彼女の苦悩を、すごく際立った強烈な言葉で紡いで表現しているんです。今回は、彼女が感じていたであろうそういう世界を各パートの部屋に分けて表現してもいるんですけれど、この構造自体もすごく面白いですよね。

小説と、モントリオールでの舞台と、映画とをご覧になって、ネリーという人物が理解できるようになりましたか。

いえ、まだわからないです(笑)。でも、誰も本当のところはわからないんだと思うし、それでいいんだとも思います。この時点で理解できるくらいなら、彼女はあんな道を辿っていないでしょうし、そんな簡単に言葉で解釈できるようなことではないんですよ。だけど、それを作品にしたという意味では、映画もすごく素敵で良く出来ていたし、もちろんこの舞台も、マリーさんの感性であの強烈なネリーの世界を芸術として成立させているので純粋にすごいと思います。マリーさんのクリエイションに対する考えは、本当に勉強になると同時に、私はとてもリスペクトしているんです。私たちも参加する人間として、そのクリエイションに何かアイデアを出していきたいし、このセッションでいいものを生み出したいと思っています。

そのなかで松雪さんの場合は、ネリーの“死”の部分を象徴する“影の部屋”を担当されるわけですが。

そうなんですよ。やはりすごく大変で、ここまで苦しいと思ったことはこれまでになかったくらいに、とても強烈な経験をさせていただいています。

ネリーの、例えばどんな言葉が、松雪さんにとっては刺さってきますか。

もちろん、みなさんそれぞれどの部分が自分にヒットしてくるかは違うと思うんですけど、私にもちょっとネリーの思考の世界に近い感覚があるというか。自分の中にあらゆる思考が氾濫して、どうしてもまとまらないときとかがあるので。そういうときに脳内で起きていることを、ネリーはとても鮮明に言葉にしているんです。その表現の仕方が本当にすごい。あと、親や血縁者に対しての憎悪のくだりも、言葉にしてしまうと残酷なことでもはっきりと書いてあったりする。だけど、そんな内容でも「うん、わかる!」みたいな部分がたくさんあるんですよ。ほかにも、自分は望まれて生まれてこなかったんじゃないかと強く思っているくだりとか、以前にコールガールをやっていたときの描写は、どういう感覚でその時間を過ごしていたのかも詳細に書かれているのでなかなか強烈ですね。

キャストも演出家も女性ばかりの環境ですが、稽古場全体の雰囲気はいかがですか。

もう、早い段階でみんなで「これはものすごいプロジェクトだぞ」と認識したので、「遠慮しないで、どんどん声に出していこう!」みたいなムードになっています。だって、しっかり共有していかないと間に合わないですから。そういうポジティブな現場だと、私は感じています。

みんなで協力していかないと、これは。

そう。「無理だよね!」って感じなので(笑)。

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