Interview

ハナレグミが語る新作『SHINJITERU』 に込めた切なく、温かい感情のありか。

ハナレグミが語る新作『SHINJITERU』 に込めた切なく、温かい感情のありか。

歌心とは何か、と問われたら、黙ってこのアルバムを差し出したい。ハナレグミの7枚目のアルバム『SHINJITERU』。その声で絵を描くように始まり、様々な景色を見せてくれるこのアルバムは、「切ない」感情をかきたてながら、いつの間にか体の奥がじんわり温まっていくような心地良さがある。音数を絞り込んだサウンドは、彼にしか歌えない歌と言葉を際立たせ、聴くものを深い場所へ連れていく。
映画『海よりもまだ深く』の主題歌となった「深呼吸」も含め、自身が作詞作曲を手がけた曲に、堀込泰行、阿部芙蓉美、かせきさいだぁ、沖祐市が作詞・作曲で参加。ハナレグミとしてデビューして15年。聴き手の内面に届く歌にずっと心を砕いてきた。「ここから、また何かが始まりそうな予感がする」というハナレグミの永積 崇に訊く、今の歌のありか。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 古溪 一道


音楽が毎日の生活に自然にあるようになればいいのに…という思い

ハナレグミとして活動をスタートして、今年で15年。SUPER BUTTER DOGと併行してソロ活動を始めた頃はどんな風に未来を描いていましたか?

最初はハナレグミなんて名前にするつもりもなく、周りの友だちに自分のつくった曲を聴いてもらえるだけでいいや、くらいに思っていたんだけど、当時の事務所の社長が「だったらCDつくりなよ」って言ってくれて。1枚で終わるつもりだったのが、なんだかんだでもう…自分でも信じられないですね。

1stシングル「家族の風景」とアルバム『音タイム』(2002年)は、静かな衝撃として波及していきましたね。

そうなんですよ。そこから、ハナレグミだったらこんなアイデアでこんなライブができるんじゃないかと、弾き語りで全国をまわったり、フリー・ライブ(『hana-uta fes.』2005年)をやったり、新たな場所で歌をうたうことが始まったんです。

ハナレグミの初期に、料理研究家の高山なおみさんがシェフをしていた吉祥寺の店「KuuKuu」でお弁当付きのライブを拝見したことがあります。

ああ、それはかなり初期の頃ですね。高山なおみさんはいちばん最初のハナレグミのライブを国立で観てくれて、そこから繋がったんですよ。バンドと違って、一人だとパッと思いついた時にライブができるし、こういう場所で自分の歌が流れたら面白いだろうなとか、それまでと違う発想で自由にできる気がして。ハナレグミを始めた頃、初めて沖縄に行って、沖縄って音楽がいつも身近にあって、なんて豊かなんだろうと。そんな風にもっと音楽が毎日の生活に自然にあるようになればいいのに…という思いもあったかな。

そういう活動が草の根的に拡がり、アルバムも7枚目になります。

最初の頃はSUPER BUTTER DOGとハナレグミとの音楽性の違いに戸惑った人もいたかもしれないけど、当時は「SUPER BUTTER DOGってどういう音楽やりたいの?」ってよく質問されていたんですよ。あの頃は、ひとつのスタイルに固守しないといけないのかな、と感じたこともあったけど、今の若い子たち今も昔も関係なく並列に好きな時代をアーカイヴするじゃないですか。この感覚ってあの頃の自分も同じだったんだけどなって思う。

少ない言葉でひとつの感情を歌う佇まいの音にしたかった。

 

今回のアルバム『SHINJITERU』は、「線画」という囁くような静謐な曲から始まりますが、角田純さんが描き下ろしたアルバムのジャケットとも重なる曲ですね。

ここ数年、「線」がすごく気になっていて、漫画家の井上雄彦さんの『スラムダンク』のドキュメンタリーDVDでナレーションをやらせてもらった時に、すべては鉛筆の一本の線から始まり、線を重ねていくと、こんなに感情が喚起されるんだなと思って。角田さんの作品集『SOUND AND VISION』を見た時にも、これって言葉になる前の言霊みたいなものかなって。そういう物語を角田さんの絵から僕は感じたんですよね。 

その言霊は、ハナレグミの音楽と共振するものなんですね。

そう。僕はそこにただ「在る」歌に近づきたいのかもしれない。音楽に限らず、世の中には人を何かの方向に導こうとするメッセージが溢れているけど、本来自分が身を委ねたいのは、言葉になる前のなんとも言えない感情なんじゃないかと。そこには憂いや切なさ、快感や悦びもあって、僕はそこにパッションを感じてしまうんです。今、そういうものに触れたい、歌いたいという感覚がある。

前作『What are you looking for』は、野田洋次郎さん(RADWIMPS)、YO-KINGさん(真心ブラザーズ)の楽曲や共作もハナレグミに新たな風を送り込んだ感がありましたが、今回も様々な共作陣と組んでいますね。

実は、「秘密のランデブー」(作詞:かせきさいだぁ 作曲:沖祐市)は前作の時にすでにあって、CD2枚組にするという話もあったんだけど、やはりゆっくり聴いてもらうには分けた方がいいかなと。うまくは説明できないんだけど、来年から自分の中で何かが大きく変わっちゃいそうな気がしているんです。だから、出来ている曲は今年中に出しておきたいという思いもありました。

新作にも関わらず、音数を絞ったサウンドの質感が肌にしっくり馴染むような風合いを醸しているのも特徴かな、と。

そうですね。『音タイム』の頃の衝動にも似て、少ない言葉でひとつの感情を歌う佇まいの音にしたかったんだと思います。歌がみんなの中にすっと入って立ち上がってくるような…フォークソングしたかったのかな? スケッチみたいな言葉とメロディーにそって、音を選びながら、余白を奏でる。歌が誰かのものになるためには、僕は言葉や音を抜いていくタイプなんです。

数少ないクラブの記憶の話をして出来た「秘密のランデブー」

アルバムでは「My California」「Primal Dancer」の作詞を手がけた阿部芙蓉美さんが、ボーカル・ディレクションにも参加と大活躍ですね。

芙蓉美さんにはとても近い感覚を覚えていて、彼女の歌詞や歌に少年〜青年性を感じて、自分で言うのも何なんだけど、それを表現するには自分の声は向いているんじゃないかと。今回は芙蓉美さんも面白がってくれて、一緒に歌の主人公について考えたり、歌のディレクションまでしてくれて。

Curly Giraffe(高桑 圭)がサウンドプロデュースを手がけた「My California」の楽観的で明るい主人公もいい。

そうそう。この歌の主人公、気持ちは前向きなんだけど、あれ? 一度寝るんだ? 映画観ちゃうんだ? って(笑)。芙蓉美さんの歌詞にはユーモアと遊び心があるんですよね。メロディーはトム・ペティと「岬めぐり」が合体している感じで、アメ車で荒野を走っていながら、どこからか磯の香りがしてくるような(笑)。

「秘密のランデブー」は2年前に出来ていた曲だそうですが、沖さんの曲を歌うのは東京スカパラダイスオーケストラに参加した「追憶のライラック」以来になりますね。

沖さんのメロディーがとにかく好きで、自分の体が無理なく歌えるんです。この曲を聴いた時、フィリー・ソウルのような夜のイメージが浮かんだんです。でも、僕の詞だと自分の心象風景になっちゃうから、夜の遊んでる風景が書けて、なおかつ自分のキャラクターを分かってくれる身近な人はいないかなぁと、かせきさいだぁさんにお願いして、僕の数少ないクラブの記憶の話をして出来た歌詞なんですよ。BUTTER DOG時代にはそのクラブでたまに弾き語りで井上陽水さんを歌ったり、ハナレグミの原型みたいなことをやっていたし、今思えばかなり独特な空気を出していたかもしれない(笑)。

「秘密のランデブー」と「Primal Dancer」の夜の風景は新鮮ですね。阿部芙蓉美さん作詞の「Primal Dancer」のちょっと色っぽい歌詞とか。

それこそ、自分には書けない。「一晩中でもいけるよ」って自分ではさすがに言えないけど(笑)、これからは頑張りたいスね。この流れは、今までの自分のダンス・ミュージックとは違うアプローチができたかな。それができたのも今回のバンドのメンバーと春からライブハウスツアーをまわってきたからで、メンバーが深く関わってくれたおかけでアレンジも自分が行きたい方向に進むことができたと思います。

ずっと憧れだった必要な骨組みだけで完成されている音

「ブルーベリーガム」(作曲:堀込泰行)など、今のバンドのグルーヴがよく出ていますね。

アル・グリーン〜スタックスのような余白だらけのサウンドなんですけど、それはソウルを歌いたいというより、余計なデコレーションしなくても立ち上がって来る歌が歌いたいからかな。ベースの伊賀(航)さんは今年のツアーからの参加ですが、みんな説明しすぎなくても、ちゃんと曲にたどり着いてくれる心強さがあって、自分の音楽の作り方にも合うんですよ。僕はモチーフだけ持っていって、そこからみんなで調理していきながら、歌詞や歌を紡いでいくのが好きなので、この4人だけで十分行ける、たどり着ける、とツアーで確信したんですよね。ずっと憧れではあったんです。必要な骨組みだけで完成されている音って。

竹中直人さんの「君に星が降る」(作詞:竹中直人 作曲:坂本龍一)をカヴァーしたのは?

これも前作の時に録っていて、教授の独特のメロディーとエキゾチックなアレンジがすごく好きだったんです。竹中さんの何気ない歌詞も良くて、竹中さんの映画にも通じるし、RCサクセションで言えば『楽しい夕に』の頃の日向ぼっこしている感じ。そういう意味で自分の世界とも繋がる気がして。

「太陽の月」は、この春のツアー中に山口県周南市でバンドメンバーと地元のリハスタに入り、セッションする中で生まれた楽曲とか?

たまたま周南市でツアーのオフ日があって、ホテルでボーッと過ごすんだったら、地元のリハスタとか行ってみたいねって話になり、急遽楽器屋さんの奥にあるリハスタでセッションしてね。あれは楽しかったなぁ。小編成の身軽なツアーだったから出来たことでもありましたね。

その一方で、カセットテープレコーダーでセルフレコーディングした弾き語りの「消磁器」もあるというのが面白い。

前から弾き語りのレコーディングの方法をずっと探っていて、いわゆるスタジオで録るのってなんか違うよなと思っていたんです。ふらっと知り合いの店で歌ったり、ノーマークの時ほど良い歌が歌えたりするんで。それでソニーの「デンスケ」を買ったんですよ、ヤフオクで(笑)。僕は歌うという熱量とそれを受けとめるものが対等なのが好きなんでしょうね。だから、一度やってみたいのは、歌っている脇でレコードの溝が削られるジャマイカのダイレクト・カッティング。

それは究極ですね。

そういうレコーディングだからこそ生まれるライブ感ってあるだろうし、それを信じているところはありますね。「デンスケ」のマイク一本でのギター弾き語りは、これからも続けていきたいですね。

YOSSYさんの埼玉の山中にあるスタジオでレコーディングされた曲は、鳥や蝉の鳴き声、川のせせらぎなどの音が入り、森の中で聴いているようでした。

「YES YOU YES ME」はインストとスタジオの周囲の自然の音を録ったものを元にセッションで生まれたんですけど、場所もある意味、メンバーなんですよね。僕はスタジオ然としたところより、何かが起こりそうな場所の方がわくわくするし、環境によって曲や歌詞や歌も変わっていく。そんな色んな要素が偶然に重なる面白さを求めているんだと思います。

切なく、温かい、まだ何にもたどり着かない感情を歌っていきたい。

是枝裕和監督の映画『海よりもまだ深く』の主題歌「深呼吸」は昨年シングルとしてリリースされましたが、あの映画の世界観とハナレグミの世界が通底しているとあらためて感じました。

是枝監督にはすごいタイミングで声をかけてもらったなと思っていて、あの映画は自分の過ごして来た時間や主人公のちょっとダメな感じとか、「でも自分はまだいける」と思っているところとか重なるところもあって。自分の歌ももしかしたらこういう方向に行こうとしているのかな、と。切ないような、温かいような、まだ何にもたどり着かない感情というか。僕の歌を聴いてもらって、そこに自分の時間や感情をみつけてくれたら、たぶんそこが自分が歌いたい場所なんだと思うんです。

ハナレグミは聴き手のパーソナルな部分に届く歌をずっと歌い続けてきたと思いますが?

それをライブでも感じると若い人に言われたことがあって、フェスの何千人の聴衆の中で聴いても一対一になれると。もし、そんな風に届いているなら、すごく嬉しいし、ライブもまだ色んな可能性があるなと思うんですよ。

「深呼吸」の歌詞には「信じる」という言葉が出てきますね。アルバムのタイトルはそこから導かれたのでしょうか?

「君だけはぼくのこと 信じてくれていた」と歌っているんですよね。「ブルーベリーガム」でも「信じる」という言葉が出てくるし。でも、それはタイトルを決めた後に気がついたんです。「信じる」「信じている」って、鎖のように繋ぎとめる言葉ではなくて、たとえ対象がなくなっても僕の中に変わらず残るもの。故郷や過去の思い出なんかを想う時の切なさとか憂い。僕はそういう揺るぎないものを信じているし、歌っていきたいんだと思う。

ハナレグミの今を映しながら、その先をも予感させるアルバムでもありますね。

『What are you looking for』『SHINJITERU』で自分の中で何かが終わって、何かが始まるような気がしていて。今回、音も言葉も線画のように透き通らせたのは、次にどこへでも行けるように、いつでも新しく始められるようにしたかったからなんだと思うし、それを信じているんです。

ハナレグミ – 深呼吸【Music Video Short ver.】

その他のハナレグミの作品はこちらから

ライブ情報

ハナレグミ ツアSHINJITERU 

11月07日(火) 金沢・金沢Eight Hall 
11月10日(金) 札幌・Zepp Sapporo
11月12日(日) 仙台・仙台GIGS
11月14日(火) 福岡・福岡DRUM Logos
11月16日(木) 岡山・岡山CRAZYMAMA KINGDOM
11月17日(金) 名古屋・名古屋DIAMOND HALL 
11月26日(日) 大阪・オリックス劇場
12月06日(水) 東京・国際フォーラム ホールA

ハナレグミ

永積 崇。1974年、東京生まれ。1997年、SUPER BUTTER DOG でメジャー・デビュー。2002年よりバンドと併行して、ハナレグミ名義でソロ活動をスタート。同年、1stシングル『家族の風景』、11月には1stアルバム『音タイム』をリリース。『日々のあわ』(2004)、完全自宅録音による3rdアルバム『帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。』(2005)をリリース。SUPER BUTTER DOGの代表曲をタイトルにした竹中直人監督映画『サヨナラCOLOR』ではサントラも担当する。2005年には東京・小金井公園にてワンマン・フリー・ライヴ『hana-uta fes.』を開催。以降もカバーアルバム『だれそかれそ』(2013)など話題作を発表。2016年には是枝裕和監督映画『海よりもまだ深く』の主題歌「深呼吸」と本編の音楽も手がける。今年の3月からはライブハウスツアー「名前のないツアー」が17箇所18公演が開催された。

オフシャルサイトhttp://www.hanaregumi.jp/

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