山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 23

Column

不滅の男/遠藤賢司

不滅の男/遠藤賢司

10月25日早朝、半世紀にわたって音楽シーンを照らし、揺さぶり続けたひとつの魂が天に昇った。
自身の言葉とリズムですべてを表現し、四畳半から宇宙を描き出した“純音楽家”遠藤賢司。
虚飾を嫌い、不誠実に怒り、音楽そのものを愛し追求した不世出のミュージシャンが、時空を超えて“いま”響かせるメッセージ。
緊急寄稿。


公演先の青森県弘前市。リハーサルを終え、一旦ホテルに戻ったとき。遠藤賢司さんの訃報が届く。一瞬、自分のコアが真空になったような気がした。

どんなときでも、僕らはステージという約束を果たさなければならない。エンケンさんが10月のコンサートをキャンセルしなければならなかったとき、いったいどんな気持ちだったんだろう? その無念さを想像することで、僕は自分を奮い立たせる。

ステージに上がる。のっけから僕のギターの音が出ない。原因不明。こんなことプロになって初めてだ。というより、プロとしてあるまじきことだ。いったい何のメッセージなんだろう? ひどく狼狽しながら、必死に考える。こんなとき、エンケンさんだったらどうするんだろう?

持っている引き出しを全部使って、何とかコンサートをやり終えたけれど、音が出なかった理由は今も分からない。終演後、すべてチェックしたが、何も壊れていなかったのだから。

思い過ごしだと思う。でも、どんなことがあろうとも、そこから逃げることなく、全力で音楽と自分と聴衆に向きあえと、エンケンさんがメッセージを送ってくれたのかもしれない、と受けとめている。

純音楽という道。

その夜、弘前にあるASYLUMという名のバーに仲間が集う。『嘆きのウクレレ』を聞いてエンケンさんを想う。今更ながら、このアルバムに刻まれた、人間としてのダイナミクスに胸を打たれ、驚愕する。あの頃気づかなかったことが、今になって新しく響いてくる。カミソリのように鋭く、よく晴れた日の縁側に差す木漏れ日のようにあたたかく、不誠実への怒りと、深い愛が込められている。これが45年前に創られたものだとは、にわかには信じがたい。酔いも廻って、音楽は遥かに時空を超えてゆく。

このアルバムを聞いたのは80年代の後半。FM福岡のレコード室だった。日本にこんなにすごい人が居たのかと、相当な衝撃を受けた。エンケンさんが内包している宇宙の広さ、静けさの中にある凛とした強さ、脆さ、豪放の中に潜む繊細さ、フィンガーピッキングの音の隙間が語りかけるもの。唯一無二。

憧れた。

上京し、プロになってすぐ。ゲストを迎えてライヴが企画された。僕は勇気を振り絞ってエンケンさんの名前を挙げる。エンケンさんは若輩者のオファーを引き受けてくれた。

初対面は雑誌の対談。嬉しさと緊張で何を話したのか、まるで覚えていない。目黒川に降る雨。大きな傘をさして、濡れないようにしてくれたっけ。瞳がきれいだった。澄んだ摩周湖のように。哀しみと怒り、とてつもない優しさをたたえた唯一無二の瞳。

リハーサルが始まった。僕らがまず最初に教えられたのは四股の踏み方。何度も一緒に踏んでくれた。ほんとだよ。ドラマーに檄が飛ぶ。「シンバルはUFOなんだ! 目の前にびゅーーーーーーーんと飛来するように魂で叩くんだ!」。僕が高揚してアンプの前でフィードバックをはじめたら、エンケンさんも横に並んで鬼の形相。フィードバックが2匹の龍みたいに絡みあうカオス。2台のグレッチ。理論じゃないんだ、情熱だ。度肝を抜かれた。首尾一貫、徹頭徹尾、リハーサルにして、一切の手抜きなし。120%の本気。これが純音楽道かと身体で思い知る。

ライヴを全力でやり終えたあと、楽屋に戻ったエンケンさんは肩で息をしながら「ヒートウェイヴは最高だ! でもまだ君たちには絶対に負けん」と云った。

どこかで手を抜いたり、ウソをつけば、それはやがて自分を滅ぼすことになる。だから、ただひたすらにまっすぐに、全身全霊で生きる他ないのだと、僕はエンケンさんの背中に教えられた。それは僕のコアになった。僕が僕である理由だ。僕はかなりの部分、エンケンさんの影響によって形づくられた。

感謝しかない。

最後に共演させてもらったのは吉祥寺にあるスターパインズカフェ。バックステージで僕はエンケンさんの演奏を聞いていた。ラインではなくマイクだけで拾われたアコースティック・ギターの音が地鳴りのように響いていた。書けばこれだけのことだけれど、こんなことは起こり得ない。技術や情熱さえも超えた音。まるで厳寒の津軽の地吹雪のようで、宇宙との交信の呪文のようで、無限でいて、永遠のようで、優しくて、繊細で、愛そのものだった。やっぱりひどく僕のコアに届いて、揺さぶられて、しばらく涙が止まらなかった。歩いてきた道はたぶん、そんなに間違ってはいなかった。

エンケンさん。あなたが居なくなってほんとうに寂しいです。僕に云えることなんて何もないけれど、あなたは不滅の男として、僕の中で生き続けます。ほんとうにありがとうございました。ほんとうにありがとうございました。

亡くなったあと、エンケンさんに近しかった人たちによって、紹介されていた歌がある。あらためて聞いてみて、言葉を失くした。まったくどこまでも、なんという人だろう。合掌。

「俺が死んだ時」遠藤賢司
(『ちゃんとやれ!えんけん!』2012年発表作品に収録)


そりゃもてたいよ
でももてはしないけど
女だけには甘えん坊

おまけに俺は臆病で怠け者だ
でも音楽だけは逃げたことが無い

そうだろどんな仕事でも
逃げずにやってる凄い奴がいる

そう俺が死んだ時 俺の凄さが解かるだろ
俺の遺影に 上っ面の手を合わせながら お前はこう思う
ああこいつは音楽だけは逃げずにやってきたんだと

そんなにあわてて今更
気がついたってもう遅いけど

そう思ってくれたら それは俺への勲章だ

俺が死んだからって トンチンカンな御世辞をふりまくな
お前になんぞ 俺の音楽が語れるものか

どうせCD1枚買うものか
どうせすぐに忘れてしまえ

でもざまあみろ 少しは肥やしになるだろう
でもざまあみろ 少しは肥やしになるだろう


遠藤賢司(えんどう・けんじ)
1947年、茨城県勝田市(現ひたちなか市)生まれ。純音楽家。大学時代、ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」を聴き、ギターを借りて歌い始める。60年代後半のフォーク・シーンにおいて “ギター一本で宇宙を表現する”を信条にギターと対峙する奏法は、ドアーズ、ジミ・ヘンドリクスらの影響もあって、他のフォーク・シンガーとは一線を画す存在に。
1969年、シングル「ほんとだよ/猫が眠ってる」でデビュー。細野晴臣、鈴木茂、松本隆らが参加して1970年にアルバム『niyago』を、1971年に『満足できるかな』を発表。1972年、同アルバムから三島由紀夫の割腹自殺の日のことを歌った「カレーライス」をシングル・カット、10万枚を超えるヒットを生む。同年、上記メンバーに加え、後藤次利、石塚俊明(頭脳警察)らが参加した『嘆きのウクレレ』を発表。反戦フォーク全盛の中で、個の日常の心象風景や人間の情念の世界を歌い続ける。
1978年、英国パンク・ムーヴメントに触発され、『東京ワッショイ』を発表。1982年には同作と『宇宙防衛軍』(80年)に影響を受けた長嶺高文監督の映画『ヘリウッド』に主演、活動の幅を広げる。1983年、細野晴臣、越美晴が参加した『オムライス』を発表。その後は活動の軸足をライヴに移し、1988年には遠藤賢司バンド(エンケンバンド)を結成。ソリッドなサウンドを追求する一方、生ギター一本の弾き語りライヴも継続して行う。
1996年、16年ぶりとなるスタジオ録音盤『夢よ叫べ』を発表。同時期、みうらじゅんプロデュースで若手を含む多くのミュージシャンらによるトリビュート盤『プログレマン』が発表される。デビュー30周年の1999年には、生ギター一本で自らの楽曲をセルフカバーした無編集同時録音のベスト盤『エンケンの四畳半ロック』を発表。
2000年代に入ると数々のロックフェスにバンドで出演。2003年にはエンケン&カレーライスで〈FUJI ROCK FESTIVAL〉に、2007年には遠藤賢司バンドで〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉に、2009年にはエンケン&カレーライスで〈ARABAKI ROCK FEST.〉に出演。数千人の観客に衝撃を与える。
2005年、『不滅の男 エンケン対日本武道館』の監督・主演・音楽を務め、2009年には浦沢直樹原作の『20世紀少年 最終章 ぼくらの旗』にゲスト出演(作品の主人公の名“遠藤健児”は「地球を守るケンヂといえばエンドウケンヂしかいない」ということで付けられた)。2007年、還暦の年にCD9枚+DVD1枚からなる未発表音源BOX『遠藤賢司実況録音大全[第一巻]1968-1976』を発表、その後、シリーズ化する。
2012年、山本恭司&WILD FLAG、エンケンバンドらが参加し、『ちゃんとやれ! えんけん!』発表。2013年、宮藤官九郎監督・脚本の映画『中学生円山』に徘徊老人役で出演。劇中ライヴで「ド・素人はスッコンデロォ!」「おでこにキッス」を歌った。
2016年、がんであることを公表。療養と並行して音楽活動を続け、発売45周年を記念して多数のレア音源を加えた『満足できるかな デラックス・エディション』を発表。サニーデイ・サービスと共に同アルバムの再現ライヴを行い、その音源を『感動実況録音盤 45年目の満足できるかな』(2枚組CD)として発表。
2017年1月、全編ビアノによるインストゥルメンタル・アルバム『けんちゃんのピアノ画(スケッチ)』を発表。6月29日には渋谷クアトロでライヴを行った(中止になった10月19日@梅田クアトロでのライヴの「お詫び」がブログに綴られている。)
10月25日早朝、逝去。享年70歳。
11月18日から渋谷ユーロスペースで公開される映画『愛しのノラ〜幸せのめぐり逢い〜』の主題歌に「カレーライス」が使用されている。年明けには音楽葬が行われる予定。

公式サイト:遠藤賢司秘宝館

遠藤賢司リリース情報
diskunion.net
MIDI RECORD CLUB

『満足できるかな デラックス・エディション』

FJ126-127 ¥3,900(税込)
発売45周年を記念して発表された、1971年発表のアルバムにボーナストラックを多数収録した2枚組CD

【収録曲】
[A面]
01. 満足できるかな
02. カレーライス
03. おやすみ
04. 待ちすぎた僕はとても疲れてしまった
05. 外は暑いのに
06. 今日はとってもいい日みたい
[B面]
01. 寝図美よこれが太平洋だ
02. ミルク・ティー
03. 早く帰ろう
04. 雪見酒
05. 君はまだ帰ってこない

『感動実況録音盤 45年目の満足できるかな』

FJ128-129 ¥3,900(税込)
2016年9月21日に渋谷クラブクアトロにて開催されたライヴの実況録音盤

【収録曲】
[DISC 1]
01. 猫が眠ってる
02. 夜汽車のブルース
03. 満足できるかな
04. カレーライス
05. おやすみ
06. 待ちすぎた僕はとても疲れてしまった
07. 外は暑いのに
08. 今日はとってもいい日みたい
09. 寝図美よこれが太平洋だ
10. ミルク・ティー
11. 早く帰ろう
12. 雪見酒
13. 君はまだ帰ってこない
[DISC 2]
01. 不滅の男
02. 夢よ叫べ

DISC 1-1…エンケン+曽我部恵一
DISC 1-2,3,6,9,12,DISC 2-1…遠藤賢司 with サニーデイ・サービス

『嘆きのウクレレ』45周年記念盤

FJ134 ¥3,240(税込)
1972年に発表された3枚目のアルバムを、発売45周年を記念して最新リマスタリングで再発。前作『満足できるかな』のマスターテープより発掘された「歯のないうさぎの口」(未発表バージョン)を収録した2枚組。

【収録曲】
[A面]
01. ねえちょいとそこいくお嬢さん
02. 猫と僕と君
03. Hello Goodby
04. プンプンプン
05. 嘆きのウクレレ
[B面]
01. 歯のないうさぎの口
02. いつの間にか雨が
03. 歓喜の歌

「東京ワッショイ/不滅の男」

アナログEP:FJEP1005 ¥2,000(税込)
復刻版7インチレコード

【収録曲】
[A面]
東京ワッショイ [B面]
不滅の男

『夢よ叫べ』

CD:MDCL-1312 ¥3,146(税込)
アナログLP:MDJL1003-04 ¥7,344(税込)
1980年に発表した『宇宙防衛軍』以来16年ぶり、細野晴臣、鈴木茂、星勝(ストリングス・アレンジ)、梅津和時らをゲストに迎え、 1996年に発売されたスタジオ録音フルアルバム。2017年12月25日に初アナログLP化(2枚組)される。ジャケットはCDリリース時の初回限定盤の3面ジャケットを再現

【収録曲】
01. 俺は勝つ
02. 裸の大宇宙
03. おでこにキッス
04. 君の夢はどんな夢
05. 荒野の狼
06. 風車(かざぐるま)
07. ボイジャー君
08. 頑張れ日本(日本サッカーの応援歌)
09. 嘘の数だけ命を燃やせ
10. 夢よ叫べ

『エンケンの四畳半ロック』

MDCL-1349 ¥3,240(税込)
デビュー30周年を記念した、生ギター一発録りセルフカバー・アルバム

【収録曲】
01. ねえ踊ろうよ
02. 満足できるかな
03. カレーライス
04. 夜汽車のブルース
05. スクリュー
06. 雨あがりのビル街
07. ハローグッバイ
08. 外は雨だよ
09. 踊ろうよベイビー
10. 通好みロック
11. 東京ワッショイ
12. 不滅の男

『ちゃんとやれ! えんけん!』

MDCL-1523 ¥3,240(税込)
エンケンバンド(石塚俊明[Dr]、湯川トーベン[B])、エンケン&アイラブユー(森信行[Dr]・大塚謙一郎[B])、満園兄弟(英二[Dr]・庄太郎[B])、山本恭司[EG]らが参加

【収録曲】
01. エンケンがやってくる!
02. 俺が死んだ時
03. ブルースに哭く
04. ア!ウ!
05. 心の奥まで抱きしめて
06. もうちょっとだけ頑張ってみようかな
…2011年3月14日月曜晴れ…
07. 為に、音よ言葉よ俺の心に突き刺され
08. ちゃんとやれ!えんけん!
09. 夢よ叫べ …2012…
10. 美しい女(ひと)

『けんちゃんのピアノ画(スケッチ)』

CD:FJ130 ¥3,024(税込)
アナログLP:FJLP130 ¥4,000(税込)
全編ピアノによるインストゥルメンタルアルバム

【収録曲】
01. 世界でいちばん君が好き
02. 初恋のワルツ
03. 夕顔
04. 雨あがりの散歩道
05. 縁側に腰かけてスイカを食べようよ
06. みいこのお昼寝
07. 猫のケンカ
08. あいたいよ…風の電話…
09. こけし頭の女の子
10. マリモ幻想曲
11. 棄てないで
12. カレーライス奇想曲

遠藤賢司の音楽を聴いてみる

著書プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一 (Bass)
、細海魚 (Keyboard)
、池畑潤二 (Drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。2017年5月には14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』をリリースした。東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE 2017”は、古市コータロー、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと共に南青山MANDALAで5日間のライヴを開催。現在、全曲リクエストで構成されるソロ・ツアー2017『YOUR SONG-2』を展開中。12月にはバンドで全国4公演ツアーを行う。12月26日には2枚組のセルフカバー・アルバム『YOUR SONGS』をリリース(ライヴ会場で先行発売予定)。

オフィシャルサイト

LIVE情報

山口洋(HEATWAVE)solo tour 2017 autumn『YOUR SONG-2』
11月05日(日)岩国 himaar
11月07日(火)福山 Boggie Man’s Cafe POLEPOLE
11月10日(金)高知 Sha.La.La
11月15日(水)横浜 Thumbs Up
11月11日(土)高松 Bar RUFFHOUSE *スペシャルライヴ!『OUR SONG』山口洋 × 藤井一彦
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HEATWAVE new album tour 2017 “Your Songs”
12月14日(木)愛知 TOKUZO
12月15日(金)福岡 DRUM Be-1
12月17日(日)京都 磔磔
12月22日(金)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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