Interview

押井監督流・ゾンビ映画の楽しみ方〜押井守、ゾンビ映画を語る(前編)

押井監督流・ゾンビ映画の楽しみ方〜押井守、ゾンビ映画を語る(前編)

『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』などの映画監督・押井守は、監督業の傍ら時々小説も書いている。その押井監督が今年8月に上梓した最新刊が『ゾンビ日記2 死の舞踏』(角川春樹事務所)。押井守とゾンビ、これまでの作品歴からはあまり想像できなかったその組み合せには、押井監督のちょっと変わった「ゾンビ愛」が隠されていた……?

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宝探し感覚で見る!
ジャンルムービーとしての「ゾンビ映画」

押井監督が一番最初に観たゾンビ物というとなんでしょうか? 

よく覚えてないんだけど、多分ロメロだったのかなあ。昔から「スーパーマーケットもの」が好きだったから。
 印象に残ってるのは、昔観たイタリア映画のゾンビ物……『サンゲリア』(1979年)か。お墓からむくむく出てくるやつ。中身は全然覚えてないんだけど、イタリアのエロいお姐さんを覚えてる。あとちょっといいなと思ったのが、イギリスの『28日後…』(2002年)。ロンドンから逃げ出して、一個分隊くらいの軍隊が変なお屋敷に陣取ってて、そこに逃げ込んでって話。最後は全滅するんだけど、あれは面白いなと思った。作品でゾンビとははっきり言ってないけど、まああれはゾンビだよね。結構面白かった。

どういうところに惹かれたんですか?

日常的な環境が一変してサバイバルするタイプの映画が基本的に好きなんですよ。廃墟願望も含めて。戦争映画とは明らかに違うけど、日常がある日突然一変して、少数の人間が生き残ってサバイバルしていくっていう映画が、昔から好きだった。だからゾンビ物がというよりも、そういうシチュエーションがゾンビ物にたまたまあったので観るようになった。

押井監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)には衣食住が完備されたサバイバルの描写がありましたがど、あれも『ゾンビ』(1978年)や『地球最後の男』(1964年)からの影響があるのかなと思ったんですが。

あるといえばあるかな。サバイバルというか、廃墟願望。朝起きたら誰もいない、そこから一人でどう生きていくかっていう妄想が昔から大好きだったの。高校のころはほとんどそういう妄想にふけって暮らしてた。僕は高校で学生運動をやる前は不登校だったんだけど、大体ベッドでSF読んでるか、『地球最後の男』の妄想にふけってた。どこに行って銃を手に入れようとか、どうやって食い物を集めようとか。
 基本的にはそういう廃墟願望。廃墟に一人で生きると。しかもものに溢れかえった廃墟。核戦争後でもなくて物資に不自由しないサバイバル。ああいうのが理想で毎日考えてた。『ゾンビ日記』はその妄想をそのまま書いただけだよ。そこで素敵な女の子に出会ってとかは全然考えなかった(笑)。

ゾンビ物というよりは、廃墟物という意味で最初は見たと。

それもある。でもゾンビ映画にも興味はあるんだよ。もしかしたらそのうち面白いのが出てくるかもしれないから。これだけパチモノの山を築いたジャンルというのは見過ごせない。僕は映画の中の境界線上の「ジャンルムービー」と言われるものに興味があるの。以前マカロニ・ウェスタンやカンフー映画ばっかり観てる時期があったんだけど、ブームの間に徒花が咲くことがある。
 昔レンタルビデオ屋に入り浸りだった時期が2年間くらいあって、未公開映画やVシネを毎日3、4本借りて観まくってた。まずほとんどはスカだったけど、50本に1本くらいはなかなかいいのがあるんですよ。大作で評判になってる映画を観た時の満足感とは違う。50本中49本のスカを観る覚悟が必要だけど。僕はそれがあんまり苦痛じゃない。その映画がなぜダメかを考えながら観るから。
 ゾンビ映画にもいつかそれが出てくるだろうと思ってしつこく観てるんだよ。だけどいまのところまだない。だからゾンビ映画は多分100本までは観てないと思うけど、それに近いくらい観てる。

この本(『ゾンビ映画大事典』)によると、ゾンビ映画はだいたい660本くらいあるそうなので、かなりの数を見てますよ。

押井 最近は借りてまでは見ないけど、テレビでやってるものは、タイトルにゾンビがついてるとか、匂いがしたらさっと観てる。それで30分でやめることもあるし、面白いのは4・5回観たりもする。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)みたいな特殊な作品は覚えてる。あれはゾンビ映画と知らずに観てた。あれもちょっと面白かった。

デジタル技術の進化がゾンビ映画を変えた

最初に挙げられていた『サンゲリア』と『28日後…』は、ゾンビ評論家の伊藤美和さんによるとゾンビ映画の中でもかなり変わった作品だそうです。『サンゲリア』は、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)とかの現代ゾンビの流れにあってあえてブードゥー教のゾンビを復活させたという点で、『28日後…』は、いままでのゾンビ映画になかった軍隊とゾンビを描いたという点で。

そうそう、『28日後…』はミリタリーの匂いがしたから観たの。結構ちゃんとやってたよ。イギリス軍の装備からなにからすごく正確だった。最後にジェット戦闘機が上空を飛ぶところで終わるんだけど、あれが非常に懐かしい戦闘機で、おおーって感じだったね。
 軍隊と言っても、装甲車両とトラッックみたいなのが一台あるだけで、あとは歩兵だから。庭に地雷を仕掛けたりとか一応真面目にやってるんだけど、基本的には立てこもってるだけ。調達に行くときだけはライフルで撃ちまくって。だけどなぜそうなったのかとかは、説明は一切ない。ウィルスっぽいねっていうだけ。だけどそれは主眼じゃないから。あれはなかなかおもしろかった。地味だったけどよく出来てる。

ゾンビ映画だけど地味っていうのは。

押井 齧り付いたり引きちぎったりとかいう描写がそんなにあるわけじゃない。怒って目を充血させてわーわー走りまわってるだけ。ゾンビなのに全力疾走してるんだよ。これがちょっとびっくりした。ゾンビ元気じゃんって(笑)。全員が全力疾走で、結構見ごたえがあった。

ゾンビ映画は、押井さんが大量に観たと言われていたイタリア映画の80年代を抜けると数がぐっと少なくなって、2000年以降にまた制作本数が増えるんです。

一般的に言えば、映画が暴力的になった。特にアメリカ映画。ヨーロッパでも売れてる映画で共通して言えるのは、ある種の過激性とか暴力性とか、明らかにエスカレートしてる。それは昔と違って、映画の表現の技法が上がったからだよね。

SFXとか、そういった技術的な面で。

うん。デジタルを使えば大抵のことができるから。人間をぶっ壊すみたいな即物的な表現というのは、今のほうがはるかに選択肢が多い。
 僕もこの前血だらけの映画(『東京無国籍少女』(2015年))を作ったけど、基本的には血しぶきは上から描いた。血がブシューって飛び散るのだけ仕掛けでやったけど、あとはアクションの途中の血は全部デジタルです。そうじゃないとできない。
 ゾンビ映画の増加は映画の表現一般がエスカレートしてきたのと無関係じゃない。昔はやりたくてもできなかったことがいまはできるようになった。人間はできることは必ずやるから。軍隊もそうだし、映画人もできることは必ず全部やる。ゾンビだって、何千人が群がってるのができるんだったらやっちゃうんだよ。
 この間の『ワールド・ウォーZ』(2013年)で、盛り上がってヘリコプターを襲っちゃうっていう、ゾンビ人柱(笑)。あのシーンはすごいなと思ってちょっと感動した。表現がエスカレートしているだけじゃなくて、洗練されてたから。でもその一方でお約束も必ずやってる。ゾンビがわらわら来る中を走り抜けてくっていう。最後の見せ場はちゃんと真面目にやってますと。
 あの『ワールド・ウォーZ』は3、4回観たかな。あれもよくできた一本だよね。ゾンビ映画史上一番金かかってると思うよ(笑)。

宝石よりもきれいなビー玉をみつけたい

B級映画を多作してるプロデューサーは、必ずゾンビをやるんですよ。比較的安くできるし、需要があるからコンスタントに売れる。日本のエロVシネと同じで、今時こんなチープなエロ映画を誰が観るんだって思うんだけど、レンタル屋さんが必ず一定数買ってくれるから作られる。棚に並べておけばそれで騙されて観るお兄ちゃんがいるの。
 それはゾンビも同じ。「ゾンビvs★★」みたいなタイトルに思わず手が出る僕みたいなのがたくさんいるわけ(笑)。しかも撮るのにそんなに金がかからない。だからB級を量産する素材として適当なんですよ。
 昔からそういうわけのわからない「境界映画」に、すごく興味があった。「アマゾネスvs★★」とかね、「半魚人vs★★」とか、いかがわしそうな境界映画、ボーダームービー。ボーダーであればあるほどいい。

映画の中で異形なものが観たい?

いや、そういうB級映画って安い駄菓子とかビー玉みたいなもんだよね。だけどビー玉でも水に落とすと宝石よりきれいに見えたりするじゃない。映画ってそういうものだと思ってる。チープなものをどうきれいに見せるか。言ってみればそれが「映画の力」だと思ってる。だからすごい大金かけてすごい役者使って、それで作られたすごい映画を観せられてもあまり得した気がしない。
 ただのかけそばだって、状況によってはしみじみ旨かったりするじゃない。それと同じで、安い映画に対する深甚な興味というのは僕の中にいまだにある。だからいまでも自主映画のコンテストの審査員とかやったりするんだよ。安い映画というのは映画の原初的な力というか、映画の原点だと思ってるから。そこで成功しない監督は何をやってもダメ。
 僕もアニメーションやりながら、並行して安い映画を量産したよ、嫌がられたけど(笑)。最近は高い実写も撮るようになったけど、相変わらず『東京無国籍少女』みたいな低予算
映画も作る 低予算映画は安いなりの勝負の仕方があって、本当はそのほうが監督の手腕も問われるんだよ。

映画の本質として、安っぽいものをすごいものに見せるというのはありますよね。

そうそう。安っぽいなりに楽しく観せたり、ちょっとびっくりさせたり。ジャンルムービーはタネも仕掛けも作りやすいから、それだけで成立してる
 コッポラがやたら金使って撮った吸血鬼映画(『ドラキュラ』(1992年))。表現は洗練されてたけど、映画としてはあまりにもクラシックで、面白くもなんともなかった。ああいうのは境界映画って言わないんですよ。大作になっちゃうと。
 だけど『ワールド・ウォーZ』は大作であるにも関わらず、B級のテイストを最後まで持っていた。あれは関心した。飛行機が落っこちてもちゃんとブラッド・ピットが生きてるとか。普通死んでるって(笑)。しかも歩いていけるところにちゃんと研究所があったとか、そういうご都合主義を堂々とやってる。冷静に考えたら相当にでたらめな映画なんだけど、スケール感と隙のない画で見せきっちゃう。あれがハリウッド映画の底力。
 あれだけ隙のない画を並べられたら、それは観ちゃうよ。日本だったら底の割れた画がどうしても入り込んじゃって、一瞬にして崩壊する。地雷原の多い映画でもあるんだよ。ちょっと一歩間違ったらチュドーンって、それまでの苦労が全部終わり。隙なく地雷を避けて最後まで作り通せれば、『28日後…』になる。あれは見事な映画だった。画の隙もないけど、ドラマ的にも隙がなかった。キャラクターもよくできてるし。

では、押井さんのおすすめするゾンビ映画は『28日後…』でいいですか?

んー……それだけだとちょっと不本意なんで(笑)。誰にでもオススメできるという意味では『ワールド・ウォーZ』かな。だけどさっきも言った通り、金をかけてちゃんと作った傑作というのは、本当は不本意。境界映画だからこそ、B級で大傑作が出て欲しい。残念ながらゾンビ映画の傑作はいまだに出ていない。出ていない理由がどうもありそうな気がする。それを今考えてるところ。

取材・構成 / 野田真外

押井守(おしい まもる)

1951年生まれ。東京都出身。映画監督、小説家。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』をはじめ、実写・アニメーションを問わず、独特で意欲的な作品を多数発表し、国内外から高い評価を得ている。
主な監督作に『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)『アヴァロン』(2001)『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)『東京無国籍少女』(2015)など。『イノセンス』(2004)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)はベネチア国際映画祭コンペティション部門にノミネートされた。
執筆活動も盛んで、小説やエッセイ、評論など幅広いジャンルをてがけている。小説家としての最新作は『ゾンビ日記2 死の舞踏』(2015)。

押井守監督作品

『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』

スタッフ
監督 押井守
脚本 伊藤和典
キャスト
田中敦子
大塚明夫
山寺宏一
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』Blu-ray Disc 6,800円(税抜き)
発売元:バンダイビジュアル
©1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

史郎正宗氏による傑作SF漫画を、押井守監督が映像化。サイバーな電脳空間と雑然とした現実世界が混在する世界観は、観る者に衝撃を与え、多くのフォロワーを生んだ。アメリカのビルボード誌のビデオチャートで1位を記録するなど、海外でも話題となり、ジャパニメーションブームの先駆けとなった。


『東京無国籍少女』

スタッフ
監督 押井守
脚本 山邑圭

キャスト
清野菜名
田中日奈子
吉永アユリ
『東京無国籍少女』DVD 4,700円(税抜き)
販売元 東映株式会社
発売元 東映ビデオ株式会社
©2015 東映ビデオ

押井守監督がこれまで避けてきた凄惨な暴力や性的な描写に取り組んだ意欲作。アクション女優として評価の高い主演の清野菜名に、あえて前半は抑えたトーンで、目の表情を意識した芝居をさせるなど、演出家としての手腕を発揮。ラスト15分の「誰にも予想できない」展開は議論を呼んだ。

関連作品

『28日後…』

スタッフ
監督 ダニー・ボイル
脚本 アレックス・ガーランド

キャスト
キリアン・マーフィ
ナオミ・ハリス
クリストファー・エクルストン
『28日後…』Blu-ray Disc 1,905円(税抜き)
販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

交通事故による昏睡状態から目覚めたジムは、病院を出てロンドンをさ迷う。そこで彼が目にしたのは静まり返った人気のない廃墟のような街並みだった。ジムが意識を失っていた間に、人間の精神を数秒で破壊する新種のウイルスが蔓延し、街には凶暴な“感染者”たちが巣食っていたのだ。ジムは、わずかに生き残った非感染者たちと、安全な場所を目指して旅立つが……。
『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督が放つ新世紀ゾンビ映画のターニングポイントともいえる作品。素早い動きで襲ってくる“感染者”が、以降の“走るゾンビ”に与えた影響は大きい。厳密に言えばゾンビ映画ではないが、脚本のアレックス・ガーランドは、ジョージ・A・ロメロ監督の『リビングデッド』三部作からの影響を公言しているという。


『地球最後の男』

スタッフ
監督 シドニー・サルコウ ウバルド・ラゴーナ
脚本 ウィリアム・レイセスター フリオ・M・メノッティ

キャスト
ヴィンセント・プライス
エマ・ダニエリ
ジャコモ・ロッシ=スチュアート
『地球最後の男』DVD 廃盤商品
発売元:有限会社フォワード
©WHDジャパン・有限会社フォワード

謎の細菌により、人類のほとんどが死滅、または吸血鬼化してしまった近未来。
「私が最後の人類なのだろうか」と自問自答を繰りかえす男の前に、一人の女性が現れる。
果たして彼女は、人類の生き残りなのだろうか? それとも……。
リチャード・マシスンの小説“I Am Legend”の初映画化作品。周囲がみな吸血鬼化していくなかで、ただひとり生き残った人間という世界観は、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』をはじめ、モダンゾンビ像の源となった。同原作は、1971年にチャールス・ヘストン主演で『地球最後の男オメガマン』として、また2007年にウィル・スミス主演で『アイ・アム・リジェンド』として映画化されている。


『ワールド・ウォーZ』

スタッフ
監督 マーク・フォスター
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン

キャスト
ブラッド・ピット
ミレイユ・イーノス
マシュー・フォックス
『ワールド・ウォーZ エクステンデッド・エディション 2Dブルーレイ』2,500円(税抜き)
発売元・販売元:株式会社KADOKAWA
©2013 PARAMOUNT PICTURES.All Rights Reserved.

元国連調査員のジェリー・レインは、危険と隣り合わせの任務に疲れ、いまは家族と穏やかな日々を送っていた。だが、ある日人間を凶暴化させる謎のウィルスが発生し、世界中が混乱に陥ってしまう。家族を守るため、ジェリーも現場に復帰し、事態の収束を図るが……。
マックス・ブルックが書いた同名小説にほれ込んだブラッド・ピットが制作と主演を兼ねて挑んだ快作。ゾンビ映画としては破格の製作費をかけて、韓国、イスラエル、イギリスと世界各国で巻き起こるゾンビパンデミックの様子を、壮大なスケールで描きあげた。

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