モリコメンド 一本釣り  vol. 38

Column

湯木慧(あきら) 詞曲を作り、歌い、色やペインティングでも伝えるスタイル。注目のデジタル・ネイティブ世代の表現者

湯木慧(あきら) 詞曲を作り、歌い、色やペインティングでも伝えるスタイル。注目のデジタル・ネイティブ世代の表現者

物心ついた頃からパソコン、スマホが身近にあり、インターネットで情報を得て、SNSでコミュニケーションをしてきた、いわゆるデジタル・ネイティブ世代。範囲や定義はいろいろあるが“インターネットと現実の境界線が曖昧”“年齢差、地位などに関係なくフラットな関係を築く”という傾向は、現在20歳前後(1997年生まれ以降)からさらに強まっているように思う。その特徴のひとつは“最初からすべてが揃っている”という感覚ではないだろうか。“足りないものは何もなく、少なくともネットのなかではあらゆる事象にコミットすることができる”この感覚は、充足感と飢餓感を同時に呼び起こす。あらゆるものが揃っているからこそ、自分だけの何かを手に入れたいという欲求が生まれるというわけだ。
“すべてを持っているが、じつは何もない”アンビバレンツな状態が当たり前の世代にとって、何かを表現するという行為にはどんな意味があるのだろうか? その大きなヒントになるのが、1998年生まれのアーティスト、湯木慧だ。作詞・作曲はもちろん、DTM、ペイント、MV制作などを自らの手で制作し、表現できるシンガーソングライター。高校1年生だった2014年8月からスタートしたツイキャスの総視聴者数は2年ほどで累計200万ビューを突破。さらにギター弾き語りによる路上ライブを積極的に行うなど、ネットとリアルを当たり前のように共存させている、まさに「デジタル・ネイティブ世代の表現者」と呼ぶにふさわしい存在だ。

幼少の頃からトランペットに親しんでいたという湯木慧が本格的に音楽にのめり込んだのは、テレビでYUIが「Good-bye days」を歌っているのを見たこと。すぐさまギターを買い求め、吹奏楽の仲間とバンドを結成。ギターを弾いて歌うという行為に楽しさを見出した彼女は自分で機材を揃えて「ニコニコ生放送」で自らのパフォーマンスを発信。高校生になるとツイキャス、YouTubeなどを使った活動を行うと同時に、地元で路上ライブをスタートさせる。インターネット経由の発信だけではなく、ギターの弾き語りによって直接オーディエンスに自分の歌を届ける。After The Rain、イトヲカシなどにも共通するネットとリアルの双方向の活動を彼女も自然と選び取っていたというわけだ。

様々なメディアを駆使しながらソングライター、パフォーマー、ペインター、動画制作者としてのスキルとセンスを向上させてきた彼女は、デザイン系の学校に進学。さらにクリエイティブ全般の精度を上げるなか、2017年2月に初の全国流通盤「決めるのは“今の僕”、生きるのは“明後日の僕ら”」をリリースする。その中心にあるのは1曲目に収録されている「一期一会」。大切な人達との別れ、そのなかで生まれる悲しさ、感謝、そして、未来につながる前向きな気持ちを描き出したこの曲は、湯木の表現の核にあると言っていい。ギター弾き語り、ペインティングの様子を軸にしながら“大切さっていつからか 一歩後ろを歩いてくる”というサビの歌詞を映し出すMVからも、彼女の創作スタイルを感じてもらえるはずだ。さらに3月に初の東名阪のワンマンツアーを開催。音楽、インスタレーション、ライブペインティングなどを融合させたパフォーマンスを行い、アーティストとしての独自性を強くアピールした。

そして9月には早くも2ndミニアルバム「音色パレットとうたことば」を発表。6月から9月にかけて3カ月連続で行われた“個展&ワンマンライブ企画”と連動する形でリリースされた本作には、表現者としての進化がはっきりと表れている。部屋の窓を開ける音から始まる「碧に染めてゆくだけ」は、子供と大人の間で揺れ動きながら、夢に対する情熱を掴み直そうする思いを歌ったナンバー。アコギの弾き語りとストリングスによる生々しいアレンジも、この楽曲に込めた切実な感情を際立たせている。アコギ、ピアノを軸にしながら、どこかサイケデリックな雰囲気を醸し出す「存在証明」も印象的。“自分で決めたこの道を突き進んでいく”という意思がまっすぐに伝わるこの曲は、自らの表現に対する決意表明だと言っていいだろう。そう、“「心の耳(音)」と「心の目(情景)」を行き来する”楽曲を収めた本作「音色パレットとうたことば」によって湯木は、アーティストとしてのアイデンティティをしっかりと握り直したのだと思う。

来年(2018年)の6月に二十歳を迎える湯木慧。繊細な感情を描き出すソングライティング、幅広いメディアを駆使した活動スタイルを併せ持った彼女の表現はここからさらに大きく発展していくはず。その世界観は同じくデジタルネイティブである同世代を中心に広く共有されることになるだろう。

文 / 森朋之

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