【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 45

Column

オフコース 最後を飾る、“汝の敵も愛せよ”的な“I LOVE YOU” 

オフコース 最後を飾る、“汝の敵も愛せよ”的な“I LOVE YOU” 

今回のジャケット。確かこれ、文字を切り抜き、後ろにスモークを焚いて撮影したものだと記憶する。実に凝ってる。いや、凝ってるだけじゃない。“I LOVE YOU”という言葉をストレートに提出するだけではなく、そのことで、様々に“ニュアンスづけ”をする結果となった。それがどういうニュアンスなのか、余計な事は書かないけど、みなさんはどう受取るだろう(え? 愛は時に煙ったい? う〜ん、それはどうでしょう…)。

ところで、ここにこの時期の曲を、よっつ並べてみた。クイズを出すわけじゃないけど、もし分岐点があるとするなら、あなたはどの曲とどの曲で区切りだろうか?

「心はなれて」
「言葉にできない」
「YES-YES-YES」
「I LOVE YOU」

簡単だよ、と、そう仰った方もいるかもしれないが、正解は、「言葉にできない」と「YES-YES-YES」の間がが分岐点である。解説させて頂こう。つまり前者は解散の“渦中”に書かれた作品であり、後者は解散が決定的となり、それをなんとか“消化”していく想いから書かれたのだ。

当然、前者のほうが感情的であり、未整理な気持ちも漂っている。それに較べて後者は、潔いというか前向きというか、そんな雰囲気だ。でも、ポジティヴ成分100パーセントかというと、そうではない。“そのように対処せざるを得なかった”という、そんなネガも含んでいるわけである。

その意味でも「YES-YES-YES」というタイトルは象徴的だろう。これ、実質的には“YES-NO-YES”、いや、もしかしたら“NO-NO-YES”くらいだったのかもしれないのである。バンドをとりまく状況が巨大化していく中で、周囲が期待すること彼ら自身が意志を貫いていきたいこととのギャップ…。それらが様々に交差し、でもそこに生じた“NO”も、ここでは裏返して“YES”と肯定し…、くらいの気分も、きっとあったはずなのだ。

そして『I LOVE YOU』のアルバムの話だ。「YES-YES-YES」で始まり、このタイトル曲で終わっていく。個人的な話で恐縮だが、僕はオフコースの全楽曲のなかで、「I LOVE YOU」が(しかもアルバムに入っているほうのヴァージョンが)一番好きだ。

イントロで控えめに聞こえてる“♪トットト トットト”という、このリズムは加藤和彦が「あの素晴しい愛をもう一度」などに用いた“魔法のリズム”でもある。で、その加藤で思い出したが、オフコースがこの曲をレコーディングしていると、たまたま同じスタジオに加藤がいて、何をレコーディングしてるのか訊ねたので、「次のシングルだ」と小田が答えると、「これがシングルなの? 売れてる時はなんでも出来ちゃうからいいよね」と言ったという、このエピソードは『YES-NO 小田和正ヒストリー』(角川書店)の中でも紹介した。

確かにシングルらしくはない。でも作者の小田は、敢てそれを意図したのだ。ヤマ場は作らず、フックも効かせず、「サビの“I LOVE YOU”の転調の、その一発に賭ける」という。コラージュのように散りばめられた音も心地良く、ジョン・レノンの死を告げるラジオのアナウンス(エンジニアのビル・シュネーの友人がナレ−ションしたもので、実際のラジオ音声ではない)をエディットした斬新なアイデアも光っている。ぜひぜひ音のいいヘッドフォンで聴いてもらうと、より臨場感が伝わると思う。今回、僕はmoraからハイレゾをダウンロードして聴いてみた。懐かしい、という感情は湧いてこなかった。他のどんなもの(そこにはオフコースの他の楽曲も含まれる)にも似てない感動を、全身で浴びた。

「I LOVE YOU」には、歌詞が存在する。しかし言葉尻を捉え、情緒的に解釈するより、言葉も音として、全体のサウンドに溶け込んでると受け止めたほうがいい。よく引用される[9月になれば]も然りである。これはあくまで“具体の顔をした抽象”だと思いたい。5人のオフコースは6月末に終了したし、“9月になれば…”が様々な憶測を孕むことは充分わかるのだけど。

しかし、ここでの日時の特定は、誰かへの約束ではなく、たまたま、だったのではなかろうか。シチガツになれば、ハチガツになれば、ジュウガツになれば…。もっと行ってジュウイチガツになれば…、では、メロディに対して語呂が悪い。もちろん、ニガツになれば、シガツになれば、なら可能だ。しかし曲を制作した時点で、過ぎ去っていた。“9月になれば…”は、そうやって生まれたのではないだろうか、と、ここでは邪推してみた。

この曲など典型的だが、もはやライブでの再現が、レコーディングの必須条件ではなくなっている。ポップ・ファンの方はご存知だろうが、あのビートルズは、ライブで人気を博すものの、後半はレコーディング・アーティストとして偉業を成し遂げた。もし、オフコースがライブを念頭に置かず、レコーディングにのみ専念し、さらにアルバム作ってたらどうなってたんだろう…、なんてことも、ちらりと考えてしまったのだった。

文 / 小貫信昭

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