Interview

映画『南瓜とマヨネーズ』に漂う、臼田あさ美が「身近にいそうな女性像」をごく自然に演じ、醸し出す独特の空気感とは。

映画『南瓜とマヨネーズ』に漂う、臼田あさ美が「身近にいそうな女性像」をごく自然に演じ、醸し出す独特の空気感とは。

夢を追う無職でミュージシャンの恋人と自由奔放な昔の恋人とのはざまで揺れ動く女性の姿を描き、1998年の発表以来、現在まで多くのファンに愛され続けてきた魚喃キリコの名作コミック『南瓜とマヨネーズ』が実写化された。
メガフォンを撮るのは『パビリオン山椒魚』『ローリング』の冨永昌敬。ヒロインのツチダ役にはドラマ『銀と金』や映画『愚行録』の演技で女優として注目を集める、臼田あさ美。せいいち役には、ドラマ『ゆとりですがなにか?』や映画『淵に立つ』で名を広めた実力派俳優・太賀。ハギオ役にはご存じ、オダギリジョー。
そんな絶妙すぎるキャスティングのなかでも「イメージにぴったり」「素晴らしい!」と絶賛を集めているのが、臼田あさ美が演じるツチダだ。
恋人の夢を叶えるため、密かにキャバクラで働き、客の愛人となって生活を支える一方で、過去の思い出にしがみつくように昔の恋人との情事にのめり込んでゆくツチダを、決して特別ではない「そこらへんにいそうな女性」として、ごく自然体でいきいきと具現化してみせた彼女に、本作やツチダという女性についての思い、「役を演じること」の魅力について話をきいた。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 荻原大志

最後のシーンではツチダと一緒に私自身も報われました!

臼田さんはもともと原作のコミックも好きで読まれていたそうですね。

そうですね。私もともとマンガはあまり詳しくないんですけど、魚喃さんの作品がいくつか映画化されたのを見て、おもしろそうと思ってマンガもひと通り読んだんです。そこから何年か経って、冨永さんから映画化したいって話をいただいて。そこからさらに紆余曲折あって実際に撮影するまで3~4年かかって、原作を読み込む時間がかなりあったので、その間に愛着がどんどん沸いてきたところはありましたね。

©魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

臼田さんは企画が頓挫している時にプロデュサーの甲斐さんに働きかけたり、実現に向けて動かれていたそうですが、そこまでして映画化したいと思った理由は?

実際そこまでのことはしてないんです(笑)。甲斐さんとは10年ぐらいのお付き合いがあったので、今度、冨永さんと『南瓜とマヨネーズやるかも』って自然な流れで相談させてもらって。でも、結果そういう繋がりや信頼関係ができているところで映画が撮れたというのは、すごく良かったと思います。
今思い返せば、なんで自分は当時、あんなに必死になってたんだろうと思うんですけど、企画をあたためてた時期も撮影をしている間も終わった今も変わらず思うことは、私は別にツチダじゃないし、ツチダと同じような選択は絶対にしない。ツチダが自分と似ていると感じる部分も全然ないんですけど、唯一、せいちゃんに対してどうにしかしてあげたいーーという気持ちは私自身の中にもあって。最後のシーンではツチダと一緒に私自身も報われました!

じゃあ、臼田さんはダメな男性を支える女性の心理については共感しない?

そうですね。私はツチダが「せいちゃんのため」って言ってるのは結局、自分のためだったんだなと演じながら思いました。「よかれと思ってやってあげたのに」っていうことは、だいたい外れたりするし、特に男女間の中ではお互いにズレがあったりする。ツチダがやってることは、その象徴ですよね。普通に客観的に見たら、どう考えたってせいちゃん喜ぶわけないじゃんって、ツチダも頭ではわかってるんだけど、せいちゃんがいい音楽を作ることが自分の夢みたいになっちゃってるからやってしまう。本当にバカだなと思うし、世の中の多くの女性がダメな男性を支えてしまうのは、そういうことかもしれないなと思いましたね。「私がいなけりゃこの人は…」みたいなのも結局、「その人といたい自分」がいないと成立しないことで。結局は自分に返ってくることですよね。

せいちゃんがツチダに「人に便乗してんじゃねえよ」っていうシーンがありますが、まさにブーメランなアイタタ…で。自分にも絶対的な夢とか目標があればそうならないんでしょうけど、ないからこそダメな図式にハマってしまう…。

本当にそうですね。この作品の中に出てくる人は、みんななにか物事を起したり、特別なものを持ってそうで、持ってない。せいちゃんだってスターになるような歌手じゃないかもしれないし、でも自分はこんなもんじゃない、みたいな感情で蠢いてて…。本当だったら映画の主人公としてスポットライトを浴びるような人じゃない気がします。

ツチダとせいちゃんのように自然にいられた空気は作品にも出てると思いますね。

でも、この映画はそういう社会とか人間関係のなかでうまく立ち回れず、立ち止まってしまっている人間を肯定してくれる作品でもありますよね。

もがき苦しみ、生み出せない時間みたいなものは誰しもあると思うし、それをかわいくも思えるストーリーですよね。この鬱屈とした日々の中にあった相手を思いやる気持ちとか、あの人がいてくれたからこんな気持ちになれたとか、そういうことがすごく尊いっていうのはこの作品を通じて私自身、感じたことでした。一生懸命さのベクトルは間違ってても、いいことばかりじゃなくても、それも含めて輝いてた日々なんだなって、私も思ったし、見た人にもそう感じてもらえれば嬉しいですね。
ただ、私自身はそれだったらもうちょっとがんばれよって思っちゃうんですけどね(笑)。

ははは(笑)。

ツチダに対しても、間違ってるだろ!って。自分でもわかってるけどブレーキがかけられず、あれよあれよとハギオのペースに巻き込まれる感じとかは、わからなくもないけど、実際にはハギオみたいに魅力的な人もそうそういないので、幸か不幸か私はそういう体験もないし。

確かに、ハギオはなかなかいませんよね…。だからこそ、オダギリジョーさん演じるハギオは素晴らしくて。これならツチダじゃなくても行っちゃうだろ!って。

ですよね。今回、せいちゃんとの日々を先に撮影して、その後にハギオとのシーンを撮ることになってたんですけど、私的にはせいちゃんに情が入っちゃって、もうハギオが出てこなくていいんじゃないって思ったりしてたんです。でも、オダギリさんがハギオとして登場した途端、そんな気持ちは吹っ飛びました(笑)。もちろん役を作って演じられてるんだけど、オダギリさん自身が本来持ってる佇まいもいい意味で「人たらし」で人を惹き付ける方だからこそ、ツチダもそうやって引っ張られたんだなって擬似体験できましたね。

©魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

いや、羨ましいです(笑)。

ここまで踏み込むか踏み込まないかは別として、どうしたって自分のペースでいられなく相手と出会えるって、いいですよね。正しいことではないけど、人生においてこれだけ自分に影響を与える人がいるってことは、それだけ人生が豊かになるってことだし。

痛みの数だけ…というやつでしょうか。とはいえ、女性は恋愛と仕事とか自分のやりたいことのバランスに悩む人が多い気もしますが、臼田さんはそういうことはない?

何に対してもゼロか100かみたいなの感じで、あまり迷いがないかも。自分の私生活が豊かであればあるほどいい仕事ができると思うんです。なかなか難しいことではあるけど、でも私生活が思うようにいかなかったときのバランスが崩れることもあるとは思いますが、そこはけっこう冷静かもしれないですね。私の場合、10代から仕事をしていて、やらなきゃいけないことがあったのは、すごく自分を強くしてくれたと思う。恋愛か仕事かとか以前に、自分の人生も大事だと思います。

仕事への向き合い方は今と昔とで変わった部分はあります?

ひとつひとつの仕事に対してはまったく変わってなくて。映画でもドラマでも、そのつど初めてのメンバーが集まるわけですから、毎回不安もあるし緊張もするし、毎回初めてのことをやるような感覚があるんです。ただ、二十代の頃はモデルとかバラエティとか、いろんな仕事をしていたこともあって目の前のことしか見えてなかったのが、今はなんとなく次はこういうことをしたいって考えて舵は取れるようになってきましたね。
でも、昔傷付いてたようなことにいまだに傷付いたりするし、あの頃嬉しかったことにいまだに喜びを感じるし、やっぱり変わりようがない部分もあって。この人達と芝居できる喜びとか、この監督と一緒にできる喜びとか、やっぱりひとりじゃできないことをやってて、ひとりじゃ引き出せないものを周りが引き出して下さるので、そういうことには常に敏感でいたいですね。

前になにかで「噓をつくことがお芝居」とおっしゃっていましたが、演じてる中で虚構なんだけど臼田あさ美としてのリアルなものが出てしまうことはあります?

ありますね。たとえば殺人鬼の役とかだったら、リアルを突き詰めることにも限界があると思うんですけど、今回みたいな作品の場合、日常を生きることがお芝居になるようなところがあって。
台本があって、こういう人だからこういう風にやってというのはフィクションで、言ってみれば全部噓なんですけど、でも、その瞬間にどう思ったか、自分の中から出てきた表情とか言葉は、今回は特に噓じゃなくやりたいなと思って。
私もいまだに芝居をする前の時間にどういう状態でいるのが正解かわからなくて、恋人の役だからってずっと仲良くしてたらいい雰囲気が出るとは限らないですし。今回はアパートのシーンが多くて、待ち時間も狭い部屋で2人でいることが多かったので、自然に時間を共有して、心地悪さを感じることが一瞬たりともなく、ツチダとせいちゃんのように自然にいられた。その空気は作品にも出てると思いますね。

臼田あさ美

1984年10月17日生まれ、千葉県出身。
モデルとしてデビュー後、女優として活動を開始。
映画 『色即ぜねれいしょん』(09)でヒロイン役に抜擢され注目を浴び、『ランブリングハート』(10)で映画初主演を果たす。
以降は映画『東京プレイボーイクラブ』(11)、 『キツツキと雨』(12)、「鈴木先生」(13/TX)、『桜並木の 満開の下に』(13)、『愚行録』(17)、ドラマ「祝女」(08/NHK)、「龍馬伝」 (10/NHK)、「ホタルノヒカリ2」(10/NTV)、「問題のあるレストラン」 (15/CX)、「家売るオンナ」(16/NTV)、「銀と金」(17/TX)、「架空OL日記」(17/YTV)など、話題作に多数出演。

臼田あさ美さん画像ギャラリー

映画『南瓜とマヨネーズ』

2017年11月11日(土)全国ロードショー

監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』(祥伝社フィールコミックス)

キャスト:臼田あさ美 太賀 浅香航大 若葉竜也 大友律 清水くるみ 岡田サリオ
光石研 / オダギリジョー

製作:『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
制作プロダクション:スタイルジャム
配給:S・D・P
オフィシャルサイトkabomayo.com
©魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

ストーリー:
ツチダ(臼田あさ美)は同棲中の恋人・せいいち(太賀)のミュージシャンになる夢を叶えるために、内緒でキャバクラで働き生活を支えていた。一方、無職で曲が書けずスランプに陥ったせいいちは毎日仕事もせずにダラダラと過ごす日々。
しかし、ツチダがキャバクラの客・安原(光石研)と愛人関係になり、生活費を稼いでいることを知ったせいいちは心を入れ替え働き始める。そんな矢先、ツチダにとって今でも忘れられない昔の恋人・ハギオ(オダギリジョ-)と偶然、再会を果たす。
過去の思い出にしがみつくようにハギオにのめり込んでいくツチダだったが…

原作本

南瓜とマヨネーズ
魚喃キリコ(著)
フィールコミックス

©魚喃キリコ/祥伝社フィールコミックス

ツチダの恋人・せいいち役 太賀さんインタビュー記事はこちら
太賀が心掛ける「作品の中で説得力をもって演じたい」ということが発揮された『南瓜とマヨネーズ』への想いとは。

太賀が心掛ける「作品の中で説得力をもって演じたい」ということが発揮された『南瓜とマヨネーズ』への想いとは。

2017.11.11