黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 9

Interview

ガンホー代表・森下一喜氏(中)先生に言われた一言「車のセールスか漫才師になった方がいい」

ガンホー代表・森下一喜氏(中)先生に言われた一言「車のセールスか漫才師になった方がいい」

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

森下一喜と私の出会いはインタビューのなかでご紹介したように2000年の前半に遡る。その当時、彼は「ラグナロクオンライン」の運営展開をしており、日本のオンラインゲームマーケットを牽引するポジションに有った。その時代の森下一喜の印象は若く、尖ったものを感じ、他者をあまり寄せ付けない何かを放っていたと思う。
その後、森下一喜とガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は着実に成長し、株式上場も果たした。私が森下一喜と再会したのは2010年、私がNHNJapan株式会社(現:NHNPlayArt株式会社)にてガンホーとのゲームの共同開発プロジェクトを始めたタイミングだった。そこで森下一喜のゲームへの強烈な愛情、知識、対ユーザーへの想いを知ることになる。
そして、森下一喜にかつて感じた印象の背景に大きな関心を抱き、今に至る。今回のインタビューは、その森下一喜を形成するもの、彼を動かすモチベーションに迫るものである。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの第2回です。第1回(上)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄


病院の話ですが、残念ながらお父様が事業経営に失敗されて、森下さん自身も少し借金をかぶるようなことになったと聞いていますが。

森下 そうなんですよね。高校生のときだったか、もう卒業してたか、よく覚えてないですけど、親父の説明では返せるみたいな前提でした。そもそも病院が傾いたんじゃないんですよね。病院は特に傾いてなくて、別のことをやりたくなったみたいな。それで病院を譲渡して、そのお金に調達した資金をプラスして新たな事業を始めたって感じでした。

それは、ちなみにどんな事業を?

森下 医療器具か何かを扱う事業だったんですよね。で、やり始めたんだけど、それがうまくいかなくなって、次にもう1回事業に手を出したときに連帯保証人になったんですよ。

そういう経緯だったんですか。

森下 なので、僕が知る限りでは幾度か失敗してます。ただ、今思うとウチの親父は本当は政治家になりたかったんでしょうね。
たしか中学校3年生のときかな? 1回立候補するっていう話があったんですよ。でも、お袋が大反対しまして。なんで反対したかっていうとね。政治の世界に入る、選挙をやるっていうことは家族の身を全部世間に晒さなきゃいけないと。で、「私はいいけど息子たちは“バカ”よ」と(笑)。勉強ができて優等生みたいな子だったら何の問題もないけど、こんなバカを世に晒すのはね、あまりにも不憫だって。

そんなダイレクトな。それ、ネタじゃないですよね? 本当にお母様はそういうお気持ちだったんですか?

森下 もちろんそれだけじゃないですよ? アレはしちゃいけない、コレはしちゃいけないとか、服装は地味にしてどうたらこうたらとかね、いろんなものがあったと思います。あったけど、一番の反対理由は家族を晒すことで、息子のバカを晒したらかわいそうだって(笑)。それでまあ親父もしょうがないとなって最終的に立候補は辞めたんですが、かなりモメましたよ。もう離婚するみたいな話に発展したくらいでしたから。

そうだったんですか。

森下 だから、親父にとって病院っていうのはやりたかったことじゃないというか、面白みのある商売じゃなかったんでしょうね。新しいことにチャレンジみたいなこともなかなかできないし。

お父様としては人生をスピンオフしたかったんですかね。

森下 そうなんでしょうね。それで病院を売って事業に手を出していったんです。

でも、森下さんとしては、その後考えられないくらいの負債を肩代わりすることになったんですよね。

森下 まあ、連帯保証ですからね。

よくテレビとか映画の世界だと、連帯保証人に取り立てがくるじゃないですか。そういうのは実際あったんですか?

森下 うん、まあ取り立てっていうか、裁判所からの通達がね。

うわあ~そうですか、大変だったんですね。

でっかい封筒に「東京地方裁判所」って書いてあった

森下 ビックリしますよ。でっかい封筒に「東京地方裁判所」って書いてあった。

それは償還(返済)してくださいってことですよね? 高校を出たくらいの年で、よく耐えられましたね。

森下 まあでも、サインしたときは若すぎて特に気にはならなかったです。連帯保証人の意味すら分かってなかったし、そもそも親父が返すって言っているんだから返すんだろうなと。

それはそう思いますよね。

森下 そうでしょ? いわゆる商売というのが一体どういうものかってことも分かってなかったしね。商業高校だったんで簿記とかは持ってましたよ。いわゆる商業経済というか、手形の裏書き(注5)のこととかは知ってました。手形を切ってとか、当時ありましたよね? 今はそんなことやってないですけどね。手形なんかもうなくなるって、当時から先生も言ってました。

とにかく、そういう一連の流れは習って知ってるけど、商売がどういうものなのかなんて分かるわけないじゃないですか。「親父、その事業の採算性は?」とか、「事業計画見せてくれよ」とか言えるわけがない。

注5:手形とは支払期日になったとき、振出人に対して支払いを求めることができる有価証券のことで、裏書とはこの手形を譲渡した際に支払いを保証するもの。

vol.8
vol.9