黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 9

Interview

ガンホー代表・森下一喜氏(下)弟の影響とオンラインゲーム。「チャレンジをできなくなるほうが怖い」

ガンホー代表・森下一喜氏(下)弟の影響とオンラインゲーム。「チャレンジをできなくなるほうが怖い」

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

森下一喜と私の出会いはインタビューのなかでご紹介したように2000年の前半に遡る。その当時、彼は「ラグナロクオンライン」の運営展開をしており、日本のオンラインゲームマーケットを牽引するポジションに有った。その時代の森下一喜の印象は若く、尖ったものを感じ、他者をあまり寄せ付けない何かを放っていたと思う。
その後、森下一喜とガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は着実に成長し、株式上場も果たした。私が森下一喜と再会したのは2010年、私がNHNJapan株式会社(現:NHNPlayArt株式会社)にてガンホーとのゲームの共同開発プロジェクトを始めたタイミングだった。そこで森下一喜のゲームへの強烈な愛情、知識、対ユーザーへの想いを知ることになる。
そして、森下一喜にかつて感じた印象の背景に大きな関心を抱き、今に至る。今回のインタビューは、その森下一喜を形成するもの、彼を動かすモチベーションに迫るものである。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの最終回です。第1回(上)第2回(中)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄

ウチのデザインから「無駄に上手い」と言われることがあります

森下 そういえば、絵は割と上手かったんですよ。今でもゲームの説明をするときに「こういう感じなんだけどね」ってキャラクターのだいたいのイメージを描いたりするんですけど、ウチのデザインから「無駄に上手い」と言われることがあります。もちろん、本職のデザイナーに比べたら全然レベルは違いますけどね。

へえ~~それは知らなかったです。

森下 子供の頃は、漫画家になろうと思ったこともあったんですよ。ところがですね。ウチの弟が描いている漫画を読んでしまったんです。その瞬間に「辞めた」って思いましたね。

創業の頃:現執行役員 市川 彰彦氏とE3にて

弟さんはそんなにお上手だったんですか。

森下 上手かったんですよ。それがすごいショックというかね。近くにこんな上手いヤツがいたら勝てるわけねえじゃんと。それなら努力すればいいのに、努力しようとはしない(笑)

そこで折れるの多いですね(笑)。そういえば、弟さんが『ラグナロクオンライン』のきっかけを作ったっていう逸話も読んでますけど(注9)。

森下 そうです、そうです。

注9:森下氏の弟が韓国版の『ラグナロクオンライン』をプレイしているのを見たことが同作を知るきっかけになったという。

要所要所で弟さんの影響を受けているんですね。それで、ソフトウェア会社時代はどうだったんでしょうか。

森下 ソフトウェア開発とかシステムやネットワークの構築とかの営業、いわゆるSI営業ってヤツをやってたんですけど、全然不満はなかったですね。むしろ、いい会社だと思ってました。もちろん、仕事は常に楽しいわけじゃないですからね。辛いこと厳しいこともたくさんありましたけど、だからって会社がイヤになることは全然なかったですね。ただ、なんか違うなあというモヤモヤはずーっとあったんです。

ご自身の中でのビジョンみたいなものと違うと?

森下 自分のやりたいことというか……これは自分の根っからの部分なのかもしれないですけど、そこと違うというかね。ちょっと子供の頃の話に戻りますけど、ウチの母親のおじいさんも同じ新潟で、子供の頃に母親方の方にも預けられたりしてたんです。それで、そのおじいさんが家の前で鉄工所をやっていたんですよ。鉄工所っていっても本当にちっちゃいやつですけどね。

で、その母方のおじいさんがすっごい面白い人で、人が絶えないというかね。おじいさんが工場で仕事をしているときに近くで僕が遊んでいると、子供たちが集まってくるんです。なんで子供がいるかというと、鉄工所の前が通学路で小学生たちがそこを通るんですね。それで、おじいさんが面白いことをしたり言ったりするから寄ってくるという。

そういう方だったんですか。

森下 親父もそうしたところがありましたね。飲んだら知らない人を連れてきちゃって、そのまま家に泊めたりとか。常にそういう環境下にあったせいか、人を楽しませるっていうか、人が楽しんでくれると自分も満足できるっていうか。だから、儲かってることで真に満足することはあんまりないんですよ。もちろん、儲からないより儲かったほうがいいですよ、会社ですからね。でも、何だろう……真に自分を充実させるものじゃないですよね。

僕がツイッターをやらないのは人間ができていないからです

森下さんはほとんどSNSは更新しないですけど、『LET IT DIE』が面白いって言ってくれる人とかはすごく積極的に上げていましたよね。なぜだろうと思っていたんですが、今の話を聞いてそれが腑に落ちました。面白いと言ってくれることが森下さんはうれしくて、それを自分の中の自己表現として上げてるんだろうなと。

森下 それがどうかは分からないけど、僕がツイッターをやらないのは人間ができていないからです。最初はやったんですよ、どういうもんなのか知るためにね。で、やってみて「これはアカンやつだ」と。これは人間ができてるヤツじゃないとダメだと。

なるほど、ハハハハ。

森下 でも、SNSとか定期的に上げられる人ってすごいね。自分って人間としてのマメさがないんですよね。すぐに忘れちゃうんで。

マメさのベクトルがゲームやエンタテインメントの方に向いているだけじゃないですか?

森下 そうですね、そこしかないです。あとは本当に適当ですよね。だから、ゴルフとかも習ったことないんですよ。習ったほうがいいよ、もっと上手くなるよって言われるんですけどね。言われるけど習えない。なぜ習えないかというとですね、多分怒っちゃうと思んですよ。

ここでも怒っちゃう(笑)。でも、何て言うんですかね、森下さんのゲームへの一途さみたいなものはすごくユーザーにとっては分かりやすいんじゃないでしょうか。

森下 そうですね。繰り返しになりますけどゲームだけは真剣です。でも、それ以外は本当にいい加減な人間なんですねえ。ただ、ゲームに関しては自分の中のポリシーというのがやっぱり明確にあって、それから反することはやらないというのはありますね。

独立後にゲーム用のSDKや受託開発の仕事をしていたっていうのをちょっと読んだんですけど。

森下 そうです。ゲーム会社向けにオンラインゲーム開発用のSDK(注10)を提供していました。ただ、当時は少し早すぎましたね。

注10:ソフトウェア開発者が使用する開発ツールのセットのこと。

vol.8
vol.9