Interview

文房具店の「試し書き」を集めまくった粋狂な人物“寺井広樹”。その試し書きをthe peggiesが曲にした!?

文房具店の「試し書き」を集めまくった粋狂な人物“寺井広樹”。その試し書きをthe peggiesが曲にした!?

一昨年出版された『「試し書き」から見えた世界』で、文房具屋さんにある「試し書き」の魅力を世界に知らしめた「試し書き」コレクター・寺井広樹氏。本気なのか冗談なのかわからない飄々とした語り口のなかに、思わず「そうかも!」と思う世の中の真理が垣間見える。本当か?! 「発信しない」という美学をお持ちと見受けられる一方で、来るものは拒まずの姿勢もお持ちのご様子。質問するたびに、暖簾に腕押しの徒労感と目から鱗の視点を知る幸福感とを味わった。これ、ホント(笑)。その寺井氏が、3ピースロックバンドthe peggiesの「I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜」を監修、プロデュース。ってんで、雲をつかむようなところから、根掘り葉掘りと訊いてきました。

取材・文 / 藤井美保 撮影 / エンタメステーション編集部

私の情報源はすべて「試し書き」なんです。

ずいぶんと粋狂なことをやられているなと思ったのですが、「試し書き」を「無意識のアート」と認識されていることがわかり、なるほどと思いました。もともとアートにご興味があったんですか?

ありました。父が絵を描いていたりしたので、美大生に憧れましたね。結局 普通の大学に行ってしまいましたが(笑)。

「試し書き」のどこにそんなにも惹かれたのでしょうか?

「落書き」と大きく違うのは、自己主張がそんなにないってことなんです。ペンの書き心地を試すことが主な目的なので、人に褒められたいとか注目されたいとかの前提がない。なかには次の人にかまってほしくて、「お腹痛い」とか書いてる人もいるんですけど、基本「落書き」より上品。その控えめな感じが嫌いじゃないなと(笑)。

北極の試し書き

寺井さんが「試し書き」を蒐集し始めた10年前と今とでは、世の中の「試し書き」の量に変化はありますか?

「試し書き」の数は、単純に文房具屋さんの数と比例すると思うんです。本屋さんは減ってるけど、文房具屋さんの数はあまり減ってないようですし、鉛筆の消費量は上がっているというデータもある。と考えると、「試し書き」はけっこう生き残ってますね。最近はタブレットの「試し書き」もありますけど、どういうわけかそっちには心惹かれないんです。やっぱり紙が好きみたいで。

SNSが普及して、みんなが他人の反応をほしがって何かを発表するようになりました。「試し書き」の質は変わってきてますか?

10年前、ネット社会がどうだったかと思い出してみると、ちょうど中川翔子さんや眞鍋かをりさんのブログが大人気で、一般人のブログ開設なんてまだオカシなことでした。今は、田中弘くんという友だちがいるとしたら、「田中弘オフィシャルサイト」があったりして、一億総発信&承認欲求の時代。「試し書き」も無意識的な部分は保たれつつも、やはりメッセージ性の強いものが増えている気はします。

日本:代官山の試し書き

「お腹痛い」に対して、次に来た人が「お大事に」と書いたり、「永」と書いてあると思わず「六輔」と書くっていうのは、見ず知らずの人同士のコミュニケーションですよね。コミュニケーションが希薄な時代に、「試し書き」の世界ではそれが現存しているのが面白いなと。

無意識的に紙に向かうと、人は素直に優しくなれるんですかね。ともすると人の悪口とかになっちゃうはずなのに、「試し書き」の世界ではそういうのは少数派です。

寺井さんご自身、優しい言葉のやりとりの世界があったらいいなとう気持ちで「試し書き」をご覧になっているんでしょうか?

できれば悪口より優しい言葉のほうがいいですよね。私が「試し書き」を見るとき頭のなかで楽しんでいるのは、言ってみれば「試し書き文学」なんです。書いた人の年齢、職業、家族構成から、今日食べたもの、今持ってる不満までを想像しつつ、勝手に物語を作るのが楽しくて。おそらく想像の7、8割は当たってると思います。

人間観察欲求でしょうか?

そうなのかもしれないですね。ジーッと人を見てたら気持ち悪がられるけど、「試し書き」をいくら見ても文句は言われないですから。流行ってる言葉とかも、私はそこから知るんですよ。あるとき「壇蜜」が急に増えたことがあって。

ああ、書きたくなる気持ちわかります(笑)。

私はずっと食べ物の名前だと思ってたんです。そしたら女性タレントさんの名前で、これは想像を遥かに超えてました(笑)。

ウハハ!

去年は「PPAP」も多かった。私は文字通り、「PEN PINEAPPLE APPLE PEN」というペンの名前だと思ってたんです。やたらヒットしてるなと。ただ、その割には文房具屋の棚で展開されてない。「どういうことだ?」と思っていたら、想像もつかないアレでした(笑)。今年多かったのは「35億」。それも芸人さんのギャグとは思わなかったですね。というように、私の情報源はすべて「試し書き」なんです。消費税5%から8%に上がったのも、「試し書き」から知りました。これ、ホント(笑)。

テレビは持っていらっしゃらない?

「試し書き」を集め始めた10年前に捨てました。

情報を遮断しようと?

それもありましたね。ちょうど情報が錯綜し倒してきた頃で、いちいち振り回されてたらキリないなと思ったんです。今は「試し書き」の情報だけが、私にとってのホットな話題。ハズれてないんですよ。

そのホットな話題を、確認したりは?

しないですね。電車でふと聞こえてきた女子高生の会話から、「なるほど。そうだったのか」と腑に落ちることはありますけど。ネットも見ないですし。基本メールだけです。

the peggiesと「試し書き」で曲にするという企画を実現

人間は好きですか?

たぶん興味はあります。でも、人づきあいが苦手なので、友だちいないし、飲みに行かない。そもそもお酒が一滴も飲めないので、誘われても行かないですね。ま、誘われないんですけど(笑)。

家にいて何か書いてることが多いんですか?

そうですね。「試し書き」以外にも「怖い話」や「泣ける話」も集めてますし。

正真正銘のコレクターなんですね!

はい。どっちかというと自分の考えとかはどうでもいいんですよ。見聞きしてきたものを、たまにアウトプットするという。

ブータンの文具店にて

なるほど。寺井さんがあまりにも面白いので、前のめりにちょっと脱線してしまいました。さて、「試し書き」でお国柄がわかるという話も興味深かったです。その視点はどうやって生まれたんですか?

10年前に1年半ほどかけて世界を放浪したんですね。たとえばインドに行く。私のなかではインドの人は計算が強いというイメージがあるから、きっと「試し書き」にも計算式がいっぱい出てくるだろうと。すると、案の定その通りの「試し書き」に出会いました。極端な話、試し書きを見ればどこの国の試し書きか分かるぐらいです。試し書きによる文化人類学を確立させたいです。

インドの試し書き

お国柄がわかるということを強く感じたのは?

イタリアです。芸術家や職人が多いというイメージを持ってたら、「試し書き」に万年筆の設計図と思しききれいな絵が描かれていたんです。きっとペンのデザイナーなんだろうと思って、その後世界中の万年筆メーカーにそういったペンが出ていないか問い合わせたんですけど、いまだに出会えてなくて。

イタリアの試し書き

そうなんですか!

職人さんはご年配の方も多いので、もしかしたらその万年筆を発表することなく志半ばでこの世を去られたのかもしれません。

ああ・・・「試し書き」の裏にいろんな物語があるわけですね。蒐集した「試し書き」の展示会も、世界中で大好評だそうで。

ニューヨークの美術館から試し書きの展示会を開催したいとオファーをいただき現在開催中です。どの国でも外国の言葉ってカッコよく見えたりするようで、反響はありますね。ハートマークの試し書きが世界中の文具店に溢れていることも素敵なことです。

ニューヨークの試し書き

いつかルーブル美術館で展示会をやるのが夢なんですよね。

はい。でも、こちらからアプローチするのはつまらないので、いつか誰かがコンタクトしてくるのを待とうと思って。自分の知らない経路で勝手に何かが巡ってくるほうが、楽しいじゃないですか。

ガシガシいかなきゃ生き抜けない時代に、そのスタンスを貫ける寺井さんが素晴らしいです。

きっとこれから重宝されるかもしれないですね。発信者ばかりになったら発信すること自体の価値は下がる。だから逆に「いいね!」を押すほうに回りたいんです。ひたすら承認しまくる「いいねおじさん」として使命を全うできればと(笑)。

フランスの試し書き

ドイツの試し書き

タイの試し書き

そんな寺井さんが、このたび3ピースバンドthe peggiesの「I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜」を監修、プロデュースされました。

フロントマンの北澤ゆうほさんが、私も何度か行かせていただいている神保町の北沢書店という老舗洋古書店の娘さんということもあってご縁がありまして、全国の文房具店10店舗から集めた1万2000枚の「試し書き」から、北澤さんに言葉を選んでもらい、曲にするという企画をご一緒させていただきました。

元気が湧いてくるキュートなナンバーですね。

北澤さんが普段書かれている詞も、思わず深読みしたくなるフレーズが多いので、きっといいものができるだろうと思ってました。単なる言葉の羅列ではなく、物語を感じる歌になったのはさすがです。恋愛ソングにもとれるし、深い人間愛に満ちた人間讃歌ともとれる。毎日聴くたびに違った印象で感動してます。

the peggies 中央:北澤ゆうほ

「試し書き」への寺井さんの眼差しに人間讃歌を感じていたので、抜群に相性のいいコラボだなと思いました。

ありがとうございます。

寺井さんご自身も、川嶋あいさんや沢田知可子さんに作詞をなさってますよね。

下手の横好きでミュージシャンの方に歌詞を提供させていただいてます。実は、小さい頃から両親に、「おまえはジョン・レノンの生まれ変わりだよ」と言われて育ちまして、私もその気でずっと長髪に丸メガネだったんです。ところが、成人して「違うな」と気づいた。というのも、ジョン・レノンが亡くなったは1980年12月で、私が生まれたのは同じ年の6月。半年もかぶってるんですよ。両親に問い詰めたら言葉を濁したままだったので、そこからずっとこの坊主頭です(笑)。

ジョン・レノンは言葉の名手なので、あながちウソじゃない気がします(笑)。「試し書き」の原本を使った「I 御中〜」のMVも完成して、これからさらに「試し書き」の世界が広がっていきそうですね。

今度、北澤さんと「試し書き」ツアーをするんです。「試し書き」の生態系をなるだけ荒らさないように楽しんできたいと思います。

発売情報

[書籍]


『試し書き」から見えた世界
著者:寺井広樹
出版社:ごま書房新社

[配信]

配信シングル
the peggies
「I 御中~文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。~」
発売日:2017/11/22(水)

限定公開中
【世界初!】I 御中~文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。~

寺井広樹

試し書きコレクター。
2007年、世界放浪中にベルギーで「試し書き」に一目ぼれ。
これまで世界108カ国、約4万枚の試し書きを収集。
試し書きコレクターのほか「離婚式」「涙活」の発案者としても知られている。
『「試し書き」から見えた世界』(ごま書房新社)ほか30冊以上の著書を出版。
現在、ニューヨークで「世界タメシガキ博覧会」を開催中。
オフィシャルサイトhttp://tameshigaki.org/

the peggies

北澤ゆうほ(Vo&Gt) 石渡マキコ 大貫みくからなる3人組ガールズバンド。
中学校の同級生で結成し高校時代から都内ライブハウスを中心に本格的に活動を開始。
2014年11月に初の全国流通音源「goodmorning in TOKYO」をタワーレコード限定でリリース。
2015年11月にリリースされたNEW KINGDOMのリード曲「グライダー」がYouTubeの再生回数100万回を超えるなど大きな話題となり、2016年7月に行われた渋谷club asiaでのワンマンライブはソールドアウト。
2016年10月には初のインディーズシングル「スプートニク / LOVE TRIP」をリリース。
そして、2016年12月8日に行った渋谷クラブクアトロでのワンマンライブでメジャーデビューを発表。
2017年5月10日に「ドリーミージャーニー」でメジャーデビューし、全国各地のラジオ局、TV局、音楽専門チャンネルでのパワープレイを獲得!
6月から全国ツアー「the peggies ドリーミージャーニーツアー 2017~野生のペギーズが現れた!!!~」を大成功させる。
9月6日に2ndシングル「BABY!」をリリース。
オフィシャルサイトhttp://thepeggies.jp/