Review

安室奈美恵 オールタイム・ベストアルバムの圧倒的な強さ。正真正銘のディーヴァが残してくれた“最後”の作品

安室奈美恵 オールタイム・ベストアルバムの圧倒的な強さ。正真正銘のディーヴァが残してくれた“最後”の作品

安室奈美恵“最後”の作品、オールタイム・ベストアルバム『Finally』が、11月8日に発売されて発売初週で約111万枚を売り上げ、アルバムランキングの1位を獲得した。事前の盛り上がりを考えると、ある程度のスタートダッシュは予測できたが、圧倒的な強さだった。安室にとってアルバム発売初週でのミリオン達成は、1996年の『SWEET 19 BLUES』以来21年ぶりで、同じCDが一家に3枚、そんな時代だったあの頃のレベルの数値を叩き出した事になる。さらに10代、20代、30代でも、そして今年40歳になっても1位を獲得し、この偉業は彼女が、彼女の音楽が25年間いかに多くの人に愛されてきたかがわかる記録だ。

それにしても安室奈美恵の音楽が、日本のJ-POPシーンに与えた影響がいかに大きかったかを『Finally』を聴くと、改めて教えられるし、ファッションや生き方も含め、流行という名の時代の大きな流れを作ったその存在感も含めて、彼女こそ“ディーヴァ”と呼ぶにふさわしい女性アーティストだったのではないだろうか。その『Finally』には25年間の彼女の輝く軌跡と新曲6曲、合わせて52曲が収録されている。さらにSUPER MONKEY’Sとしてのデビューシングル「ミスターU.S.A.」から「TSUKI」までの39曲は新たにレコーディングし、昔を振り返るただのベスト盤ではなく、ファンの心に最新の自分の存在証明を残した形になっている。過去曲を一曲一曲歌い直す時は、どんな想いで歌ったのだろうか。それは我々は知る由もないが、シンガーとしてそのキャリアに終止符を打つと決め臨んだ、自身が世に送り出した、分身のような数々の作品の再レコーディングと考えると、同じ曲でもまた違った捉え方で感じる事ができる。初商品化の「Christmas Wish」、そのタッグで一時代を築いた小室哲哉が作詞・作曲を手がけた「How do you feel now?」を最後のアルバムに入れるのも、ファンと、そして関わってくれた全ての人への、彼女からの感謝の表れだ。そんな事を考えながら、ちょっと感傷的な心持ちでこのアルバムと対峙するのもいい。

しかしそんな気持ちで聴いていても、収録されている曲から感じる先鋭的かつスタイリッシュな音楽性の、全く失われていない新鮮さにすぐにハッとさせられる。デビュー当時は、ユーロビートがメインだった。95年、エイベックスから小室哲哉プロデュースの「Body Feels EXIT」からで、ブラックテイストを感じさせつつも、ユーロビートの余韻を残した、これまでの作品とは温度感を感じさせてくれた。その後徐々にブラックミュージック色の強い楽曲が増えていき、「Don’t wanna cry」や「SWEET 19 BLUES」などビッグヒットを連発し、自身最高のセールスとなる約230万枚という数字を記録した「CAN YOU CELEBRATE?」(97年)へとつながる。

90年代後半になると、日本の音楽シーンには、Sugar Soul、MISIA、DOUBLE、宇多田ヒカルをはじめとしてR&Bを追求する女性アーティストが増え、J-R&Bなる言葉も登場した。安室も99年に産休から復帰後は、TLCなどを手がけていたダラス・オースティンと、小室哲哉という日米のトッププロデューサーと共に、R&B色が濃い作品を作っていったが、このフィールドこそが彼女の元々の居場所かのようなフィット感と、センセーショナルさを感じさせてくれた。二人の共同プロデュースによるアルバム『break the rules』(00年)を最後に、小室プロデュースは終了した。2002年からはZEEBRA、VERBAL、今井了介らとSUITE CHICとして活動し、よりR&Bの世界にのめり込んでいった。2004年にリリースした「GIRL TALK」ではT.Kura & michicoがプロデュースし、R&Bをベースにしたキュートなポップスと等身大の歌詞が、そのMUSIC VIDEOと共にリスナーから絶賛され、新機軸を提示する事に成功した。その後もR&B/HIPHOPをベースに、ファンクや、エレクトロなどのEDMを上手く薫らせ、独特のポップスを作り上げていった。もちろんそのボーカルも年を重ねるごとに、その表現力は豊かになり、届けようとするその想いが、声を凛とした佇まいにしている。昨年発売した「2016年NHKリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック放送テーマソング」に起用された「Hero」では、そのひとつの到達点ともいえる、素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれた。だからこそこれからの歌、声が楽しみでならなかったのに、新しい歌がもう聴けなくなると思うと、残念で仕方ない。

そう思っている多くのファンの想いに応えるように、今回のアルバムには、新曲が6曲収録されている。『ONE PIECE』(フジテレビ系)のオープニングテーマの「Hope」は、まるで今の安室の気持ちを映し出しているかのような詞が胸に迫るポジティブなポップス。「In Two」は、これまで安室が取り組んできた、国内外の一流クリエイターが作り出すカッティングエッジな輪郭の音像と、J-POPの人懐っこいメロディとの融合、その意思がしっかりと反映された一曲。「How do you feel now?」は小室哲哉からの想いが込められた四つ打ちのダンサブルなナンバー。“今”の二人が重なり、醸し出される極上のグルーヴが素晴らしい。ドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)の主題歌でもある「Showtime」は、キャッチーなロックチューンで、ドラマと融合したMVが話題だ。ライヴで全員が熱狂する姿が目に浮かぶEDM調の「Do It For Love」。まさにラストナンバーの「Finally」は、メディアに多く登場しない彼女からファンへの決意表明でもある。詞を読んでいるだけでもグッとくるのに、これをライヴで聴いたら、全員が号泣する姿が目に浮かぶ。ラストを飾るにふさわしい名曲の誕生だ。

このアルバムに込めた想いを、彼女は来年5大ドームツアーでファンに届けに行く。チケットは激しい争奪戦になりそうだが、正真正銘のディーヴァが残してくれたこのアルバムを聴いて、その偉大な功績に心から拍手を贈りたい。そして彼女がR&BをJ-POPに浸透させたその影響力の大きさを改めて感じ、感謝したい。

文 / 田中久勝