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この作品でアニメの見方が変わった。傑作『少女革命ウテナ』、20年を経ても色褪せないその魅力を“5つの決闘”から振り返る

この作品でアニメの見方が変わった。傑作『少女革命ウテナ』、20年を経ても色褪せないその魅力を“5つの決闘”から振り返る

独特なストーリー、唯一無二の世界観、そしてシュールかつ実験的な演出の数々。ひとたび観れば、「これから何が始まるのか」「何を見せてくれるのか」が予想できない作品でないと満足できなくなってしまう。『少女革命ウテナ』はそんな影響力のあるアニメだった。本作の放送開始から20周年となる今年、TVシリーズ全話+劇場版をワンパッケージに収めたBlu-ray BOXが発売される。これを記念して、TVシリーズの中でも今一度観たい、あわよくば初見の方にもおすすめしたいエピソードを振り返ってみた。全39話ものTVシリーズから単に“ベストセレクション”というのも非常に悩ましいため、今回は『ウテナ』ストーリーの軸である“決闘”をテーマに5本をセレクトする。

構成・文 / 柳 雄大


奇抜な世界観とギミックが凝縮された『ウテナ』の基礎

第1話「薔薇の花嫁」

(西園寺莢一 VS 天上ウテナ)

決闘の勝利者は、“薔薇の花嫁”姫宮アンシーと“エンゲージ”する。また、薔薇の花嫁とエンゲージした者は“世界を革命する力”を得るという。この奇妙な掟が支配する世界に、男装の美少女・天上ウテナが足を踏み入れた最初のエピソード。薔薇の指輪を持つ者だけが入れる学園の決闘広場、天を突く巨大ならせん階段、その頂にある広場から見えるのは、空に浮かぶ逆さの城。『ウテナ』のフェティシズムあふれる美術の数々が洪水のように押し寄せる。「世界を革命する力を!」のかけ声とともに少女の胸から剣が飛び出し、決闘の幕が上がる。これらのトンデモ表現(!?)に説得力を持たせるアニメーションもまた圧倒的だ。

さらに、決闘広場に向かう道のりで流れる挿入歌「絶対運命黙示録」、そして決闘のバックに用意された各回のテーマ曲で、“宝塚風”な雰囲気も合わさり『ウテナ』の世界観が完成する。男女混成の朗々とした合唱に奇抜なメロディ、激しく刻まれるリズムが独特の、あえて一言で表現するなら“合唱メタル”といったところか。アングラ演劇の世界で1970年代から活躍する音楽家J・A・シーザーが手がけたこれらの楽曲は、異質な反面、かなりキャッチーでもあり、作品全体の魅力を底上げしている。

派手でわかりやすい変身シーンや必殺技がないかわりに、決闘広場や挿入歌を中心に“お約束”のフォーマットも多数設けながら毎回の楽しみに変えていく。バンクシーンがこんなに楽しみなアニメって、今までになかったかもしれない。『ウテナ』の連続アニメとしてのおもしろさの基本は、この第1話で確立している。

決闘テーマ曲:“When Where Who Which”(サントラCD『絶対進化革命前夜』収録) 脚本:榎戸洋司 絵コンテ:幾原邦彦 演出:高橋亨 作画監督:長谷川眞也 初回放送日:1997年4月2日

“普通の女の子”が執念の決闘者に変わるとき

第20話「若葉繁れる」

(天上ウテナ VS 篠原若葉)

学園の生徒会メンバーとの決闘が次々行われる第1クールを経て、意外なサブキャラたちとの決闘が見どころとなった第2クール。その中でもひときわ印象的なのが、ウテナと親友・篠原若葉との決闘だ。浮世離れしたキャラクターが多い『ウテナ』の世界で、“普通の女の子”として登場する若葉が、慕い続ける“王子様”へのかなわぬ想いから剣を手にする。彼女の幸せな恋愛模様をほのぼのテイストで描いた第19話のラスト、次回予告でウテナと対峙する若葉の画が映し出されたときのギャップ、ゾクッとする感じは筆舌に尽くしがたい(『ウテナ』は次回が気になるショッキングかつ秀逸な次回予告が多い!)。そして今回の鬼気迫る決闘。悲愴感ただよう決闘テーマ曲も相まって涙なしには見られない一本だ。しかし、これだけ重いエピソードの後でも、登場人物たちが次回の頃にはカラッとしているのが『ウテナ』の良さであり、ある意味怖さでもある。

決闘テーマ曲:“幻燈蝶蛾十六世紀” (サントラCD『バーチャルスター発生学』収録) 脚本:月村了衛 絵コンテ:橋本カツヨ 演出:桜美かつし 作画監督:たけうちのぶゆき 初回放送日:1997年8月13日

中盤最大の決闘と、その余韻

第23話「デュエリストの条件」

(天上ウテナ VS 御影草時)

『ウテナ』における決闘はとても独特だが、その仕掛けも毎度同じままというわけではない。特に決闘広場のギミックはたびたび進化していき、視覚を常に飽きさせないものとなっている。“黒薔薇編”と呼ばれる第2クールでは、無数に立ち並ぶ「学習机」と「思い出の品」が決闘広場に出現。決闘者たちの揺れ動く感情のメタファーのように描かれる。戦いが決着する瞬間には、これらの机が勢いよく一か所に集合・整頓される……という演出があり、決闘の後にはカタルシスと不思議な物哀しさが残る。

「根室記念館」と「懺悔室」という不思議な施設が特徴的だった第2クールは、ボスキャラである御影草時(みかげそうじ)をウテナが打ち破る決闘をもって決着。イリュージョンのように奇妙な物語がつむがれた“黒薔薇編”の正体は、御影の追いかけていた幻そのものだった。御影の過去への執着を断ち切ることになる一戦はとてもドラマチックで、その終わりにはやはり物哀しい余韻があった。

決闘テーマ曲:“ワタシ空想生命体” (サントラCD『体内時計都市オルロイ』収録) 脚本:榎戸洋司 絵コンテ:橋本カツヨ 演出:岡崎幸男 作画監督:林明美 初回放送日:1997年8月27日

「アキオカー」の出現でより過激に進化した演出

第25話「ふたりの永遠黙示録」

(天上ウテナ VS 西園寺莢一)

なんといっても、新演出“アキオカー”の登場が強烈な第25話。赤いド派手なオープンカーに乗って、『ウテナ』世界の黒幕・鳳暁生(おおとりあきお)がやってくる。決闘者たちをいざない、どことも知れぬ夜のハイウェイを駆けるアキオカーの車上では、乗った者たちの服がいつの間にかはだけていく。運転していた暁生はハンドルを突如手放し、ボンネットに華麗に飛び乗る……(そしてさらに疾走するアキオカー)。回を追うごとにエスカレートしてきた演出、理屈ではとうてい説明できない現象。シュールすぎて笑いになるギリギリアウトという線を攻めてきているが、常に想像の斜め上を見せてくれる世界観にはますます夢中にさせられるばかり。

決闘は、序盤の敗北で退場して以来の復帰となった西園寺莢一とウテナの再戦。第3クール突入とともに決闘の演出も一新され、らせん階段を昇るゴンドラ(エレベーター)、ゴンドラの中で変身するウテナとアンシーという、ミステリアスでちょっと怖いシーンも登場する。そのうえで、決闘広場に登場するのがアキオカーだ。広場一面の地面から大量の車が垂直に飛び出すわ、運転手のいない車が広場の壁を走り回るわの大混乱(この状況でも登場人物が意に介さないというのもまた可笑しい)。しかしこの異常な舞台で繰り広げられる決闘は、結果的にすさまじくカッコいい映像となっている。決闘テーマ曲の「バーチャルスター発生学」がこの回からの新EDテーマとして再登場する流れも心地よい。いよいよ後半戦が始まる盛り上がり感も手伝って、忘れがたい一本となった。

決闘テーマ曲:“バーチャルスター発生学” (サントラCD『体内時計都市オルロイ』収録) 脚本:榎戸洋司 絵コンテ:風山十五 演出:金子伸吾 作画監督:相澤昌弘、長谷川眞也、長濱博史 初回放送日:1997年9月17日

数々の決闘の集大成と衝撃のラスト

第38話「世界の果て」

天上ウテナ VS 鳳暁生

鳳暁生との最後の戦いに赴くウテナ。冒頭より流れ出す「絶対運命黙示録」により、これまでとは別格のシリアスさ、緊迫感だ。この回ではいよいよ本作のラスボスであり、ウテナが恋愛感情を持った相手でもある暁生との対決、そして薔薇の花嫁・姫宮アンシーのもっとも恐ろしい姿が描かれることとなる。“世界の果て”を見たウテナとともに、視聴者は現実と向き合うこととなる。

ウテナが“気高さ”を問われる最大の試練は、数々の決闘の集大成となった。決闘場には「学習机」や「アキオカー」が次々に現れては消え、ラストバトルを演出する。戦いの中、「僕が王子様になる」というウテナの決意により崩壊する決闘広場。そして衝撃的な結末! 物語の核心についてこれ以上は触れずにとどめるが、来たる最終回に向けた最高のクライマックスを、ベスト・デュエル最後の一本に挙げたい。

決闘テーマ曲:“体内時計都市オルロイ” (サントラCD『体内時計都市オルロイ』収録) 脚本:榎戸洋司 絵コンテ・演出:金子伸吾 作画監督:林明美 初回放送日:1997年12月17日

©ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京 ©1999 少女革命ウテナ製作委員会


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2017.11.21