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放送開始20周年、『少女革命ウテナ』はギャグセンスも一級品だった。アニメ史に残るシュールさ!? “七実回”の伝説

放送開始20周年、『少女革命ウテナ』はギャグセンスも一級品だった。アニメ史に残るシュールさ!? “七実回”の伝説

TVアニメ『少女革命ウテナ』の放送開始20周年を記念したBlu-ray BOXが発売された。本作は文字通り“少女たちの革命”という深いテーマを背負った作品だが、その宿命か、アニメとして難解な側面がクローズアップされがちだ。しかし、幾原邦彦監督らがかつて『美少女戦士セーラームーン』シリーズでも見せたシュールギャグが随所に散りばめられていることも、本作の魅力の大きな部分を占めている。突如挿入されるナンセンスな場面・エピソードは、深刻さを増していく物語の中のブレイクタイムであるとともに、39話にもおよぶTVシリーズを飽きずに楽しませてくれる重要な役割も持つ。特に、レギュラーキャラのひとり・桐生七実(きりゅうななみ)にスポットを当てた通称“七実回”は、各回そのものがシュールなアート作品という趣きすらある。今回はそんな “七実回”から秀逸な3エピソードを厳選、紹介したい。

構成・文 / 柳 雄大

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この作品でアニメの見方が変わった。傑作『少女革命ウテナ』、20年を経ても色褪せないその魅力を“5つの決闘”から振り返る

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2017.11.20

 “暴れ馬が出たぞー!”の絶大なインパクト

第6話「七実様御用心!」

学園の生徒会長・桐生冬芽(きりゅうとうが)の妹として第3話で初登場する七実。「オ~ッホッホッホッ!」と笑うタイプのわがままな女王様キャラであり、兄を異常なまでに慕っているのが特徴だ。兄に近づこうとする女性は絶対に許さず、主人公の天上ウテナたちに対しても常に姑息な嫌がらせをしようとする。しかし七実の企みはたびたび裏目に出てしまい、彼女自身が災難をこうむるというのが毎度のお決まり。第4話で早くもそのパターンが定着すると、以降はその災難っぷりがどんどんエスカレートしていき、『ウテナ』におけるコメディリリーフを担っていくことになる。

第6話は七実が夜道を尾けられるシーンから始まり、彼女が何者かに命を狙われている疑惑を解明していくというお話。七実が校舎を歩いていると突然「暴れ馬が出たぞー!」という叫び声が聞こえ、一頭の馬が七実めがけて突進してくる。再び迫った彼女の危機を、学園初等部(小学生)の石蕗美蔓(つわぶきみつる)が間一髪のところで救ったが……。

(以下はそのままネタばらしになるが、本エピソードのディテールをあえて説明することで面白さを伝えてみたい)

この美蔓、実は幼いころ暴れ牛(暴れ牛!?)に襲われる七実と、彼女の窮地を救う兄・冬芽に出会っていた。その状況を再現して2人に再会するため自らピンチの場面を演出していたという。真相を知って激怒する七実。そのとき、再び響く叫び声。「暴れカンガルーが出たぞー!」。ボクサーのグローブをつけて暴れ回るカンガルー。こいつはどこから出てきたんだ、という疑問には特に誰も突っ込まないのがシュールだ。しかし今度は七実と美蔓ともども暴れカンガルーに襲われ大ピンチ。そこへ、上半身裸のボクサースタイルで颯爽と駆けつける桐生冬芽! 彼のパンチで暴れカンガルーは一発K.O.。結果的に美蔓の目的だった再会も果たされ、めでたし、めでたし(?)だ。

この第6話で脚本にクレジットされている比賀昇は、以降も実質すべての“七実回”を担当することに。“暴れ馬”ネタも今後再登場するなど、『ウテナ』の笑い成分的にとても重要な回となった。

脚本:比賀昇 絵コンテ:松本淳 演出:岡崎幸男 作画監督:林明美 初回放送日:1997年5月7日

そして七実は「牛」になった──

第16話「幸せのカウベル」

「カウベル」とは、飼育している牛の居場所がわかるよう首に取りつける鈴のことである。ある日、七実のもとに予期せぬ届け物が到着した。どうやら超高級ブランド“セバスチャン・ディオール”の品のようだが、その中身はカウベル。とにかく友人たちに高級品を自慢したかった七実は、大喜びでカウベルを首に飾り日々を過ごすようになる。しかしそれは、どう見ても牛のためのカウベルだ。

カウベルをぶらさげた七実は次第に「もう~」が口癖になり、動きがスローモーになり、牛に近い行動をするようになっていく。ついには牧場で草をはむ七実。「そのカウベルを捨てろ! 周りをよく見てみろ!」というウテナの声。“セバスチャン・ディオール”だと思っていたカウベル、実は“コウシチャン・ディオール”のものだった……!? しかしそのとき、目に入った赤いセーターで興奮した七実は、とうとう完全に牛の姿になってしまう。BGMは物哀しい「ドナドナ」。かくして暴れ牛になった七実と、彼女を止めるウテナの闘牛ショーが始まるのであった。

『ウテナ』のシュール脱力系エピソードの頂点といえるのがこの回だ。世間知らずでプライドの高い七実の個性が爆発しつつ、ウテナ、アンシー、冬芽といったメインキャラの絡みも抜群。もはや物語の本筋とはまったく関係ないが、闘牛シーンをはじめ作画は一貫してカッコよく描かれているのがまた可笑しい。全39話という長期作品の中でなければできなかった傑作だ。

脚本:比賀昇 絵コンテ:錦織博 演出:腰繁男 作画監督:津幡佳明 初回放送日:1997年7月16日

実は作品の本質とリンクしている!?怪作

第27話「七実の卵」

ある晩彼女が夢から目覚めると、ベッドの中に一つの不思議な卵が転がっていた。経緯は不明だが、七実はどうやら卵を産んでしまったらしい。女の子って卵を産んじゃうものなの……?「幸せのカウベル」の裸の王様的エピソードとは逆で、今度は人に言えない、相談できない悩みに翻弄される七実が描かれる。

会う人、会う人に遠回しに意見を聞くたび、苦悩をこじらせていく七実。「もしかして知らなかったのは自分だけ?」→「卵なんて誰でも産んでるんだから」→「わたくしがママだからね~」と、思い込みを強くしていく七実。その一喜一憂は完全にコメディだ。しかしそれが卵の話かはともかく、これは思春期に誰もが体験する気持ちだったりして、奇妙ながらもよく「わかる」エピソード。

カンガルーといい牛といい(今回はニワトリ)、七実の災難にたびたび動物が絡んでくるのには果たして深い意味があるのか、ないのか。そのあたりのさじ加減も絶妙なところ。“子供から大人になること”は『少女革命ウテナ』の本質でもあり、単なるお笑いエピソードで終わらない異色作だ。示唆的で謎めいたラストシーンにもぜひ注目してほしい。

脚本:比賀昇 絵コンテ:錦織博 演出:伊達勇登 作画監督:田中孝弘、中山由美 初回放送日:1997年10月1日

©ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京 ©1999 少女革命ウテナ製作委員会