Interview

モデル、文筆家としても活動するアーティスト・向井太一が1stアルバム「BLUE」で魅せた “誰でも楽しめる奥深い”ポップミュージックとは?

モデル、文筆家としても活動するアーティスト・向井太一が1stアルバム「BLUE」で魅せた “誰でも楽しめる奥深い”ポップミュージックとは?

“コンプレックスをポジティブに変換させたい”というリアルな思いを反映した歌、そして、海外のR&B、ヒップホップ、ダンスミュージックとナチュラルに同期したトラック。J-POPユーザーからコアなブラックミュージックのファンまでを惹きつける、全方位的な魅力を備えたアルバムがリリースされる。シンガーソングライタ—“向井太一”の1stフルアルバム「BLUE」。先行デジタルシングル「FLY」のほか、彼自身が敬愛するラッパー”SALU”をフィーチャーした「空 feat. SALU」、Galaxy Note8のCMソングに起用された「FREER」(ボーナストラック)などを収録した本作には、自らのルーツミュージック、現在のトレンドを融合させながら、“誰でも楽しめて、しかも奥深い”ポップミュージックを追求し続ける向井太一の現在地がはっきりと示されている。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 森崎純子

ちょっと前は“ボーカルもトラックの一部”という感じだったけど、いまはもっと生々しい温度感になっている

1stフルアルバム「BLUE」、興味深く聴かせてもらいました。海外のR&B、ヒップホップ、エレクトロなどと自然に同期しながら、完全に日本語のポップソングとして成り立っていて。

ありがとうございます。これまでリリースしてきたEPのテイストは継続しながら、それ以前にやっていた音楽性だったり、未来を感じてもらえるような新しい要素も取り入れて。絶妙なバランスになったと思いますね。2nd EP『24』はデジタルの要素が強いクラブミュージック寄りだったんですけど、自分のなかで生音をもっと使いたいというところに戻ってきて。歌唱も少しずつ変化していると思います。ちょっと前は“ボーカルもトラックの一部”という感じだったけど、いまはもっと生々しい温度感になっているので。

先行シングル「FLY」もそうですが、ポップ感も増してますよね。

はい。もっと間口を広げたいなと思っているし、ポップな要素を増やすことも意識していましたね。

幅広い音楽性を支えているのが、楽曲ごとにフィーチャーされているプロデューサー陣。BACHLOGICさん、Kan Sanoさん、mabanuaさん、LUCKY TAPESの高橋海さんなど、個性と才能を持ち合わせた方々ばかりですね。

そうなんですよ。以前から“やってみたいな”と思っていた方もいるし、実際にお会いして“ぜひやりましょう”ということになった方もいて。自分でしっかりしたトラックメイクが出来ないというのもあるんですけど、一人で作るよりも誰かと一緒に制作したいんですよね。シンガーソングライター、ソロアーティストとして活動してますけど、いろんな人と絡みたいという気持ちも強いし、ジャンルもボーダレスなので。

相手の方のやり方をどんどん出してもらうようにしていて。そうじゃないと一緒にやる意味がないですからね

コラボレーションを重ねることで、新しい化学反応も生まれそうですね。

はい。曲を作るときも僕のスタイルに寄せてもらうのではなく、相手の方のやり方をどんどん出してもらうようにしていて。そうじゃないと一緒にやる意味がないですからね。そうやってクロスオーバーする感じがいいと思うし、今回のアルバムにはそれがすごく出ているんじゃないかなと。

一人だけで完結しない、セルフプロデュースにこだわらないという姿勢は、海外のアーティストのスタンスに近いかも。

海外はシンガーソングライターが他のアーティストに楽曲を提供したり、チームで制作することも多いですからね。歌詞はできるだけ自分で書きたいと思ってますが、大事なのはひとりでやることにこだわるのではなくて、伝えたいメッセージだったり、音楽的にやりたいことが込められていることだと思うんです。自分の内側から出ているものがないと、説得力がないですから。

なるほど。「BLUE」というタイトルについては?

前回のEPのときから言ってるんですけど、アーティストとしても人としても、ネガティブからポジティブに変える力が大事だと思ってるんです。コンプレックスをパワーに変えたい、マイナスをプラスに変換したいという生々しい感情が自分のなかにはずっとあって、それを象徴するのが“青い炎”なんですよ。赤い炎よりも温度が高くて、芯が強いっていう。あとは“自分の音楽を確立したい”という気持ちもありますね。いまはトレンドのサイクルが速くて、アーティストもどんどん入れ替わっている印象があって。そのなかで自分の音楽を確立するのはすごく難しいことだと思うので。

(コンプレックスは)自分自身にとっては大事なことなんですよね

向井さんはアーテイストとしてはもちろん、モデル、文筆家としても活動していて。いろいろな分野で才能を発揮していますが、それでもコンプレックスは消えないですか?

まあ、そうですね(笑)。僕自身は“やってやるぜ!”という熱いタイプではないんですけど、悔しい思いをすることもあるし、嫉妬心もあるので。“乗り越えたい”という気持ちが歌につながっていると思うし、(コンプレックスは)自分自身にとっては大事なことなんですよね。そういうことって誰にでもあると思うし、弱さを知っているからこそ、リスナーのみなさんを元気づけられるような歌が歌えるんじゃないかなって。

向井さんのリアルな感情が音楽を生み出す原動力になっている、と。

それがないと聴いている人にバレちゃうと思うんですよ。“薄っぺらいな”って。サウンドもそうですよね。新しいサウンドを取り入れていても、本人がそういう音楽を聴いていないと“うわべだけ”という感じになってしまうので。

収録曲についても聞かせてください。まずは「Lost & Found」。“ネガティブをポジティブに変換する”というテーマがダイレクトに現れた曲だなと。

“ギターで曲を作ろう”というシンプルな感じで始まった曲ですね。テーマとしては“SNSとかネットによって失ったものもあるけど、新しく見つけられるものもあるはずだ”という感じです。たとえばサブスクリプションもそうだと思うんですよ。CDが売れなくなったかもしれないけど…。

“絶望することはない。小さなことで世界が変わることは絶対にある”というメッセージも込めてますね

世界中の音楽に手軽にコミットできるようになりましたからね。

そうですよね。もうひとつは“ひとつのきっかけで世界が変わる”ということも表現していて。好きな人ができると、毎日が楽しくなるとか。“絶望することはない。小さなことで世界が変わることは絶対にある”というメッセージも込めてますね。

「空 feat. SALU」のオーガニックなグルーヴも印象的でした。SALUさんとは以前から交流があったんですか?

僕がめちゃくちゃ好きだったんです。フロウの引き出しがすごく多いし、海外のトレンドを踏まえながら、ポップスに昇華するのも上手くて。『空』を作ってる途中で“ラップを入れたい”ということになって、“だったらSALUさんしかない”と思ってお願いして。もちろん好きなようにやっていただいたんですが、ラップが入ったテイクを聴いたときは、あまりにもカッコよくてガチで泣きました(笑)。アンセム的な曲になるだろうなと思いますね。サウンド的には“ちょっと懐かしいけど、じつは新しい”という感じです。チャンス・ザ・ラッパーあたりがやり倒したことだけど、僕も“いいな”と思っていたので。

BACHLOGICさんとの共作によるメロウチューン「Teenage」は、10代のピュアな恋愛を描いたナンバー。すごく率直な歌詞ですよね。

こういう直接的な歌詞は書いたことがなかったですね、いままで。楽曲自体は”BACHLOGICさんのヒップホップ・トラックにメロウな歌を乗せたらいいだろうな“というところから始まってるんですが、歌詞はあえてラフな感じで書いていて。難しく考えすぎて歌詞がなかなか書けない時期があったから、思い付いたことをそのまま歌詞にしてみようと思って。いなたい言葉もあえて使ってるんですけど、そのおかげで自分にしか書けない歌詞の世界観が見つけられた気もしています。

日本語の歌は“いなたさ”が重要だと思うんです

サウンドだけではなく、歌詞でも新しいトライがあったわけですね。

はい。日本語の歌は“いなたさ”が重要だと思うんです。あと、リズムやメロディよりも歌詞に注目している人が多いと思うので、そこでもしっかり表現していきたいなと。サウンドが尖っていても、言葉、歌が伝われば聴いてもらえると思うんですよ。実際、ライブに来てくれるファンのなかには“こういうジャンルの音楽は聴いたことがなかった”という方もいるので。

なるほど。このアルバムは向井さんのボーカル表現も大きなポイントだと思いますが、特に「ONE」のエモーショナルな歌は印象に残りました。

『ONE』は自分自身に語りかけてるような感じで歌ったんですよ。歌唱法については、ライブの影響が大きいですね。“どこに届けるのか”ということがはっきりすると、自然と歌い方も変わってくるので。まだまだ勉強中というか、もどかしさを感じることも多いですけどね。

“こういう表現をしたい”という理想もある?

そうですね…。リスナーとして感じるのは、たとえば“高いキーが出る”みたいなことと“いい歌”は違うということなんですよね。ただ上手いというだけではなくて、いい歌を歌えるようになりたいなと思うし、そこは常に挑戦していきたいです。

毎回毎回、そのときの名刺になるような作品を作りたいんですよね

最初のアルバム「BLUE」が完成したことで、アーティストしてのアイデンティティーを確認できたという手応えもあるのでは?

アイデンティティーは自分の内側にあるものだと思っているので、特に押し出そうともしていないんですよ。僕はまだ無名だし、まずはたくさんの方に知ってもらいたいというのが先ですね。まったく妥協することなく作ったし、いいアルバムになったと思うので、ぜひ聴いてほしいなと。毎回毎回、そのときの名刺になるような作品を作りたいんですよね。そのときのリアルな感情や音楽性を表現できたらなと。『BLUE』にもいまの自分が伝えたいメッセージが詰まっているし、自信を持ってリリースできますね。

向井太一さん画像ギャラリー

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ライブ情報

“BLUE” TOUR 2018

2018年1月13日(土) 心斎橋VARON
2018年1月19日(金) Shibuya WWW

向井太一

3月13日生まれ、A型。福岡県出身のシンガーソングライター。
幼少期より、ブラックミュージックを聴きながら育つ。
「洋楽と邦楽の間の言葉選び」という概念に強い影響を受ける。
その後、2010年に上京、ジャズとファンクをベースとしたバンドにボーカルとして加入。東京都内を中心にライブ活動を経て、2013年よりソロ活動をスタート。
自身のルーツであるブラックミュージックをベースに、エレクトロニカ、アンビエント、オルタナティブなどジャンルを超えた楽曲、さらに「日本人特有の言葉選び、空間を意識した音作り」で常に進化を続ける。
また、メンズファッション誌「Men’s FUDGE」のウェブサイトでのコラムの執筆や、モデルなど、音楽以外でも活動の場を広げている。

オフィシャルサイトhttp://taichimukai.com