佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 20

Column

ビートルズとストーンズを朝から晩まで聴いていた1967年にタイムスリップさせてくれたのは、PUNPEEの意欲的なコンセプト・アルバム『MODREN TIMES』だった

ビートルズとストーンズを朝から晩まで聴いていた1967年にタイムスリップさせてくれたのは、PUNPEEの意欲的なコンセプト・アルバム『MODREN TIMES』だった

いまから50年前の11月から12月にかけて、ぼくは一日中、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と『ラバー・ソウル』、そして『ザ・ローリング・ストーンズ・ゴールデン・アルバム』の3枚を中心にして、朝起きてから眠るまで飽きることなくレコードを聴きつづけていた。

高校一年の秋に肺炎をこじらせて結核菌による肋膜炎にかかり、2か月ほどの入院生活を送ることになったのは10月の終わりだった。
高熱で苦しかった症状は1週間ほどで収まったが、それからも微熱が続き、投与された薬のせいもあっていつもボーッとした状態にあった。

だから本を読んでいてもなかなか頭に入ってこなくて、病状が回復していくにしたがって、時間を持て余すようになってしまった。
たまたま入院していた近所の個人病院は患者が少なく、最初は2人部屋だったが途中から一人だけになったのはラッキーだった。

そこで自宅からステレオを運んできて、レコードを聴ける状態にしてもらった。
朝から晩まで、学校に行かずにレコードを聴けるなんて、病気になったことを感謝したい気分だった。

とはいえ熱はあるし、身体もだるいので、3~4分ごとに掛け替えるシングル盤はつらい。
だからアルバム単位で、お気に入りの10枚ほどを順に聴くようになった。

そうすると繰り返し聴いているうちに、飽きてしまうものと、魅力が増すものに分かれることがわかった。

日本のものでは『恋は紅いバラ―加山雄三アルバム―』が、いつ聴いても新鮮であった。

ただし、そうはいっても日本語の歌がメインなので、ずっとそれを繰り返し聴き続けたいというほどではない。

それに対してビートルズとストーンズは、レコードを繰り返して聴くたびに、歌だけでなく全体のサウンドと個々の楽器のフレーズ、あるいはギターやスネアの音色などが、それぞれに何かを訴えてくる気がしてきた。

今ならばグルーヴという言葉があって説明も可能なのだが、当時はストーンズのサウンドから放たれる不思議な魅力を言葉にすることは出来ず、ただただ引き込まれながらも必死になって、その良さを解明しようとしたのを憶えている。

それにしても幸いだったと思うのはその年の夏、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』が発売されたことだった。

今になって考えてみると運命だったのかもしれない、そう言ってもおおげさではない気がする。

ぼくはコンセプチュアルな大作の『サージェント・ペパーズ』によって、音楽を聴いて楽しむだけではなく内容について考えたり、さまざまに感じた思いを自分の言葉で、なんとか表すことを意識するようになった。

おそらくこの入院時に聴き続けた3枚のアルバムによって、今の自分は形成されたのではないか。

そんな50年前の自分を思い出させてくれたのが、PUNPEEのファースト・アルバム『MODREN TIMES』だった。

彼は2002年から活動を始めて、すでに15年のキャリアを持つラッパーだという。

ぼくがその名前に出会ったのは、宇多田ヒカルの「光」をリミックスしたことからだった。

その後に歌謡曲と日本語ラップを組み合わせた作品、加山雄三のヒット曲「お嫁においで」を発表していることを知った。

これは往年の大スターで今でも現役のレジェンドとのコラボレーションで、思わず拍手したくなる出来栄えだった。

2017年10月にリリースされた『MODERN TIMES』は、幼い頃にPUNPEEが親の影響で聴いていたであろう、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』のようなスケール感のあるコンセプト・アルバムだ。

おじいさんになった2057年のPUNPEEによって、昔話が語られるなかで映画やSFの要素をまじえて、次々に楽曲が展開していくという意欲作を聴いていくうちに、ぼくは未来ではなく自分の過去にタイムスリップしていった。

こんなふうにイマジネーションを刺激してくれる新しい音楽との出会いによって、元気をもらえるというのは幸せなことだと、あらためて思わずにはいられない。

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Deluxe Edition)
iTunesページ

ビートルズの楽曲はこちらから


著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

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