LIVE SHUTTLE  vol. 217

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佐野元春の“現在”を体感できるライヴシリーズ〈Smoke&Blue〉。楽曲の奥深い魅力に酔いしれる一夜をレポート

佐野元春の“現在”を体感できるライヴシリーズ〈Smoke&Blue〉。楽曲の奥深い魅力に酔いしれる一夜をレポート

80年代から現在まで、すべてのキャリアの中からピックアップされた楽曲に新たなアレンジを施し、ソウル、ジャズ、ブルースなどのテイストを取り入れたアンサンブルとともに堪能できる佐野元春のライヴシリーズ〈Smoke&Blue〉。2012年にスタートし、通算5回目となる今回は、ビルボードライブ大阪、ブルーノート名古屋、ビルボードライブ東京で公演が行われ、芳醇な香りと深みのある味わいを感じさせるステージが繰り広げられた。本稿では、〈Smoke&Blue 2017〉の最終公演となったビルボードライブ東京の11月29日(水)2ndセットをレポートする。

取材・文 / 森朋之 写真 / アライテツヤ

今演奏されるべき楽曲をセレクトし、再解釈することで新しい音楽として届ける

ビルボードライブ東京は、東京ミッドタウン内にあるクラブ&レストラン。観客はワインやビールを楽しみながら開演を待っている。平日の夜、ラグジュアリーな雰囲気のクラブで佐野元春のライヴを観る。こんな贅沢があるだろうかと、開演前から高揚感に包まれてしまう。

過去の代表曲、名曲に新たなアレンジを加えて披露する〈Smoke&Blue〉。キャリアのあるミュージシャンがリアレンジライヴを行うのは珍しいことではないが、佐野元春の〈Smoke&Blue〉は昔のヒット曲をアンプラグド風に演奏するようなノスタルジックなものではない。これまでのアーカイブの中から、今演奏されるべき楽曲をセレクトし、それを再解釈することで2017年の新しい音楽として届ける──つまり、佐野元春の“現在”をリアルに体感できるのがこのライヴシリーズなのだ。そしてこの夜も佐野は、これまでに生み出してきた楽曲に新たな角度から光を当てることで、きわめて新鮮で奥深い表現に結び付けていた。

ライヴのスタートは21時30分。まずはバンドメンバーの古田たかし(drums)、Dr.kyOn(keyboards, guitar)、井上富雄(bass)、笠原あやの(cello)が登場。続いてシックなスーツに身を包んだ佐野元春が姿を見せると、客席から大きな拍手と歓声が沸き起こる。

オープニングナンバーは1980年のデビューアルバム『Back To The Street』に収録された「Do What You Like」。ジャズのエッセンスを含ませた洗練されたサウンド、心地よくスウィングするボーカル。会場全体に手拍子が響き、まさに「このままブルースは/ジャズのシャワーで洗い流そう」というフレーズどおりの雰囲気に包まれる。さらに“佐野元春&雪村いずみ”名義でリリースされた「トーキョー・シック」。5人編成のコンボアレンジによって、洒脱なメロディがしっかりと際立って聴こえてくる。佐野が「幸せに恋する心/忘れないで」と呼びかけるように歌い、さらに華やかさが増していく。

アフリカ的な“リズム”とエキゾチックなチェロの音色をフィーチャーした「ハッピーエンド」(『Sweet16』収録/1992年)を演奏したあと、最初のMCへ。
「この〈Smoke&Blue〉は僕のいろいろな曲に新しいアレンジを加えて、みなさんに聴いてもらっています。僕のリビングルームにみなさんを招待して、演奏を聴いていただいている、そんな雰囲気でやっています」と、このライヴの趣旨を改めて説明し、1996年に発表されたアルバム『Fruits』から「僕にできることは」を演奏。アコースティックギター、オルガン、チェロ、ドラム、ベースが有機的に絡み合うオーガニックなサウンドの中で、「できることは何か考えてる」「君のために」「僕のために」「歴史のために」というラインが聴こえてきて、一瞬、今の世界の現状に想いを馳せる。ルーツミュージックを独自の感覚でアップデートさせた楽曲に奥深いメッセージを乗せるスタイルは、今年の〈Smoke&Blue〉のために制作された新曲「迂闊なことは言えない」でも取り入れられていた。レゲエ、カリプソのテイストを交えたカラフルなリズムと「迂闊なことは言えない」という(実は)シリアスなリリックがひとつになったこの曲は、現在の佐野元春のソングライティングの方向を示唆しているのかもしれない。

さらに「エンジェル・フライ」(『Stones and Eggs』収録/1999年)、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」(『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』収録/1989年)、「観覧車の夜」(『THE SUN』収録/2004年)と様々な時代の楽曲が演奏される。ブリティッシュロック、ソウルミュージック、R&Bなどの要素を融合させたアレンジメント、豊かな表現力を備えたボーカルによって、楽曲の奥深い魅力が生き生きと立ち上がる。そう、過去の楽曲の良さを改めて実感できるのも〈Smoke&Blue〉の意義なのだと思う。

ポエトリーリーディングのスタイルを取り入れ、こちらの想像力を刺激する言葉の数々が広がった「ブルーの見解」(『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』収録)、憂いと美しさが混ざり合うソウルフルなラブバラード「レイナ」(『THE SUN』収録)のあとは、代表曲のひとつ「約束の橋」(『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』収録)。抑制の効いた演奏とともに「今までの君はまちがいじゃない」という言葉がまっすぐに伝わってくる──それは「約束の橋」という楽曲の普遍性が改めて示された瞬間だった。エモーショナルなメロディと重なる、クラシカルなチェロの旋律も素晴らしい。

今回の〈Smoke&Blue〉では、セルフカバー2曲を収めた最新シングルの楽曲も演奏された。まずはブルースとジャズを自由に行き来するアンサンブルが印象的だった「こんな夜には」(原題「夜のスウィンガー」/『Back To The Street』収録)。さらにエッジーなギターリフを軸にした「最新マシンを手にした子供達」(原題「ポップチルドレン-最新マシンを手にした陽気な子供達-」/『Sweet16』収録)も。
佐野は現在、セルフカバーアルバムをレコーディング中ということなので、こちらも楽しみだ。

ライヴのラストは1982年の名盤「Someday」に収録されたロックチューン「ヴァニティ・ファクトリー」、そして楽しげなシングアロングが響き渡った「アイム・イン・ブルー」。観客のスタンディングオベーションとともに〈Smoke&Blue 2017〉は幕を閉じた。

2018年には最新アルバム『MANIJU』を中心にしたツアーが計画されているほか、セルフカバーアルバム、さらに『THE BARN』(1997年)の20周年アニバーサリーエディションの企画も進行中だという。この日のライヴでもその充実ぶりをはっきりと示すなど、何度目かのピークを迎えつつある佐野元春。来年もその活動から目が離せそうにない。

佐野元春&THE HOBO KING BAND〈Smoke & Blue 2017〉 2017.11.29@ビルボードライブ東京(2ndセット)SET LIST

M.01 Do What You Like
M.02 トーキョー・シック
M.03 ハッピーエンド
M.04 僕にできることは
M.05 迂闊なことは言えない(新曲)
M.06 エンジェル・フライ
M.07 ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
M.08 観覧車の夜
M.09 ブルーの見解
M.10 レイナ
M.11 約束の橋
M.12 こんな夜には
M.13 最新マシンを手にした子供達
M.14 ヴァニティ・ファクトリー
M.15 アイム・イン・ブルー

ライヴ情報

L’ULTIMO BACIO Anno 17 佐野元春 & THE COYOTE BAND「Rockin’ Christmas 2017」

2017年
12月19日(火)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
12月20日(水)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール

アルバム『THE BARN』20周年記念!ライヴ・フィルム『佐野元春 and The Hobo King Band THE BARN TOUR ’98-LIVE IN OSAKA』(2018 REMASTERED EDITION) 一夜限定プレミア上映@Zepp

2018年
1月16日(火)東京・Zepp Tokyo
1月17日(水)大阪・Zepp Namba
※内容は佐野元春の登壇によるトークショー。Zeppの音響システムによるライヴ・フィルム上映。

佐野元春 & ザ・コヨーテ・バンド 全国ツアー2018「MANIJU(マニジュ)」ツアー

2018年
2月02日(金)東京・日本青年館ホール
2月12日(月・祝)福岡・福岡国際会議場メインホール
2月24日(土)宮城・仙台 GIGS
3月08日(木)愛知・愛知県芸術劇場大ホール
3月11日(日)大阪・大阪フェスティバルホール
3月17日(土)北海道・札幌市教育文化会館大ホール

佐野元春(さの・もとはる)

1956年、東京都生まれ。1980年よりレコーディングアーティストとして始動。1983〜1984年のニューヨーク生活を経た後、DJ、雑誌編集など多岐にわたる表現活動を展開。1992年にアルバム『Sweet 16』で日本レコード大賞アルバム部門を受賞。2004年に独立レーベル“DaisyMusic”を始動し現在に至る。 2017年7月に佐野元春 & ザ・コヨーテ・バンドでアルバム『MANIJU』を発表している。
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