Interview

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈前編〉

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈前編〉

HEATWAVEのキャリア初のセルフカバーアルバムが『Your Songs』だ。日本屈指のライブバンドとしてシーンに君臨してきたHEATWAVEだが、1979年に結成されたバンドはレコード会社の移籍やメンバーの変遷を経て、各楽曲のライブアレンジはつねにアップデートされてきた。
「今のアレンジで聴きたい曲」や「手に入らない曲」が多くあるので、今回のセルフカバーはHEATWAVEファンにとっては待ちに待ったアルバムとなる。またHEATWAVEファン以外のリスナーにとっては、時を経た名曲の“たった今”の姿に触れることのできる大きなチャンスとなる。
アルバム制作と並行して行なわれたリクエストツアーの話を含めて、ボーカリスト&ソングライター&ギタリストの山口洋に、2枚組の『Your Songs』について聞いてみた。

取材・文 / 平山雄一 撮影 / 三浦麻旅子

自分の表現欲ではなく、聴く人の生活の中で響くことを願って作ったアルバム

『Your Songs』は、どんなアルバムですか?

人生で初めて、自分の表現欲で作ったのではなく──ちょっとおごった言い方に聞こえるかもしれないけど、聴く人のために作ったアルバムだね。これまで俺たちが作ってきた楽曲の中で、契約やらなんやらで、手に入らないものがいっぱいある。それをもう一度、レコーディングして、その人の生活の中で響くことを願って作ったから、なんとか完成まで辿り着けたような気がするよ(笑)。

リスナーのために作ったのは、人生初なんだ(笑)。

初!! だって今までは自分のエゴっていうか、自分の表現欲みたいなもので作ってたから。とにかく念頭に置いてたのは、買ってくれた人の日々の中でいろんなふうに聴いてほしい、使ってほしいっていうことだった。こんな時代だから、そこしか考えてなかった。だから、すごく客観的にレコーディングできた。

歌には、その日の自分の邪心とか美しさとかビジョンとか希望とか絶望とか、全部出る

そういうアルバムを作ろうと思ったキッカケが、何かあったんですか?

刺激をくれた人はいましたね。2年前、ミスチル(Mr.Children)がHEATWAVEをZepp Fukuokaのライブに呼んでくれたことがあって、その打ち上げで桜井(和寿)くんが「洋さん、僕は歌うことは絶対誰にも負けたくないんです」って言ったの。なんでこの人は僕にそんなことを言うんだろうって思って(笑)。それからずーっと、その言葉が俺の頭の中から消えなくて。「果たして俺はそこまで歌うっていうことに向き合ったかな」っていうのがあった。今回のアルバムはこういうコンセプトがあったから、彼が言ってくれたことを俺なりにやってみようと思ったのかもしれないね。

「HEATWAVEを歌うことに関しては、俺が一番」っていう?

違う違う。

「歌い手として」っていうこと?

そうそう。俺、「歌うという行為に関しては誰にも負けたくない」って考えたこともなかったし、連戦連敗だったと思うし(苦笑)。音楽を作るという意味では自分も十二分にやってきたと思うけど、こと歌うということに関して、そこまで向き合ったことがあるのかって自分に問い詰めてみたら、なかったのね。

なかったって明確に言える?(笑)

言える! 明確に言える!(笑)歌手としての自覚というのもなかった。だから、「よし、今回は向き合うぞ」って決めて、自分のスタジオで全部自分で歌を録った。自分でいいテイクを選んで、自分でエディットして、自分で仕上げたの。それは、『Your Songs』っていうコンセプトがなければ、絶対にできなかったと思う。新しい曲だったらやっぱりできないし。

そうだね。新曲は客観的になれないもんなあ。

うん。これまで歌ってきたものだから、客観的になれたところもある。レコーディングされた歌っていうのは、その日の自分の邪心とか美しさとかビジョンとか希望とか絶望とか、全部出る。それに向き合うのは大変で、最初はちょっと吐きそうになってたんだけど、途中からだんだん面白くなってきて(笑)。

距離を保てるようになったんだ?

うん。それはやっぱり桜井くんのおかげなのかなと思いますよ。歌うことが初めて好きになったというか、面白いというか、「こんなに奥が深いことなのか」って。それをクリアしないと、聴き手に歌は伝わらない。

それを23曲もやったんだから、大変だあ。

もうねえ、「そして僕は途方に暮れる」っていうフレーズが3万回ぐらい出てきたから(笑)。「もうイヤだ、俺は帰る!」みたいな(笑)。

「帰る!」って、自分ちのスタジオだけど(笑)。

一同 (笑)

今年はお客さんからのリクエストでセットリストを組むソロのツアーをやって、たくさんの人の心の中にHEATWAVEのいろんな曲が存在してくれてたのが僕を励ましてくれた。そういうこともあったから、どうしてもこのアルバムを年内に届けたいなって思って作ったね。

ステージに立って疲れてる顔を見ると「絶対、こいつらなんとかしてやる!」って思う

2枚組のアルバムにしたのは?

曲をひとつのストーリーになるように並べて重たくするよりも、2枚に分けてたくさん曲を入れたほうがいいかなと思って。

“ディスク1”のテーマは?

“ディスク1”は、単純にみんなが元気になる曲ですね。車で聴いたり、通勤のときに聴いたり、「よし、俺は今日頑張らなきゃいけない!」っていうときに自分を奮い立たせるような、奮い立たせてくれるような盤にしたかった。そんな思いやりがある俺じゃなかったんだけど。ははは!

はははは! 今まで、「みんなを元気にしてやる」って絶対に言わなかったのに。

うん、今までは「知らねえよ、そんなの。自分で何とかしなよ」って言ってきた(笑)。

そうそう(笑)。

でもね、ステージに立ってて年間何万人の人を見てると、みんな、ホンット疲れてるんだもん。今はほとんどのライブが土日でしょ。まあそれもわかるけど、土日が休みじゃない人もいるわけで、俺は水曜日にライブやったりするんだけど、もう水曜日のバイブス、最悪!(苦笑)

はははは! 週の半ばで、土曜日まで、あと3日ある。

うん。で、そのときにね、「絶対、こいつらなんとかしてやる!」って思うんだよね。もう、顔がひどく疲れてる(苦笑)。俺の仕事は、その人たちを元気にして帰すっていう。まあ、俺がやったことなんて2日ぐらいしか持たないと思うけど、これを聴いてまたみんなが奮い立ってくれるのが一番の望みだね。

なんでみんな疲れてるんだろう?

この前、テレビでトランプ来日の生中継を観てて、エアフォースワンから降りてきたトランプの顔と、出迎えた日本の政治家の顔を見たときに、こんな表情の奴が世界を動かしてるんだということを見ちゃって驚いた。みんな、「そりゃあ疲れるよな。この国、終わってるわ」と思った(苦笑)。それで俺はちょっと奮い立った。そこに自分の役目を見い出したというか。「人生一回なんだから、自分の人生をもっと愉快なものにしようぜ」って。それは自分のやり方次第でできるはずだから。

過去の産物を今のものとして未来に向かって機能させるという作業だった

“ディスク1”には、初期の代表曲の「灯り」が入ってますね。

今回、俺の中では、あの曲のイメージを相当変えたと思ってる。オリジナルのイントロはアコースティックギターで♪ジャカジャーン♪ってやってるんだけど、今回はエレキのグレッチ・カントリージェントルマンで♪ジャジャジャジャン♪ってやってる。バンドのメンバーも驚いてた。「なぜこれを、突然エレキでやるんだ」って(笑)。バンドも新鮮に思えただろうし、聴いてくれる人も「うわっ!」ってなると思う。でも和音はまったく変わっていない。あの和音じゃないと、あの風景が見えないからね。今回のアルバム作りは、過去の産物を今のものとして未来に向かって機能させるという作業だったから、すごくやり甲斐がありつつ、一歩間違えればみんなを裏切ることになる。気持ちの持って行き方は、自分が今を生きている人間かどうかっていうところに懸かってたから。

自分の生き方が問われる。

そういう意味で言えば、歌に向き合うという行為は、俺にとってはとっても良かったよ。

こけおどしではないロックンロールを50歳を過ぎた人間がやることが重要だった

「NO FEAR」は?

オリジナルの「NO FEAR」は、地平線の向こうから朝日がガーッて昇ってくるような演奏なんだけど、実は全部ひとりで演奏してるんだよ。その“こけおどし感”がすごく恥ずかしくて(笑)。

ははは!

だから今回は“内気な感じ”のほうがいいなと思って、だんだん朝日が昇ってくる感じで、ドラムから始めてもらった。これはそのとき録ったものに、1本だけギターを足しただけなんだけど、その1本をダビングするのに丸1日掛かったの。で、ミックスであれこれ注文したら、エンジニアが「細かいことなんかどうでもいいんだよ! 俺はこういう演奏を若いバンドに聴かせたいんだ! もう何もしなくていい!」って逆ギレされちゃった(笑)。「そういやそうかもな」と思って聴いてみたら、彼が言ってることが急に腑に落ちたの。こけおどしではないロックンロールを50歳を過ぎた人間がやるということが、俺にとってはとても重要だったんだよね。

────後編へ続く────

〈後編〉はこちら
今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈後編〉

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈後編〉

2017.12.09


山口洋さん画像ギャラリー

HEATWAVE new album tour 2017 “Your Songs”

12月14日(木)愛知 TOKUZO
12月15日(金)福岡 DRUM Be-1
12月17日(日)京都 磔磔
12月22日(金)東京 duo MUSIC EXCHANGE

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HEATWAVE

山口洋(vocal、guitar)、渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二(drums)。1979年、福岡にて山口洋を中心に結成。以来アルバム14枚、ミニアルバム、ベスト盤、BOXセット3タイトル、ライブ盤5タイトルを発表。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。2003年より、現在のメンバーで新生HEATWAVEの活動を開始。2017年5月17日には、14枚目のオリジナルアルバム『CARPE DIEM』をリリースした。12月14日から〈HEATWAVE new album tour 2017 “Your Songs”〉を全国4カ所で開催。

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