Interview

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈後編〉

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈後編〉

初のセルフカバーアルバム『Your Songs』は2枚組。今回は“ディスク2”についてHEATWAVEの中心人物、山口洋に話を聞いた。
リスナーを奮い立たせる“ディスク1”に対して、“ディスク2”はリスナーに穏やかな気持ちになってもらうよう作られたという。HEATWAVEはパッション溢れるロックンロールも得意だが、じっくり耳を傾けて聴くミディアムナンバーにも名曲が多い。実際、“ディスク2”には「ハピネス」や「銀の花」など佳曲が収められている。中でも「満月の夕」は、彼らを代表する超名曲だ。

取材・文 / 平山雄一 撮影 / 三浦麻旅子


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今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈前編〉

今のHEATWAVEにしか鳴らせない2枚組セルフカバーアルバムが完成。時を経て生まれた深化と進化の結晶について訊く〈前編〉

2017.12.08

「満月の夕」を愛してくれる人、カバーする人に対して、僕らなりの回答をしたい気持ちもあった

“ディスク2”は「満月の夕」の話から行きましょうか。

「満月の夕」は、自分が書いたものの中のワンオブゼムに過ぎないという気持ちがあって。だけどたくさんの人が愛してくれていたり、たくさんの人がカバーしてくれてたりということに対しての、感謝の気持ちもある。ただ、この曲を歌うときに「これだけははずせない!」って思っちゃう自分がいるのがすごいイヤで(苦笑)。

今回のテイクには、三線も囃し言葉も入ってないことが意外だった。

でもこのテイクを聴いてると、三線も囃し言葉もどこからか聴こえてくるでしょ(笑)。だから入れる必要がなかった。これを録ってるときに、キーボードの(細海)魚が泣きながらオルガンを弾いてたのね。俺はそれだけで良かった。この曲には、何かそういうものがあるんでしょうね、きっと。あと、この曲はヤイコ(矢井田瞳)ちゃんが俺のスタジオでコーラスを入れてくれたんだけど、録ってるときに、俺は彼女のすぐ横で聴いてた。そのときの感じも、すごく良かった。それが俺にとっての音楽とか「満月の夕」のすべてなのかなって思うんです。
あの曲を愛してくれる人、カバーする人に対して、僕らなりの回答をしたい気持ちもあったしね。たぶん自分たちの自信もあるんだと思うけど、昔に比べればこの曲を演奏するのは怖くなくなった。「いいじゃん、これで」っていう。キチッと仕上げていくというよりも、曖昧なところを残した。バンドの演奏でしょ、俺の歌でしょ、ヤイコちゃんのコーラスでしょ、それからミックスしたエンジニア、マスタリングしてくれたエンジニア、全員の音楽への愛が入っているので、俺は嬉しかったね。

自分の心の深いところに到達するために、そこに行くための導入剤として音楽が必要

“ディスク1”が「奮い立たせる一枚」だとすると、“ディスク2”は?

リスナーが自分を見つめなきゃいけないというシチュエーションがあったときに、自分の中の深い井戸に降りていくわけじゃないですか。俺は歌を作るときに、そういう作業をいつもしてるから慣れてるけど、普通はあんまりしない。そこに行くための音楽も必要じゃないですか。自分の心の深いところに到達するために、導入剤として音楽が必要だったりもするから。“ディスク2”は、そういう感じで作りたかった。

そういう意味では、“ディスク2”の1曲目の「ハピネス」はすごくいいですね。

うん、自分で散歩しながら1回通して聴いてみて、「あ、ちゃんと機能してるな」って思った。

本当にリスナーのことをよく考えて作ったアルバムなんですね。

うん、自分を出そうっていうよりも、他人のように歌ってた。

ははは!

そこまでもう行けてる。「俺が、俺が!」っていうのがほぼゼロだったから、他人のような気持ちで(笑)──いい意味でね。とにかく買ってくれた人が、このアルバムを聴いてるイメージを浮かべてレコーディングしたからね。ラジオをやらせてもらってるときもそうだけど、いいときって、マイクの向こう側にいる人が見えてくる。音数が少ない“ディスク2”のほうが、そういう気持ちになりやすかった。戦闘的な気持ちにいっさいならないっていうのが不思議だったよね。

絵空事ではない、でも架空の夢を描くのは、表現者として最もやり甲斐がある

どういう人が、マイクの向こう側にいたんですか?

バツイチのシングルマザーの人が、蛍光灯のついた台所にいて、脇にラジカセがあって、そのラジカセは片チャンが死んでて(笑)。そこで“ディスク2”が流れてるイメージがすごくあって、「よし、俺はこの人を元気にする!」っていう感じ。

あはははは。

だからミックスのときも、俺のスタジオには高級なスピーカーがあるにもかかわらず、エンジニアがラジカセを持ち込んで、それでずっとミックスしてた。「これで良ければ何でもいいんだ」っていう。

あはは。

ラジカセのほうが、逆に大事なことがわかりやすいから。何を優先して伝えるかっていうことを主に考えた──バツイチのっていうところが余計なお世話だけど(笑)。

曲は「ハピネス」なのに(笑)。

俺は、絵空事ではない、でも架空の夢を描くわけだから、それは表現者として最もやり甲斐がある。リアリティがなかったらダメだし、かといってリアリティがありすぎるのもダメだし。モワンッとしたものを台所の中空に浮かべたかった。表現として最も難しい領域のものだから、作ってて燃えましたね。

過去の曲を今の形で伝えることができたのは、40年目に向けていいステップだった

『Your Songs』に関して、メンバーの反応はどうだったんですか?

新しいものを作るときには、(細海)魚とずっとネットでやりとりしてやるんだけど、今回はアコーディオンのテイクを1個送ってもらっただけだった。彼は面白い男で、「最近の(山口)洋は過去のことしかやってないからつまんない」って今年の前半に言われて(笑)。

セルフカバーアルバムなんだから、そう言われてもねえ(笑)。

「ひどい言い方するなあ」って(苦笑)。でも俺はそう言われて、「あ、これは、過去のことは俺が精算しろってことだな」って。あいつはそう思ってんだなと思ったから、俺ひとりでやろうと思って、覚悟を決めた。それにしても、今年の魚は冷たかったなあ!

いいメンバーだなあ(笑)。

っつうか、再来年、HEATWAVEは結成40年になるんですよ。

そんなになるんだねえ。

メンバー全員の年齢を足すと200歳超えてるのに、まだ走るっていう(笑)。アニバーサリー的なことをしてこなかった俺としては、「40年間、たった1個のことだけをやってきたって、さすがにすげえな」と思ってて。諦めなかった俺って、すごい。だけど「40年やったら、もう引退してもいいじゃん」っていう気持ちもちょっとあったりして。そのときに俺がやりたいことは、過去のものを振り返るのではなく、そのときにできるベストの新しいアルバムをみんなに届けたいと思ってる。それが俺がファンに対して、支えてくれた人に対してできる最大の感謝の気持ちだと思っていて。そこまではビジョンが見えてる。今、38年目で、40周年の2年前に『Your Songs』を出せたというのは、すごく良かったです。歌うことも含めて、過去の曲を今の形で伝えることができた。40年目に向けて、いいステップだったなと。おかげで今年は忙しかったけど。

きっと新しいアルバムを作るには2年ぐらいかかるだろうから、40周年にちょうど間に合ったぐらいの感じかもね。

うん。でも今はカスカスで、もう何にも残ってない(苦笑)。今年1曲も書いてないから、俺。今年はオリジナルアルバムの『CARPE DIEM』を出したから、53歳でアルバムを3枚出した。そこまでやれば、もういいでしょう(笑)。涙も出ないッスよ。「お前は2017年、世界で一番頑張った53歳だ」とは思ったけど、でも達成感がないんですよねえ。それにちょっとビックリした。

オリジナルアルバム3枚じゃないからかな?

ああ、そうかもしれないけど、達成感がなくて自分でも驚いた。

「自分がやっていることが世界の役に立っている」実感を音楽を通して創り出すのが俺の役目

今年はまだバンドのツアーが残ってますよ(笑)。どんなライブになりそうですか?

俺たちのコンサートに来てくれて元気になって、その人が家庭なり職場なりに戻って、またそのバイブレーションを周りに対して使うわけでしょ? そのために対価というものは発生していて、とってもわかりやすいことだと思うのね。それはどんな仕事でも一緒で、八百屋さんであれ、魚屋さんであれ、同じはずだから、俺が言うのもなんだけど、「自分がやっていることが世界の役に立っている」っていう実感を音楽を通して創り出すというのが俺の役目だと思っていて。まあ、俺にはそれしかできないから。その代わり、来てくれたらものすごいものをちゃんとやりますよ。与えられたところに愛があれば、全力を尽くすのが仕事だからね。ぜひライブを観に来てください。

ありがとうございました。

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HEATWAVE new album tour 2017 “Your Songs”

12月14日(木)愛知 TOKUZO
12月15日(金)福岡 DRUM Be-1
12月17日(日)京都 磔磔
12月22日(金)東京 duo MUSIC EXCHANGE

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HEATWAVE

山口洋(vocal、guitar)、渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二(drums)。1979年、福岡にて山口洋を中心に結成。以来アルバム14枚、ミニアルバム、ベスト盤、BOXセット3タイトル、ライブ盤5タイトルを発表。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。2003年より、現在のメンバーで新生HEATWAVEの活動を開始。2017年5月17日には、14枚目のオリジナルアルバム『CARPE DIEM』をリリースした。12月14日から〈HEATWAVE new album tour 2017 “Your Songs”〉を全国4カ所で開催。

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